うん。
「よーっし、ただいまっ!」
「ぁじゃいまっ!」
「おかえりっ!」
「おじゃぇりー!」
あれから恒例になった、二人の挨拶。
必ず、二人でただいまっていったら、二人でお互いにおかえりって言う。
同時に家に入るから、挨拶も同時なんだけど、やっぱり嬉しいもんだ。
「んじゃ、今日はバァちゃん家でもらったおにぎりと、おかずでいっかっ!」
「ぃか!」
「んじゃ、それ食ったら風呂入ろうなー?」
「ぁぃっ!」
荷物を居間に下ろして、ランプをつける。
これから寒くなるし、電気通したほうがいいかな?
まぁ、囲炉裏があるみたいだから、これは後でバァちゃんに教わるとして、電気はついた方がいいかもしれないよな。
あれから、数日たった今。
まだ、ババァもタクも、顔を見せてない。
見たい顔じゃないからいい、といえば気楽かもしれないが、ほんとにこのまま、何事も無くいられるか、不安は残るわけで。
銀行にいって、口座確認もしないといけないんだけど、・・・振り込まれてる気がしない。
こっちから出向いた方がいいのかとか、色々考えるけど。
タクが結婚するから、ここを取り壊してタクの家に。
結婚おめでとう、とは思えるけど、祝いにここを手放す程、心は広くないらしい、俺。
うん、心、狭いよな。
わかってる。
すごい、わかってる。
でも、嫌なんだ。
初めての、「居場所」に固執したくなる、守りたくなる、ワガママだろうけど、どうしても、手放したくない。
正直、申し訳ないけど、こうして生きてるって実感して、毎日笑って、幸せだって思えて。
それをずっと俺の物にできるなら、寿命が半分なったって、いや、1/3になったっていいとさえ、思う。
うりが、これからどうなるのか、俺だけ年を取るのか、とか、考え始めたらキリがない。
でも、風が秋っぽくなって、これから冬が来て。
一緒にカマクラ作りたいとか、クリスマスにケーキを食べたり、大晦日にソバ食って、新年に雑煮作って(作り方わからねぇけど)、そういう事を考えたら、楽しみで、楽しみで。
どうしようもないくらい、これからの未来が、楽しみで。
だから、早めに決着つけないと、とか、決着つけるから、ちょっと休憩して、とか、思っちゃったりしてる。
ちゃんとやるから、願い叶えて、って、俺言ったのにな。
すぐにこうやって弱気になる、自分が情けないと思う。
きっと、この生活は本当に俺のものだ、って実感できるまで、ずっと考える。
でも、実感できたら今度はまた、あれこれ考えて、ぐるぐるするんだろうか。
こんな自分じゃいけないよなって、何回も思って。
昔、ガキの頃はそんなこと思ったことも無かった。
一人でいるのが、当然だったし、何人かいて感じる孤独のほうが辛かった。
仕方ない、いつか、いつかきっと、って。
ぎゅぅっと、手を握られる。
「うり。」
「ぃたぃ?」
「いや、大丈夫だよ、ありがとなっ。」
うん。
一人じゃない。
握った手のひんやりした感触。
でも、一人で寝ていた冷たい布団より、ずっと、ずっとあったかくて。
──それが、今は幸せだって思うから、それを守りたくて、失う事が怖くて弱虫になっているんだろうか。
「いろいろ考えて、大人になるんだ。」
「年とる?」
「ただ、年をとるんじゃないんだ。心が、な。」
「一杯勉強して?」
「それももちろん大事だ、でもな、隼人。」
「ん?」
「これからお前に訪れる出来事が幸せであっても、辛いことであっても、成長できる人間になるんだぞ。」
「辛いのは、嫌だな・・・。」
「幸せも、辛いも、いつだって同じところにあるんだよ。」
うん、ジィちゃん。
今になって、俺、成長できてるってことなのかな。
もっと、もっとジィちゃんと話したかったな。
「ぁゃと?」
「ん、あ、ごめん。風呂沸いたかな?」
「ぅー?」
「大丈夫だよ、うり、ありがとな。」
「ぁぅ。」
今まで、言う事無かった、言うことも無いと思った、言葉。
「心配かけて、ごめんな。ありがと。」
が、うりの手を握って、丸い目を見てたら、すんなりと出てきた。
「ぁぃっ♪」
「よしっ!それじゃっ!」
「ぅ?」
「風呂いくぞー!」
「ぉぉぉお!」




