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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第一部

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25/50

第25話~試験結果~

第一部最終話。

「それでは、私たちの昇格試験合格を祝って──乾杯!」

『乾杯!』


真木さんの音頭で六人が一斉にグラスを掲げる。


──カチン


「さ、鍋の方はイイ感じっスよ。具材はたっぷり準備してあるんで、どんどん食べて下さい」

「きゃ~、美味しそう~!」


カセットコンロの上の鍋の蓋を開けて巽が煮え具合を確認。椎野さんたち女性陣が歓声を上げて勢いよく箸を伸ばした。中身は醤油ベースの鳥鍋。巽のお手製で、贅沢にも白菜ではなくキャベツを使っている。僕は良く味の染みたキャベツと舞茸をご飯と一緒にパクリ。


「……うま」

「だべ~?」


いつもなら自慢げな巽の顔が鼻につくところだが、今日は料理のお陰で気にならない。僕はニヤニヤするイケメンから顔を背け、鳥つくねと白米を口いっぱいに頬張った。




今日は正隊員昇格試験から四日後。


あの日、試験官がクリーチャーに襲われ死亡するというトラブルがあり、僕と時東さんの試験は即時中断。調査や安全確認の為、試験結果ついては一時棚上げとなっていた。


宙ぶらりんになっていた結果が出たのが昨日のこと。再試験も覚悟していたが、僕らはそのまま合格──正隊員への昇格が認められた。


その後、皆で昇格祝いをしようという話になり、寮に料理やお菓子を持ち寄って簡単なパーティーを開催することに。会場は本人の申し出もあり巽の部屋。このイケメンときたら生意気にも出来る料理男子アピールなぞして、鍋だけでなくサラダや焼き物、甘味までしっかり準備していやがった──けっ。




「巽くんと月見里くんはこれからどうするの? やっぱり開発室のお仕事メインでやってくつもり?」

「そうですね……」


お腹もある程度満ちてきたところで僕らの今後の活動方針が話題に上がる。


真木さんの質問に、巽が僕に『どうするんだ?』と視線を向け──いや、昨日お前ともその話したよな?


僕は軽く溜め息を吐いて答えを引き継いだ。


「基本的にはそのつもりです」

「基本的には?」

「そればっかだと周りの目が気になるんで、他のパーティーに混ぜてもらって防衛任務もいくらかこなしていくつもりです。前線での経験や人脈とかも大事ですからね」


これに関しては佐々木開発室長にも相談済み。


室長もせっかく正隊員になったのだから高位のクリーチャー相手に装備を試せる下地を作って欲しいと、僕らの防衛任務参加には前向きだった。


「そっちのご予定は?」

「あたしたちは当面木月さんの知り合いが面倒見てくれることになってるんだ~」


僕の質問に答えたのは時東さん。


「オホホ、そっちと違って至れり尽くせり安心安全の姫プレイってやつ?」

「……いや、それってあんまりいい意味の言葉じゃないですからね?」

「そうなの!? お姫様だよ!?」

「……多分。その辺は皆さんがどう思うか次第ですけど」


僕がどうなんだと視線を向けると、椎野さんが苦笑して肩を竦めた。


「どちらかと言えば姫プレイにならないように木月さんがちゃんとした人と組ませてくれるってことでしょうね」

「そういうこと!?」

「……何であんたが分かってないのよ」


呆れた表情で羽佐間さんがツッコむが、このテンションの高さを見れば時東さんが合格に浮かれて話を聞いていなかっただろうことは確認するまでもなく明らかだった。


「そうやってチヤホヤしてくる男どもを一番嫌がってたのはあんたでしょうに。向こうから私たちに近づいてくる男どもとか絶対碌なもんじゃないよ?」

「そうなのかい男ども!?」

「……いや、僕らに聞かれても」


僕と巽は顔を見合わせ苦笑する。


「そもそも()()に関して言えば俺らから近づいたわけじゃないっスからね?」

「……そうだっけ?」

「そうだったんです。鶫さんが『年下の方がまだマシ』って私に荷物運び頼める人を探すように言ったんでしょ?」

「……そうだった、かも?」


そう言えば最初に組んだのはそんな理由だったっけ。


あれから約一か月。あの時は彼女たちと一緒に鍋をつつく仲になるとは想像もしなかった。


仲良くなれたことは素直にうれしいが、正隊員になったからには今後この六人で組む機会は少なくなる。正隊員に割り当てられる任務は人数さえいれば何とかなるといった甘いものではない。当面は経験豊富な先輩たちと組んで任務に臨むことになるだろうし、フォローする側の負担を考えれば常に椎野さんたちが四人一緒に行動できるかも怪しいところだ。


当然、そのことは彼女たちも理解している。


「ま、しばらくはバタバタして大変だろうけど、お互い頑張りましょ? またその内、一緒に仕事出来たらいいわね」

「……だね」


椎野さんの言葉に、僕はそっと頷き同意する。


切っ掛けは成り行きだったかもしれないが、彼女たちとの日々は間違いなく楽しいものだった。そんな日がまたくればいいと思うが、こんな仕事だ。その日までお互いに息災である保証はない。


そのことは、この場にいる全員が理解していた。


『…………』

「──よっし! そろそろ締めにいくか?」


その場に流れた感傷的な空気を変えるように巽が殊更明るい声を出し、時東さんがそれに追随する。


「いいね! 何いく? ご飯? うどん?」

「ちゃんぽん麺と餅と米を準備してるけど──」

「チーズは──!?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


月見里たちが昇格祝いをしていた同時刻。


警備隊本部では疲労感を漂わせた四人の男たちが会議室に集まり、顔を突き合わせていた。


「防衛線までのエリアは正隊員総出でイレギュラーが残ってないか再点検しました。結果は異状なし。天堂にも不眠不休で全エリアをあたらせましたから、九分九厘大丈夫だと思います」

「ご苦労だった、木月くん」


報告した木月を労ったのは警備隊のトップ・朽木一馬。


今回の一件はつまり、トップ自ら音頭をとって動かねばならないほどの大事だったということだ。


「しかし、まさか変化タイプのイレギュラーがあんな浅い階層に残っているとはな。人も増えてはきたし、改めて点検体制を強化すべきか……?」

「いやいや、どんなに厳重にチェックしたところで漏れをゼロにすることは難しいでしょう。点検頻度を増やすのは現場に負担が大きいだけで、見合った効果があるとは思えません」


憂鬱そうに溜め息を吐いた本部長の石平の言葉を、補佐の小早川がかぶりを横に振って否定する。


「……そうは言うが、今回は子供に被害が出るところだったんだぞ? 勿論、大人ならいいというものではないが、子供たちを戦いに引き込んだ以上、我々にはその被害を最小限に抑える責任がある」

「それは分かってますって。少年兵──しかも訓練生に死者が出たなんて話になれば火消し役の姫川さんが大騒ぎだ。最悪、どう揉み消すかって──」

「小早川」

「──おっと、失礼」


朽木代表に窘められて小早川が口を噤む。この場にいるのが古馴染みの人間だけということもあり、ついいつもより口が軽くなってしまったようだ。


また小早川は自衛隊出身でありながらアナーキーな気質を持つ変わり種で、上官の前だからと言って口を慎むようなタイプではない。


優秀だが扱いにくい部下に溜め息を吐き、朽木代表は自分の考えを口にした。


「……石平本部長の意見はもっともだが、我々にはまだそこにリソースを割けるほどの余裕はない。イレギュラーを恐れて完璧を求めれば、その他の業務に支障をきたすことになりかねんだろう」

「…………」

「幸い、今回は現場の機転で最悪の事態だけは免れた。当面の間体制見直しは見送り、現場に注意を促すだけにとどめることとする」

「……やむを得ませんな」


石平本部長は渋々といった様子で頷く。彼も今の戦力で完璧を求めることが不可能であることは理解している。ただ子供たちの命を預かる立場として、それを言い訳に安易に何もしないという選択肢を選んで良いのかという苦悩があった。


そんな上司の苦悩を察しているのかいないのか、小早川は殊更明るい声を出して話題を切り替える。


「ま、何にせよ本当に子どもたちに死人が出なくてよかった。倒してくれた隊員には感謝しかありませんね」

「……そう言えば、今回の件は正隊員への昇格試験中に発覚したんだったな」


その言葉に石平本部長は、小早川から上がってきた報告書の内容を思い出した。


「……それどころではなかったから後回しにしていたが、その月見里という隊員は大丈夫なのか?」

「と、言いますと?」


小早川は石平本部長の言いたいことを理解した上で、敢えて惚けた。


「確証もなく味方の姿をした相手を攻撃するというのはどう考えても過激に過ぎる。まだ経験も浅いようだし、正隊員に上げるのは時期尚早だったのではないか?」

「報告を受けた限り疑うに足る合理的な根拠はあったようですし、万一間違いであった場合もリカバリーできるよう注意はしていた、とのことです」

「だとしても、だ。彼は当時訓練生だろう。もう一人の隊員が供述しているように、木月隊員を呼んで判断を仰ぐべきだった」

「その場合のリスクについても報告書に記載しています。現場の判断にその場にいない者が後からケチをつけるのはいかがなものかと」

「現場判断はあくまで裁量権の範囲であることが前提だ。独断暴走を認めるものではない」

「であれば、明確に裁量権の範囲を示すことが出来ていない我々にこそ問題がありますな」

「論点をすり替えるな」

「それを先輩がおっしゃいますか……」

「何が言いたい?」

「いえ別に」

「…………」

「…………」


二人の間にピリッとした空気が流れたのを見て、再び朽木代表が口を開く。


「……木月くん。実際にその現場にいた君の見解はどうかね?」

「そうですね……」


突然話を振られた木月は少し考えるように顎に手を当ててから続けた。


「確かに月見里がいきなり味方を攻撃した時は驚きましたが、話を聞けば理屈自体は通っていましたし、判断そのものが間違っていたとは思いません」

『…………』

「とは言え、自分が間違っている可能性を理解した上で、躊躇いなく人の姿をした相手を攻撃できる月見里の精神性に危うさを感じたのも確かです」


木月の意見に石平本部長の眉間に刻まれた皺が濃くなる。


「……それは隠された攻撃性の発露、あるいは人命を軽視している、ということかね?」

「いえ、それはないでしょう。月見里自身は常識的な倫理観を備えていて、荒事を好んでいるようには見えません」


石平本部長の懸念を木月はキッパリと否定した。


「今回の一件はむしろ攻撃性より防衛本能の発露ではないかと思いますね」

「ふむ? 防衛本能と言うなら、自ら戦うより君に助けを求める方が()()()と思うが?」

「その理由は報告書にもある通りですよ──俺を信用できなかった。奴には根本的に、他人に自分の命を預けるという発想がないんだと思います」

「…………」


その言葉に石平本部長は月見里という隊員を昇格させたことに改めて不安を抱く。


しかし報告したとうの木月の表情には、そうした不安どころか自分が軽んじられたことへの不満や負の感情は見えない──何故?


石平本部長の疑念を感じとり、木月は肩を竦めて続けた。


「本部長のおっしゃりたいことは分かるつもりです。確かに月見里の在り方は危ういし傲慢だ。ですが同時に、奴はこの戦いを他人に預けることなく、自分の問題として捉えています。多少の問題はあっても、結局物事を動かせるのはそういう人間なんじゃないかと思うんですよ。俺が奴を正隊員に推薦したのはそれが理由です」

「…………」


月見里、時東両隊員の試験は中断されており、全ての課題をクリアしたとも言えない状況だった。特に月見里隊員の行動には試験官たちから懸念の声が上がっており、当初は不合格──あるいは再試験をとの意見が優勢だった。


にも拘らず強烈に二人をプッシュし、合格を後押ししたのはここにいる木月だ。木月の判断力や人を見る目は石平たち上層部も信頼するところではあるが──


「…………」


納得いかない様子で顔を顰める石平本部長に対し、それまで静かにやり取りを見守っていた朽木代表が口を開く。


「石平本部長の懸念は分かるが、月見里隊員の件に関してはしばらく様子を見てほしい」

「……代表?」


組織のトップである朽木が一隊員の処遇に口出しするなど今までなかったことだ。石平本部長だけでなく、小早川も木月も訝し気に彼を見る。


「…………娘が、彼に興味を持っている」

『!?』


朽木の娘。それはつまり──


「決して特別な存在ではないし、今はまだ可能性の段階だ。だが、この行き詰まった世界を脱却する鍵の一つになるかもしれない、と」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


本話をもって第一部訓練生編は終了。


次のエピソードの投稿は短編の投稿などを挟んで、少し時間が空くことになると思います(一週間ぐらい)。

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