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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第二部

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28/50

第28話~資金調達会議~

組織にお金がない → だからお金を集めよう


実に簡潔で分かりやすく無駄のない論理だ。


佐々木室長の主張は正しく筋が通っていた──それを畑違いの少年兵に言ったのでなければ。


「えっと……僕らとしても新装備の開発は必要不可欠だと思いますし、その為の資金を何とかしようって室長のお考えは間違ってないと思うんですけど──」

「だよね!?」

「ですけども!」


こちらの言葉を遮って前のめりに話を進めようとする佐々木室長を押し留め、僕は言葉を続けた。


「そもそもそういう金策は僕ら現場の兵士の仕事じゃないでしょう?」

「職掌や職責はそうでも結局世の中はできる人間がやらなきゃいけないようになってるんだよ! 社会じゃ正論なんて通じないんだ!!」

「大人の悲哀を子供に押し付けないで下さいよ!? というか労働基準法──」

「残念! 我らがダンジョン警備隊は特別法が優先されるので労働基準法の適用対象外です! そもそも子供を戦わせてる時点で労働者の権利とかそんなぬるい理屈が通じるわけないね!」


ヤケクソ気味に叫ぶ佐々木室長。さっきまでは冷静さを保っていたが、実はかなり追い詰められていたのかもしれない。


「とにかくお金を稼ぐんだ! 立場と権限だけ与えられてもお金がないんじゃ話にならない!! 僕の研究──もとい人類の平和の為に、何でもいいからお金を稼ぐ方法を考えてくれ!!」

『…………』


個人的な欲望が隠せていない佐々木室長に、僕はどうしたものかと隣の巽と顔を見合わせる。巽は室長を落ち着かせるようにワザとのんびりした口調で話を引き継いだ。


「ん~……考えるのはいいっスけど、具体的にどれくらい必要なんスか?」

「たくさん!」

「……いや、だから具体的──」

「とってもたくさん!」

『…………』


駄目だこのオッサン。追い詰められて見た目以上に知脳が低下してる。巽はうんざりした表情になりながら、それでも辛抱強く続けた。


「……まぁ、室長の技術と知見があれば億単位で金引っ張ってくることはできるでしょうけど、それじゃあ──」

「足りない。全くもって足りないね」

「となるとさすがに小僧の浅知恵にゃ荷が勝ちすぎてますよ。ハッキリ言って、稼ぐといっても金額の桁がデカすぎて何をどうしたらいいのか全くイメージができない」

「むぅ……」


巽に諭されて佐々木室長は少し冷静さを取り戻した様子で呻く。そこに僕は更に付け加えた。


「というか、その辺の金策で思いつくようなことはとっくに代表や姫川部長が手を付けてるんじゃありません? 素人が本職よりいいアイデアが出せるのかってのもそうですけど、それだけの金を集めようとなると当然ダンジョンやクリーチャー絡みの何かを使ってってことになりますよね? その辺、何をして良くて何をしたらいけないのか、機密の問題もあるし僕らじゃ判断がつきませんよ」

「…………」


その辺の指摘は室長本人も分かってはいたのだろう。顎に梅干しを作り苦い顔になる。彼はその顔のまま腕組みし、溜め息と共に再び口を開いた。


「……勿論、代表や姫川さんは金策の為に動いてくれてる。スポンサー回りは勿論、海外投資家を引き込めないかとか共同研究はどうだとか色々ね。でもまだ形のないものを餌にそういう巨額の資金を動かそうと思えば年単位の時間が必要になる。さっき正隊員の装備は従来通りの水準を維持するって言ったけど、これは代表や姫川さんが出来ることを全部やって、まだ確定じゃない見込み案件まで積み上げて何とか、ってレベルの話さ」

『…………』


おいおい。話を聞けば聞くほど状況が酷くなっていくな。最悪は正隊員の兵站維持さえ難しくなるってことか?


太古から餓えた軍隊が戦いに勝利した試しはないし、何より警備隊の財務が悪化すれば僕の給料や学費に影響が出る可能性だってある。働きながら高校・大学まで通えると聞いたから入隊を決めたのに、そんなことになったら話が違うどころの騒ぎではない。


不安と不満の入り混じった表情の僕らに気づくことなく、佐々木室長はテーブルに顔を突っ伏して愚痴を続けた。


「僕は元々、自由にダンジョン関連の技術を研究させてくれるって言われてここにスカウトされてきたんだよ。だけど現実は制約が多くて中々そうは行かなくてさぁ。正直、騙されたって感じではあるんだけど、代表や姫川さんが頑張ってくれてるのは知ってるし、他所に行ったからってここ以上の環境が整ってるわけでもない。だからまぁ、仕方ないかって色々呑み込んで今まで頑張ってきたんだけど──」


重い重い溜め息。


「頑張って今まで通りを維持してくれってのは違うでしょうよ! そんなの僕じゃなくても──いや、僕がいなくても全然問題ないっていうか、むしろ僕は何をどう頑張れってのさ!?」


あ~……佐々木室長がここまで追い詰められてる理由が大体分かってきたぞ。つまり──


「仕事がないんだ。現状維持なら僕がいなくても部下の子たちだけで全然普通に回っていく。むしろ僕そういうのすっごい苦手」


この人の仕事は研究開発が専門で、その為の予算が無いって言うんだから、まぁそうなるよね。


「だけどそんな情けないこと上の人たちには相談できないし、皆頑張ってくれてるのは分かってるから文句も言えない」


だからと言って僕らに愚痴られても困るんですけどね?


「部下の子たちは僕以上に不安を抱えてるから愚痴れない。こんな話ができるの君たちぐらいなんだよ~」


僕が言うのもなんだけど、貴方もっとちゃんとした人間関係作りなさいよ。


「お願いだよ~。正直、もう何をどうしたらいいか分からなくて煮詰まってるんだ~。自分たちの仕事じゃないなんて言わずに相談に乗っておくれよ~」

『…………』


いい歳したデカいオッサンが恥も外聞もなく子供ぼくらの前で駄々をこねる。


そのあまりの見苦しさに僕らは顔を見合わせ──仕方ないか、と溜め息を吐いた。


「分かりました。僕らで良ければ相談には乗りますよ」

「ホント!?」

「ええ。ただし、相談に乗るだけです。あんまり期待はしないで下さいね?」

「十分十分! 一人で考え込んでると頭がおかしくなりそうだったんだ~。話を聞いてくれるだけでも十分だよ~!」




その後ありがとうと繰り返す佐々木室長を宥めてお茶とお茶請けを準備し、一旦グダグダになった場を仕切りなおして、改めて僕は尋ねた。


「それで、一応聞きますけど室長はその金策に関して何か当てみたいなものはあるんですか?」

「それがサッパリ。正直、僕はここに来るまで予算で苦労したことはないからね。お金周りのことは人並み以下だという自負があるよ~」

「……自信満々に言うことかい」


巽がボソリとツッコむが、佐々木室長は聞こえないフリをして空笑い。好意的に解釈すれば優秀な研究者だったからこそ予算やスポンサーを気にする必要がなかったということなのだろう──それもあくまで一般的な情勢、一般的な研究内容であれば、の話ではあるが。


ないものねだりをしても仕方ないので、僕は指折りしながらパッと思いつくところを挙げていく。


「このレベルの予算不足をどうにかできる金策方法って言ったらそう幾つもありませんよね」

「ふんふん。具体的には?」

「一つは当然、国から予算を引っ張ってくることですけど、それは無理だろうし代表が出来ることはやってくれてるだろうから除外」


進行役を務める僕の言葉に、室長と巽が頷きを返す。


「二つ目はダンジョンやクリーチャー関連で新たな資源を見つけること。小説やアニメとかで定番の『モンスターの魔石が新たなエネルギー資源として活用可能』ってやつですね。もしこうした資源が見つかれば、国や民間を問わず、あらゆる組織が一斉に協力や資金提供を申し出て来ることになるでしょう。金周りの問題は一瞬で解決します」


現代ダンジョンものの創作物で主人公たちがダンジョンに潜り、それが職業として成立する理由がそれ。ただし、僕らの世界のダンジョンでは──


「それに関しては、政府や国連の要請もあって調査は行っているけど今のところ見込み薄だねぇ。正直、火星で資源を見つけてそれを僕らが活用するって計画よりは多少現実味があるかも、ってレベル」


つまり将来はともかく現時点においては夢物語と大差ないということだ。


佐々木室長の反応は予想していたため、僕は軽く頷き話を続ける。


「資源が駄目となると、後は僕らが使ってる技術しかありませんね。民間転用できる技術を見つけて資金を引き出す」

「? 言いたいことは分かるけど、その技術を研究するための金がないって話だろう?」


首を傾げる巽に、僕はかぶりを横に振って続けた。


「別に民間向けに新しく技術を開発しようって言ってるんじゃない。今ある技術の中から民間転用して金になるモノを見つけられないか、ってことさ」

「ん~? そんな都合のいいものがあれば、とっくに誰か目を付けてる気がするけどなぁ~」


僕と巽の視線が「どうなんです?」と佐々木室長に向けられる。


「……一応、政府からそういう要請があって検討したことがないわけじゃないんだけど──」

「だけど?」

「僕らの技術って『魔力』にしろ『リング』にしろ例の神様に与えられたものを加工してるだけだからね。詳しい原理の解明なんて全然進んでないし、どんな副作用があるかも分かったもんじゃないからなぁ……」

『…………』

「あ! ゴメン。副作用云々は聞かなかったことにしてね?」


いやまぁ、僕も巽もそういうヤバイ技術を使ってる組織だってことはある程度覚悟した上でここにきてるわけだし、別にいいんだけどね。


「コホン。何にせよ、今のところ対クリーチャー戦に軸足を置いて研究を進めて来たわけだし、民間転用って言われてもすぐには思いつかないってのが正直なところかなぁ……」


佐々木室長の反応はあまり芳しいものではなかったが、僕はこの点において二つほど金策に使えるのでは、と思う技術があった。


「例えば例の治療技術はどうなんです? 鵺に襲われて死にかけた僕を数日とかからず完治させたアレ。あれを上手く売り出せば、医療業界中心にかなりの出資を見込めるんじゃありませんか?」

「……おお!」


巽が「それがあったか」と手を叩く。


僕は入隊して間もない訓練生の頃、初めて潜ったダンジョンで鵺に襲われ死にかけた。首の骨が折れて目玉が飛び出して頭蓋含めて全身の骨がバッキバキ。そんな瀕死の状態から僕を回復させた例の神様由来の治療法だ。


「色々事情があって機密扱いにしてるって話は聞きましたけど、こういう状況なら一考の余地はあるんじゃ──」

「絶対駄目」


しかし僕の提案を佐々木室長はにべもなく否定した。


「せっかく考えてもらってアレだけど、例の治療法はそんな一般向けに公開できるような代物じゃあないんだ。月見里くんの治療に使用したのだって、そうしないと命の危険があったからで、本来は極力使用を避けるべきものなんだ」

「……それは、副作用があるってことっスか?」

「それもあるし、それだけじゃない」


やや不満そうな表情で尋ねる巽に、室長はキッパリとした態度で続けた。


「詳しいことは言えないけど、これがもし外部で研究されてこちらのコントロールから外れることがあれば、最悪ダンジョンが崩壊するのと同じレベルの災害が起きる可能性がある」

『…………』


ダンジョンが崩壊? それはつまり、国家が壊滅の危機に瀕するレベルの災害ということだけど……


「……冗談っスよね?」

「そう聞こえた?」

「……いえ」

「うん。なら良かった。とにかく医療関係への技術転用は絶対にダメ。これはダンジョン警備隊の総意と思ってもらっていい」


なるほど。つまり今の僕の提案は既に検討されたことがあるということか。


となると、もう一つのアイデアもひょっとして……


「……一応、もう一つ思いついたことがあるんですけど。その、僕らの中でも訓練生とか、戦闘員を諦めた人とか、本部施設やら迎撃設備に魔力をチャージする仕事をしてたりするじゃないですか? これってある種のエネルギー資源と言えなくもないのかな~、なんて……」

「ああ~……」


僕の言葉に、巽は先ほどのこともありチラと佐々木室長の方を窺う。


すると室長は申し訳なさそうに苦笑。


「……それも実は前に話に出たことがあるんだよね」

「やっぱり……」

「何が駄目だったんスか?」

「駄目っていうか、まず魔力をエネルギー源として使うには『リング』が必要だけど、『リング』は製造できる数が限られてるからね。一般に広めるのは今のところ現実的じゃない」


確かに、それで肝心の警備隊の戦力が落ちたら本末転倒だ。


「それにこの技術が流出すれば犯罪に使われるリスクもあるし、そもそも人体由来のエネルギーだからね。最悪、適正のある子供が誘拐されて人体実験に使われるなんて可能性もあるわけさ」

『ああ~』


そうか、生体エネルギーを使うってそういうリスクも考えなくちゃいけないのか。となると魔力関係で稼ぐのは難しいな。


というかやっぱりこういう金策方法って──


「……やっぱり、素人が思いつくようなことは一通り検討されてるんですね」

「まぁ、一応プロだからねぇ」

『う~ん……』


マジでどうしよう?

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