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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら


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第6話~幹部会議~

ダンジョン警備隊は形式的には民間組織ということになっている。


ただそれは法律や責任、利権の問題などが複雑に絡み合った結果であり建前。その上層部は自衛隊や官僚出身者を中心に構成されており、日本政府だけでなく国連やアメリカからも監査員が派遣されるなど、ある意味で国家機関以上に縛りの多い組織となっている。


立ち上げからまだ一年足らず。組織としての形も完全には固まっていない中、未知の化け物相手に得体の知れない技術を使って防衛任務に奔走する日々。


おまけに今は少年兵を採用するという地雷原を歩き始めた直後だ。警備隊上層部に圧し掛かる負担とプレッシャーはストップ高を更新し続けていた。




「や~、皆さんお揃いで。待たせちゃったかな?」


ダンジョン警備隊本部の会議室に恰幅の良い白衣姿の巨漢が到着し頭を掻いて周囲に詫びる。


「大丈夫、定刻通りですよ佐々木室長。──それでは全員揃ったようなので早速会議を始めましょう」

「うん? いいかね、石平いしだいら本部長」


石平本部長と呼ばれた精悍な顔つきの若い男性に、前髪の薄いスーツ姿の中年男性が口を挟む。


「どうぞ、姫川部長」

「監査員の方々がまだ来ておられぬようだが? シェイン氏とローガン氏はいつものことだが、四宮監査員は待たなくとも良いのかね?」


姫川部長の疑問に答えたのは石平本部長ではなく、上座に座る厳めしい顔つきをしたオールバックの中年男性だった。


「……当面の間、監査員の方々は幹部会議への参加は見送り。彼らへの対応は個別に私が行うこととなった」

「代表が? それはまたどうして……」

「つまりこの会議は監査員が関知しない場で行われた非公式なものとなる、ということだ」

「……やれやれ、要は責任逃れと言うことですか。いったい何のための監査員なのやら」


この場で一番年若い軍人風の男が吐き捨てる。


「小早川」

「失礼しました」


石平本部長に短く叱責され、小早川と呼ばれた男はさして気にした様子もなく肩を竦めた。




この場に集まった五人は事実上ダンジョン警備隊を運営する幹部たちだ。


一人目は組織のトップ、朽木くつき一馬かずま代表。元自衛隊の陸将補で、対外的な交渉を一手に担っている。


二人目は実働部隊を指揮する石平いしだいら斗真とうま警備本部長。朽木代表の自衛隊時代からの腹心で、柔和そうに見えるが必要とあらば自ら最前線に出てクリーチャーと戦うこともあるゴリゴリの武闘派だ。


三人目は開発部門の長、佐々木(ささき)弥和(みわ)開発室長。丸々とした巨漢で、こう見えてアメリカの研究施設からスカウトされてきたエリートエンジニア。『リング』や警備隊で使用する装備の研究開発を一手に担っている。


四人目は姫川ひめかわりょう人事・総務部長。いかにもサラリーマン然とした頭髪の薄い中年男性で、幹部陣の中では最年長。人事や財務など組織の裏方に関する事柄を取りまとめる苦労人だ。


五人目は警備本部長補佐、小早川こばやかわ次郎じろう。厳密には幹部ではないが、多忙な代表や本部長に代わって現場指揮や情報収集などを担う組織のキーマン。ちなみに前回の入隊試験において月見里やまなしめぐるに個別に誘いをかけたのがこの男だ。




「それでは一つ目の議題。隊員の来年度からの扱いについて、提携校から早めに方針を示してほしいとの要請があった」


石平本部長が今日の議題について切り出すと、参加者の表情に程度差はあれ辟易した色が浮かぶ。


「採用人数やクラス分けをどうするかという話もそうだが、情報統制についての考え方、細かいことを言えば学校行事への参加をどうするかなど、学校側として警備隊員に対してどう対応すべきなのか、方針をマニュアルに落とし込んで欲しいという話だな」

『…………』


言いたいことは分かるが、そんなものが簡単に作れたら苦労しない。いや、ものを作るだけならできなくもないが、当然そこには責任が伴う。組織としてのコンセンサスを形成し外部に出せる状態にするとなれば一体どれだけの手間と時間がかかることやら。無茶を言うな、というのがこの場にいる全員に共通する思いだった。


しばしその場に沈黙が流れ、最初に口を開いたのは姫川部長。


「……そもそも、隊員たちを一般の学校に通わせるということ自体に無理があったのではないですかな? 子供たちを学校に通わせるなと言っているわけではありませんよ。ただやはり管理や有事の際の対応を考えれば、学校教育も警備隊内で完結させた方が効率が良い。代表や本部長の古巣の自衛隊にも高等工科学校や防衛大学といった例があるでしょう? 我々もそれに倣った方が良いのではありませんかな」


高等工科学校や防衛大学というのは自衛隊員を育成するための教育施設。そこでも高校や大学の卒業資格は得られるし、今からでもそちらに準じたスキームに切り替えた方が管理コストを圧縮できる、と姫川部長は主張した。


それに異論を唱えたのは本部長補佐の小早川。


「私は反対です。多感な子供たちを警備隊という狭い枠の中に押し込めるのは問題が多い」

「ふむ? 自分たちの古巣のやり方を否定すると?」

「あちらとでは事情がまるで違いますよ。うちの隊員たちは実際に戦場で戦っています。プレッシャーやストレスは学生の比ではない。閉じられた狭い世界で価値観や精神が歪むリスクを考えれば、多少の手間はあっても一般社会との接点は絶つべきではないないと思いますね」

「下手に外部と接点を持つからこそ余計な歪みを抱え込むリスクもあると思うがねぇ……」

「それを言い出せば──」


この場で最年少と最年長の二人が冷静にやり合う。


他三人の反応を見ると、朽木代表は中立、石平本部長は小早川と同意見、佐々木室長はどちらかと言えば姫川部長寄りといったところか。


これは些か不思議な構図ではあった。部隊としての統制を重んじる自衛隊出身者三人のうち二人が、管理よりも自由や自主性を重視しているのだから。


二人のやり取りはその後も暫く続き、議論に一区切りがついたタイミングで石平本部長が口を開いた。


「──姫川部長。小早川や私が気にしているのは子供たちのメンタルだけの話ではない。今後の防衛戦略の為にも、子供たちから多様な価値観に触れる機会を取り上げるべきではないと考えている」

「ふむ?」


姫川部長は首を傾げ、石平本部長の言葉の続きを待つ。本部長は一瞬間を置き、大きく息を吐いてからその言葉を口にした。


「……我々にはもう後がない。このままでは遠からずダンジョンから溢れ出るクリーチャーに蹂躙されてしまうことになるだろう。上層の小物を駆除するのが精一杯の現状では、それを幾らか先延ばしにしているだけ。いずれ限界が訪れる」

『…………』


この場にいる者たちに動揺はない。本部長の言葉は彼らにとって共通認識である、ということだ。


「だからこそ、我々は無茶を承知で子供たちを戦場に送り出すことを決めたのではありませんか?」

「そうだ。だが子供たちに『リング』を与えたところで、やはり人間が持てる力には限界がある。軍事的な常識に囚われた我々のやり方で彼らを鍛えて下層の化け物共にどこまで通じるか……」

『…………』


『リング』は人類にクリーチャーに対抗する力をもたらしてくれた。だがそれは、正面から高位のクリーチャーに対抗できるほどのものではない。


「……そう悲観することもないのでは? 現に本部長のお弟子さんの早瀬丸くんは──」

「雪彦は確かに優秀だが、奴一人では限界があるし、相性の悪い敵にぶつかれば一溜りもない。我々が求めているのは優秀で画一的な兵士ではない。才能、閃き、戦術、連携──活路を見出すためのあらゆる可能性だ。そして可能性は余白あそびのない場所からは生まれない。今はまだ、育てるべき苗を選別している段階なんです」

「……何とも頼りなく、気の長い話ですな」


姫川部長は苦い顔で口を噤んだ。


しばしの沈黙が流れる。重くなった空気を紛らわすよう、佐々木室長が冗談めかして口を挟んだ。


「しっかし、一昔前の漫画やアニメなら敵を倒せばレベルアップして幾らでも強くなれたってのに、ウチのダンジョンはその辺りサービスが悪いよね~」

「同感です。個人的にはトロフィー目当てでLV1のままラスボスを倒すチャレンジやってた時のことを思い出しますよ」


そこに小早川が乗っかり、佐々木室長は笑いながら肩を竦めた。


「あったね~。僕はチュートリアルなしにいきなり戦場に放り込まれるアレかな──ま、それにしたって運営はちゃんと攻略法を用意してくれてた。神様は乗り越えられる試練しか与えないって言うけど、果たして僕らの神様はどうなんだろうね」

「外宇宙の神にその辺りの機微を理解しろというのも中々──ま、あまり期待せず我々も出来ることをやっていくしかありませんな」


その為には出来ることは何でも試していくしかない。姫川部長は諦めたように天井を見上げ、口を開いた。


「……一先ず、来週までに素案を準備しておきましょう。公式なものではなく、あくまでたたき台として、今後学校側と話し合いを持っていくと言えば差し当たっては誤魔化せるでしょう」

「お手数をお掛けします」


石平本部長が姫川部長に頭を下げ、一先ずその議題に区切りをつける。


「では次の議題に。日本政府や米国から、ダンジョン内の資源やクリーチャーのサンプルについて提供量を増やすように要請があった」

「またぁ?」


その議題に嫌そうに顔を歪めたのはそれまで他人事の顔をしていた佐々木室長。本部長はそこに更に追い打ちをかける。


「ええ。申し訳ありませんが、室長にはサンプル提出だけでなく、追加で実験データの準備もお願いしたく──」

「ちょっとちょっと! 今も装備開発が遅れてせっつかれてるってのにそこまで手が回らないよ!? ただでさえウチは機密やら何やらで制限が多くてエンジニア不足なんだから」


佐々木室長の悲鳴は切実なものだったが、石平本部長は困り顔だ。そこに姫川部長が本部長をフォローするように口を挟む。


「まぁ、そこに関しては中々政府も引いてくれんでしょう。新たなエネルギー源探しは莫大な利益と利権が絡みますからな。ダンジョンを持たない米国からの圧力は相当なものだと聞いています」

「この大変な時に、そんなあるかどうかも分からないものの為に人手を割けって……?」


大きな身体を縮めて嘆く佐々木室長に、石平本部長たちから同情的な視線が刺さる。しかし彼らも実質的な主である政府の要請とあっては拒否することは──


「──その要請は私の方から突っぱねておく。佐々木室長は従来の取り決め通りにサンプルを準備してくれればそれで良い」

「え!?」


突然の朽木代表の言葉に佐々木室長は目を輝かせ、石平本部長は大丈夫なのかと心配そうな視線を代表に向ける。


「……代表。そんなことをすれば──」

「構わん。どうせ奴らに火中の栗を拾う胆力などありはせんのだ。過度に怒らせる必要もないが、優先度の低い要求は私の方で処理するから回せ」

「…………」


本部長の表情には不安の色が色濃く残っていたが、朽木代表は無表情に会議の続きを促す。


「次の議題に移れ」

「……はっ。それでは──」

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