かえりみち
「ごーぁーんっ♪」
「はいはい、藁納豆たべようねぇ?」
「ぁとー?」
「うわ、ほんとに藁の中に入ってる!」
多分、はじめて見るとびっくりすると思う。
藁だぞ?
その中に、豆が入ってて、普通に納豆。
もちろん、ねばねば。
「よーく混ぜて、それから醤油たらすのよぅ?」
「先醤油じゃないの?」
「後から入れたほうがいーっぱい糸ひくよぅ?」
そっかー、なんて納得しながら、ひたすら混ぜて、醤油をたらす。
「ほーら、出来た。」
「ぅ。」
顔を近づけて匂いをかぐ、うり。
「・・・・・」
ぱかーっと、口が半開き。
どうなんだ、それってどうなんだっ?
「そんじゃ、いただきますっ!」
「あしゅ!」
炊きたてのご飯のいい匂い。
ちょっと見慣れないんで違和感あったんだけど、うまいぞ、藁納豆。
なんつーか、柔らかくて、飯に合う。
「うまいっす、マジでっ!」
「うちゃす、ばびで!」
「あらあらー、うりちゃん、口の周り糸だらけよー?」
「たーんと、茶ぁのんでなぁ?」
あー、糸ひきまくってるとしゃべりにくいよなっ。
どっかの映画にでてくるモンスターみたいな口の中になってるぞっ!
「そしたら明日朝、バァちゃんとミヨちゃん行くからねぇ?」
「はい、お願いします。」
「うりちゃん、またあしたねぇ?」
「ぁぃっ!」
いつもなら、ついつい日が暮れる前までいるんだけど、今日はスーパーにも寄って、猫のメシを買ってきてやらないといけないもんで、ちょっと早めにバァちゃん家を出る。
明日の朝早くに来てくれるって言ってくれたから、むこうに出来るだけ早くつく電車に乗って。
部屋から荷物もある程度運んできちゃいたいから、車があればよかったんだけど、そうそう贅沢もいってらんないし、大した家財道具もないから、ちょっとムリすれば何とでもなるだろう。
「うり、今夜何たべたい?」
「なし!」
「おっけ、ナスな?」
「ぁぃ!」
珍しくすれ違う自転車に乗ったおじいさんに会釈して、畑を抜ける。
電灯もないから、暗くなったら転ばないように気をつけないといけないよなーなんて思ってるうちに、夕焼け空。
「日が落ちるの早くなったよなぁ、あっという間にもう夕方だぞ。」
「ぇー?」
「なー、ちょっと前まで明るかったのになー?」
「ぁー。」
パチン、と足元のスイッチで電気をつける。
ほんの少し、ペダルが重くなって、畑道に一筋の明かりが走る。
「ぉー♪」
「よしっ、こっからは坂道だから楽だぞー、しっかりつかまってろよー?」
「ぁぃっ!」
大した距離じゃないんだけど、なだらかな坂道。
背中にぴったりとしがみついて、俺の横腹あたりからうりが顔を出して、
「ぁぅぁぉーぁー♪」
なんて、口を開けている。
ひんやりとした夕方の風が心地いい。
もう数日もしたら、肌寒くなるんだろう。
秋の夕暮れとかって、夏の暑さの反動でか、無性に寂しくなったり、寒さ感じるもんだよな。
通った事もないはずなんだけど、アスファルトの道路に、自分の身長より高い積み上げたコンクリートかなんかのレンガの壁があって、そこを歩いてる様な記憶があったり。
そういうことを思い出したり、過ぎ去った昔を思い出して、寂しくなるっていうのが、よく言う「秋は物悲しくなる。」ってやつなんだろうか。
「あ、うり、口開いてると又虫はいるぞっ?」
ふっと思い出して、うりに言うと、
「ふぁー・・・っ!」
「威嚇!?」
速度を落として、ちらっとうりを見ると、・・・口を開いたり閉じたり。
そのたびに、「かぽかぽ」とか「はぷはぷ」とか、妙な音が。
「どうした?」
「ふぅー。」
「・・・口渇いたんだな・・・?」
うん、経験あるっ。




