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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第二部

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34/50

第34話~不穏~

我らは人に罰を下す。


神としてその威を示す。


それこそが我らの本分だ。


だが我らは人を知らぬ──いや、理解できていなかった。


甚だ不遜な話ではあるが、既に奴らは我らにひれ伏すだけの弱者ではない。


異郷の大妖の力を借りたとはいえ、奴らは我らが尖兵の侵攻を防ぎ続けている──その事実を認めないわけにはいかなかった。


奴らを排除しなければ我らが再び威を振るうことは叶わぬ。


そしてその為に、我らは人を理解しなくてはならない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お疲れ~、交替の時間だよ~」


ハニヤスを監視して一夜が明け、交代要員の椎野さんと真木さんが仮眠室に姿を見せる。


「二人とも。朝ごはんにサンドイッチとコーヒー買ってきたから、引継ぎがてら一緒に食べましょ」

「おお~、助かる~」


椎野さんの気遣いに感謝。朝食もそうだが、徹夜明けで眠気がピークに達しており、コーヒーは本当にありがたかった。


「二人とも、見張り替わるから顔洗って来なよ──って巽くんたち、何やってるの?」

「ん~……今大事なとこなんで、ちょっと後にしてください」

「…………」


ベッドの上にあぐらを組み真剣な表情でハニヤスと向かい合っている巽の姿に、真木さんがキョトンと目を瞬かせる。向かい合う二人の手元を覗き込むと、そこには折り畳み式の将棋盤が置かれていた。


『…………』

「あの二人、何やってんの?」

「将棋」


椎野さんが「それは見れば分かるけどそうじゃなくて」という顔をするので、肩を竦めて補足する。


「ハニヤスって睡眠必要ないらしくてさ。一晩中睨めっこしてるのもアレだしってんで、巽が自分の将棋盤持ち込んだんだよ」

「……へぇ~」


僕らの視線の先では、二人があまりに真剣な表情なので止めさせることも出来ず、困った様子で盤面を覗き込む真木さんの姿があった。


「巽くんって将棋とかするんだ? チャラそうなのに意外──というか、ハニヤスも将棋打てるんだね?」

「一晩時間があったからね。流石に駒の動かし方ぐらいは覚えたみたいだよ」

「…………へ?」


僕の言葉に椎野さんは素っ頓狂な声を出し、この状況の違和感に目を瞬かせる。


「えっと……ちなみに巽くんの将棋の腕前は?」

「将棋覚えて数時間の女の子といい勝負するぐらいかな」


目の前の戦いは平手ノーハンデ


ちなみに僕は二人相手に飛車角落ちで全勝中だ。


「…………」


椎野さんは二人に近づき盤面を覗き込む──が、どうやら戦況が分からないらしい。ヒョイと僕の方を振り返って尋ねてきた。


「ねぇ、今どっちが勝ってるの?」

「そうだね──」

「黙れ、月見里!!」

「そうよ! 真剣勝負の途中よ!!」

『…………』


解説しようとした僕の言葉を対局中の二人が唾を飛ばして遮る。


ちなみに盤面はほぼ互角というかどっちもどっちで、僕ならどちらの立場でも直ぐに詰めることが出来る──要は互いに決着がついていることに気づいておらず、見当はずれな手を打ち続けている状況だ。


椎野さんは何時頃決着するのか確認したかったのだろうが、終わる時は一瞬で終わるし、気づかなければいつまで経っても終わらない。


二人に怒鳴られた僕は椎野さんに仮眠室の外を指さし、先に引継ぎを済ませてしまおうと提案。椎野さんはそれに頷くと、二人のことは真木さんに任せ、僕と仮眠室を出て直ぐのところの洗面所に移動した。


「──で、どんな感じ?」

「見たまんま。一晩中あのバカとわいわい騒いでたよ」

「怪しい動きはなし、か……」


僕の報告に椎野さんが安堵の息を吐く。これからハニヤスを監視するのだから警戒するのは当然だが、その表情には自分たちの身の心配以上の感情が込められているように見えた。


「巽くんとは随分仲良くなったみたいね?」

「精神年齢が近いんでしょ」

「……聞こえてたら怒られるわよ?」

「そうだね。千年以上生きてる神様相手に、お前は十代のガキンチョと精神年齢が近いなんて言ったら失礼に当たる」


ワザと真逆に言葉を解釈する僕に、椎野さんは呆れたように嘆息して話を続けた。


「全く……他に何か注意点とか気づいたことはある?」

「いや、特には──ああでも、必要はないらしいけど、昨日は買ってきたおにぎりを美味しそうに食べてた。出来ればだけど食事は一緒にとってやってよ」

「了解。サンドイッチは多めに買ってきたから、ちょうどいいわ」


簡単に報告を終えると、今度は椎野さんからの連絡事項。


「学校の方には私が二人の分も公休の申請上げといた。とりあえず一週間。休みの間の課題は今日中にメールで送ってくるそうだから、また確認しておいて」

「助かるよ。手続きの仕方誰に聞こうかと思ってたとこだったんだ」

「後、防衛任務のシフト調整は木月さんが手配するから私たちは何もしなくていいってさ」

「……それもあったね」


イレギュラーな仕事が入ると色々気を回さなくてはならないことが多くて大変だ。マニュアルやチェックリストみたいなものがあればまだいいが、今は組織もそこまで手が回っていない。


──パシャパシャ


洗面台で顔を冷水に浸し、眠気を覚ます。そして手渡されたタオルで水気を拭き──ふと、思い出した風を装って付け加える。


「あ、そうだ。急な用事とかで二人とも席を外さないと行けないケースがあるかもしれないけどさ」

「うん」

「その時は、短時間ならドアに鍵かけてハニヤスを一人にしてもらっても大丈夫だから」

「────」


僕は天井の一点を指さしながら続ける。


「昨日、僕と室長が話してそういうことになった。時東さんには僕の方から伝えとくから、椎野さんもお願い」

「…………」


椎野さんは僕の言葉の意味を吟味するように暫し沈黙。


「それ、巽くんは──」

「…………」

「──ううん。了解、分かった」

「よろしく」


そして僕らは仮眠室に戻ろうとし──


『ギャハハハハ! どうだ! これが人間様の力だ!!』

『ムキィィィィィィィィッ!! もう一回!!』


『…………はぁ』


聞こえてきた馬鹿の声にそっと溜め息を吐いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「って、ちょっと待って!? あともうちょっとだから──」

「はいはい、真木さん。勝負は戻って来てからでいいでしょ。事務室の人から『今日は早番だから、今すぐ書類出し直してくれ』って急かされてるんですって」

「それこそ明日でもいいでしょう!?」

「明日でもいいは、今日済ませた方がいいでしょう?」

「でもでも──」

「はいはい。我儘言わないでちゃちゃっと済ませて帰って来ましょうね──ハニヤス。すぐ戻ってくるから大人しくしててね。鍵は閉めていくから、何か急用があればそこの壁のインターホンをとって」

「ハニーちゃん! 駒を動かしたりズルしちゃ駄目だからね!!?」


監視役の少女たちが慌ただしく部屋から出ていく。


ごく短時間、鍵は閉めておくとのことだが、実に不用心な話だと独り言ちた。


真木と名乗った背の高い女に至っては、将棋とかいう遊戯に夢中で既に警戒心など露ほども感じられない──いやというか『ハニーちゃん』って自分のことか?


「…………」


部屋の中に独り残され、無言でそっと目を閉じる──周囲に人の気配は感じられない。自分を油断させておいて、ということもなさそうだ。


──まぁ、どちらにせよ今のこの身では何もできん。


コンコン、と壁を叩くと、魔力の反響を通じて鉛のような重い感触が返ってきた──中々に強固な防御壁。今の自分では霊核の消滅覚悟で自爆したとて破ることは難しい。


──隙を見つけて数人を巻き添えにする程度のことはできるだろうが、それでは意味がない。


焦る気持ちはあったが、今こうしてここに在ることこそが奇跡のような幸運。これを無駄にするわけにはいかない。


──さて、よい■が見つかれば良いのだが……


バタバタとした足音が近づいてきて、監視役の少女たちが戻ってきたことを悟る。それは静かに目を閉じ──


「────?」

【登場人物⑦】

木月きづき 春馬はるま

男、19歳(大学2年生)、3月25日生まれ

187cm、78kg


<能力評価>

魔力  7

筋力  6

耐久  6

技量  9

機動  6

知覚  8

射程  9

特殊  0

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