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Butterfly  作者: simakaze
第1章 運命の少年
4/10

嵐の船出

  3話目です。近々とか言いながら画像よりこちらの方が先に出来てしまいました…いや、ペース的にはいいんでしょうけど…

 今回は、飛行機をどうするかと言う問題から、一気に日露開戦直前まで突っ走ります。タイトルは「嵐」ですが内容はカオスです。そして久々に主人公ができます(遅)

 第2話を登校したところ、甲殻類様から「見づらい」とのコメントをいただいたので今回は大分隙間を開けてみました。

 少しは読みやすくなっているとよいのですが…

 1900年(明治33年)10月上旬、御前会議が招集された。議題はもちろん、飛行機についてである。

 その存在が、今後日本に大きな利益をもたらすと言う考えは、明治帝をはじめ全員の胸中にあったが、具体的な扱いについては、大きく分かれた。

つまり、飛行機の事を世界に公表するか、それとも隠しておくかと言う事について議論が交わされた。

 事の発端となった山本は、飛行機は対ロシア戦の切り札であるから、ロシアとの戦端を開くまでは隠し通すべきだと主張した。

 対して、元老の伊藤博文は飛行機の存在は、日本の国際的地位を向上させるとともに、ロシアとの戦争を回避する手段になると訴えた。

 この頃、ロシアとの関係が悪化する中で、唯一伊藤のみが平和的解決の道を探っていた。飛行機の存在は、伊藤にとっても重要な意味がある。

 飛行機の公開・非公開の問題は、いつの間にか開戦派と非戦派の議論に変化していた。いつまでも終わらぬ論争に、陸相の桂太郎が助け舟を出した。


「陛下、私は飛行機は公開すべきではないと考えます…」


「なぜだ?」


「恐れながら…我が国は列強から見れば二流かそれ以下です…また、有色人種は劣等民族として見られております…そのような我々が、飛行機を見せたところで彼らは決して認めることはないでしょう…」


 桂の意見は正しかった。後年飛行機を開発したアメリカのライト兄弟も最初の頃は信じてもらえず、ペテン師扱いされた挙句法廷に立たされたこともある。

 仮に公の場で飛行機を見せたとしても、彼らはそれが日本人の力によるものだとは決して信じず、最悪真似されるだけになりかねない。

 そうなれば、せっかく手に入れた飛行機の優位性も完全に失われてしまう。桂の考えに、先ほどまで飛行機の公開を叫んでいた伊藤すら黙り込んでしまった。

 静寂が議会を包み込む中、明治帝が口を開いた。


「朕は、飛行機を露国との戦を止める術の1つと考えたい…だが、朕の力及ばぬばかりに我が国民が心血注いで作りあげたものを、侮辱されるのは大変心が痛い…桂よ…」


「はい…」


「主は、飛行機を世界に認めさせる事ができる場所はどこだと考えるか?」


戦場(いくさば)しかないと考えます…」


「そうか…ならば、飛行機の事はロシアとの開戦まで秘匿せよ…だが、今後ロシアとの関係が改善したならば、その時は改めて公表に関する会議を執り行う…陸海軍並びに関係諸氏は、情報の漏えいに十分注意し、飛行機の生産と搭乗員の育成に励むように…」


『はっ!!』


 全員が起立し、明治帝に向かって深々とお辞儀をする。聖断が下り、会議は閉幕となった。会議参加者は、直ちに各々の関係部署に会議の結果を伝えに戻った。


―海軍省


「大臣!!」


 山本が海軍省に戻ると、その姿を見た真之が駆け寄ってきた。


「おお、秋山…」


「陛下のご聖断は、どのようなモノでしたか?」


「ああ、このまま悪化して戦になれば、戦場がそのまま万博会場になる…逆に好転すれば、普通にお披露目だそうだ…」


「そうですか…」


「秋山…もし、ロシアとの戦争が始まったとしてそれはいつごろになると思う?」


「ロシアは今回の戦乱で、満州をほぼ手中に収めております…また、遼東半島の要塞化を進めている状況から考えますと、早ければ来年の暮れごろには…」


「そうか…31期は間に合いそうにないな…」


 山本は、腕を組みながら悩ましそうに答える。


「大臣?」


 秋山は、31期と言う言葉に首をかしげた。何せ海兵31期は今年の12月からの入学生だ。今頃はまだ、合格通知が各々の家に届いたころだろう。


「いや、実は日清戦争のすぐ後に佐世保で面白い少年を見つけてな…その子が兵学校に入るのが、今年なのだ」


「なるほど…しかしそこまで思い入れがあるとは、よほど才覚と思われますな…」


「ああ…一目見た瞬間から素晴らしいものを感じた…まあ、覚えていたのは少し特殊な事情があったからだからだがな…」


「事情?」


「ああ、詳しいことは時が来たら話す…ただ、彼の入学を認める為にいろいろと手を回したんだ…」


「相変わらず大臣は恐れ知らずですな…」


 真之の言うとおり、山本はかなりの肝っ玉だ。軍艦の建造費が足りなくなった時は切腹覚悟で違憲である予算流用をしている。因みに、この予算流用で建造されたのが戦艦「三笠」である。

 この後、真之は常備艦隊の参謀に任命され対ロシア戦の作戦立案に大きく関わっていくこととなる。開発責任者後任には、真之の推薦で、彼と同期の山路一善がついた。


 日露の関係は、明治帝や伊藤の願いも虚しく悪化していった。伊藤は、ロシア皇帝ニコライ2世のもとに自ら出向き、何とか戦争を回避しようと駆けずり回った。

 だが、ロシア皇帝ニコライ2世はそれを断った。1891年(明治24年)の〝大津事件″の傷が、彼の日本人に対する考え方を変えてしまったのだ。

 このロシアの動きは日本のみならず、大陸に多くの権益を持つイギリスとの亀裂も深めていくことになる。同時にロシアへの対抗手段を求める過程で、日英の仲は急速に深まりつつあった。

 当時イギリスは、アフリカでボーア戦争を戦っており、極東の権益を保護する余力はなく、一方日本は兵力をロシアに向けられるがその規模は小さく強力な後ろ盾が必要だった。

 互いに今必要なものを持っていると言う事実は、1902年(明治35年)〝日英同盟″と言う形で実を結ぶことになる。

 最強国家イギリスとの同盟締結は、日本の評価を上げ日本全体がお祭り騒ぎとなった。だが同時に、ロシアとの間に決定的な亀裂を呼んだのは言うまでもない。

 1903年(明治36年)8月、日英同盟を手に入れた日本はロシアに対して強気で外交を行えるようになり、最大の譲歩である、〝満韓交換論″を提示した。


『満州はくれてやるから、朝鮮には手を出すな』


 だが、ロシアは、日本の譲歩を拒否した。極東総督であるアレクセーエフは朝鮮の権益に興味を示し、朝鮮の北緯39度線で分断し、南半分を日本領、北半分を中立地帯とすることを提案した。

 これには、中立地帯の軍事利用を禁止することも提示されていたが、この申し出は日本から見れば「朝鮮の北半分をよこせ」と言っているに等しいものだ。

 日露の交渉は、朝鮮半島を巡って平行線を辿り、日本国内でも幾度となく御前会議が開かれた。一方で、陸海軍や政府は開戦時期や作戦などの確認を入念に行った。


―1903年(明治36年)12月14日 広島県海江田海軍兵学校

 この日、新たな士官候補生たちが船出を迎えた。海兵第31期生、日清戦争以来の実地訓練を受けずに艦隊配備された世代である。総勢185名。その中には、海軍士官候補生として成長した海人の姿があった。

 卒業式を終え、候補生達は訓練航海までのわずかな時間を家族や親しい人と過ごすために、実家へ帰郷する。

 だが、唯一海人には帰る場所も待っている人もいない。いや、正確には彼自身が拒んでいるのだ。3年

前、あのような別れ方をした自分を彼女は決して許してくれないと…


「海人っ!!」


 海人が感傷に浸っていると、卒業生の1人が声をかけてきた。

 彼、海原洋一は海人が兵学校で唯一気を許した親友だ。古い武家の生まれで、兵学校の入学から卒業まで主席であり続けた異才である。


「洋一、卒業おめでとう…」


「お前もな…それより、今年は訓練航海がなくなるかもしれないぞ?さっき教官達が話してるのを聞いた…」


「らしいな…」


「やっぱり、ロシアとの戦争が近いのかな…」


「ああ…でも、それなら好都合だ…それでこそ、海軍(ココ)に来た意味がある…」


 海人の眼には、強い光宿っていた。それは、3年間同じ釜の飯を食べ共に過ごした洋一も滅多に見ないものだった。


「そう言えば海人…お前、今回も実家に戻らないのか?」


「ああ…」


「せっかく卒業したのに?」


「その覚悟できたからな…まあ、佐世保だからいずれいやでも帰ることになるさ…」


「そーだな…」


「またしばらく厄介になるよ…」


「りょーかい…」


 兵学校の正門は、開校当時から桟橋と定められている。これには、兵学校卒業生がより広い視野を持てるようにと言う願いが込められている。

 桟橋から見える海は、穏やかで青々と輝いている。だが、彼らがこれから旅立つ海は波高く、暗雲立ち込める嵐の海だった。彼らは、そう遠くないうちにそれを知ることになる。

 そしてその一月後、遠いイタリアの地でもう1つの船出が盛大に行われていた。しかし、この船出も決して安易なものではなかった。

 

 



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