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うりと夏休み〜続編〜  作者: ぬこ
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ならば押せ。行き先を。


 賽銭箱のような箱(さっき抱きつかれた時に腰にがっつり当たったのはコレだな。)をちらりとみせる、雲罫。


 中身は・・・さっき俺が入れた300円を含めても、1000円も無いだろう。

 ───ガムの包み紙やら、何やらも目立つ。


 「大した稼ぎにはならないんだな?」

 「いや、稼ぎが目的な訳ではない。」

 「ん?」

 「歩いている一般人が、いづれ死んだら我が弔いの鐘を鳴らしてやることもあるであろ?願いを祈る対象を守っているのも我であるともいえるな。」

 「なるほどな?」


 うむ、と大きく頷いて。


 「俺も、いいことありますよーにとか願うかもしれないもんな。」

 「その時は、我に願うがいいぞ?」

 「マジ?」

 「うむ。しっかり信じて願うのがコツだ。」


 コツってあるのか、なんてちょっとびっくり。

 そして、笠を俺に被せる、雲罫。


 「・・・なんだこれ。」

 「よく見えるであろ。」

 「普通、ああいう時って顔見えないように笠かぶるんじゃ?」

 「正解だ。是をかぶる事で相手の顔も見える。我が弔ってやるかもしれん相手を見ることくらい許されるだろ。」


 なるほどな、と頷いて、笠をかぶったままあちこちみまわしてみる。

 外からみるとわからないが、丁度いい位置に穴が開いているらしく、しっかりと顔が見える。


 「なるほど。」

 

 そういって、笠を返す。

 受け取る彼の手の中に在るのは、・・・テープレコーダー?


 「それはなんだ?」

 「念仏がしっかりと吹き込まれている。」

 「なんでまた?」

 「相手を観察しなくてはな。集中力を維持するためにも、そのくらいは許されるだろう。第一、俺が精神込めて吹き込んだ念仏だ。」

 「つまり家継ぐってことか?」


 笠をぐいっと被って。

 

 「だから、家は継がん。我の神であり、仏なるものは、我だ。信じて損はさせんから我の檀家になるがよいぞ?」

 「宗教始めたのか?」

 「言いえて妙であるが、結果としてはそうなるかも知れんな。」

 「なかなか凄い事してるんだな、難しいだろ?」


 確か、宗教法人の手続きがなんとかって、あるんだよな?会社立ち上げるみたいに必要だったような。


 「いや、こうして日々過ごしているだけだ。」

 「・・・え?」

 「別に屋敷は要らん。ただ、考えてな。」

 「ん?」

 「自分の努力で物事が達成される、つまり、自分を信じねば始まらん。」

 「うんうん。」

 「だがしかし、一般人・凡人といわれるには特に、信じるものも必要であろう。」


 こいつが、一般人・凡人というのは別に深い意味は無い。

 変わった口調ではあるが、俺はこいつが結構好きなんだ。


 うんうん、と頷いてみせると。


 「であるが故に、我を信じてみてもよいぞ、という慈悲の心のようなものだな。」

 「なるほど。」

 「まぁ、追々に理解していけば良いぞ。我も未だにうまく理解させてやる自信が無いのでな。」

 

 そういって、テープレコーダーを懐にしまう(巻き戻しが終わったらしい。)、雲罫。





 「ところで、隼人は何を?」

 「いや、俺は──。」


 どこから、なんと話せばいいだろう、と言葉に詰まる。

 理解してくれないだろう、とかそういう不安っていうのは、無い。

 こいつならわかってくれるだろうし、的確なアドバイスをくれるだろうと思う。


 「ちょっと話すと長くなるんだけどな。」

 「構わん。久々にお前のを食わせてもらえるのならありがたい。」

 「ああ、それなら。」

 「こうしていろんな一般人を見ていると疲れてな。やはりお前のが一番気持ちいい。」


 そういって、ふぅっと息を吐く。

 俺にはよくはわからないが、人のオーラとかそういう感じのもののことを言っているのはわかる。

 確かに、賽銭箱の中見てもわかるように、あんまり気持ちのいい雰囲気ではないんだろう。

 

 それに、変わり者だが頭もよく、行動力もある彼が俺のそれを褒めてくれるのは、なんていうか嬉しいもんなんだ。


 「どれ、では久々の再開を祝って奢ってやろう。」

 

 と、雲罫が賽銭箱から300円(俺がいれたやつなのはあえて触れない方向で。)を取り出すと、自販機に向かい。


 「さぁ、どれでも好きなものを選べ。」

 「お、おう。」


 と、150円入れると、俺に言う。

 遠慮なく、茶のボタンを押し、取り出す。


 「ありがとな。」

 「なに、気にするな。元はお前の金だ。」

 「ま、まぁな・・・?」


 そういって、カフェオレを買う雲罫。

 



 「よっと。」


 雲罫の隣に座り込み、話をする。


 まずは、今俺が居るジィちゃん家のこと、ババァのこと。


 ──そして、うりのこと。

 全部じゃないけど、ある程度をかいつまんで話す。


 「それで、隼人はここで何をしようとしていたのだ?」

 「部屋の更新のことと、・・・遺産のこととかでババァと話し合いをするのに、一応弁護士に相談しておこうかと思ってこっちきたんだ。」



 ふむ、と頷いて懐を探る雲罫。

 立ち上がると、ちょいちょいと俺を手招きして向かう先は外。


 「すまん、ちょっと待ってくれ。」

 「いや、大丈夫・・・って、袈裟来て賽銭箱ぶらさげて笠被ってタバコ・・・・。」


 どうみても違和感が。

 喫煙所がないので、懐から携帯灰皿を取り出して吸い始める雲罫。


 ──その形が。


 ・・・巨大な酒瓶に抱きついたグラマー水着女性。


 その酒瓶の上をがばと開けて使うんだが。


 「どうした?」

 「いや・・・その灰皿、どうしたんだ?」

 「先日道で拾ってな。女体はなかなか握り心地がよいものだ。気に入っている。」


 うん、と頷いて煙を吐く雲罫。


 「そ、そうか。」

 「うむ。ところで先程の話だが。」

 「ん?」

 「やはり、ありえんな。すみやかにその旨告げるなり相手のババァとやらに目録なりを提示願うなり、を進言する。」


 さらり、と迷っている俺に言葉をくれる。

 

 ───目録、か。


 俺の遺産になるものの目録を出してもらって、話をするってことだな。


 「俺を小さい頃に育ててくれたって言う事で、俺とタクは財産半分、でもって。」


 ふむ、と頷く雲罫。

 おそろしくくっきりとした眉毛をぴくっとあげて、続きを促す。


 「タクが今度結婚するってことで、ジィちゃん家を改装してタクが住むって。」

 「ふむ。どのくらいの血縁関係だとか、その辺も聞く必要があるが──・・。」




 被っている笠の位置を直して、


 「少なくとも隼人の両親の財産分については相手の言い分はおかしいだろう。」

 「・・・だよな?」

 「無論。隼人はこれからあのアパートの部屋を解約手続きをして、弁護士にっていうことなのであろ?」

 「そのつもりなんだけどな。」


 ジュッとタバコを例の女体灰皿に。

 パチンとフタを閉めて立ち上る煙が途切れた。


 「先にアパート解約してそれで住むところが無くなったら困るしな。」

 「ふむ。ババァの家とやらに泊まるのは不本意ではあるであろうが、その場合居座れる権利も隼人にあるぞ。」

 「・・・かなり不本意だし、できればいきたくはないんだ。俺だけじゃないしな。」


 うりと、ババァの家に住むくらいならテント借りるなりしたほうがずっといい。

 

 「確かにな。ならば大家の連絡先等がわかるのなら先に弁護士──と言いたいところだが、遺産分けに当たっての内容等はわかるのか?」

 「・・・え?」

 「どういうわけ方をしたのかがわからねば、弁護士に行ったところで出直しになるぞ。」


 ・・・しらなかった。

 確かに、そうだ。


 「まぁ、そう気をおとすな。」

 「うん・・・。」

 「お前の親戚ということだがどうなっているんだ?」


 実は、俺もあんまり詳しくは知らない。

 ジィちゃんと、ババァと、タクと、俺の両親のことしか。


 そもそもババァだって、俺の両親が死んで、それから知ったようなもんだ。

 それまでは、ジィちゃんだけが親戚だったんだ。


 そう、雲罫に言うと。


 「それでは、行くか。」

 「ん?」


 すっくと立ち上がり、俺に言う。

 携帯灰皿を懐にしまうと、賽銭箱をぶら下げたまま、すたすたと歩き出す。


 「どこに?」

 「決まってるであろ、ババァの家だ。」

 「え?」

 「まずは書類なり物事を調べてからだ。弁護士に相談なら電話だってできる。」

 「そうなのか!?」

 

 うむ、と頷いて。


 「なにより、東京まで来なくとも弁護士は居る。もう一度調べ物をして、それから出直すなりしてもいいだろう。」

 「マジ?!」

 「第一、物事が片付いたのなら部屋の荷物の引き取りも業者に頼めばよい。」


 さらっと言う彼の言葉に。

 一気に物事が急展開した気がして、それでも、残る不安。


 「もし・・・俺には遺産は入らないって言われたらって・・・。」

 「案ずるな。一銭も残らないという話はありえない。」

 「どうしても・・・。」

 

 ぽん、と俺の肩を叩いて、雲罫が言う。

 

 「心配するのはわかる。」

 「・・・うん。」

 「だが、言ったであろ。」 

 「ん?」

 「我に願うが良いぞ。」


 そう言って、切符売り場の前でぴたっと立ち止まり、


 「で、どこまでの切符を買えば良いのだ?」


 押してあるボタンは二人分、まとめ買い。

 投入金額は、二万円。


 「いや、・・・って?」

 「行き先を。」

 「・・・雲罫?」

 「なんだ。ここではないのか?」

 「一緒に?」

 「当然であろ?」


 当たり前だ、と首を傾げてみせる雲罫。

 

 「用事とかは?」

 「今出来た。夜はジィちゃん家とやらに泊めてもらう予定だ。」

 「・・・サンキュ。なら、切符代は俺が出す。」

 「遠慮するな、幸い我の家は金持ちでな。このくらいじゃ身代は揺るがん。」

 「そ、そりゃ知ってるが・・・。」


 そういうと、にっと笑って、隣に俺を引き寄せる。

 

 「ならば押せ。行き先を。」


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