表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うりと夏休み〜続編〜  作者: ぬこ
31/40

平和的口封じ


 「マジおもいんだけどー。」

 「バカ、黙ってろよ!」


 ちゃぷ。


 小声のつもりなのだろうが。

 この静寂の中では酷く耳につく。


 しかし、このちゃぷ、という音。

 そしてこの風景に不似合いな臭い。

 風下にいるからか、香水に混じって煙草の臭いと、・・・石油の臭い。


 「ほら、そこにあんだろ。新聞紙・・ってバカ!音たてんじゃねぇよ!」


 ビリビリ、と新聞紙を破く音がして、途絶える。

 ちっ、と舌打ちをする音。


 「こんだけありゃ余裕だろ。」

 「あー、臭い。」


 ぷんぷんと漂ってくる石油の匂い。

 トクトク・・と音を立てて液体が流れ出る音。


 「ほら、そこの薪にも。」

 「わかってるわよ。」


 先ほど風呂に入ったときを思い出す。

 ・・・が、まだだ。

 今動いては元も子もない。

 

 「んじゃ、やるぞ。」

 「さっさとやって早いとこ帰りたいわ。」


 カチッ。


 カチッ・・・。


 「・・・ちっ、使えねぇ。お前ライター貸せよ。」

 「もう・・・。はい。」


 カチッ。


 石油がついた新聞紙。

 燃え上がるのは間違いなく早い。

 もう少し待つべきかもしれない・・・が、ここに何かあってからでは遅すぎる。


 「いくぞ。」

 「はやくしてよ。」



──カシャッ!

 

 一面に目がくらむフラッシュ。







 「!!!!」

 「きゃぁあああ!」



──カシャッ!


 「ちょ、なんだ!?」

 「やめてぇえ!」


 ボッ!


 タクが持っていたライターに新聞紙が引火して激しく燃え上がる。


 「うわぁああ!」

 「なんなのよー!!!」


 慌てて手放したそれが風に煽られて地面に落下する。


 「逃げろ!」

 「ちょっと!おいてかないでよ!!!!」


──カシャッ!


 走り出す二人を追いかけるか迷う──が、万が一の事があっては・・・。

 万が一薪に燃え移って広がりでもしては元も子もない。


 ・・・と。


 「雲罫!?無事か!?」

 「・・・隼人?ここを頼む、火を消してくれ、石油かかってるから気をつけろ!」


 さすがに騒ぎが大きかったか、隼人の声が近づいてくる。

 走りながら叫ぶのは効率の良いものではないが仕方ない、非常時だ。


 「どうしたっ?」

 「戻ったら説明するので、ここを頼む。」

 「・・・わかった!」


 物分りの良い友人で実に何よりだ。


 車を停めた位置も掴んである。

 田舎道を走るに不向きなヒールの女に追いつくのは容易い。

 ただ、走るだけだ。


 「・・っきゃ!」

 

 畝に足を取られて派手に転倒した女の腕を掴んで引き起こす。

 

 「ちょ、ちょっと!タク!!!!」

 

 振り返ることも無く走り去る男の名を呼ぶ、女。

 

 「おいてくつもりっ!?ねぇっ!!!」


 掴まれた腕をぶんぶんと振って抵抗するが、逃がすわけには行かない。


 ───・・・。


 バタンッ!


 静かな夜に響く、ドアの閉まる音。


 「ちょ・・・まってよ・・・・!?」


 エンジン音と共に不似合いな漏れ出る音楽。


 「ねぇ!タク!」


 ブロロロォォッ!!!


 「うそ・・・でしょ・・・?」


 掴んだ腕から力が抜けていくのがわかる。

 思わず手を緩めると、するっと我の手から離れ、支えを失ったかのように再び畑に座り込む、女。

 

 そして、ほのかに漂ってくる、排気ガスの臭い。


 「女、来るが良い。」

 「・・・あたしやってないからね!」

 「まずは此方に来るが良い。」

 「まだ金だってもらってないんだから!」

 「どうやら怪我はないようだな。自力で立てるのなら手助けはせぬが。」

 「警察呼んだって何もしゃべらないからね!アタシは声かけられただけよ!」


 会話がかみ合わない事を理解する。

 興奮しているのもあるのであろうが、悪びれる様子も無いというのは如何な物か。

 

 まずは隼人の元へ戻らねばなるまい。


 「───っぇ・・・ぅー。」

 「・・・?」


 微かに聞こえた泣き声。

 気のせいかと耳をそばだてる。

 念の為、側に座り込んだ女を見る──が、目が合うなり。


 「何見てんのよ!アタシ悪くないからね!」

 

 と、悪態をついてくる始末。




 「少々黙られよ。」

 「なによ!大体あんたらが!」

 「平和的に口を塞ぐ方法を一つしか知らんのだ。」

 「は?何言ってんのっ!?」

 

 また、微かに声が聞こえた気がする。

 

 「ちょっと!聞いてんの!?」

 「黙られよ。さもなくば」

 「なっ」

 


 ───ゃとー・・ぃぅっちゃぁ・・・──


 静まり返った庭にかすかに届く声。


 「うり嬢!」

 「・・・・っ。」

 

 顔を上げ、力なく座り込んだ手元の女を離す。

 この騒ぎで起こしてしまったのだろう。

 心細げに泣いている声、うり嬢の物に相違ない。






 「うり!」

 

 隼人の声が聞こえる。

 火は完全に消し止めたらしく、彼の声がする辺りは完全な暗闇に染まっている。


 「ゃとー!ぃくちゃー!」


 居間のランプの光に照らされて、隼人がうり嬢を抱き上げてやるのが僅かに見えた。

 そして、ランプを左右に掲げ、辺りを照らし。


 「雲罫!大丈夫か!?」


 隼人が叫ぶ。

 手元の女と一瞬目があう、が、さっと視線をそらされる。


 「ここだ。」


 手を振って隼人に応えると、此方に向かってうり嬢と共に歩いてくる。

 ぷぅん、と吹く風に乗って匂う石油の臭いさえなければ、秋の夜に相応しい満月。

 風に雲が流されたおかげで、ランプがなくても辺りの様子が伺える。


 「隼人、怪我はないか?」

 「ああ、俺は平気だ。雲罫は大丈夫か?」

 「うむ。うり嬢、起こしてしまって申し訳ない。」

 

 隼人にしがみついているうり嬢の頬をなでてやる。

 にこーっと微笑んでくれるのに安心して思わずつられて笑顔になる。


 「説明、よいだろうか。」

 「あ、ああ。頼む。」

 「では、中に戻るとしよう。」

 「ああ。」


 座り込んでいる女に手を差し伸べる。

 

 「・・・・・・。」


 無言で我の顔を凝視し、手を見つめ、掴まる女。

 それを起こしてやると、隼人、うり嬢と共に居間に戻る。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ