再び
「では、早々に用意されよ。不本意だろうが親戚という事もある。なるべく穏やかにすませたいのが気持ちだろう。」
「だから、いい加減理解しなさいよ。」
「ちなみに、不本意、というのは隼人にとってだ。勘違いするな。」
「は?なにコイツ。バカのツレはやっぱりバカって訳?」
タクがそういうのを、涼やかに鼻で笑う雲罫。
「よくわかっているではないか。礼儀知らずの息子はやはり礼儀知らずと見える。」
「・・・なっ!」
「何か。」
「なんなんだよテメエ!元はといえば人の家の財産だろうが!勝手にバカが入り込んで出ていかねえ?ふざけんじゃねぇよ!」
がばっと雲罫の袈裟を煽るようにひねり上げるタク。
やめろ、と俺が手を出すより早く。
「これは、驚いた。」
「はぁ?」
「少しは言葉を知っているようだが。・・・理解力というものがついていかないとここまで滑稽で哀れを誘うものだとは。」
心底哀れんだ目でタクを見る雲罫。
拳を振り上げて今にも襲い掛かりそうなタクの腕を後から俺が握って、言う。
「ジィちゃん家買い取るのに必要なこととかがあればそれを出してくれ。あとはこの間言ったように、正式な俺の受け取り分を。」
「テメェは横から口出すんじゃねぇよ、このバカ。」
「まともに話ができねぇなら裁判でケリつけてもらうから。」
「はぁ?このバカ、あそこは取り壊すっていってるだろーが。」
取り壊されるなんて、冗談じゃない。
雲罫の袈裟を捲り上げていた手を放すと俺に向き直るタク。
「それは聞けないって何度も言ったはずだ。」
「だから何で俺がテメェの言う事聞いてやらねーと?」
「隼人。用件は告げた。あまり近寄るな。バカが伝染る。」
そう言って、俺の腕をつかみ、タクから手を放させる。
睨み付けるタクと、心底バカにした顔で見下すババァ。
「用件を聞き入れていただけない場合は、話し合いはここではなく、別の場所で。」
「ふざけんなバカ。こっちの台詞だボケ。」
言い返してくるのを聞かずに、俺を帰り道に促す。
それに従って庭から外へ。
「雲罫・・・。」
ババァの家をでて、一つ目の曲がり角を過ぎて。
「ごめん。」
彼に声を掛ける。
ここにきて、早々にこんなに不愉快な思い。
色々言ってくれた彼に、俺は大したことも出来ず。
「どうした?ジィちゃん家に泊めてくれる約束がダメになったか?」
「いや、それは問題ない。嫌な思いをさせたことを、謝りたい。」
ふっと立ち止まり、俺に向き直る雲罫。
「なんだ、我を信じていないのか?」
「ん?」
「言ったであろう。我はお前が一番気持ちよいのだと。信じろと。」
「でも。」
いくらなんでも、いきなりあのババァとタク。
不愉快であったことには違いない。
もっと俺が前面にでて何か言うなり、するべきだったのに。
「良いか。隼人。お前は信じていろ。」
「・・・。」
「何を気に病む?我は何も気にはしていないのだが。」
「ごめん。信じてる。」
にっと笑う、雲罫。
「道端で恋人の会話のようだぞ。聞かれては誤解を受けるかもしれんな。」
「ってっ!?」
「冗談だ。」
「冗談か。」
「まぁ、気に病むな。少なくとも我は楽しんでいるぞ。」
そういうと、再び歩き出した。




