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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第二部

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29/50

第29話~神?~

()()は多くの同胞と同様に人を怨んでいた。


これまで散々自分たちの恩恵に預かっておきながら、便利な道具を手にした途端に自分たちへの畏敬を失い、信仰を忘れた不義理な者たちを憎悪していた。


人々に忘れ去られ、誰にも看取られることなく己の存在が消滅していく恐怖の中、()()は自分に目もむけず楽しそうに笑う人間の声を聞く。


──嗚呼、私は一体何のために生まれたのだろう?──


悔しくて、悲しくて、涙と嗚咽がこぼれる。


──こんな思いをするぐらいなら、最初から人など──


だから残酷な同胞の計画にも目を瞑った。


参加しなかったのは偏にその力さえ残っていなかったから。この期に及んで人間への慈悲があったわけではない。


その証拠に、人の恐怖と怨嗟に満ちた信仰(いふ)は、とてもとても美味だった。


計画そのものは失敗したが、結果的に()()は力を取り戻して生きながらえる。


──この憤怒こそが我らが本懐──


溢れんばかりの力に陶酔し、()()は己の中の不純物を切り捨てた。




「……あら? あらあら?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ほ~ん? お金がない、ねぇ」

「……大変だ」

「一般職員にはまだ伏せてるそうなんで、他の人には言わないで下さいね」


知り合いに追及されてあっさりゲロってしまった僕が言えたことではないが、一応口止めはしておく。


どうせ伝え方や予算配分を整理しているだけで、遠からず皆が知ることになるとは思うが念のためだ。


「分かってる分かってる~。あたしら口は堅いから安心してよ~」

「…………」

「鶫が信用できない気持ちは分かるけど、この子はあたしたち以外そんな話をできる相手がいないから安心して」

「……なるほど」

「ちょっと! どういう意味よ二人とも~!」


不満げに頬を膨らませる時東さんを無視して、僕と羽佐間さんは互いに頷き合った。




佐々木室長からダンジョン警備隊の予算不足について相談を受けたのが昨日の話。


室長と僕、巽の三人はあれこれアイデアを出し合ってはみたものの、どれも既に検討済みか必要とされる予算に対して効果が小さすぎて、状況を抜本的に改善可能な案は出てこなかった。


最初から分かってはいたことだ。頭が良くて経験豊富な大人たちが既に散々意見を交わし、それでもどうしようもないと匙を投げた結果が今なのだ。財務や経理には門外漢の研究者一人と中学生二人が数時間ディスカッションした程度で何かいい案が出て来るなら苦労はしない。


とは言え僕らには官僚や事務方と違い、ダンジョンの現場を知っているという強みがあった。あるいはそこにこの状況を打開するアイデアがある──可能性もゼロではない。昨日の話し合いでは一先ず各々金策の為の材料集めから手を付けてみようということになった。


佐々木室長は民間転用できそうな技術がないかの見直し。


巽は訓練に参加しがてら開拓組など上層部でも把握しきれていないダンジョンの情報を持っていそうな人たちから話を聞くことに。


そして僕はクリーチャーの死骸やダンジョン内の植物や鉱物など試料になりそうなものを集めてみようと一人でダンジョンに潜ろうとし──偶々親しくしている女性パーティーの先輩、時東さんと羽佐間さんに出くわして現在に至るというわけだ。




「ホントに助かりました。一人だと何往復もしなくちゃいけないところだったんで」


僕は変わった緑色の鉱石をケースの中に収め、バックパックの中に放り込んで僕は同行してくれた女性二人に感謝を伝える。


「何の何の。気にするない」

「私も前に風邪で倒れた時、代わりに荷物運びしてもらったしね」


ダンジョンの一層や二層であれば僕一人でも問題なく活動できるが、重い荷物を背負って索敵も戦闘も一人でとなると些か効率が悪い。こうして同行と協力を申し出てくれた時東さんたちには感謝しかなかった。


「でも良かったんですか? 二人とも他に何か用事があったんじゃ……?」

「気にしないでいいよ。今日は訓練がてら潜ることにしただけで、特別何か目的があったわけじゃないから」

「?」


羽佐間さんの言葉に僕は首を傾げる。


訓練というなら今日は本部で合同訓練が開かれている。浅い階層の敵と戦って今更二人の経験になるとは思えないし、訓練に参加した方がよほど有意義だと思うが……?


そんな疑問が表情に出ていたのだろう。時東さんが僅かに苦笑して答える。


「真木さんと華は本部で戦闘訓練。あたしとみやこはダンジョンで索敵や隠密行動の訓練ってわけさ」

「正確には、私はあんたの先生役なんだけどね」

「もう~! 細かいことはいいでしょう~?」


二人のやり取りに僕はなるほどと納得する。


本部でも索敵や隠密行動と言った斥候関連の講座は開催されているのだが、その指導のベースは自衛隊のもの。つまり対人を基本とした考え方が根底にある。勿論、ダンジョン向けにノウハウを蓄積しアップデートされてはいるが、まだまだクリーチャー相手に有効なものではない。その為パーティーで斥候役を任されている隊員は、技術を磨くためにそうした本部での訓練よりダンジョン内での実践を重視する傾向が特に強かった。


ちなみに今日はダンジョンに入ってからずっと時東さんが索敵を主導しており、戦闘もほとんど不意打ちで片づけてしまうため、僕はほとんど採取と荷物持ちしかやっていない。


「にしても、今更サンプル集めなんかして意味あるの?」


じゃれかかってくる時東さんを長い手でいなしながら、羽佐間さんが今更シビアなことを口にする。僕は思わず苦笑して本音を吐露した。


「正直、厳しいですね。サンプル集めと解析自体はこれまでもずっとやってきたことですから。今まで手付かずの深い階層ならともかく、こんな浅い階層で何か目新しいものが見つかるかっていうと期待薄だとは思ってます」

「だよね~。この辺のサンプル集めは、あたしらも何度か頼まれてやってるし」

「ただ一点期待があるとすれば、その辺りの解析は開発室じゃこれまで本腰を入れてやってこなかったってところでしょうね」

「……そうなの?」


意外そうな表情を見せる時東さんと巽さん。


「あるかどうかも分からない資源探しに手を割くより先に、開発室には『リング』の解析やら装備開発やら他に優先してやるべきことが幾らでもありましたから」

「……そう言えばサンプル集め自体は政府や国連からの要請だったね」

「ええ。なので室長が本腰を入れて調べれば、何か金策の糸口になるモノが見つかる可能性もゼロじゃあないのかな、と」

「期待薄だね~」


僕の希望的観測を時東さんが笑いながらバッサリ切り捨てる。


正直僕も同感だし、どちらかと言えばこの件は佐々木室長の気休めに付き合っているという側面が強いので、そう言われても仕方がない。


「あるかどうかも分からない資源探しするより、今あるモノを使って商売のアイデアでも考えた方がいいんじゃない? ほら、漫画やアニメだと主人公のアイデア商品で一気に財政が改善したりするでしょう?」

「現実と創作を一緒にするな」

「あたっ!」


コツンと羽佐間さんに頭を小突かれ、時東さんが「むぅ~」と下頬を膨らませる。


僕はそのやり取りに苦笑し、喧嘩に発展する前に話を割り込ませた。


「難しいですね。頭のいい大人が散々考えつくした後っていうのもありますけど、そもそも必要な金額が大きすぎて、ちょっとしたアイデア商品でどうにかなるレベルじゃないんですよ」

『ああ~……』


これが例えば数千万円や数億円程度の話なら、警備隊の技術とコネにいいアイデアを加えれば何とかなる可能性はゼロではない。だが今必要とされている予算規模はソレとは桁が違う。ちょっとしたアイデア商品どころか、革新的な発明を幾つかして更にそれを担保に投資を引き込んで辛うじて何とかなるかも、といったレベルだ。


「分かりやすく魔石とかドロップ品のあるサービスの良いダンジョンだったら良かったんですけどね」

「ニャハハ。ウチは基本持ち出しばっかで収入はゼロだもんねぇ。ま、元々防衛戦争なんてそんなもんだけど──ん? 京?」

「────」


時東さんが話の途中で何かに気づき羽佐間さんの方を見ると、彼女はジッと耳を澄ませてダンジョンの奥の方を見つめていた。


「──悲鳴。誰かが襲われてる」

『!』


端的な報告に一瞬で緊張が高まる。


ここは第一層で原則強いクリーチャーは出現しないが、イレギュラーがないわけではないし、訓練生が何かミスをしてピンチに陥っている可能性はあった。


『…………ぇ』


僕の耳にも聞こえた。悲鳴とまでは断定できないが、確かに誰かが叫んでいる。


「……私が先導してそのまま突入する。二人は援護しながら周りを警戒して」


羽佐間さんは僕らの返事を待つことなく声のする方へと駆けだした。


俊敏な足取りで走る羽佐間に遅れないよう追随していると、一分とかからずダンジョンの奥で小柄な人影が野犬に似たクリーチャーから逃げ回っているのが見えた。


『ひぃ~ん!!』


クリーチャーを攻撃しようにも、人影がちょこちょこ動き回っているせいで銃だと誤射のリスクがありそうだ。


「ちっ──こっちだ!!」


羽佐間さんが舌打ちし、人影とクリーチャーに向けて鋭く叫ぶ。


声に反応して人影はこちらに向かって方向転換、クリーチャーは一瞬逡巡した後、やはり人影を追いかけて地面を蹴った。


「たす──たす、け──っ!」


まだ幼い少女──恐らく一〇歳前後──の声と姿。高速で駆ける羽佐間さんは少女の声と身体を一瞬で飛び越えてクリーチャーに接近。


──ザシュッ!!


彼女は疾走の勢いのまま振りぬいた鉈でクリーチャーの首を斬り落とした。


僕はクリーチャーに追われていた少女の安否を確認しようとし──


「君っ、だいじょ──っ!?」

「止まって!!」


時東さんに服の裾を掴まれてつんのめった。何とか転ばずに体勢を立て直すと、振り返って文句を言う。


「何を──!?」

「よく見て!!」


しかし真剣な表情の時東さんに一喝され、僕は言葉を飲み込んだ。


見ろ? 見ろって、何を──いや、待て。


この子、古い着物みたいな恰好して警備隊の隊服を着てないぞ。まさか訓練生じゃなくて一般人か?


「動くな」

「ひぃっ!?」


僕が困惑している間に羽佐間さんが鉈を突きつけ少女を威嚇している。


いや待った。確かに一般人がダンジョンの中にいるなんておかしいけど、ひょっとしたら何かのイレギュラーで巻き込まれた可能性もあるわけだし何より子供相手に刃物を突き付けるような──


──パンッ!!


「っ!」


時東さんが落ち着けと言わんばかり僕の背中を強く叩く。その痛みに顔を顰め、何なんだと彼女に視線を向けると、彼女は少女に視線を向けたまま、舌を軽く出して囁いた。


「──味がする。あの子、魔力を持ってるよ」


時東さんは対象の魔力を味覚で測ることが出来る特殊な共感覚の持ち主。そして魔力を持っているのは『リング』によりそれを喚起された警備隊員か──


「な、ななななん──!?」

「喋るな。お前が人間じゃないことは一目瞭然。普通の子供がクリーチャー相手に逃げ回れる筈がない」


あ。確かにその通りだ。機動力の高い獣型のクリーチャー相手に一般人の子供が逃げ回れていたことがそもそもおかしい。


僕はそこまで考えが至らなかったが、羽佐間さんも時東さんも最初から少女の正体に気づいていたのだ。


「クリーチャー。どうやってこんな浅い階層に潜り込んだのかは知らないけど、子供の姿をしてれば騙せると思ったなら馬鹿にし過ぎ。一体何を企んで──」

「ちち、違うのだわ!!」


羽佐間さんの言葉を少女が大声で遮り、否定する。


至近距離にいた羽佐間さんはそのあまりの大音声に思わず顔を顰めた。


「……うるさい。今更誤魔化そうとしたところで──」

「だから違うの!! 私は人間のフリをしてたわけじゃないし、貴方たちを騙すつもりもありません!!」


そして少女──いや、彼女は胸に手を当て、自分の正体と目的とを告げた。


「私はこの日ノ本を守護する神の一柱ハニヤス──貴方たち人の子との融和の道を探るためにやってきたのだわ!」

【登場人物⑥】

羽佐間はざま みやこ

女、16歳(高校1年生)、5月15日生まれ

161cm、●●kg


<能力評価>

魔力  4

筋力  3

耐久  3

技量  5

機動  6

知覚  7

射程  3

特殊  0

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