公民館のレジェンド
何かしらの機会を逃し落ち込む人に、こんな言葉をかけることがあります。
『今回は残念だったね。でも、頑張っていればきっとまたチャンスは来るよ』
勿論、本心からの言葉です。
ただ、チャレンジしている内容によっては年を取るごとに機会自体が減り、チャンスが巡ってきた時掴み辛くなるのも事実……アラフォーの足音が聞こえる中、ついそんな事を考えてしまう自分もいます。
先日、ネットニュースで『ひふみん』こと加藤一二三九段が帰天されたという記事が流れてきました。
負けると強制引退となるプロの世界で現役棋士最年長記録を更新。しかも引退する直前、77歳の時にもB級1組(凄く強いクラス)に在籍する脂の乗ったプロ棋士を撃破するなど老いてなお強かった将棋界のレジェンドです。
このニュースを読んだとき、過日に近所の公民館で目撃した翁の伝説を思い出したのでエッセイとして記録することにしました。
時期としては今から7〜8年ほど前だったでしょうか。コロナ禍の前で私はまだピチピチの20代、将棋というナウでヤングな趣味にハマった兄ちゃんでした。
で、公民館で定期的に開かれる将棋大会によく参加していたんですね。
だいたい二段以上が参加するAクラス、初段以下のBクラスの二グループに分かれておりそれぞれ十五人前後が参加。基本的に勝った人同士、負けた人同士が当たるリーグ戦で合計五戦してその獲得ポイントで優勝を決めるシステムでした。
ちなみにこの将棋大会、地元の将棋同好会が主催して下さっているもので参加者はだいたい同じメンツで行われます。当時私はBクラスだったんですが、そこには御年九十八歳の最長老様も参加しておられました。
足腰も頭もしっかりされた方で、若かった私でもけっこう疲れる一日五試合を、毎回しっかり戦い抜いて帰っていきます。
結果は大体毎回一勝四敗とかなんですが、参加するだけで凄いしむしろなんで一回勝てるの!?と皆から尊敬されている好々爺でした。
で、ある大会のリーグ戦、私は初戦で当たったんです、翁と。それまで大会で三回ほど戦い一回も負けたことはありせんでした。
まあ、相手は70歳年上の御仁ですしね。しかも翁、使ってくる戦法は毎回三間飛車+美濃囲いで固定。だからまあ相振り飛車+金無双という相性の良い対策でメタり気持ちよく勝って、次へと弾みをつける気まんまんでした。
結果?
負けましたよ。完敗でした。
その日の翁さん、こんなに強かったっけってくらいキレッキレで力負け。こっちとしては狐につままれたような感じです。
でも、それは翁伝説の序章に過ぎませんでした。なんと翁はそこからさらに四連勝!五戦全勝のぶっちぎりで優勝してしまったのです。
翁の優勝、何十年振りかな?なんて騒つく周囲(翁ほどではありませんが、米寿くらいの年配参加者もちらほらいるのです)。
そんな中で当人はというと「冥土にいい土産ができました」と控えめに微笑み、デカい賞状を片手に帰っていきました。
その三ヶ月ほど後、再び行われた将棋大会
翁の姿はありませんでした。
優勝した一月程後にぴんぴんコロリでお亡くなりになったとのことです。
最終成績が優勝という、オリンピック選手のようなラストを飾った翁。生涯現役を貫いた姿に参加者は皆感服していました。
チャレンジしている内容によっては年を取るごとに機会自体が減り、チャンスが巡ってきた時掴み辛くなる、それは紛れもない事実。
しかし
『今回は残念だったね。でも、頑張っていればきっとまたチャンスは来るよ』
頑張っている人を励ましたい時、私はこんな言葉をこれからも、本心から言い続けると思います。
勿論それは、自分自身に対しても。




