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Butterfly  作者: simakaze
第1章 運命の少年
9/10

大海令第壱號

 大分更新が遅れました…

 なんかようやく身の回りの私事が片付いた感じです。でももうすぐ期末試験だったり結局あんま変わんないな…

 あと、最近艦隊これくしょんにはまってます。キャラのデザインや性格がとても参考になりますね。

 ペンネームsimakazeの癖にお気に入りは、時雨ちゃんと古鷹ちゃんです。pixvに小説出そうかな…

―8時間前 1904年(明治37年)2月5日 17時ごろ


 海軍軍令部第1班長、山下源太郎大佐は佐世保に停泊している連合艦隊旗艦「三笠」に座乗する、東郷を訪ねた。


「東郷長官、〝封緘命令″(ふうかんめいれい)をお持ちいたしました」


 長官公室で山下を出迎えた東郷に、彼は1封の封筒を差し出した。大きさは、A4程で、左下の端には赤く「軍機」と書かれた判が押されている。


「東郷長官!!」


 東郷が受け取った封筒を確認していると通信士官が入室してきた。東郷の目線が、封筒から自分に移ったことを確認した士官は、用件を伝える。


「海軍省より入電!!「封緘命令ノ開封ハ5日1700時ニ行ウベシ」以上です!!」


 士官からの伝言を聞いた東郷は、部屋の隅に置かれている振り子時計に視線を移した。命令にある17時まで、あと5分もない。

 振り子時計特有の〝コッコッコッ″と言う振り子の揺れる音がゆっくりと、だが確かに時を刻んでいく。


―ボーンボーンボーン


 時計の短針がⅤを指すと同時に、17時を知らせる鈍い鐘の音が室内に響く。確認した東郷は、近くにあったハサミをとった。

 しっかりと糊付けされた封筒の口を切り、中に入っていた2枚の紙を取り出した。

 紙には、〝大海令第壱號″と書かれていた。


「各戦隊指揮官、及び艦長を本艦に集合させよ」


 東郷は大海令を一読すると、部下の将兵たちに命令を飛ばした。


 東郷の命令を受け、日にちをまたいで6日0100時、旗艦「三笠」に、第1~第3艦隊までの司令長官及び、その隷下にある各戦隊司令官、駆逐隊・水雷艇隊司令官及び各艦艇の艦長・艇長が招集された。

 尚、第1艦隊司令長官は連合艦隊司令長官である東郷が兼任している。


「先日1700時、連合艦隊、及び第3艦隊に対し発進命令が出た。」


 東郷が、司令官たちの前で封緘命令に同封されていた山本からの勅命を読み上げる。続いて、参謀長の島村速雄大佐が前に出て一礼する。礼から直ると、持っていた大海令を広げ野太い声で大海令第壱號を読み上げる。


「『露国ノ行動ハ我ニ敵意ヲ表スルモノト認メ帝国艦隊ヲシテ左ノ行動ヲ取ラシメラル

  一.連合艦隊司令長官、並ビニ第三艦隊司令長官ハ東洋ニ在ル露国艦隊ノ全滅ヲ図ルベシ

  ニ.連合艦隊司令長官ハ速ヤカニ発進シ、先ズ黄海方面ニ在ル露国艦隊ヲ撃破スベシ

    臨時韓国派遣隊ノ海上輸送中ノ行動ハ連合艦隊司令長官ガ之ヲ指示スベシ

  三.第三艦隊司令長官ハ速ヤカニ鎮海湾ヲ占領シ先ズ朝鮮海峡ヲ警戒スベシ

  右伝達ス 明治三十七年二月  海軍大臣男爵 山本権兵衛』

 以上です」


 島村は読み終わると、再び一礼して元の位置に戻る。

 因みに、文章中で第3艦隊のみ別に名指されていたのは、この時第3艦隊が連合艦隊隷下ではなく、大本営直属部隊であり命令系統が別けられていたためである。


「諸君、時は熟せり!!」


 そして、封緘命令


 島村が下がった後、再び東郷が前に出る。若手士官たちが、各司令官にシャンパンの入ったグラスを配っている。


「これまでの訓練は、ただこの時のためにあった!!各員、日頃の訓練の成果を十二分に発揮ししっかりと御国にご奉公せよ!!」


 東郷がシャンパンが入ったグラスを持つ。


「諸君の武運と、これからの働きを期待して…いざっ!!」


「いざっ!!」


 東郷が号令と共にグラスを掲げると、司令官たちもそれに合わせてグラスを掲げる。そして、グラスに注がれていたワインを、全員が一気に飲み干した。


「よし、俺はやるぞ!!」


「この日の為に訓練してきたんだ!!」


「ああ!!露助共に、帝国海軍の力を思い知らせてやる!!」


 ワインを飲み干した司令官や艦長たちが握り拳をつくりながら自身に気合を入れるかのように呟く。

 その誰の目にも決意の炎が見て取れた。


「皆盛り上がってるねぇ~」


 給仕係の海人についていく形で長官公室に居座っていた三笠がつぶやいた。


「まあ、みんなこの日の為に準備してきたわけだからね。なにより、日本にとっては国家存亡の危機に瀕しているわけだから嫌でも気合が入るだろうさ」


 三笠の言葉に、近くで事の成り行きを見守っていた海人が静かに答えた。

 しかし、生まれて間もなく、そういった危機に直面したことがない三笠には、周りの状況も海人の言葉もいまいちピンとこなかった。


「海人もそうなの?」


「国家とかそういうのは僕もいまいち分かんないけど、避けられない戦いっていうのは何となくわかる。何より僕も守りたいものがあるからここにいるからね」


「それって、例の幼馴染?」


「うん、僕にとって何より大事な人だよ」


「なんでそんなに大事なの?」


「僕の人生、いや僕自身を変えてくれた(ひと)だから…かな?」


「ふ~ん」


 「やっぱりよく解らない」とでも言いたそうに三笠は相槌を打った。

 まだ幼い彼女には理解できないだろうと、海人もそれ以上は何も言わなかった。


 いつの間にかあたりは決起集会から作戦の綿密な打ち合わせに入っていた。各司令や参謀などが海図や駒を使って作戦の確認を行っている。


「三笠!!ここにいたか!!」


「あ、敷姉!!」


 2人が、打ち合わせの終了を待っていると、黒髪をなびかせた美しい女性が入ってきた。凛と研ぎ澄まされた雰囲気を持つ彼女は少し早足で三笠の元に駆け寄ってくる。


「何をしている?お前が来んからこちらの決起集会が始まらんのだぞ!!」


「あ、忘れてた…」


「まったく…」


 女性はやれやれと言う感じに、頭に手を置いて首を振った。


「そうだ、海人も来る?丁度みんなも紹介したいしさ」


「海人?」


 状況が呑み込めずに傍観する海人に、三笠はいつもの無邪気な笑みを見せる。


「えっと…三笠、この人は?」


「私は三笠の姉、「敷島」型戦艦1番艦敷島だ。貴様が海人か、妹から話は聞いている」


「あ、どうも「三笠」に配属された少尉候補生の天宮海人です。今は航海士見習いをしています」


 とりあえず社交辞令的に自己紹介を済ませる。ただ、敷島の方は心なしか機嫌が悪い様だった。


「海人どうする?」


 三笠はねだるように海人に尋ねる。


「悪いけど、まだこっちが終わりそうにもないし今度にするよ」


「そっか、残念…」


 三笠は至極残念そうだったが、割と素直に海人の言う事を聞いてくれた。


(普段ならもう少し駄々をこねそうだけど…)


 海人は少し不審に思ったが、素直な彼女は珍しいのでとりあえずそのまま流すことにした。自分もまだ仕事が残っているわけだから、いつまでも彼女の世話を焼いているわけにはいかない。


「それじゃあね海人!!」


「ああ、またあとで」


 三笠は手を振りながら集会場へと走っていった。敷島も三笠と共に行ってしまった。しかし彼女が去る瞬間、何やら嫌な殺気を放っていったのを海人は見逃さなかった。


 海人は、見えないものが見えると言う異能のせいで親から捨てられ、周りからも蔑まれる生活を送っていたことがある。

 そんな訳だから、彼は他人が放つ「負の感情」と言うものに人一倍敏感なのだ。もっとも、まだ幼い頃にそんな生活をしていたのだから彼自身も相当荒んでいたのは言うまでもない。

 そんな彼に唯一手をさしの寝てくれたのが春雪とその家族な訳だが、その話は別の機会にしよう。


「さて、仕事仕事!!」


 海人は先ほど感じた殺気を忘れようと仕事に取り掛かる。司令官たちが使ったシャンパングラスを片付け、そのあとは当直に就いた。

 艦橋の張り出しにいると、幼少期を過ごし、少し前までいた街並みが視界に入った。さっきまであの中にいて、最も親しい人と話していたことを思い出すと、世界から仲間はずれにされたような、妙な感覚に陥る。


 ガス灯籠が照らす光の中、連合艦隊は最後の穏やかな夜を過ごした。


 

「両舷前進びそーく!!」


「両舷前進びそーく!!」


 日が昇った午前9時、怒りを上げた連合艦隊各艦は、戦隊ごとに隊列を組んで出港した。


 先陣を切るのは、巡洋艦「千歳」を旗艦とする第3戦隊。続くは第1~第5までの各駆逐隊と第9、第14水雷艇隊。

 水雷艇達が、湾港から去るといよいよ連合艦隊の切り札、装甲巡洋艦「出雲」を旗艦とする第2戦隊と、戦艦「三笠」を旗艦とする第1戦隊の主力部隊が出港していく。


 この10年、山本権兵衛が心血を注いだ大艦隊であり、彼の軍人としての人生の中でこれ以上の大偉業はなかったと言っても過言ではいない。その偉容は列強の主力艦隊と比べても決して遜色のあるものではなかった。


 だが、山本もまたロシアと戦えば勝てる見込みはないと感じていた人物だ。彼は、渡米前に挨拶に来た金子賢太郎に海軍の見通しを聞かれた時、きっぱりと「半分は確実に沈む、人間も半分は殺す」と答えている。

 手塩に育てた海軍。その実戦部隊の半分を戸惑いなく「殺す」と言えるのは恐らく当時は山本ぐらいだろう。

 彼は薩摩人らしく情に熱いが、かと言って感情的ではなく冷静に考え、合理的に判断できる。だからこそ、日本海軍は僅か30年余りの時間でここまで発展できたのである。


「頑張ってこいよー!!」


「しっかり頼むぞー!!」


 港の岸辺には、朝から多くの人々が集まっていた。殆どの人が汽笛を上げて出港する艦隊に日の丸を力いっぱい振りながら、声援や万歳三唱で送り出す。

 その人だかりの中で、1人の少女が小さな祈りを浮かべていた。

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