メリーさん「メリメリメリメリメリ、メリーフォーン(電話)!」
「わたし、メリーさん……今あなたの後ろにいるの」
「あんたがメリーさんか」
「そういうあなたはメリー・キラーね」
メリー・キラーは拳銃を取り出し、メリーさんの額に当てた。
「俺を殺しても意味ないぞ。お前はもうすでに包囲されているからな」
メリーさんが辺りを見渡すと、ありとあらゆる物陰から黒服の男が拳銃を
向けている。
「へぇ……あんたにしてはやるじゃないの」
「無駄口を叩くのもそれくらいにしておけ、俺の仲間によってアリーさんに
イリーさん――ムリーさんまで始末してやったんだからな」
メリーさんの額に当てられた拳銃からカチャリと音がする。
どうやら発射準備はととのったらしい。
「あばよ。あの世で先に待ってな」
「そんな物で私を殺せると思って?」
メリー・キラーは「ふふ……」と笑い、
「今までこの方法で全員殺してきた。お前だけが殺せないはず――」
「もし私が特別だったとしたら?」
メリー・キラーの表情が変わった。
「なんだと?」
「私はメリー一族の中でも本物。正真正銘のメリーさん……お姉ちゃんたち
は所詮コピー。私が本物。私が他のコピー姉妹と同じだって……誰が言った
の?」
「フ、フハハハハ……」
メリー・キラーはサングラスをクイッと直し、
「たかが電話をかけて後ろにストーキングするしか脳の無い、お前のような
都市伝説に何ができるか……」
「都市伝説をバカにした人間はロクな目に遭わない」
メリーさんはニッと笑い、自ら銃口にピタリと額をくっつけた。
「たかが都市伝説。その言葉で片付けられたオカルトや妖怪が何人いるか分
かってる? そんな忘れ去られた都市伝説の中で、口裂け女と同じくらい有
名な私『メリーさんの電話』……その本当の怖さを思い知るがいいわ!」
辺りが急に真っ暗になり、黒い雲が渦巻き雷が鳴り――
「ぎゃぁぁぁぁ!」
辺りから聞こえる断末魔。
メリー・キラーの仲間たちを的確に落雷が襲いかかり、瞬く間に感電死し
た黒服の男たちが転がった。
「バカな……何をしたんだ!」
「強がっても無駄よ。もうあなたは拳銃の引き金を引くこともできない……」
メリー・キラーは拳銃を撃とうとしたが、身体中が震えて力が入らない。
「く……来るな! こっちへ来るなぁぁ!」
「私は追いかけるのが専門よ。そんなノロマな動きで私から逃げおおせると
でも……本気で思ってるの?」
「う……うわぁぁぁ!」
轟音が鳴り響き、また雷がどこかに落ちたらしい。
「あんたのアジトも焼き焦がしたわ……アリーお姉ちゃんを含め、メリー姉
妹全員からの恨み! やられたらやり返す、三十四倍返しよ!」
「うわぁぁぁぁ!」
「メリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリ、メリーフォーン(電話)!」
メリーさんの豪快なラッシュ攻撃とともに、三十四人のメリーさん姉妹
の恨みを込めたメリーさんの細くとも強烈な拳がメリー・キラーに襲いか
かる。
「ぞげぶっ!」
全身から血を吹き出しながら、メリー・キラーは吹き飛んでいった。
事が済み、黒雲も無くなり綺麗な太陽が雲の隙間から顔を覗かせた。
「お姉ちゃんたち……みんな。終わったわ」
流石のメリーさんでも、時が経つにつれて人々から少しずつ忘れ去られてい
くだろう。
現代の世界に「メリーさんの電話」という都市伝説は刺激が少なすぎるのだ。
だがメリーさんという存在は、とてつもなく強い存在である。
メリーさんはこれからも誰かの後ろに現れるだろう。
次に現れるのは――あなたの後ろかもしれない。
「わたしメリーさん、今あなたの後ろに――」