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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第二部

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30/50

第30話~ハニヤス~

「神」について語ってみようと思う。


そもそも二年前のあの日まで、僕らにとって「神」とは概念上の存在で、その実在を証明できるモノはどこにもなかった。


けれど大災害により修羅神仏が現出し、その認識は一変する。


神は実在する──いや、神だけでなく天使や悪魔、妖怪といった様々な怪異の実在が証明され、それらは人類に牙を剥いた。


そして人を襲い喰らうソレは、神も悪魔もひとまとめに「クリーチャー」と呼称され、人類の「敵」として認識される。


その後、外宇宙の神性が飛来し、ダンジョンとなって人類を救ってくれた(?)こともあり、現在の日本で「神」と言えばこちらを指すことが一般的となった。ちなみに海外──特に一神教圏ではその辺りの認識や呼称は大きな問題となっており、話が長くなるのでここでは割愛する。


ともかく地球由来の神は実在が証明されたと同時、恐怖や畏怖の対象として改めて人々の心に刻まれた。


日本においてもそれは例外ではなく、当時は状況が混沌としていて正確な記録こそ残っていないが、大災害の際には鬼などの怪異だけでなく、複数の荒ぶる神々が人々を襲い、喰らったことが今も人々の記憶に鮮明に残っている。


長々と語ってはみたが「神」そして「クリーチャー」とは人類にとって「突如現れた敵」であり、人類はその正体を未だ正確に把握できているわけではない。


分かっていることは彼らが一種の精神生命体であり、人の精神エネルギーを糧としている──そしてその為に、人を襲う、ということだけ。


ただし大災害以前のことを鑑みれば、彼らは精神エネルギーを得るために、必ずしも人を襲う必要があったとは考えにくい。


つまり僕らがまだ認知していないだけで、人類に友好的な善神が存在する可能性は、ゼロではない。




『…………』


ハニヤス──本人(本神?)の言葉を信じるなら日本神話の神──と名乗った人型クリーチャーは、名乗っただけでまるでこの混沌とした状況が解決したと信じて疑わない表情で、小さな胸を張って僕らの反応を待っていた。


見た目は一〇歳前後の普通の少女で、みずら風に結わえた長い髪を背中に垂らし、顔立ちは整っていて可愛らしいが神々しさのようなものは正直全く感じない。


疑問は幾らでも頭の中に浮かんでくる。ハニヤスって何の神様なんだとか、神に類する強力なクリーチャーはダンジョンの最奥に厳重に閉じ込められて出てこれないはずではとか、人との融和って何のことだとか、本当に色々と際限なく。


「…………」


僕が呆然としていると、横から時東さんが肘で突いてきた。


彼女は視線と顎の動きで僕にアレの相手をしろと催促──って、貴女の方が先輩だし歳上でしょう!? 僕は助けを求めるようにもう一人の羽佐間さんに視線をやるが、彼女も「とっとと話せ」とばかり冷たい反応だ。


どうして僕が、とは思ったが、この状況で揉めたり何時までも相手を放置しているわけにもいかない。


「えっと……ハニヤス? で良かったか?」

「はいなのだわ! 本来ならハニヤスヒメノミコトと敬称を用いるべきですが、友好の証として特別にそう呼ぶことを許します!」

「ああ、うん。ありがとう……?」


友好的な態度をとったつもりはないのだが、その短いやり取りの何がハニヤスに刺さったのか、彼女はにぱーっと花が開いたような笑みを浮かべる。……調子が狂うな。


「その、色々と聞きたいことはあるんだけど──」

「分かります! 何故異界の奥底に封じられている筈の偉大な神がこんな場所にいるのかと聞きたいのでしょう? 実は──」

「いや! それもあるけどそうじゃない!」


一方的に話し出すハニヤスの言葉を僕は慌てて遮る。そして一番に解決しておかなければならない問題を切り出した。


「……まず融和って何の冗談だ? あの日いきなり襲い掛かって、人間を食い殺してきたのは君ら神の方だろう? 君には僕らが人食いの化け物と話し合いができるほど牧歌的な生き物に見えてるのかい?」

「────」


僕の言葉に滲む隠し切れない嫌悪感と猜疑心に、ハニヤスの表情が一瞬悲しそうに歪んだ。けれど彼女は直ぐに表情を取り繕い、毅然とした表情で口を開いた。


「……仰る通り、私の同胞が貴方たちの仲間を襲ったことは事実です。神を代表して──などと烏滸がましいことは言えませんが、私にも同胞の暴挙を止められなかった責はあります。そのことに関しては謝罪させてください」

『…………』


そう言ってハニヤスは頭を下げるが、僕らは警戒を緩めることなく彼女を見据える。


僕らはつい最近、人に化けたクリーチャーに奇襲を受けそうになったばかり。口先だけなら何とでも言えるし、見た目や魔力を偽ってこちらを欺こうとしている可能性は高いと思っていた。


「……つまり君はこう主張したいのかな? 神の中にも人に対して敵対的なものと友好的なものがいて、全てのものが人を襲うわけではない。君は人に友好的な一派で、人と友好関係を結ぶためにここまできた、と」

「はい、なのだわ!!」

『…………』


彼女に向けた僕らの警戒と敵意は弛まず、むしろ更に強くなる。


そもそも神が人との融和を語るなどなど荒唐無稽で笑い話にもならない。これ以上の会話は無意味、もう殺してしまおう──と時東さんや羽佐間さんの気配が語っていた。


「えっと……」


僕たちの非友好的な様子に気づいて戸惑うハニヤス。


こんな話をして僕らが「はい分かりました」と納得するとでも思っていたのか、その能天気さには心底理解に苦しむ。僕はいつでも銃弾を発射できるようライフル銃の安全装置をそっと外して口を開いた。


「……話は分かった。だけど僕らじゃその話の是非は判断できない。上の判断を仰ぐから少し待っていてくれ」

「月見里くんっ!?」


僕の言葉に時東さんが冗談だろうと目を丸くする。


「羽佐間さん。この中で一番足が速いのは羽佐間さんです。申し訳ないんですけど、ひとっ走り本部に戻って、ウチの室長──と、出来たら木月さん辺りにこの話をして指示を仰いでもらえますか?」


僕の言葉に羽佐間さんは暫し感情の見えない瞳で沈黙。


「……それは構わないけど、いいの?」


それは今すぐハニヤスを始末しなくていいのかを問い、そうしようとしない僕が何らかの手段でハニヤスに取り込まれているのではないかを疑う言葉だ。僕はそれに気づかぬフリをして嘆息する。


「いいも悪いもありませんよ。話の真偽や良し悪しはともかくとして、彼女が貴重な情報源であることは確かです。そうでなくとも外交使節のようなものだと考えれば僕らが勝手な判断で処理していい話じゃあないでしょう」

「…………それもそうだね」


羽佐間さんは僕の言い分をもっともだと思ったのか頷き、チラと時東さんに視線をやる。時東さんも不安と戸惑いが混じった表情で諦めたように溜め息を吐いた。


「……待ってるから、早く戻って来てよね」

「了解。いい子で留守番してな」


羽佐間さんは時東さんの頭をポンと叩き、ダンジョン入口に向けて走り去った。


「…………あの~?」


一方、ハニヤスは僕らのやり取りについて行けず不安そうに眉尻を下げる。


──カチッ


僕はそんな彼女に銃口を突きつけ、出来るだけ優しい声音を作って告げた。


「待たせてしまうことになるがそこは許して欲しい。上の者と連絡がつくまでの間、君のことは僕が責任をもって丁重にもてなさせてもらう」

「うぅ~……この子、言ってることと行動が全然噛み合ってないのだわ~」


ハニヤスが銃口に怯え震えること凡そ三〇分。佐々木室長と木月さんの指示を受けた羽佐間さんが、巽、椎野さん、真木さんの三人を連れてその場に帰還。他の隊員にその存在を気づかれないよう、ハニヤスを開発室まで連行しろとの指示があった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


事前に根回しをしてくれていた木月さんの手引きで僕らは他の隊員に止められることなくハニヤスを開発室に連行する。


「お前らもこの場に残れ」


これでお役目ご免かと思いきや、木月さんにその場に引き留められた。


「えと……いいんですか?」

「いいも何もない。何かあった時の為に対処する人間は必要だし、この情報に触れる人間は極力制限しておくべきだろう。お前らももう正隊員なんだ。覚悟を決めて付き合え」


なるほど。敢えてトップ層の開拓組ではなく巽や椎野さんたちを寄越したのは、パーティー単位で情報を遮断する為か。


それはまぁいいのだが、最後まで関われというのならいくつか確認しておかなければならないことがある。


「分かりました。ただ、いくつか確認いいですか?」

「手短にな」

「勿論。その、一応僕としては直属の上司と、知り合いで一番顔が広そうな人ってことでお二人に連絡をお願いしたんですけど、こういう話って本来は別の方が担当すべきなのでは?」


僕はそう言って、興奮して目を血走らせている上司と、その姿に怯えて身体を縮こまらせている女神に視線をやる。


「グヘヘ……神、本物の生きた神……!」

「ひぃ……っ!? あまり近づかないでほしいのだわ!?」


その様子に木月さんも頭が痛そうに額に手を当てて嘆息。


「……俺もそうは思ったんだが、今日は運悪く他の幹部がスポンサー回りで不在にしててな。残ってる中じゃ佐々木さんが一番立場が上なんだよ」

「職分とかは?」

「神との交渉とか誰も想定してないよ」

「……ですか。後、この場所はどうなんです?」


ハニヤスが暴れ出したり自爆テロのようなことをしでかせば、万一の際に本部内では影響が大きい。話を聞くにしても、演習場とかもっと別に場所の方がよいのではないだろうか。


「開発室は万一の事故に備えて三重の特殊合金で覆われてる。人目のつきにくさも踏まえて総合的に判断した」

「納得しました。ありがとうございます」


そのやり取りを聞いていた巽や椎野さんたちも状況を把握して納得。各々部屋の隅に散らばり何かあればいつでも対処できるよう備える。


木月さんはハニヤスの斜向かい、佐々木室長の隣に腰を下ろし、涎を垂らして今にも飛び掛かりそうな変質者──もといマッドサイエンティストの肩を叩いた。


「佐々木さん。そろそろ正気に戻ってください。俺もこんなことで知り合いを警察に売り飛ばしたくないし、何より彼女が怖がって話が進みません」

「──おっと。そうだそうだ、話をしないと……グヘヘ」

「…………(プルプルプル)」


すっかり怯えてしまったハニヤスの姿に、佐々木室長には任せておけないと判断した木月さんが友好的なな表情を取り繕って口を開く。


「さて、ハニヤスだったね? こいつらから日本古来の神の一柱だという話は聞いている。申し訳ないが、俺は寡聞にして君の名を知らない。まず君がいったいどういう神なのかを教えてくれるかな?」

「む……」


ハニヤスは木月さんの方は話が通じると思ったのだろう。佐々木室長を意識から締め出し、精一杯毅然とした態度を取り繕って彼に向き直った。


「……コホン。神の名を知らぬというのは不敬ですが、信仰の薄れた現代の民なればそれもやむを得ぬことでしょう。我が名はハニヤスヒメノミコト! 大地と豊穣を司る由緒正しき女神! 大いに崇め奉るがよいのだわ!」


うん。自信満々に彼女は胸を張る、のだが。


「……知らねぇなぁ(ボソリ)」

「──(キッ)!」


思わず巽がそう漏らしてしまい、ハニヤスが彼を睨みつける。


「それはお前たちが不信人者で無知なだけなのだわ! 私は祖神イザナミを母に持つ由緒正しき神なのよ!?」

「イザナミ? それってアマテラスとかを産んだ神様だろ? お前がそんなビッグネームの娘ぇ……?」

「ムキィィィッ!! ホントだもん!!」


ナチュラルな巽の煽りにハニヤスが興奮して顔を真っ赤にする。突然始まったやり取りに木月さんも僕もどうしたものか判断に困っていると、通信端末を弄っていた羽佐間さんがボソリと口を挟んだ。


「巽くん、巽くん。その子の言ってること嘘じゃないよ。ハニヤスって神は本当にイザナミの子供」

「……マジ?」

「ふふん。分かったかしら」


自慢げに胸を張るハニヤス。しかし──


「ってことはコイツ、アマテラスの兄弟ってことっスか?」

「コイツとは失礼なのだわ!?」

「う~ん……古事記だとアマテラスはイザナギが左目を洗った際に生まれた神様で、厳密にはイザナミの子供ってわけじゃないから違うかな」

「? でもどっちもイザナギの子供ではあるんでしょ?」

「ううん。ハニヤスはイザナミが死の間際に垂れ流した大便から生まれた神だから、イザナギの子供じゃあないね」

『…………』


ウィ〇ペディアでも読んでいるらしい羽佐間さんの解説に、その場に微妙な空気が流れる。


きっと、全員が同じことを考えていたに違いない。


そして、考えなしの馬鹿が、それを口にしてしまった。


「う〇こ女神じゃん!!」

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