第4話~学校~
「何か想像してたのと違ったよな……」
昼休み。教室で昼食の惣菜パンを齧りながら、昨日の入隊オリエンテーションで知り合ったウザ糞茶髪──もとい巽一登がぼやく。
無視しても良かったが、流石に同期隊員で同級生になった人間といきなり険悪な関係になるのはうまくない。僕はおにぎりを包んだアルミホイルを解きながら、素っ気なくならない程度に相槌をうった。
「そう? まぁ、ラストのアレはどうかと思ったけど、子供向けの緩い軍隊って考えればあんなもんじゃない?」
「アレはなぁ──って、月見里は平気な顔してたじゃねぇか」
「そういう巽は意外に顔色真っ青だったね」
「うっせ! 顔色一つ変えずに撲殺したお前がおかしいんだよ! 周りの連中もドン引きしてたぞ?」
「…………」
僕らの言うアレとは、オリエンテーションの最後に行われた新入隊員たちによる人型クリーチャー殺害だ。
職員の説明では僕ら新入隊員がクリーチャーの殺害を躊躇わずに実行できるのかを事前に確認する為ということだったが、予告なしにそんなことを指示されて僕らは大いに戸惑った。
最終的に新入隊員51名中14名が手を下すことができずに終了。復讐者系のガンギマリ連中でさえボロボロで無抵抗な人型生物を殺害することに少なからぬ抵抗感を見せていた。
目の前の巽は殺せた側だが、それでも身動きが取れず慈悲を請う小鬼に殺害を躊躇し、終わった後は吐きそうな顔をしていた。
ちなみに僕は心を無にして何も考えず金棒で天狗をぶん殴った。躊躇して何度も殴る方がよくないと思ったので全力でフルスイングした結果、勢い余って天狗の肉体が破裂して辺りに屍肉を飛び散らせてしまい、周囲からはヤベー奴を見るような目を向けられてしまった。
「つーか、初日から予告もなしにアレはヤバくね? 泣き出して辞めるとか言ってた奴もいたじゃん」
「……まぁ、早めに僕らの適性を確認したかったってのもあるんだろうけど、どっちかと言えば初日にガツンとかまして主導権を握りたかったんじゃない? 力を持った子供とか大人からしたら扱いづらいことこの上ないだろうし」
「あ~、『リング』の力を体感して鼻っ柱が伸びたところをポキッと折っとこうって? えげつな……」
巽が僕の推測にうんざりした様子で舌を出す。
全く同感ではあったが、逆に言えば警備隊の大人たちはこんな演出に頼らなければならないほど僕ら少年兵の扱いに苦慮しているということなのだろう。ムカつきはしたが、あまり責める気にはなれなかった。
ちなみにクリーチャーを殺せなかった14名はオリエンテーション終了後、戦闘員を諦めて裏方に回るか、もう暫く様子を見るかの面談が行われたらしい。それを聞いて僕は『殺せなかったというていで裏方に回れば良かったかな』と少しだけ後悔。まぁ戦闘員と裏方では組織内での待遇や居心地などが変わってくる可能性もあるし、裏方の研究協力などが必ずしも安全とは限らない。暫く様子を見て、裏方の方が良さそうなら適当にPTSDにでもなった風を装って配属替えを願えばいいだろう。
僕がそんなことを考えていると、巽がふと思い出した様子でかぶりを横に振る。
「あと、昨日の件もそうだけど、今日は今日で話が違わね?」
「? 今日の出勤はまだだろ?」
「だから、警備隊じゃなくて学校の話だよ」
そう言って巽は人がまばらな教室を見まわす。
「普通の学校に通わせてくれるって話だったのに、ここにいるの全員俺らと同じ警備隊員じゃんか」
彼の言う通り、この2年E組のメンバーは僕らより先に入隊した者を含め警備隊に所属する中学二年生19名。その内、事情があって休んでいる者はいるが、警備隊員でないものはこの場にいない。
「クラスが違うだけで一般生徒も通ってるんだから普通の学校でしょ」
「俺は、何でわざわざクラスを分ける必要があるのか、って言ってんの! 折角初日にバシッと決めようと思って転校の挨拶考えて来たのにそれも省略されてさぁ」
それは単に同じ警備隊員同士、僕らのように既に顔見知りになっている者もいれば、転校してくる人数も頻度も多かったりで一々挨拶なんてやってられないということだと思うが、僕は面倒くさくなって適当にけしかける。
「やりたいなら今からでもそこでやれば?」
「馬鹿野郎!! それじゃなんか俺が空気読めないウザ野郎みたいだろうが!?」
「…………」
「おい。何だその意外そうな顔は?」
「……いや。巽って、空気とか読む奴だったんだな、って」
「どういう意味だ!? 空気なんぞナウ○カの倍ほども読みまくったるわい!!」
彼女が読むのは空気じゃなくて風だと思う。
「……真面目な話、警備隊員を同じクラスにまとめるのは仕方ないんじゃない?」
「真面目な話の前に俺の質問に答えろ。──目を逸らすな」
五月蠅いなぁ。そういうとこが空気読めないって言ってるんだよ。
僕はしつこく顔を覗き込んでくるウザ糞茶髪を無視して、学校と警備隊の事情について自分なりの考えを口にする。
「単純に隊員をひとまとめにした方が管理しやすいってのもあるだろうけど、僕らの学年今日だけで転校生5人、三か月で19人だよ? 当面は今のペースで隊員増やしていくつもりらしいし、元々あったクラスに混ぜたら人が溢れちゃうでしょ」
この学校は僕ら警備隊員を除いて元々一学年四クラス。このペースで転校生がやってきたら直ぐに教室や教師のキャパを超えてしまう。
幸いと言っていいのかどうなのか、この地域はダンジョンが出来た影響で疎開して出ていってしまった人間も多く、空き教室はたくさんあった。学校側としては、取り敢えず今年度中は別クラスを作って警備隊員を押し込んでおいて、来年度以降、警備隊の採用計画を確認した上で別途対応を検討するつもりなのだろう。
「それは分からなくもないんだけどさ~、そもそも俺ら他のクラスの連中から変な目で見られてね?」
「……まぁ、そうかもね」
それは僕も感じていた。変な目というか、距離を置かれているというか。別に怖がられているとかではないのだが──強いて言うなら困惑だろうか?
「一般の生徒には、学校側から私たちに事情を詮索しないようにって申し送りがされてるのよ」
『?』
僕らの会話に口を挟んできたのは、後ろの席で一人静かにお弁当を食べていたショートボブの少女。彼女は僕らに視線を向けられ苦笑を浮かべる。
「ごめんなさい、いきなり口を挟んじゃって」
「いや。それはいいんだけど、えっと……」
「椎野華。先月入隊した貴方たちの一か月だけ先輩。よろしくね」
サバサバした態度で名乗る少女に、僕らは顔を見合わせ名乗り返した。
「俺は巽一登」
「……月見里廻。よろしく」
巽は僕と二人で椎野さんを囲むように席を移動し、質問を口にする。
「そんで椎野さん。申し送りって何のこと?」
「言った通りよ。学校側は勿論だけど、一般生徒も私たちが警備隊関係の人間だろうなってことは当然察してるの。大っぴらにアナウンスはされてないけど、こんなダンジョンしかない街に大量の転校生となれば他にないからね」
それはそうだろう。しかしだとすれば余計にこの年頃の人間なら興味を持って近づいてきそうなものだが──
「──ああ、それで詮索しないよう申し送りか」
「そういうこと。下手に詮索して知っちゃいけないこととか聞いちゃうと、話した側だけじゃなくて聞いた側も不利益な扱いを受ける可能性があるって先生たちから脅されてるみたいよ?」
「マジかよ……」
「脅し過ぎとは思うけど、別に間違いってわけでもないね」
恐らく学校側も距離感を掴みかねていて、ちょっと強めに脅しているというのが実態だろう。
それだけで好奇心旺盛な年頃の中学生があの反応というのは正直意外だが、この街はダンジョン警備隊のお膝元で、一般生徒にも親が何らか警備隊と関わっている者は多い。警備隊という言葉が持つ重みは、僕が思っている以上に大きいのかもしれない。
「つーことは何? 俺の華麗なモテモテ警備隊員計画は?」
「アハハ、無理無理。仲良くなるどころか、転校生ってだけで腫れ物扱いね。私なんて碌に友達もできないもの。仕方のないことではあるんだけど、警備隊って女子が少ないでしょ? 同い年の女子って今のところ一人しかいなくてさぁ……」
そう言って肩を竦める椎野さん。僕らに話しかけてきたのには、そうした事情が影響していたらしい。
そこで僕はふと気づいて教室を見まわし、首を傾げる。
「あれ? そのもう一人の女子は?」
「……休みよ。その子変わり者で、普段は警備隊に入り浸って学校にはほとんど来てないの」
「そりゃそりゃ、ご愁傷様」
ふざけて合掌する巽に、椎野さんは半眼で睨みながら「ホントよ~」と呻く。
「本当は後二人女子がいたんだけど、その子たちは向いてないって直ぐに辞めちゃってさ」
「まぁまぁ。話し相手なら俺らがいるじゃん」
僕を巻き込むな。見ろ、椎野さんが嫌そう顔をしていらっしゃる。
「…………はぁ」
「おい。何だその溜め息は?」
「もうヤダ~。オシャレとかアイドルの話ができる同級生が欲しい~!」
「舐めんな! コスメでもファッションでも美容でもIKK○さんの倍ほども喋り倒したるわい!!」
「え。キモ……」
「ガチトーンはやめて!?」
きゃいきゃいとじゃれ合う巽と椎野さん。そのやり取りを横目に、僕は初日からボッチ飯を免れた内心の安堵を押し隠し、二つ目のおにぎりに手を伸ばした。
【登場人物②】
巽 一登
男、14歳(中学2年生)、9月4日生まれ
170cm、54kg
<能力評価>
魔力 3
筋力 6
耐久 4
技量 5
機動 7
知覚 4
射程 2
特殊 0




