第26話~防衛任務~
連載再開。
『うぇぇぇぇぇん!!』
赤子のような鳴き声を上げ、姑獲鳥──人面鳥身のクリーチャーたちが上空から僕らを狙って急降下する。
──パァン!! パァン!!
ライフル銃で牽制するが、高速で飛翔する怪異相手では狙いが定まらず、銃弾はかすりもせず虚空を通過していく。巽たち前衛は地上の敵の対処に追われていて、こちらをカバーする余裕はない。
「くそっ!?」
焦った僕は、点で捉えられないなら範囲攻撃だと銃弾を炸裂弾に切り替える。
──ドォン!!
放たれた炸裂弾は姑獲鳥に命中こそしなかったものの、接近したタイミングに合わせて起爆──爆発が二匹の姑獲鳥を巻き込んだ。
「──やったか!?」
「フラグ立ててんじゃねぇ阿呆が!!」
罵声を浴びせられると同時、爆煙を突っ切ってほとんど無傷の姑獲鳥が僕目掛けて飛び掛かってきた。爆煙で視界が遮られていたこともあり対処が間に合わない。
僕は一撃を覚悟して身を固くする──と。
「オラァッ!!」
──轟ッ!!
『!?』
横から飛来した流線型の槍が姑獲鳥の胴を貫き、その命を絶つ。更に続けざま、その陰から降下していたもう一匹の頭部をレスラーのような巨漢が空中回し蹴りで砕いていた。
「──馬鹿野郎!!」
「っ!」
窮地を救ってくれた巨漢に怒鳴りつけられ、僕は思わず身を竦める。
「雑な攻撃してんじゃねぇ!! 格上相手に視界を塞いでどうする!? 炸裂弾は使いどころを考えろ!!」
「……っ!」
「返事っ!!」
「──はいっ!!」
「分かったら動け!! まだ戦闘は続いてんぞ!!」
「はいっ!!!」
固まってしまった僕をその巨漢──東堂先輩は、怒声を重ねて強制的に再起動させる。
そうだ、一度の失敗で一々動きを止めている余裕はない。まだクリーチャーの襲撃は続いており、気を抜けばまたいつ他のクリーチャーが襲ってこないとも限らない。
ここは人類守護の最前線・ダンジョン第六層、僕らはその防衛任務の真っただ中なのだから。
僕たちが正隊員に昇格してから約半月が経過。僕と巽は今日、二度目の防衛任務に臨んでいた。
ダンジョン警備隊の事情に詳しくない外部の人は、ここで恐らく「防衛任務とは何なのか?」との疑問を抱いたことだろう。
一般的な「防衛任務」という言葉のイメージは外敵から町や人々を護るというもの。だがここは人の住んでいないダンジョン内部だ。こんな場所で一体何を防衛するというのか?
その答えは『ダンジョン内の秩序』である。
ダンジョン内部は結界で区切られた階層構造。下の階層に行くほど強固で目の粗い結界で区切られ、強力なクリーチャーほど下の階層に閉じ込められるという構造になっているのだが、この結界による隔離は絶対のものではない。
以前僕たちも遭遇した「ゲップ」による一時的な階層異常もそうだが、あまりにクリーチャーが多いとこの結界によるバリア機能は正常に働かない。これは人体に例えると悪玉菌が増えて腸内環境が悪くなり、様々な不具合を起こしてしまうイメージが近いだろう。
現時点でこうした環境の悪化を抑え僕らがダンジョン内の秩序を保てているのは第六層まで。クリーチャーたちは自分たちの支配領域を取り戻そうと頻繁に第六層に攻勢を仕掛けてきており、これを迎撃するのが正隊員による「防衛任務」というわけだ。
ちなみに正隊員の中でも更に上澄みのトップ層は、第七層より下の領域に踏み込み人類の支配圏を拡大する「開拓任務」にあたっているが、こちらは今のところ遅々として進んでいない。
「よし。数原の班を見張り役に残して他は休憩に入れ。見張りは最初一時間交代、一巡したら三時間ごとだ。いつでも動けるように装備は手元から離すんじゃねぇぞ!」
『はいっ!!』
クリーチャー襲撃の波を切り抜け、全体指揮を任されている東堂さんが正隊員たちに指示を出す。
一時間近くに渡る戦闘で疲労困憊の僕は、平然としている先輩隊員たちに圧倒されながら陣地の一角にドスンと腰を下ろし、深々と息を吐いた。
「はぁ~……っ」
肉体疲労もそうだが酸欠だか糖分不足だかで頭の方も働かない。後衛で先輩方のフォローを受けながらだというのに、格上との戦いの連続で精神がゴリゴリ削られてしまった。
慣れの問題もあるにせよ、今のところ極力先輩方の足を引っ張らないよう立ち回るので背一杯。これでは戦力にとして貢献できるのはいつのことになるやら……
「──お、いたいた」
陣地の隅で人目を忍ぶように水分補給をしていると、一緒に防衛任務に参加していた巽が僕を見つけて近づいてきた。つい先ほどまで前線で槍を振るいクリーチャー相手に奮戦していた筈なのに、僕と違いその足取りには余裕がうかがえる。
「なんでこんな隅っこでコソコソしてんだよ。補給食もあるし、あっちで先輩たちと一緒に休憩しようぜ」
「……いい、僕はここで」
巽は呆れたように嘆息一つ。
「足引っ張って居心地が悪いのは分かるけど、新人なんだしそこは仕方ねぇだろ? 閉じこもってコミュニケーション拒否してもいいことねぇぞ~」
「……うっせ。分かってるなら放っといてくれ」
新人なのにバリバリ戦力になってて先輩たちとも上手くやれてるお前が言うな。余計惨めになるだろうが。言われなくても、こういう時こそ先輩たちとコミュニケーションとってかないと孤立するだけだってのは分かってる。分かってはいても、そうする気力も体力も湧いてこないタイミングってのがあるんだよ。
「ったく、しゃ~ねぇな~」
巽はそんな僕の反応に再度嘆息。そのまま先輩たちのところに戻るのかと思いきや──
「──あ、東堂さ~ん! 月見里のやつ、恥ずかしくて皆さんに合わせる顔がないみたいです~!」
「は!? ばっ、おま──」
「何ぃ!?」
巽の呼びかけに反応して、向こうからドスドスと厳つい巨漢が近づいてくる。
東堂さんは普段、開拓組に加わって最前線で戦うこともある最精鋭の隊員。見た目は十八歳とは思えない完成されたゴリマッチョだが、戦闘では機敏な動きと格闘術、投擲を組み合わせて戦う遊撃手として活躍していた。
「どうした、月見里ぃ? 落ち込んでるのかぁ?」
「は、えと、その……」
いきなりそんなことを言われて、どう答えればいいというのか。そんな僕の反応を見て東堂さんはニヤリと笑い、突然僕の頭に腕を回してヘッドロックをかましてきた。
「よ~しよし、落ち込んで寂しくて構って欲しいんだな? そんな寂しんぼな後輩を、この大先輩が存分に相手してやろう」
「そんなこと誰も──あだっ!? 止めろ! マジで離せこのクソゴリラ──ッ!?」
「お、まだまだ元気じゃないか。これならどうだ──?」
「ひぎっ!? ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!!?」
何が何だか、全身をよく分からない姿勢で締め付けられ、僕は激痛に悲鳴を上げる。
僕は腹を抱えて笑っている巽を支配の端で捉え、後で絶対殺す、とそれだけをかすれ行く意識の中で誓った。
「うははははっ! いやぁ、すまんすまん。軽く撫でたつもりだったんだが、まさかこの程度で失神するとは思いもしなくてなぁ」
「…………イエ。ボクガヒンジャクナノガイケナインデス」
謝っているのか煽っているのか分からない東堂先輩の言葉に、僕は頭蓋骨がズレていないか頭をさすって確認しながら硬い声を返す。
先輩は僕にヒョイと補給食のプロテインバーを差し出して続けた。
「まぁ食え。訓練でも実戦でも動いた後はしっかり食わんと力がつかんぞ」
「……ども」
受け取り、袋を開けてそれを齧る。僕と先輩と巽、三人で車座に地面に座り、しばし無言で栄養補給を行った。
そしていち早く補給食を胃の中に流し込んだ東堂先輩が、まず巽に向けて口を開く。
「巽。お前は防衛任務二回目とは思えんいい動きだった。他の連中も褒めてたぞ」
「へへ、どもっス」
「ただし、全体的に少し突っ込みすぎだったな。積極性と必要のないリスクを負うことは違う。もっと周りを見て、人を上手く使って戦え」
「うっス!」
まだ入隊して二か月足らずの新人に対するものとしては些か厳しい指導。だがこれも、巽の実力には見合った内容ではあるのだろう。
一方僕は──
「月見里……月見里、聞いているか?」
「は、はいっ!?」
再び落ち込んでいた僕に、東堂さんは呆れた素振りを見せることなく続けた。
「そう落ち込むな。お前も言うほど悪くはなかったぞ」
「…………」
あからさまな慰めについ苦い顔になる。
「別に慰めてるわけじゃあない。焦って動きはバタバタしてたが、位置取り自体は悪くなかった。防衛戦の密度と圧に慣れれば、お前もすぐに戦力にカウントできるようになるだろう」
「……え? いや、でも──」
「くはっ! 巽と違って自分は一匹も敵を倒せなかったのに、って顔だな?」
「…………」
図星をつかれて黙り込む。
「特攻と銃手じゃそもそも役割が違う。お前の役目は自分が敵を倒すことじゃなく、巽たち特攻が戦いやすいよう場を整えることだ。そういう意味じゃ、お前は視野が広いし十分正隊員としての水準に達してるよ」
「…………」
思わぬ高評価に驚く。
東堂先輩はキョトンと目を瞬かせる僕の頭を突然ワシャワシャと撫で、続けた。
「わわわ……!?」
「そう『信じられない』みたいな顔をするな。過信はいかんが、お前の場合は少しは自信を持て。これでも俺はお前らには期待してるんだぞ?」
「……期待?」
巽と僕に交互に視線をやり、東堂先輩は真面目な声で続けた。
「ああ。早瀬丸や木月さんみたいな変態を除けば、隊員の戦力はそろそろ頭打ちだ。だけど俺も含めて前線の隊員は目の前の敵をどうにかするので手いっぱいで、そうでなくても自分の実力を高める以外の発想がない。いや、発想はあっても他のことに手を出す余裕がないんだ。だから入隊早々開発室に協力してる変わり者がいるって聞いて、どんな連中だろうとずっと気にはなってたんだよ」
『…………』
「月見里。さっきは叱りはしたが、これからも萎縮せず炸裂弾でも何でもどんどん試していけ。何かあれば俺がフォローしてやる。お前らのその試行錯誤が、きっとこれからの警備隊を支えていくことになるんだからな」
「…………うっス」
東堂先輩の言葉に、僕は言葉少なく深々と頭を下げる。横から肘で突いてくる巽のニヤケ面が、見えないのに想像できてしまいウザかった。
「──ということだから、俺だけじゃなく他の連中からもフォローしてもらえるように、月見里はもっと周りとコミュニケーション取れよ? 恥ずかしがらずに」
「………………はい」
返す言葉もない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お疲れ様で~す」
「ただいま戻りました」
二度目の防衛任務を終えて本部に帰還し、僕と巽は直属の上司にあたる佐々木開発室長の研究室を帰還報告の為に訪れる。
「……来たね」
普段温厚で熊のマスコットのように愛嬌のある見た目をした上司は、初めて見る険しい表情で僕らを迎え入れた。
『…………』
僕らはそのただならぬ様子に何かマズいことが起きたのかと顔を見合わせる。
佐々木室長は挨拶もそこそこに僕ら二人にソファーに座るよう促し、自分はその向かいの席にドカッと腰を下ろした。
──お前何やらかしたんだ?
──何で俺なんだよ? つーか、基本一緒に行動してたんだし、何かしたとしたら俺とお前セットの筈だろ?
──だよなぁ……
視線で巽と会話を交わし、しかしそれ以上室長を待たせるわけにもいかず恐る恐るソファーに座る。
そして佐々木室長は僕らを鋭い視線で見据え、重々しい口調でこう告げた。
「緊急事態だ。お金が──ない」
第二部「金策編/う○こ女神編」スタートです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
【登場人物① ver.2】
月見里 廻
男、14歳(中学2年生)、1月1日生まれ
166cm、49kg
<能力評価>
魔力 4→6
筋力 3
耐久 3→4
技量 3→4
機動 5
知覚 7
射程 3→4
特殊 0
<補足>
魔力……リングを使用するための基礎エネルギー、侵食度
筋力……力の強さ
耐久……肉体の頑丈さ、持久力
技量……戦闘技術
機動……移動速度・機動力
知覚……五感、魔力に対する感度
射程……攻撃範囲の広さ
特殊……特殊能力、普通は「0」
原則1~10の十段階で評価され、正隊員の平均値は5。
魔力は基本的に高いほど有利だが、肉体的強化には器による限界がある。
魔力は侵食度とも呼ばれ、成人前後までは使うほどに鍛えられるが、10を超えると……




