第47話~伏兵~
「ちっ!」
月見里の身体で隠されていた銃の形状が自分の知るソレとは異なることに直前で気づいた巽は、咄嗟に突撃を取りやめ、斜め後方に飛んで回避行動を選んだ。
──ダダダダダダッ!!
その直後、巽のいた地面を月見里の銃から放たれた無数の弾丸が抉る。
──突撃銃かっ!?
巽は放たれる銃弾の掃射を瓦礫を盾にして避けながら、知識の中にあるダンジョン警備隊の銃器開発の歴史を思い返した。
現在、日本のダンジョン警備隊で正式採用されている銃は単射式のライフル銃のみ。試作品として炸裂弾が使われるようになったが、銃の種類そのものはこれ一つしかない。
広範囲に弾丸をばら撒ける突撃銃や散弾銃など多様な銃種があるに越したことはない筈だが、現状は何故そうなっていないのか? 銃種を増やすのはそれほど難しいことなのか? あるいは効率や予算の問題か?
答えは簡単──威力不足だ。
予てから繰り返し言っていることだが、魔力を100%威力や強度に割り振れる近接武器と異なり、銃器は魔力で弾丸を作った上で推進力や強度などに魔力を割り振らなければならず、基本的に高位のクリーチャー相手には威力不足。一発に全てを込めるライフル銃ですらそうなのだから、それを分散させてばら撒く突撃銃や散弾銃など何を言わんや、だ。
過去には自衛隊からの要望で突撃銃や散弾銃といった形式の銃器の開発を試みたこともあるが、クリーチャー相手には豆鉄砲ほどの威力しかなく、ダメージを与えるどころか牽制としても力不足という結果に終わったらしい。
──開発室に当時の試作品が転がってたが、そいつを引っ張り出してきたのか……!
廃墟の壁に退避して銃弾から逃れながら、巽は予想外の一手を放ってきた月見里に内心で舌打ちする。
突撃銃は回避しづらくはあるものの威力不足。ならば被弾覚悟で突っ込んで叩き伏せてしまえばいい──ことはそう単純な話ではない。
確かに突撃銃は一発一発は威力が低く巽が受けても致命傷にはならないが、当たれば皮膚に痣ぐらいはできるし普通に痛い。クリーチャーは基本痛覚が鈍いのであまり意味がないが、対人戦だと案外厄介な武器だった。
勿論、痛みを我慢して距離を詰めることは可能だが、ある程度注意が削がれ動きが鈍るのは避けられない。その隙に巽が腰に下げたもう一本のライフル銃で攻撃してくれば、大きなダメージを喰らう可能性はあるだろう。
──この戦いは殺し合いじゃない。あいつの目的が俺を生け捕りにすることである以上、そもそも威力不足が問題にならないんだ……!
だが果たしてどうやって月見里は自分を取り押さえるつもりなのかと、巽は壁越しにあちらを観察しその戦術を推し量る。
銃弾の掃射は一旦止んでいた。巽がこの場に銃を持ち込んでいないことを把握してる月見里は、隠れることもせず仁王立ちでこちらを睨みつけている。
目に見える巽の武器は右手の突撃銃と腰に下げたライフル銃。あからさまにライフル銃を見せつけており、他に本命の武器を隠し持っている可能性もあった。
──いや。あいつのことだからそう思考を誘導しておいて、って可能性もあるか。この戦場はあいつが設定したものなんだから罠の一つや二つ仕掛けてあって当然。意識をあいつの攻撃に向けさせておいて本命の罠を、ってパターンを警戒しないわけにはいかない。それにあの突撃銃の弾は本当に喰らって大丈夫なものなのか? あいつは俺より深く開発室と関わってた。室長と協力して捕獲や妨害に特化した突撃銃用の銃弾を開発してないって保証はない。
可能性を考え出せばキリがないが、考えずに勝てるほど月見里は甘い相手ではない。
──あいつは馬鹿でも間抜けでもない。まともにやり合えば俺の方が強いことは当然理解してる。策も勝算もなしにこの場に立ってる筈がない。
目の前の敵の厄介さを改めて思い知り、つい口元が緩む。
自分には理解できない強さを持つこの男に自分の存在を認めさせたい。その思いが巽の思考を加速させた。
──観察しろ。分析しろ。罠の位置はあいつの視線や仕草、意識の流れを読めば大体予想できる。そしてそれは伏兵であっても同じことだ。
巽はこの戦いを、月見里が自分にどう伏兵をぶつけてくるかで決まると理解していた。
地力で勝る相手に馬鹿正直に一対一で戦う必要などない。だが最初から複数人で待ち構えていれば巽が異変を察知して逃げ出す可能性があった。故に月見里にとっての最適解は巽を油断させ、自分に意識を向けさせておいて、背後から伏兵で叩くこと。
──ただし、事情を知った上で俺の生け捕りに協力してくれる人間がいたかどうかは微妙なラインだ。木月さんクラスが首を突っ込んできたらアウトだが、それができるならこんなまだるっこしい真似はしてないだろう。椎野さんたち辺りならまだ巻き込めるかもしれんが、一対五とはいえ向こうは生け捕り狙いでこっちは殺す気。よっぽど上手く当ててこない限りどうとでも切り抜けられる。
慢心することも慎重になり過ぎることもなく、想定される彼我の戦力を冷静に推し量る。
──うん。罠はあの辺り。伏兵は……?
月見里が伏兵を隠していれば、彼はどうしたってそちらを意識せざるを得ない。意識すまいとしたところでそこには必ず不自然さが出る。実際、物理的な罠の位置は概ね視線の動きから予想することができた。だが伏兵に関しては──
──気配はない、な。よっぽど罠に自信があるのか、それとも僕のことを内々に解決しようとしたか……まあいい。
巽は予想される月見里の戦術パターンを思い浮かべ、瞬時に頭の中で作戦を組み立てる。
──行くか。
「!?」
即断即決。巽はあっさり覚悟を決め走り出した。
──ダダダダダダダッ!!
すぐに月見里も突撃銃を掃射するが、巽は周囲の瓦礫を巧みに利用して身を隠しており、またその動きが速すぎて追いきれない。
「クソッ!!」
思わず月見里の口から焦りが漏れたが、しかし彼は投げやりになることなく高速で動く巽を銃口で追い続けた。今はまだ距離があるので捉えきれていないが、距離が近くなればより巽の回避は難しくなる。それに月見里の周囲は身を隠す瓦礫もない。罠の存在もあるし焦らず攻撃を続ければ必ず捉えられる──
「──はぁ!?」
しかしそんな月見里の予想を巽は文字通り大きく跳び越えた。
瓦礫を足場に大きく跳躍。罠のある危険地帯を超人的な脚力で飛び越えて空中から月見里に襲い掛かる。
「っ! 舐めんな!!」
しかし対する月見里の反応もまた素早く的確だった。空中で身動きの取れない巽に向けて突撃銃で掃射。巽は文字通り手も足も出ず全身に銃弾を──
「舐めては──ない!!」
全身に叩きつけられそうになった銃弾を、巽は隊服の上着を脱ぎ捨て盾のように振り回してそれを受け止める。
──バババババッ!
「っ!!?」
本来の隊員たちに支給されている隊服に銃弾を受け止めるほどの強度はない──ないのだが、巽のそれは月見里のそれと同じで開発室で作られた試作品だった。魔力を流すことでその部位が鎧のように硬化する構造となっており、かつては月見里もその試作品に命を救われたことがある。そしてその存在が今度は月見里に牙を剥いた。
「──まだだっ!!」
貫けないなら吹き飛ばして距離をとる。月見里はもう一本のライフル銃を抜き放ち、今度は空中の巽目掛けて炸裂弾を放った、が──
「遅い!!」
「!?」
──ドォン!!
巽は空中で硬化した隊服を投げつけ、炸裂弾を自分から離れた場所で誘爆。爆破の余波で僅かに体勢を崩しつつも、月見里の近接距離に着地する。そして即座に放たれる槍による薙ぎ払いの斬撃。
──ギィン!!
「っ!」
月見里は辛うじてそれをライフル銃で受け止めるが、銃身が槍に切り裂かれ宙を舞う。
「クソがっ!!」
それでも月見里は諦めることなく突撃銃の銃口を巽に向けようとしたが──
──ザンッ!!
その突撃銃も巽の斬撃に半ばから切り落とされ地面に落ちた。
もはや月見里に抗う手段はなく絶体絶命。巽が止めを刺そうと槍を振りかぶる──
「──今だ!!!」
──その刹那。巽の足元の地面が泥のように歪み、潜んでいたハニヤスが手を伸ばした。
勝利を確信した瞬間の完璧なタイミングでの奇襲。
「タツミから出ていきなさ──」
──ザシュ!!
「──……え?」
しかし伸ばしたハニヤスの手は、巽の槍によって半ばから切り落とされていた。
「……悪いな。お前に関しちゃ予想するまでもなく最初からバレバレなんだわ」




