ごめん。
「あっ、そうだ。」
つい、俺までなんだか嬉しくて忘れかけてた。
「あの、明日。」
「ぅん?」
東京、帰って色々してこないといけない。
更新の話と、相談と。
もちろん、その前にババァんとこいかないといけない。
改めて、ちゃんと話しておかないと。
決める事決めておかないと、動けない。
「綾子おばさんの所と、東京にもう一度戻ってきます。」
「ニィちゃん、大丈夫?」
「はい。・・・なので、明日一日、うりのことを頼みたいんです。」
離れていたいわけじゃ、ない。
ほんとは、一緒にこのままこうしてここにいたい。
「ぅ?」
じっと俺の顔を見る、うり。
その頭に手を置く。
「うり、明日俺、ちょこっとでかけてくるから、な?」
「ぅ?」
首をかしげて、不思議そうな顔をする。
「それじゃぁ、明日はうりちゃん、アタシとバァちゃんと遊ぼうねぇ?一緒になにしよっかぁ?」
ミヨコさんがうりの両手を握って、せっせっせー、と手をゆする。
・・・が。
「ぁゃと、どこいく?」
手を繋がれたままで、うりが言う。
・・・離れたいわけじゃない。
でも、きっと嫌な思いをさせる。
ババァと、タクとの話し合い。
きっと、俺も───嫌な人間になる。
「ちょこっとな、話し合いしにいって、もう一回東京いって。そしたらすぐ戻ってくるからな?」
「ぅりも。」
「うり、すごーくおいしいプリン買って来てやるから、明日はいいこにお留守番できるよな?」
きょとん、と首をかしげていたうりの、真ん丸い大きな目。
それに、じわあっ、と涙。
「うりもいくぅ。」
「うり、またいーっぱいケーキも、プリンも、並べて好きなのから食べていいぞ?おいしいお土産いっぱいかってくるから、・・・な?」
「──ぁー・・・。」
ぼろぼろっと。
大粒の涙が零れ落ちた。
「うりちゃん、ミヨちゃんと、バァちゃんと、一緒にあそぼぅ?おニィちゃんお土産一杯買ってきてくれるって、いいねぇ?」
「バァちゃんがまたうんまいもの食わせてやるよぅ?」
ミヨコさんとバァちゃんが口々にうりに言う。
それでも、ぼろぼろと、止まらない涙。
「ぁーぅ・・・っうりもっ・・・うりもっ・・ぁゃと・・・っ。」
いつも、転んだりして泣く時みたいに、わーっと泣くんじゃなくて、ぼろぼろ涙零しながら、縋りつくように。
両手を握られたまま、次々にあふれる涙が頬を伝って、ワンピースに涙の跡を作っていく。
「うり・・・、帰ってきたら、俺、絶対もううり置いていかないって約束するから。」
わかってる。そんな事が言われたいわけじゃ、ないよな・・・。
でも、もし。
もし、またうりに何かあったら。
うりが見えない事で、うりに嫌な思いをさせたら。
また、うりが目を開けなくなったら。
「な・・・?うり、絶対遅くならないうちに帰ってくるから。そしたら、おかえりって、うりに迎えてほしいんだ。」
「・・・っやとっ・・・。」
ひっくっ、としゃくりあげる、うり。
その手を握って、うんうん、と頷くミヨコさんと、小さな背中を撫でてくれている、バァちゃん。
「うりが待っててくれるーって思ったら、俺、頑張れるからさ、・・・な?」
「・・・ぁぅ。」
ひっくひっく、と震える肩。
「おかえりーって、言ってくれるか?」
「・・・ぁぃっ。」
って言いながら、首を振る、うり。
ぁぃ、ぁぃっ、って言いながら。
「うり・・・。」
「ゃとっ・・。」
「・・・ん?」
「・・・うり、おじゃりーて、・・ぁぃっ。」
「うり、ありがとな・・っ。」
下がった眉毛。
潤んだ目。
我慢させてるのは、よくわかってる。
でも、待ってて。俺、すぐ帰ってくるから。
うまいお土産いっぱい買って、嬉しい話持ってくるからな。
「うりちゃん、明日はバァちゃんがうりちゃん家にいくからねぇ?」
「ミヨちゃんもいくよー?」
バァちゃんとミヨちゃんが、うりにそう言う。
「すいません、お願いします。」
「・・・ぁぅー・・・。」
ぐぅぅぅぅぅううっ。
鳴り響いたのは、うりの腹の音。
・・・あー、確かに、そろそろ昼なのかっ?いわれてみると、かすかにゴハンの炊ける匂いがするような気がする。
「うりちゃん、ゴハンにしよっかねぇ?」
「ぁぃっ!」
ぷぷっ、と笑うバァちゃんとミヨコさん。
すっと立ち上がると、ぽんぽん、とうりの頭を撫でてカマドの方に向かうバァちゃんと、畑に向かうミヨコさん。
うりが、俺の顔を見て、にこっと笑ってくれる。
「うり、ありがとな。」
「ぅ?」
もしかしたら、今ので、うりに嫌われたんじゃないかと、怖くて。
俺の方を向いて、いつも通りににこーって笑ってくれた瞬間、ほうっ、と溜息。
同時に、すっと胸のつかえが取れたみたいな、ふわっとするような。
溜息にも、色々あるんだな。




