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うりと夏休み〜続編〜  作者: ぬこ
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にゃーん

 「ぁゃとっ。」

 「ん?」

 「にあー。」

 「んっ?」

 「にあーって、いう?」

 「誰が?」

 

 首をかしげる、うり。

 にあーって、いう・・・?


 「にゃー。」

 「どうした?」

 

 居間から、廊下へ走るうり。

 

 「にゃー。」

 「うり?」

 「にゃー?」

 「いや、俺が聞きたいっ!」


 ガラッと網戸を開ける・・・と。

 

 「ん。」

 

 何かが、さっと隠れるのが見える。

 じーっと、動かないで様子を伺ってみると。


 「ぁ!」

 「猫かっ?」

 

 一瞬、小さな姿が見える。

 ここまではランプの光が届かないから、月明かり。

 その、柔らかい光に微かに照らされた、白い毛。


 「うり、じーっとしててみ?」

 「ぁぃっ!」

 

 いや、指差したままでじっとしなくていいぞっ?


 うりの手を戻してやり、後ろから抱えるようにして、じっと外を見る。

 



 キキキキ。


 時折、小さく虫の声。



 にゃーん。


 「!」

 「うり、しーっ。」


 びくっとするうりに小声でいうと、こくこくこくっっと物凄い勢いで首を振る。

 そろりそろり、と出てきたのは、小さな三毛猫。

 月を背にして歩いてくる、その小さな影が長く伸びている。


 「うり、牛乳あったよな?」

 こくこくっ!と、勢いよく首を振る。

 

 うん、静かにしてるんだよな?



 でも、鼻息すげーぞっ?




 

 そして、台所からうりの牛乳を持ってきて、平たい器に少し入れて。

 確か、人間用の牛乳って、動物だと腹下す事もあるって聞いたんだけど、それ以外に猫が食いそうなもんが無くて。


 見るからに子猫だろうし、多分コレでいいんじゃないかと思って、器をそっと縁側の下に置く。


 じーっと、俺とうりを見る、子猫。

 そして、その子猫をじっと見て、鼻息荒い、うり。


 「うり、ちょっと奥行ってみよ?」

 「?」

 首を上げて俺の顔を見上げる。

 「ほら、子猫だし、きっと怖がってるんだろ。ちょっと離れて、牛乳飲ませてやって、しばらくそうしてるうちに慣れてくれると思うからさ。」

 「こねこ?」 

 「うんうん。あれは、猫。ちっちゃいから、子猫。」

 「ねこ。」

 「そう、猫さんな?」

 「ねこしゃん。」

 「よしよし、そんじゃちょっと奥行こうな?」


 うりを抱きかかえて、二、三歩下がる。

 

 そーっと様子を見ていると、そろり、そろり、と近寄ってくる、猫。

 ちょっと近づいては、じーっとこっちをみて、しばらく立ち止まり、また一歩。




 りーん、りーん。


 雲ひとつ無い、星空。

 月明かりと、猫と、虫の声。


 ゆらゆら、揺れる細いしっぽ。



 それが、ゆっくりと近づいてきて、縁台の下に、そぅっと。


 「!」

 「うり、しーっ。そーっとみてみ?」

 

 こくこくっ、と頷いて、そーっと身を乗り出す。

 どんな顔してる猫なんだろー、なんて、俺も一緒にそーっと・・・。


 がっ。


 雲ひとつ無い、月明かりの綺麗な夜。

 俺の体の影で遮られた月明かりに異変を感じたのか、びくっとして逃げる猫。


 「ぁー。」

 「うり、ごめんっ!」

 

 とはいえ、遠くまでは逃げない。

 手は届かないけど、じっくり姿を見れる距離だ。


 柔らかそうな毛並みに、夜だからか、まんまるい目。

 

 「ねこしゃーん。」

 「ほら、おいで。」

 「ぇっこしゃーん。」

 

 うり、ちょっとずつ違ってきてる。


 「ほら、何もしねぇって、可愛い顔見せてくれって。」

 「うりにも!」


 にゃーん。


 子猫独特の、甲高い声ではなくて、鳴きすぎたのか、若干嗄れた声。

 親猫とはぐれたのか、細い体で精一杯虚勢を張る姿。

 しかし、腹が減って、寂しくて。

 

 そんな声で、絶えず、鳴く、子猫。




 にゃーん。にゃーん。にゃーん。


 


 ここにいるよ、どこにいるの、どこにいるの。


 


 にゃーん。


 ここにいるよ。


 聞いてるだけで、なんだか寂しくなる、ひっきりなしに鳴く、猫の声。

 どうしても、言葉で聞こえるような気がして。

 怖い、腹が減った、寂しい、不安、心細い。

 小さな体で、大きな声を必死で出してるようで。


 「うり。」

 「ぅ?」

 「猫さん、俺たちいたら、怖くて牛乳飲めないかもしれないから、居間戻ろう。」

 「こぁぃ?」

 

 じーっと、俺を見つめる、うり。

 そして、自分の手を、握ったり開いたりして、もう一度、猫を見る。


 「きっと、迷子になったのかもしれないし、腹減ってるだろうから、安心しておなか一杯にさせてやろ?」

 「ぐぅーって?」

 「うん、うりも腹減ったらぐーってなるだろ?」

 「ぁぃ!」

 

 こくっと頷いて、俺に手を伸ばす。

 

 「よーし、いいこだなー。肩車して連れてってやるからなー?」

 「ぁーぃっ♪」

 「明日、また猫さんきてくれるといいな。」

 「ぅ!」


 うりを抱き上げてやる。

 

 と。


 「ねこしゃーん、ぁたね?」

 「またな。」


 くるっと振り返り、猫に手を振る、うり。

 明日も来るかな。


 それなら、何か猫が食うもの準備しておいてやろうかな。


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