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Butterfly  作者: simakaze
第1章 運命の少年
5/10

第4話 危険な偶然

ども~第4話となります!!

 前回、pixvでCG画像を投稿したらすごい勢いで閲覧数が伸びてました。さらに点数までいただけるとは、大変ありがたいです。

 今回は、日本海海戦でも活躍したイタリア生まれの巡洋艦「春日」と「日進」のお話です。

 Made in Italyの軍艦と聞くと何か不安な気がしますが、史実での活躍の様にかなり優秀な巡洋艦です。まあ、大砲は全部イギリスせいなんですけどね(笑)

 オスラービアの性格は、当初騎士道精神にあふれる女傑な感じだったんですが、割と新しい艦だったので、当時のロシア士官をイメージして格下を見下す陰湿な性格になりました。しかも変態です(ダメじゃん)

 前回の作品を見たら、あまり見やすさ変わってないな~と思い、自分なりの所で区切ってみました。

 コロコロ書き方変えて申し訳ありません…ある程度形が整ったら、これまでの分も修正する予定です。



 日清戦争以降、次なる敵をロシアに絞った日本では国家予算の半分以上を軍事費に当てて、急速な軍拡を進めていた。

 日英が同盟関係になってからは、イギリスからの紹介で建造途中でキャンセルされた軍艦の購入にも乗り出したが、それを阻止するためにロシアも購入に乗り出し、両国の間で激しい購入競争が始まった。


 だが、財政において圧倒的な差のある両国の競争は日本不利に見られた。実際、チリ海軍向けに英アームストロング社で建造されていた「コンスティトゥシオン」級戦艦2隻の購入は日本が競り負けている。

 この2隻は、ロシアによる戦力化を恐れたイギリス海軍が購入し「スウィフトシュア」「トライアンフ」と名付けられた。


 次にイギリスが購入を促したのが、「ヘネラル・ガリバルディ」級装甲巡洋艦の「リヴァダヴィア」と「モレノ」である。

 この巡洋艦は全体的に小ぶりではあるが、攻・守・速のバランスに優れ、先行型7隻中4隻がアルゼンチンへ、1隻がスペインへと渡り、最初に発注したイタリア海軍に届いたのは5番艦になってからだった。

 そして後期型3隻の内、2隻がアルゼンチンに売却されたが、当時緊張状態にあったチリとの関係が好転したため、存在が宙に浮いている状態だった(残り1隻はイタリアが売約済み)。


 このことは、ロシアも気付いており、両国の間で再び熾烈な購入競争が始まった。前回の事がある分、余計に引けない日本は、ロシアよりも思い切った値段を提示したため、この2隻は日本に買い取られた。

 「リヴァダヴィア」は「春日」、「モレノ」は「日進」と名付けられ、どちらも1904年1月7日に就役し、翌日には日本に回航される運びとなった。


 だが当日、彼女たちの生まれ故郷、イタリアジェノバの沖合で1隻の巨大な軍艦が、まるで彼女たちを監視するように居座っていた。

 黄色く塗装された煙突からもうもうと黒煙を吐き、マストには白地に青い斜めのクロスが入った海軍旗を掲げている。


「何処の国の軍艦かしら…」


 沖合にいる軍艦の様子を、巡洋艦「日進」の艦橋で見つめる1人の少女がいた。美しい赤毛の髪は肩を少し過ぎるぐらいまで伸び、鼻の上にはチャームポイントのそばかすがうっすらと見える。

 しかし、その服装は到底この時代の女性が着るものではなく、海軍の制服に身を包んでいる。そして、艦橋にいる誰も彼女を気に留めない。まるでいないかのように。

 なぜならば、その場にいる誰にも彼女の姿は見えていないからだ。彼女は人間ではない。〝艦魂″と呼ばれる船の守り神である。


 そして彼女は、この巡洋艦「日進」の艦魂、日進。彼女が見つめる先では、未だに謎の軍艦がこちらの様子を伺っていた。


「あれは、ロシアの戦艦「オスラービア」よ…水兵たちが話してたわ…」


「お姉ちゃん…」


 日進が姉と呼んだのは、巡洋艦「春日」の艦魂春日。その姿は、姉妹だけあって日進とよく似ているが、そばかすはなく、腰のあたりまで伸びた髪が、洗練された美しさを引き出している。


「なんでロシアの戦艦がこんなところに?」


「多分、私たちが日本の手に渡るのが我慢ならないんでしょうね…今、日本とロシアは仲が悪いらしいから…」


「私たち…沈められる(殺される)のかな…」


「大丈夫…あなたは私が守るわ…」


 春日は、不安がる日進を優しい表情で抱きしめる。せっかく2人揃って引き取り手が見つかったというのに、こんなところで死ぬわけにはいかない。


 だが実際は、日本側の不安は杞憂に過ぎなかった。この時、「オスラービア」は巡洋艦「アブローラ」などを引き連れ旅順へと向かっている途中だった。

 しかし、「オスラービア」の機関が故障したため地中海に釘付けになっていた。つまり、この両者が出会ったのは魔の悪い偶然に過ぎなかったのだ。


 とは言え、この現状がロシア側にとって有利に働いたのは言うまでもない。自国が買い損ねた新型巡洋艦が2隻そろって、しかも訓練どころか試験航海すらしてない状態で目の前にいる。

 対してこちらは、機関不調とはいえ戦艦1隻を中心に巡洋艦などの艦隊がいる。おまけに相手国との関係が破局寸前ともなれば、これ以上の好機はない。


「フフ…調子悪いおかげでこんな辺鄙(へんぴ)な所で足止め食らってたけど…ラッキーだったわね…」


 戦艦「オスラービア」の艦橋では、艦魂のオスラービアが怪しい笑みを浮かべていた。色素の薄い肌と金髪が、彼女よりを不気味に見せる。後はローブでもあれば立派な魔女だ。

 彼女は元々、プライドが高い上に陰気な性格なのだが、ここ最近は調子に加え機嫌まで最悪だった。


 いきなり見知らぬ土地に送られたうえに、機関不調で足止めを食らい、いつも見下している巡洋艦連中にバカにされたのだから無理もない。

 彼女は、ここで己の名誉挽回と、これから向かうであろう旅順艦隊への自慢話を準備して自分の株を上げたいと考えた。


ボーッ


 オスラービアが邪な考えに浸っていると、出航を知らせる警笛があたりに響いた。2隻を岸壁につないでいた舫い綱(もやいづな)が解かれ、8,000t近い鋼鉄の塊が煙を吐きながらゆっくりと動き出す。


 石炭(いわき)の煙が龍のごとく天高く上り、蒸気機関特有の「シュッシュッ」と言う音が、鼓動のごとく力強く響く。

 2隻の巡洋艦は、「オスラービア」の近くを通り過ぎようとした。回航員たちに緊張が走る。2隻は少しずつ速度を上げ、「オスラービア」の横をすり抜けた。


 「オスラービア」は、特に動きを見せず「日進」が完全に通り過ぎた時点で、回航員たちは安堵し胸をなでおろす。春日と日進も、何もなかったことにホッとしていた。

 だが次の瞬間、「日進」の見張り員が大声で叫んだ。


「「オスラービア」ぞーそーく!!本艦隊に接近しつつありぃ!!」


『っ!!』


 その言葉に、再び全員の顔に緊張が走る。「春日」でも「オスラービア」の様子が確認され、回航責任者の鈴木貫太郎中佐は、全艦に警戒を促した。

 だが、今2隻を動かしているのは英アームストロング社の社員たちであり、言わば民間人である。おまけに、両艦とも動き出したばかりで満足な操舵ができない。

 それをいいことに、「オスラービア」は2隻の進路を塞ぐように舵を切る。


「おもーかーじ、一杯!!」


「おもーかーじ、一杯!!了解(アイ)!!」


 「オスラービア」の動きを見た鈴木が、相手の後方に出るように指示を出す。操舵手が大声で復唱し、巨大な舵輪をガラガラと回す。

 「春日」の船体がやや左に傾き、ゆっくりと右に回頭していく。「日進」も同じく右に進路を変えるが、やはり速力不足の為に2隻とも思うような動きができない。


 巡洋艦は速度と機動力に長けた優秀な艦種だが、それはまともな状態の話だ。速度も出ず、乗員も訓練されていなければ鈍重な戦艦にも劣る。

 春日自身も、自身の念を込め操舵の手助けをするが元々調子が悪いのでは気休めにもならない。


「お姉ちゃん!!」


「モレノ!?何してるの、早く自分の艦に戻りなさい!!」


 春日が目の前の相手と操舵に集中していると、日進が彼女の元に転移してきた。あまりの事に、春日は思わず昔の名前で妹を呼ぶが、向こうもそれを気にする余裕はないらしくひどく慌てている。


「大変だよ!!向こうから別の艦隊が来てる!!こっちに向かってるよ!!」


「なんですって!?」


 驚いた春日が日進の指さす方を向くと、確かに新たな艦隊がこちらに向かってきている。春日は新手の登場かと身構えるが、マストに掲げられている旗に気付き警戒を解いた。


「大丈夫よモレノ…あれは味方、イギリスの地中海艦隊だわ…」


 白地に赤いクロスと左上に描かれた〝ユニオンジャック″が、地中海の潮風になびく。数世紀に渡り、7つの海を支配してきたRoyal Navyのお出ましである。

 すでに開戦間近と言う状況のため、この新鋭巡洋艦を沈められて日本の戦力が低下することを恐れたイギリス海軍は、アームストロング社の社員を護衛するという名目で、2隻の近くを航行していた。


「ちぇっ…邪魔が入ちゃったな…」


 オスラービアがつまらなそうに呟くと、艦は急速に向きを変え、2隻から離れていく。世界第3位の海軍力を持つロシア海軍も、世界最強のイギリス海軍とまともに殴り合えばただでは済まない。

 

「バイバ~イ…いい暇つぶしになったわ❤」


 「オスラービア」と「春日」「日進」が、すれちがう瞬間妖しい笑みを浮かべたオスラービアが2人に手を振る。


「暇つぶしですって!?」


 その言葉に怒りを覚えた春日が、オスラービアを睨みつける。その様子に、「お~コワイコワイ」とひらひら返すと、春日の後ろにいる日進に目を移した。


「震えちゃって、カワイィ~…もっと虐められなかったのが残念だわ…フフッ」


「ひっ!?」


 日進はびくりとし、目じりに涙をためて硬直してしまう。それを見た春日は、日進を庇いながらオスラービアを睨みつける。


「失せろ変態!!妹に手ぇ出したら、ただじゃおかないわよ…」


 しかし、オスラービアはどこ吹く風と言う感じで手をひらひらさせながら去っていった。元々、巡洋艦を格下と思っている彼女にとって、この程度の脅しは怖くもなんともない。


「お姉ちゃん…」


「大丈夫よ、お姉ちゃんがついてる…あなたを絶対にひどい目にあわせたりしないわ…」


 泣きじゃくる妹に、春日はそれまでオスラービアに向けていたモノとは全く違う、聖母のような表情で妹を抱きしめる。彼女は、日進が泣き止むまで傍に居続けた。


 日進を慰める中、春日はもう1度あの艦に出会うような予感がしていた。杞憂かと振り払おうとしたが、妹も同じ予感がすることを知ると、それが彼女の中でひどく現実味を帯びたものとなった。

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