選ばれなかった舞踏会
その夜、王宮の扉は国中の未婚女性に向けて開かれていた。
王子の結婚相手を探すための舞踏会が開催されることとなり、国中の若い女性に招待状が送られていたのだ。
輝く星空の下、貴族の馬車が行き交い、少女たちは夢を抱いて舞踏会へと向かった。
マルグリットもその一人だった。
とはいえ、彼女は他の誰とも違っていた。絹のドレスを二着つなぎ合わせて作った彼女の衣装は、肉感的な身体を隠すどころかむしろ強調しており、彼女が王子の花嫁候補になりそうにないことは、誰の目にも明らかだった。
受付で名前を告げると、金の縁取りのメモを見た係官が微妙な顔をして頷いた。
「マルグリット様ですね。こちらへどうぞ」
案内されたのは、舞踏会の大広間とは違う、少し奥まった部屋だった。そこにはすでに多くの娘たちが集まっていたのだが、誰もがどこか一般的な美的基準からは外れていた。顔にあばたがあったり、背が高すぎたり、妙に筋骨隆々だったり。
そして、何よりも不思議だったのは、会場は女性ばかりで、貴族の男性が一人もいないことだった。
マルグリットは思った。
(なるほど、これは『一次選考落選組』の控え室ね……)
両親にどう報告したものかと考えると心がチクリと傷んだが、せっかく王城まで来たのだから、せめてこのひと時を楽しんで帰ろうと心を入れ替えた。
部屋の隅には立派なビュッフェが用意されており、ワインもふんだんにある。
衛兵に聞くと、「ご自由にどうぞ」とのことだったので、マルグリットも遠慮なくいただくこととした。
隅のテーブルには既に数人がくつろいでいて、マルグリットの顔を見ると笑顔で話の輪の中に迎え入れてくれた。
「王子様ったら、見た目しか見ないのね。ま、私の顔じゃ外交も務まらないけどね!」
「うちの家は爵位があるけど、顔に華が無いってさ!」
みな笑った。
「受付の人、あたしの姿を見て気を利かせて、食べる会場の方に回してくれたのよ」
マルグリットもワイングラスを手に取り、大きく笑った。
「選ばれるのが本当に幸運かどうかも、分からないわよ?お妃教育なんてガラじゃないもの!」
その夜、控え室の広間は本会場よりもずっと賑やかだった。
誰もが選ばれないことを知っていたので、緊張を忘れ、互いに言葉を交わし、食べ、飲み、踊り、そして笑った。
「王子様も律儀よね、わざわざ顔も見たくない私たちにも食事を楽しませてくれるなんて」
「どこかで悪口を漏らすのを見ていて、不敬罪で捕まえるつもりじゃない?」
全員が爆笑した。
マルグリットは、その晩、心から満ち足りていた。選ばれないということが、時にどれほど幸福かを、初めて実感した夜だった。
控え室の宴も終わり、マルグリットは満腹とほどよい酔いに頬を染めながら、馬車乗り場へと向かっていた。夜風がドレスの裾を揺らし、星はまだ空に輝いていた。
ふと、街道の影にうずくまるように座っている娘が目に入った。髪はボサボサ、裸足で、ガラスの靴を片方だけ抱えていた。
「……お嬢さん、大丈夫?」
声をかけると、娘ははっと顔を上げた。美しいが、どこか気まずそうな表情を浮かべている。
「ええ、大丈夫です。ちょっと事情があって……」
「そりゃ困ったわね。でもちょうど今から私、乗合馬車で隣街まで戻るところなの。一緒にどう?」
一瞬、ためらうような間があったが、娘はそっと頷いた。
二人はガタガタと揺れる馬車の中で向かい合って座った。
マルグリットは満面の笑みで話しかけた。
「私たちの広間、本当に楽しかったのよ! 周りは私と同じ不細工な人ばかりだったけど、食べ物は山ほどあるし、みんな王子様の悪口言いながら笑い転げてね。あんなに気楽に過ごせた舞踏会なんて、他にないと思うわ。結局男の人とお話をしたのは受付の人だけだったけれど」
美しい娘は、口元に手を当てて小さく笑った。
「……そうだったんですね」
「あなたも招待されてたのよね? 衣装が間に合わなかったのかしら。残念だったわね。でも正直、参加しなくて正解だったかもよ?」
そのとき、マルグリットの目がふと、娘の抱えていたガラスの靴にとまった。
「あら、それって……舞踏会の飾り物? なんだかよくできてるわねえ」
娘は一瞬言葉を探すように沈黙し、そしてただ微笑んだ。
「ええ……ちょっとした思い出の品なんです。頂き物で」
「あなたも参加できてたのね! 私たちはブスの煮詰まったような会場だったけれど、綺麗だけど服装がイマイチなあなたが連れていかれたのはどんな会場だったのかしら? どんなもの食べた?」
そのまま二人は並んで馬車に揺られ、マルグリットと美しい娘は、今日の楽しい出来事をとりとめなく話し続けながら帰途に就いた。
娘はほとんど相槌を打つだけだったが、どこか穏やかで幸せそうだった。




