もも
「大分涼しくなったなー?」
「ぁー?」
ほんの一週間でこんなに温度、変わるもんなんだなぁ、なんて。
前はもうちょっと遅い時間まで日が伸びてて、まだまだ暑くて。
「うり、今日はちょっとゆっくり風呂つかろうなー、そろそろ40かぞえよっか。」
「ぁぃ!」
「さんじゅー、の次は?」
「よんじゅっ!」
・・・ま、まぁ数え方によっちゃあってなくはないんだがっ・・・?
「あ、あー・・・うん、数えてみよう・・・。んじゃ、二十五、二十六・・・。」
「にじゅひち!」
「お、えらいっ!そんじゃ、二十八っ!」
「にじゅく!」
「三十っ!」
「よんじゅっっ!」
まてっ!
それじゃ「ちょっとゆっくり」じゃなくて一瞬だろうっ!
「よし、うり。すごくいい事をおしえてやるぞー?」
「ぁにっ!?」
「三十の次は、三十一なんだ。」
「ぇぇえ!」
「さらに・・・。」
今にもツバをのみこみそうな真剣な顔で俺を見るうり。
「三十一の次は三十二なんだ・・・。」
「ぇえええ!」
「ここまで言ったら、うりは、わかるよな・・・?」
「ぁぃっ!」
「三十二の次は・・・?」
「はんじゅはん!」
思い切り驚いた顔をしてみせる。
びくっとして、拳を握り締め、じぃぃぃっと俺を見る。
「・・・うり・・・。」
「・・・・ぁぃっ・・・!」
「正解っ!えらいぞぅっ!」
「ぉぉぉおおお!」
ふと、某クイズ番組が頭をよぎったわけですが。
残念ながら賞金はありませんっ!
キキッ、と音を立てて自転車を庭に止める。
あ、俺蚊にさされてるな、かゆい。
「うり、蚊にさされてないか?」
「ぅ?」
「痒くない?」
自転車から抱き上げて降ろしてやる、が、刺された跡はないみたいだ。
うん、やっぱ自転車っていいなー。
風切って走るのも気持ちいいし、なにより、荷物持つのがかなり楽だ。
まぁ、うりが一人じゃ乗り降りできないんで、その辺は手伝ってやらないといけないわけだが、これが、なんか楽しい。
「自転車、やっぱりいいなー。」
「ぅー♪」
カゴからお土産を降ろす。
おにぎりもらったから、今夜は飯炊かないでいいかな。
ナス炒めたのもあるから、それおかずにして、デザートに桃、明日の朝はスイカだなっ!
「よーし、うり。」
「ぅ?」
「ほーら、かいでごらん?」
「ぁぃっ!」
うりの鼻先に桃を近づける。
「ぅ!」
ぴくっとして、口を開ける。
それを、すっと上に上げる。
「ぁ!」
飛び上がるうり・・・が、届かないっ。
「ほーら、いい匂いしただろ?これが、桃だ!」
「もー!」
「飯食ったら、デザートにしようなっ?」
「ぁーぅ♪」
うん、返事してるのか?それとも、今くいたいってねだってるのか?
あーん、の口でじっと俺を見る、うり。
「うりー、晩飯食ったら、桃にしようなー?」
「ぁーぅ♪」
「うりー、口開いてるぞー?」
「ぁー♪」
・・・あー、口全開だぞっ?
「よ、よし、いっこだけな?」
「ぁぃっ♪」
結局、口を開いてるうりに勝てず、桃をむく。
てか、俺も待てなかったりしたのは秘密の話だっ!
獲り立ての桃、これ、包丁無くてもむけるんだな。
そんなに簡単にむける訳じゃないけど、硬いから爪でぴーっと。
うん、いい匂いだっ。
「やとっ!ぁゃとっ!」
「はーいはい、ほら、あーん。」
ぱかーっと口を開いてるうりに、桃を一つ手渡してやる。
一口大に切ってやろうかー、と思ったんだけど、やっぱ、丸ごとだろっ?
「ぉぉぉおお!」
「よーし、いただきますっ!」
庭にそのまま皮を捨てて、二人で自転車に座って桃を食う。
「じゅっ・・・ぶじゅっ。」
「うめっ!」
汁気が多いもんで手がベトベト。
当然、隣のうりは顔までベトベトなわけで。
「うり、うまいか?」
「うまぁあああ!」
「顔、ベトベトだぞ?」
「ぅししししっ!」
「いや、ほめてないっ!」
「ぅ?」
拭ってやろうかと思ったが、俺の手もベトベト。
「ぁゃと、ももー。」
「ん?いっこだけだぞー?」
「ぁゃと、ぅー。」
「ん?」
あ、俺の顔にも桃がついてたのか。
うりが手を伸ばして取ろうとして気付く。
・・・って、22にもなって俺ってばっ!




