詳細鑑定しか使えない勇者、戦わずして魔王を討伐する(神官リーネ視点)
本作は、短編「詳細鑑定しかし使えない勇者、戦わずして魔王を討伐する」に登場する神官リーネ視点のお話になります。
あの日、ギルドの隅で震えていた私は、確かに「ただの無能な神官」でした。
自分の内側に、あんなにもドス黒く、心地よい「破壊の衝動」が眠っているなんて、自分でも知らなかったのです。
サトウ様。私の全てを見抜き、あの「狂化魔法」という鍵で、私の理性の扉を壊してくださったお方。
「あははっ! 死ね、死ね死ね死ねぇ!!」
槌が肉を砕く感触。返り血の熱さ。
意識が飛んでいるふりをしていましたが、実は全部覚えています。壊せば壊すほど、サトウ様が「よくやったね」と褒めてくれる。それが何よりの快楽でした。
気づけば、レベルはとっくにカンスト。
そこら辺のドラゴンなんて、今の私なら素手で引き裂けます。でも、そんな姿をサトウ様に見せるわけにはいきません。
だって、サトウ様は「怖がりで守ってあげたくなる女の子」が好きなんですもの。
◇◇◇
魔王城の正門前。
ミザルーナさんが門を背負わされて泣いていましたが、私は心の中で鼻で笑っていました。
勇者パーティの盾? 荷物運びの間違いでしょう。
「リーダーぁ……この門、動かないですね……どうしましょう」
私は震える声を出して、サトウ様の背中にぴったりと張り付きました。
背中から伝わるサトウ様の体温。あぁ、最高。
本当は、この門ごと魔王城を叩き潰してやりたいくらい力に溢れていますが、今は「可憐なヒロイン」の仕事が優先です。
サトウ様が鮮やかに門を無力化する様を見つめながら、私は確信しました。
このお方は、既存のルールに縛られない「新しい世界の神」なのだと。
◇◇◇
魔王の間でも、私はサトウ様の指示を完璧にこなしました。
ええ、表向きは。
魔王という規格外の怪物を前にしても、私の心は凪いでいました。
サトウ様の隣にいる私が、負けるはずがない。むしろ、サトウ様が魔王を異空間に追放した時、私は少しだけ残念に思いました。
(あの魔王、私が直接、ミンチにして差し上げたかったのに……)
そんな物騒な思考を、私は「怖がる少女」の仮面の下に隠しました。
◇◇◇
そして今、私たちは王宮の謁見の間にいます。
サトウ様は英雄として称えられていますが、私の神経は別のところに集中していました。
「ねえ、サトウ様。魔王との戦い……どんなだったの?」
王女が、媚びるような笑顔でサトウ様に近づいてきました。
チッ、目障りな女。
見た目が良いからって、サトウ様に色目を使って。
サトウ様がこの国を救ったのは、単なる「効率的なクエスト攻略」に過ぎないのよ。あなたのことなんて、石ころ程度にしか思ってないんだから。
私はサトウ様の後ろをガッチリとキープし、王女の視線がサトウ様と交わらないよう、影から冷たい視線を送ります。
「サトウ様って……意外と、怖い人なんですね」
王女が引きつった笑顔で言いました。
当然です。神を人間と同じ物差しで測ろうなんて、おこがましいにも程がある。
「いえ。ただ――戦う以外の勝ち方を、知っていただけです」
あぁ、サトウ様! その冷徹で合理的な回答、痺れます!
私はサトウ様の服の裾をぎゅっと掴み、潤んだ瞳で彼を見上げました。
サトウ様が私を振り返り、優しく微笑んでくれる。その視線を独占できるのは、私だけ。
(この神様を独り占めするためなら、私はいつまでも「か弱い女の子」を演じてみせます。……もし、邪魔者が現れたら、その時は――)
私は背後に隠した鉄槌の重みを感じながら、甘い溜息をつきました。
サトウ様。次は、どこを更地しましょうか?




