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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第二部

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27/50

第27話~資金不足~

お金──資金、金銭、マネー、財産。


言い方は色々あるが、お金とはつまり社会における血液のようなものだ。


「交換」「尺度」「貯蔵」の三つの機能を持ち、モノやサービスを円滑に循環させるための媒介。


小難しい話を抜きにしても、お金がなければ何もできない、というのは現代社会における共通認識の一つだろう。


それが、ない──日本の平和を守るダンジョン警備隊、その開発部門のトップ・佐々木弥和室長は今そう口にした。


「お金がないんだ」


繰り返した。


「え? いやいや、ちょっと待ってください」


突然の宣言に僕は困惑し、横で同じような表情をしている巽と顔を見合わせる。


「まず、確認させて下さい。そのお金がないっていうのは『誰』──いや『どこ』の話ですか?」

「勿論、このダンジョン警備隊の話で、ひいてはウチの開発室の話でもあるね」


うん。室長がプライベートで何かやらかしたという話ではないらしい。一先ず安心──ではないな。


「警備隊は名目上民間組織ですけど、活動資金自体は国の予算から出てるわけで……つまりその予算が絞られた、って理解でいいですか?」

「うん。それで間違ってないよ」

「……具体的にはどれぐらい?」

「ん~……ざっと■■■ぐらい?」

『────』


あまりに現実離れした桁の違う金額を告げられ、僕と巽の時が止まる。いや、ダンジョン警備隊の活動費って一種の軍事費なんだからそれぐらいかかっててもおかしくはないんだけど……えぇ?


そんな僕らの反応に佐々木室長は苦笑する。


「この予算の中には被害を受けた方への補償とか色々入ってるから純粋な活動費ってわけじゃないんだけど、それにしても金額が大きすぎてこれだけ聞いてもピンとこないよねぇ。そうだな……今年度は大体前年度予算比四割増しで請求を上げてたんだけど、増額が認められなくてほぼ前年並みになっちゃったって言えば少しは分かりやすいかな?」


つまり■■■というのは前年度からの増額分か──いや、盛り過ぎでは?


呆れる僕の横で、巽が何かを察した様子でポンと手を叩く。


「──ああ。つまり俺ら少年兵の分の予算増額が認められなかったってことっスか?」

「察しが良いね。その通りさ」


あ、そうか。僕ら少年兵の採用が始まったのはこの年度の途中から。来月から始まる新年度予算には増加した少年兵関連のランニングコストが全部乗ってくることになるのか。そうすると人件費だけじゃなく、僕らの装備や環境を整えたりと何かとお金がかかるわけで。そう考えると予算四割増しというのは妥当なところ……か?


「ん~……でもだとしたら却下の理由は? そりゃ金額はちょっとアレですけど、国の防衛と人命がかかった話っスよ。増額にちゃんとした根拠があるなら却下されんのはおかしい気がするんですけど?」

「う~ん、僕もそうは思うんだけどねぇ……」


巽の疑問に佐々木室長は困った表情で頭を掻く。そしてほろ苦い笑みを浮かべて続けた。


「理屈はそうでも『無い袖は振れない』ってことなんだろうね。大災害以降、今は日本中がボロボロで立て直しの真っ最中だ。どこにも大盤振る舞いできるような余力はないってことさ」

「非常事態っスよ? そんなの通貨の増刷なり国債発行なりすりゃいいじゃないっスか」

「非常事態だからこそ、だよ。この不安定な情勢で通貨の増刷なんてしたらあっという間に信用不安が起きる──かもしれない。絶対そうなるってわけじゃないけど、そうなってからじゃ取り返しがつかないからね。今の政府にそんなリスクを負う胆力はないよ。国債にしたって国内にはもう碌な買い手がいないし、最悪は被害の少ないアメリカに介入の口実を与えるだけだ」


佐々木室長は淡々と理由を説くが、巽はまだ納得いかない様子だ。


「にしたって、俺らが失敗してダンジョンが崩壊すれば一体どれだけの被害が出ることになるか……そこは他の予算削ってでも最優先で防衛費を確保すべきじゃないんスか?」

「その場合、ダンジョンが崩壊する前に大勢の人が路頭に迷って死ぬことになるだろうね。よく人命はお金に換えられないなんて言う人がいるけど、現実問題お金さえあれば救える命は多い。どちらが大切なんて単純な二択で語れる話じゃあないのさ」

「…………」


諭すような室長の言葉に、巽は納得した風ではなかったが、それ以上は反論せずに口を噤んだ。


黙り込んだ巽に代わって僕が話を引き継ぐ。


「警備隊の予算が絞られる背景については分かりました。だけど『無い袖は振れない』っていうならそれはこっちも同じことでは? 現実問題、ウチは戦力に余裕があるわけじゃないし、僕ら少年兵の採用だって防衛の為にはマストだったわけでしょう? 国はその必要最低限の予算を削って僕らにどうやって国を護れって言うんですか?」


僕の追及──いや、疑問に佐々木室長は憂鬱そうに溜め息を一つ。


「……官僚の言い分としては『子供を雇ったなら、その分無駄飯ぐらいの大人を減らせるのではないかね?』──だってさ」

『はぁ!?』


思わず僕と巽の口から怒気の混じった声が漏れる。


僕らみたいな扱いにくい子供たちを苦労してコントロールして、いざとなれば盾になって護ってくれてる人たちにそんな──!?


「勿論そんな言い分は代表や姫川さんが突っぱねたよ!?」


僕らの怒りを宥めるように慌てて佐々木室長がフォローを入れる。


「そんなことを言うなら、お前ら官僚こそ役に立たない上の連中をクビにして給料の安い若者に替えたらどうだ、って大分激しくやり合ってね」

『…………』

「すったもんだあって一応、人を減らすって話はなしになったんだけど……それでも予算増額は簡単じゃなくてね。そもそも少年兵の採用は大っぴらにはしてないから、あまりそれを理由に要求を押し通すことも難しい。大人に回してた装備とかの予算を削れとかかなり厳しくつつかれて、結局前年並みの予算を確保するので精一杯さ。それでも国の予算規模が全体で一割近く削られたことを考えると、朽木代表はかなり頑張ってくれたと思うよ」

『…………』


今は国中が不景気に喘いでいる状態だ。少しでも景気を上向きにして生活を良くしてくれという国民からの圧は相当なものだろう。いくら戦時下とはいえ、国民の大多数は直接クリーチャーの脅威に晒されているわけではない。ならば今自分が直面している問題をどうにかして欲しいという方向に意識が向くのはやむを得ないことだ。


「……話は大体分かりました。で、予算が絞られた結果、僕らの活動には具体的にどういう影響が出そうなんですか?」


僕の確認に佐々木室長は嘆息を一つ挟んで口を開く。


「……とりあえず正隊員に従来通りの装備を質を落とさず供給することはできるし、それは最優先で行わなくちゃならないと思ってる。だけどその分、訓練生の装備はかなり制限せざるを得なくなるだろうね」

『…………』

「新装備の開発・供給はこのままじゃほぼ不可能だ。いや、研究や試作までは何とかなるかもしれないけど、新装備を新たな製造ロットに乗せて量産するにはどう考えても予算が足りない」


まぁ、そうなるか。話を聞く限り装備面だけでなくその他の物資や採用など様々なところに影響が出てくる筈だ。この状況で新装備の開発を強行するのは不可能なだけでなくデメリットが大きすぎる。


『…………』


僕と巽は顔を見合わせ、代表して僕が口を開いた。


「分かりました。先輩方からも期待していただいてたんで、碌な成果も出せないまま終わりというのは残念ですけど、予算がないなら仕方ありません」

「……え?」

「もしまた予算がついて、開発の話が動くようでしたらまた是非声をかけてやってください。その時はぜひ協力させていただきます」


それじゃ──と席を立った僕と巽を、何故か佐々木室長が慌てた様子で引き留める。


「ちょ、ちょっと待った! 何でそんな『もう新装備の開発は終わりですね』みたいな話になってるのさ!?」

「? いや、なってるも何も予算がないならどうしようもないですよね?」

「というか、室長が『新装備の開発・供給は不可能だ』って言ったんじゃないないっスか」

「違う違う違う! そうじゃない! 僕は『このままじゃほぼ不可能だ』って言ったの!!」

『?』


佐々木室長が何を言っているのか理解できず、僕と巽は再び顔を見合わせた。


「せっかく新テクノロジーの最前線に来たっていうのに、予算不足で研究をストップするなんて冗談じゃないよ!」

「いや、そんな駄々をこねられても──」

「予算がないなら稼げばいいんだ!!」

『……は?』

「今日君たちにこの話をしたのは諦める為じゃない!! 足りない予算を稼ぎ出す方法を一緒に考えて欲しいんだ!!」

『────』


いや……それはいくら何でも、無茶っていうか畑違いっていうか……えぇ?

【登場人物② ver.2】

たつみ 一登かずと

男、14歳(中学2年生)、9月4日生まれ

172cm、56kg


<能力評価>

魔力  3→4

筋力  6

耐久  4→5

技量  5→7

機動  7

知覚  4

射程  2

特殊  0

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