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監査令嬢

真・投獄された悪役令嬢は、ブチ切れながら監査する

作者: 涙目
掲載日:2026/07/25

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 第二王子レオナルドが退室した。


 さらに使用人達も下がり、部屋にはアメリア一人だけが残される。


 静寂。


 数秒。


 さらに数秒。


 そして――


「……はぁ〜〜〜〜」


 アメリアは大きく息を吐いた。


「なんとか誤魔化せましたわ〜〜〜」


 優雅な笑みは消えていた。


 代わりに現れたのは、疲れ果てた一人の女性である。


「何が『存じ上げておりました』よ……」


 執務机に突っ伏す。


「そんなもん知るわけないでしょうがぁ!!」


 バンバンと机を叩く。


「第二王子の存在も!」


「計画も!」


「陰謀も!」


「そんなもの知ってるわけないでしょう!?」


 じたばた。


 じたばた。


 王国を救った英雄とは思えない姿だった。


「私はただの凡人なのよ……」


 力なく呟く。


「今回は自分の命がかかっていたから全身全霊で仕事しただけで……」


 立ち上がり、そのままソファへ飛び込む。


 ぽすん。


「こんな報酬も出ない仕事なんて金輪際まっぴらごめんですわ〜〜」


 ごろごろ。


「働きたくない〜〜」


 ごろごろ。


「毎日昼まで寝てたい〜〜」


 ごろごろ。


「お菓子食べて本読んでだらだらしたい〜〜」


 完全に駄目人間だった。


 その時だった。


 コンコンコン。


 扉が叩かれる。


 アメリアは飛び起きた。


 髪を整える。


 ドレスを整える。


 表情を整える。


 一秒後には完璧な侯爵令嬢がそこにいた。


「お入りなさい」


「失礼いたします」


 入室した使用人は一切違和感を抱かない。


 つい先ほどまで床でごろごろしていたとは夢にも思わないだろう。


「お嬢様。第二王子殿下より書類が届いております」


 見れば分厚い書類の束。


 アメリアの笑顔が引きつる。


「……こちらを通しても構わないと第二王子殿下にお伝えして」


「かしこまりました」


 使用人が一礼し退室する。


 そして。


 扉が閉まった瞬間。


「あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜!!」


 ソファへダイブ。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 ごろごろごろごろ。


「なんで増えるのよぉぉぉ!!」


「王国再建って何よぉぉぉ!!」


「私みたいな取り繕うしか能のない人間に任せる仕事じゃないでしょうがぁぁぁ!!」


 誰もいない部屋に叫び声が響く。


 しかし。


 アメリアは知らない。


 自分がどれほど優秀かを。


 幼い頃から。


 未来の王太子妃として育てられた。


 勉強ができて当たり前。


 礼儀が完璧で当たり前。


 仕事ができて当たり前。


 失敗しないのが当たり前。


 周囲は常にそう言った。


 だからこそ。


 彼女は今でも思っている。


『自分は凡人なのだ』


 と。


 実際には。


 王国最高峰の才能を持つ化け物であるにもかかわらず。


 本人だけが気付いていなかった。


 その後。


 王国史にはこう記される。


 ――アメリア・フォン・ローゼンベルク。


 王国腐敗を一掃し、再建の礎を築いた稀代の賢妃である。


 しかし。


 本人の日記にはこう残されていた。


『働きたくない』


『帰りたい』


『王国滅びません?』


 と。


 なお、その願いが叶うことは最後までなかった。


            完

お読み頂き、ありがとうございます。

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