元元! 魔法少女カスミ☆コモリ!! かつて魔法少女だったものは黒歴史の夢を見るか?
今までにない魔法少女ものであると思います。ある意味でR18作品なので、18歳以上の大きなお友達は「こんな魔法少女があったんだ!」と驚いてくれると嬉しいです。
なにやら激しく物が壊れているようだ。
大きな振動と一緒に、悲鳴や叫び声まで聞こえてくる。
だが、少年にはどうでもいいことだ。
悲鳴も絶叫も、自分が放つので聞きあきた。そんなものがいくら出てこようと、それでこの惨状から逃げ出せるわけがないと、少年はすでにあきらめきっていた。
彼がここに来てからそろそろ三カ月になる。
来る日も来る日も実験実験。よくわからない機械に囲まれ、白衣の男たちに勝手に眠らされ、気づいたら粗末なベッドに寝かされていて、今まさに動く気力もないのをいいことに、妙な実験器具を体につけられている。
いっそ殺してほしい。
小さな男の子が考える事ではないことを思いつつ、少年は目を閉じた。
それでどうにかなるわけでもないが、少なくても刺激は減ってくれるだろう。
そんな時、やけに近くでは快音が聞こえてきた。
閉じていた目を開くと、ドアが粉砕され、向こう側から人影が見える。
「あっちゃぁ。ここにも一人いたんだ」
やけにフリルが多い服装をした少女。
少女は部屋の中にズカズカと入り込むと、少年から機器を取り外していく。
逆光でその表情は見えないが、少年は少しずつ安心してきていた。
そんな少年の視線に気づいたのか、少女は少年の方を向く。
その表情は良く分からなかったが、きっと優しいものだったのだと、今でも少年は信じている。
「もうちょっとだけ我慢しててね? すぐゆっくりできるはずだから」
少女は少年を軽々と抱え上げると、そのまま部屋を出て駆けだして-
背中に当たる柔らかい感触に気付いて、夢から覚めた。
既に朝になっているのに気付いて、少年-小守八雲は目を覚ました。
「あの夢か・・・」
あれから何年も経つ。
結局助け出されたはいいものの、あの連中によっていじくられ過ぎた八雲の体は、人のそれとは離れ過ぎていた。
当然、そんな体では家族との仲を維持するのも一苦労だ。
家族はそんな八雲を暖かく迎え入れようとしてくれてはいた。それでも一般市民の感覚には限界というものがある。人のものではなくなった息子に対して、どうしても距離というものを取ってしまうのがわかったものだ。
いっそ家を出ようかと考えた時に、彼女に拾われてなければ、きっと八雲はグレていただろう。
色々と問題のある女性ではあるが、それが人間的な魅力となって映るのだから対処に困る。
だから背中に当たる感触も気にならない。
「・・・」
ならないったらならない。
無理やり引き離すようにベッドから飛び出ると、それにつられるように感触の持ち主も目を覚ます。
「ん? もう朝ぁ?」
年上とは思えないだらしない姿に苦笑しながら、八雲はシーツを放り投げた。
「ほら所長! とっとと起きる!!」
ここは黄麻探偵事務所。今の八雲の安住の地である。
黄麻探偵事務所は、黄麻かすみが経営する探偵事務所である。
場所は駅から五分の雑居ビルの一角。それなりに広いスペースは、事務所用のスペースと居住用のスペースに分けられている。
雑居ビル自体も、探偵事務所が入る直前に立てられた代物であり結構新しい。なんでも、ビルのオーナーの困りごとを所長であるかすみが解決したことが理由で安く借りられたとのことであり、それ以外にもいろいろと便宜を図ってもらっているらしい。
以来のほとんどは不倫調査であるが、毎回必ず成果を出すため、なんだかんだで生活に困らない程度の収入を得ている。
今日も不倫の疑いがある夫を調べてほしいという依頼が入っており、それなりに忙しい一日になりそうだ。
「・・・で? 所長は例のごとく外堀から埋めてく方向?」
「そうねぇ。本人の尾行なら八雲君だけで十分できるレベルだし、ちょっと気になることもあるからさ」
朝食を口にしつつ今日の予定について話し合う。
ターゲットは大手企業の課長。
結婚10年目で不倫の影がちらついている。
所長であるかすみは周囲から聞きこんで詳細な情報をつかみ、助手である八雲が本人をつけて出来れば決定的瞬間をつかむという方針が良く取られる。
これは、美女であるかすみの方が情報を聞き出しやすいからであり、決して手抜きではない。
「で、気になることって今度は何だよ?」
「いやぁ、不倫相手らしい人がね? どうも今までの恋愛遍歴からみてなにか変な気が」
朝食をとりながら、テレビを聞き流しつつミーティングを行う。
そんな二人の耳に、アナウンサーの声が響いてくる。
『悪の組織ダークアンダー壊滅から、かれこれ五年になりますが・・・』
普通なら驚くべきことに、この世界には悪の組織が当然のごとく存在し、またそれに合わせて当然のごとく正義の味方も存在している。
彼らは表の世界を時々騒がしながら、しかし水面下に潜みつつ行動を繰り返していた。
そんな世界でも人々は生きている。そして、生きているなら生活をしていかなくてはならない。
「・・・もうこんなに経つんだ。時間が過ぎるのって早いわよねぇ」
感慨深げに、かすみつぶやく。
それは八雲にとっても同じことだ。
ダークアンダーの行動は、何人もの人々がその人生を変えてしまったことが多い。
二人にとてもそれは同じだ。
だが、二人には今、二人にとっての生活がある。
だから一日一日を日々大切に生きなくてはならない。
今日もまた、そんな一日が始まっていく。
冒頭の場面でお分かりと思うが、ここで往年の特撮番組風に紹介しておこう。
探偵助手、小守八雲は、悪の組織ダークアンダーに改造された改造人間である。
最新技術によって改造された彼はしかし、脳改造を施される前に救助されたことをきっかけに、特に悪の組織と戦うことなく、自分の生活のためにその身体能力を生かして日々生活を続けていくのである。
これまでとは全く違う視点から改造された彼の体は、彼の成長に合わせて遺伝子ごと成長し、これまででは考えられない成長を八雲の体に施した。結果、彼は定期的なメンテナンスを受けることなく改造人間としての高い戦闘能力を発揮することができるだけでなく、人間の姿のままでその特性をある程度生かすことが可能になっている。
「ま、だから尾行なんてちょろいもんなんだけどな」
常人より高い視力でいち早く発見し、常人より高い聴力でより正確に位置を把握する。
あとは常人よりも高い身体能力で付け回せばいいだけの話だ。
正直な話、実にちょろい。
追加でいえば、ターゲットはまさかつけられているとは思っていないようだ。警戒心がかけらもない。
どこかぼんやりとしたターゲットをつけていると、不倫相手と思しき女性と合流するのが見えた。
二十代前半の若い女性。どうやら新入社員らしく、まだ女子大生気分が抜けていない軽さが見える。
二人はお互いに気付くと人目もはばからず抱き合い、そのまま腕を組んで歩きだす。
それを写真に撮って事務所のパソコンに転送しながら、八雲は尾行を続行した。
空が暗くなるころには洒落たレストランで食事をすると踏んで、すでに軽食の準備は整えている。
だが、その目論見は大きく外れることとなる。
「ん? なんだなんだ?」
それは、急な展開だった。
いきなり組んでいた腕を外したかと思ったら、これまでとは違う無感情な様子で速足で歩きだす。
足音を立てないようにこちらも速足で追いかければ、着いたところは廃工場。
開けっ放しになった門を潜り抜け、二人の姿が廃工場へと消えようとする。
「おいおいおい。何だ一体」
あわてて追いかけるが、しかし油断はしない。
その高い身体能力で一気に飛ばすと、軽く跳躍して塀を踏み込む。
その勢いで建物の一つに向かって飛び上がると、うまく音を立てないように屋上に着地。
背を低くして縁まで行けば、二人は倉庫の一角へとはいって行くところだった。
そこまで見て、八雲はあわてて建物沿いに追いかける。
だが、建物の中に入っては様子をうかがうことはできない。声は拾えるかもしれないが、それにはかなり近づく必要があり、それはつまり、うっかり敷地の中に入る物好きが居たりすれば即座に発見されてしまうということになる。
八雲は悩んだ。
悩んで悩んだ。
そして-
「こ、虎穴に入らにゃなんとやら!」
リスクを冒すことにする。
飛び降りて音もなく着地するとそそくさと倉庫の入り口に近づく。
そしてこっそりと中をのぞき見れば-
「えっさ! ほいさ! えっさ! ほいさ!! さあお前たち、続きなさい!!」
「「「「「「「「「「えっさ! ほいさ!!」」」」」」」」」」
なんか儀式が始まっていた。
即席の祭壇からはなにやら尋常な様子ではない光があふれており、まるで街頭に集まる蛾のように、正気を失った男たちが祈祷っぽいものを行っている。
よくよく見れば、儀式を先導しているのはつけていた男の不倫相手と思しき女。既にスーツを脱ぎ棄て、ボンテージのような衣服を身につけている。よくみると乳房が見えそうな気がしてくる。
まるでスポーツで流したかのごとくさわやかな汗を流しており、その汗に比例するかのごとく怪しげな光はどんどんと輝きを増す。
明らかに異常な光景がそこにはあった。
「さあお前たち!! そのうっ屈した思いをこの宝玉にぶつけるのよ! その力は宝玉を通して我らがダークアンダーの新たなる再起の力となるのだから!!」
しかもなにやら物騒なことをのたまっている。
「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」
正気を失った男たちは、実にさわやかに返事を返す。
が、二十代とか十代後半の好青年ならともかく、目の前に居るのは若くて二十代後半ギリギリ、平均して三十台から四十代と思しき肥えて脂ぎったオッサン達である。さわやかさが逆に気持ち悪い。
「フフフ。娘に彼氏ができたとか不満をためた男たちの情念を魔力へと変えて我らがエネルギーにする計画、こうもうまくいくとは思わなかったわ」
元凶らしき女、目の前の結果になにやらご満悦なのか、誰も聞いていないのに計画の内容をしゃべってくれている。
つまり、不倫を怪しませるほどこそこそとした男はこの儀式をさせるために操られた結果、挙動不審に成っていたのであり、不倫相手かと思った女は、それを先導する悪の組織の残党の一人ということだろう。
「まだるっこしいよっ!」
そこまで考えて、八雲は思わず叫んでしまった。
その声に皆が静まり返り、声の方に視線を向ける。
声はもちろん倉庫内に反響し、沈黙をより強調した。
「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」
実に、嫌な沈黙だった。
「あ、ヤベ」
たらりと、一筋の汗を流す。
これはまずい光景だ。
「き、貴様!! どうやってここで儀式が行われているとわかった!?」
「はっはっは。むしろ知ってたら近寄らなかったよ!!」
気づけば周りを完全に包囲されていた。
祭壇に立つ女は、その光景で冷静さを取り戻したのか、余裕の表情を浮かべる。
「だが残念だったな。その男たちは我が秘術で常人を超えた力を発揮できるようになっている。それに・・・」
言葉とともに、女の姿が異形のそれへと変わっていく。
「この私、怪人レディハンターから逃れられると思っているのか!?」
「帰りてぇ・・・」
実に面倒なことになった。
実戦など経験したこともないから、正直倒せるかどうかなどわからない。
追加でいえば、万が一倒せたとしても、倒した瞬間に男たちが正気に戻ったりしたら極めて危険だ。正体がばれてしまうということは、=で今後の人生に置いて怪人だとばれてしまうという非常にめんどうなことが追加されてしまうのだから。ばれてしまえば今後の人生、ある意味で詰む。
さてどうしたものかと考えながらも、しかし戦闘態勢を取ろうとしたときだった。
「ふっふっふっふっふ・・・」
どこからともなくそれは来た。
「一つ! 秘密のベールを纏い」
花弁を模したスカートを翻し
「二つ! 不思議な魔法で解決」
フリルをあしらったドレスを纏って
「三つ! ミラクルタイムの始まり!」
月光に照らされてその姿を現す!
「魔法少女プリズム♡プラズ! 裁きの雷浴びちゃいなさい!!」
全身からオーラを放つその姿は、まごうことなき魔法少女のそれであった。
ただし・・・
「魔法・・・少女」
「あれ、どう見ても20代だぞ?」
「少女じゃない・・・よなぁ」
20代前半と思えるその年齢が非常に問題だった。
ちなみに、当人もそれは自覚していたのか、顔が真っ赤だったりする。
「し、仕方ないでしょ!! 他に使える格好がなかったんだから!!」
汗をだらだら流しながら弁解するが、男たちからの視線は非常に冷たい。
だが、そんなだらだらと流れる汗を凌駕するほど汗を流すものが一人いた。
「馬鹿な・・・そんな馬鹿な・・・」
今回の下手人、レディハンターである。
「何故だ!? 何故貴様が我らの邪魔をするっ!?」
信じられないものを見るかの如く放った絶叫に、しかし気にも留めずに軽い答えが変える。
「いやぁ、やっぱ気持ち良ければ何してもいいてゆーのは間違ってるってことでねぇ」
あっけらかんとしたかえしに絶句するが、直後何かに思い当たったかのように震え始める。
「ほ、本部の襲撃と同時多発した爆発は貴様の仕業なのか!?」
驚愕にうちふるえながらの絶叫に、魔法少女?は沈黙で返す。
「おのれぇ・・・っ だが、そんな貴様ならば民間人に手を出すことは」
「終わってるぞー?」
一筋の光明をきざして振り返るが、その時には全てが終わっていた。
崩れ落ちる男たちの中心で、八雲は肩をもみながらため息をついた。
「気絶で済ますのも一苦労だ。ホラ、人目もないしさっさとすましな-」
誰かに見られたら一苦労。それが解消されて気が楽になった八雲は笑顔で返す。
「所長?」
「うむ。でかした助手よ」
返答は、雷鳴とともに返される。
一瞬で背丈を超える直径の雷の球体が作り出され、それも無数に増え続けていく。
それらは全方位でレディハンターを包み、逃げ場を全く作らない。
「おのれ・・・おのれオーバーキルシスターズぅうううううううううっ!!!!」
「その呼び名やめい!!」
ツッコミとともに、全てが終わる魔法がさく裂した。
「ただいまぁ~。おなか減った~」
「はいはいお帰り~。晩御飯出来てるよ~」
警察から戻ってきたかすみを出迎えるのは、八雲が作ったチャーハンとスープの香りだった。
あれから実に面倒だった。
雷によって吹っ飛ばされたレディキラーを無視して男たちを介抱すると、かすみはまず八雲を返してから警察に連絡した。
そして警察が駆けつけてくる前に、依頼主に連絡して概要を伝えてから、到着した警察に事情聴取のため署まで連れていかれて夜遅くまで捜査に協力。
一方返された八雲は、ついでに買い物をしてから事務所に帰宅。その後軽く休憩をとってから遅めの夕食を作って、かすみをまって現在に至る。
「依頼主もパニックだったよ~。説明に疲れた~」
椅子にどっかりと座りながらのかすみの愚痴には、八雲も苦笑しか返せない。
「まぁ、不倫かと疑ってたら悪の組織の残党に操られてたってなれば驚くわなぁ」
そのまま空腹に耐えかねガツガツとチャーハンをかき込む。
銭湯という、日本ではそうそうお目にかかれない重労働を終えたからなのか、今日の食事は一味違った。
しかも夜遅くなのでおなかは空っぽ。空腹は最高の調味料という言葉は、少なくとも二人にとって真実だということになった。
「そういえばさ、朝言ってた違和感って結局何?」
「いや、女性遍歴調べてみたんだけどね。どうもタイプが遍歴と違ってたから気になって」
確かに、今まで付き合っていたのと全く違うタイプの女性と付き合っているとなれば、違和感を覚えても不思議ではない。
腐っても探偵。かすみも相応の推理力や直感を持っているということである。
食事が終われば次は風呂。そのまま生活スペースに入り、二人はその日の疲れをお湯へと溶かす。
湯船につかりながら、かすみはそれとはまた違った理由で顔を赤く染めた。
「いやぁ、黒歴史がひも解かれて恥ずかしいわぁ」
「そういやそうだ。てか所長、アンタ魔法少女やってたのは助けられたから知ってたけど、悪の組織に寝返ったことあるって初耳だぞ」
「いやぁ、触手紳士ショックザシンとか言うのに見染められまして」
光景を想像してしまった八雲は悪くない。
しいて言うなら、男の情けない性が悪い
なんだか恥ずかしくなってきて、八雲はそそくさと髪を洗い始めた。
「ま、それでもさぁ。人体改造とか実験とかの現場見ると我に返っちゃってねぇ」
苦笑すら浮かべながら、遠い目でかすみは話を続ける。
「でも、真面目に正義最高とかまっすぐやってた頃とかも馬鹿らしくって戻れなくってね」
「それで探偵? ま、所長って使い魔使えるからそういうの得意か」
微妙に照れながら返した八雲をおもしろそうに見ながら、かすみは右手を上へと上げる。
それを何に見立てているのかは、それはきっと、かすみ自身にも良く分かってはないだろう。
そんな感じがした。
「ま、適当に気持ちいい事楽しみながら、ちょっとは人さまの役に立つことして生きてこうって思ったわけで」
「俺を助けたのもその過程って奴? だとすりゃ俺はラッキーだ」
そこまでしゃべって、二人は静かになる。
どんな理由があるにしろ、二人は探偵事務所で生きている。
生きているなら明日はある。明日は明日の風が吹く。
快楽主義者のもと魔法少女と、そんな彼女に助けられた改造人間の少年。二人はこれからも探偵稼業を続けながら、適当に気持ち良く人生を謳歌していくだろう。
そんな二人の人生は、これからもまだしばらくは続いて行くのである。