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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第一部

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24/50

第24話~ムジナ~

僕の放った銃弾が地面に倒れ伏す負傷者役の男の背に命中する。


『グギャァッッ!!?』


突然の不意打ちにソレは獣のような悲鳴を上げ──正体を現した。


「何こいつ!?」


男の姿がヘドロのようになって崩れ落ち、中から四足歩行の獣が現れる。毛並みや雰囲気は狸に似ているが、細長い顎の形状は明らかにソレとは別物で、身体のサイズは大型犬ほどもあった。


「多分ムジナ──それより撃って!!」


僕は時東さんに答えながら(仮称)ムジナに向けて銃弾を放つ。


──パァン! パァン!


『グルッ!』


不意打ちで攻撃を当てはしたがムジナの活動能力は健在だ。僕の銃弾を横っ飛びして回避。苦しそうに涎を垂らしてはいるが、時間を置けばダメージから回復してしまうかもしれない。


「時東さん! 合わせて!!」


ここはやはり「炸裂弾→通常弾」のコンボ。逃げ回るムジナの足を僕の炸裂弾で止め、時東さんの通常弾で止めを刺す。


「りょうか──っ!?」


その機先を制すように時東さんに向かってムジナが突撃。人に化けてこちらを騙そうとしていたクリーチャーだ。僕らの正確な狙いまでは分からなくとも、言葉の意味は理解し、連携させたらマズいと判断したのかもしれない。


僕は咄嗟にムジナ本体ではなくムジナと時東さんの間、その進路を塞ぐように炸裂弾を放つ。


『グ──シャァァッ!!』

「!?」


その瞬間ムジナは転身。銃弾を放った直後の僕に向かって再突撃してきた。


──ドォン!!


ムジナの背後で外れた炸裂弾が無意味に地面を焼く。


マズい! 銃で迎撃しようにも炸裂弾には連射が利かないという欠点があり、ムジナの接近には間に合わない。これは今更通常弾に切り替えても同じことだ。視界の端に映る時東さんは位置取り的に僕への誤射を恐れムジナに攻撃できないでいた。


僕は咄嗟に銃を手離し左腕を顔の前にかざして防御姿勢。ムジナは僕の喉笛を噛みちぎらんと飛び掛かり、じゃまっけな左腕に牙を突き立てる、が──


『!?』


しかしムジナが牙を突き立てた瞬間、僕の隊服は対象部分が膨らんで強度を増し、牙の侵食を押し留めた。


想定外の反発に目を白黒させながらも噛みつくことを止めないムジナ──まさに格好の的だ。


──ゴスッ!!


『ギャンッ!?』


ムジナの動きが止まったところを、右手で鉈を抜き思い切り殴りつける。


腰が入っていない、正しく刃を立てることもできない不格好な攻撃ではあったが、それでも横っ面を思い切り殴打されたムジナは悲鳴を上げて地面に転がった。


「時東さん!!」

「おうよ!!」


──パァン! パァン! パァン!!


転がるムジナに向けて時東さんと銃で追撃。


ムジナは積み重なったダメージで今度は回避行動をとることも出来ず無防備に攻撃を受け続け、一〇発目の銃弾が命中した辺りでピクピク痙攣して動かなくなった。


『グ、ル……ッ』


ムジナは息も絶え絶えで今にも死にそうに見える。


「…………」

「…………(コクリ)」


人に化けて騙し討ちをするようなクリーチャーが相手だ。どれだけ警戒してもし過ぎということはない。僕らは近づくことなくムジナがゲル状の残骸に変わるまで攻撃を続けた。




『…………』


僕らが見ている前でムジナの死体はドロドロに溶けて形を失い、中からキラリと光るモノが浮かび上がった。


「大丈夫か、お前ら!?」


丁度そのタイミングで監視役の木月さんが現場に到着。僕は一歩引いて向き直り、それに答えた。


「……問題、ないです」

「あたしも」

「そうか……」


木月さんは僕らの無事に一先ず安堵。それから足元でゲル状に溶けて広がるムジナだったものに視線を向けた。


「ムジナ……で、いいのか? 三層にムジナが出るなんて話は聞いたことがないが──いやそれより……」


木月さんはそこでムジナの残骸の中に銀色に光るリングを見つけ、息を呑んでその場にしゃがみ込んだ。そっとリングを拾いあげる彼に、僕は言わずもがなのことを口にしていた。


「…………」

「多分、本来の負傷者役の方のリングでしょうね」


ムジナは変化の能力を持つクリーチャーの一種だが、通常その変化の精度はあまり高いものではなく、よく観察すれば比較的簡単に見抜くことが出来ると聞く。しかしムジナには人を喰らうことでその変化の精度を高め、完全ではないがその記憶をも取り込むという厄介な性質があった。


木月さんが介入してこなかったことからみても、ムジナが本来いた筈の負傷者役を喰らい、成り代わっていただろうことは容易に想像がついた。


「……優秀な方だったんだがな。変化で不意を突かれたか」


犠牲になった負傷者役の男性とは知り合いだったのだろう。木月さんが遺品となったリングを握りしめ溜め息を吐く。そして十数秒程黙祷を捧げた後、彼は再びいつもの穏やかな笑みを作って立ち上がった。


「それにしてもお前ら、よくあれがクリーチャーだと見抜けたな? いきなり攻撃した時は少し焦ったぞ」

『匂いです(味ですよ)』

「?」


僕と時東さんが同時に別々の答えを口にする。


僕らは顔を見合わせ、時東さんが仕草で『お先に』と促してきた。


「近づいた時、血の匂いがしたんです。それでどうもおかしいなと思ったら時東さんも違和感があったようだったので」

「……それだけか?」


木月さんがキョトンと目を瞬かせた。


「確かに負傷者役の人間から本物の血の匂いがすれば違和感を覚えてもおかしくはない。だが血の匂いだけで──いや、そういうことか」


木月さんが言葉の途中で僕の言わんとすることに気づいて唸る。


「ええ。クリーチャーが死ねばその身体はゲル状に崩れて血も残らない。つまり血はその場にいた人間のものってことになるんですけど、いくらリングで感覚が強化されてるとは言え匂うほどの出血って相当ですよ。負傷者役の人がそんな重傷を負ってるようには見えなかったし、仮にもしその人が負傷した当人じゃなかったとしても、近くでそんなトラブルがあったなら普通試験を中止してる筈でしょう?」

「なるほどな。──時東はどうして?」


僕の説明に木月さんは一先ず理解を示し、時東さんに話を振る。


「あたしの場合は共感覚ですね。運ぶの大変そうだな~って思って見てたら、口の中に苦みが走ったんで」

「そういうことか。確か時東は自分より魔力の多い相手を見ると苦みを感じるんだったな?」

「ええ。大人で私より魔力が多い人なんて聞いたことなかったんで、こりゃおかしいぞ、と」


そして時東さんはそれを表情で僕に伝えてきた。


「二人が怪しいと思った理由は分かった。だが、それだけでいきなり攻撃したのは思い切りが良すぎやしないか? いや結果的に正しい判断だったし、責めているわけじゃないんだ。ただその時点でクリーチャーだと断定できるほどの根拠はなかったわけだろう?」


あ~、やっぱりそこを突っ込まれたか。一応僕にも言い分はあるが──


「いやいや。あたしは攻撃しようなんて思ってませんでしたよ」

「──ええっ!?」


僕が弁明を口にするより早く時東さんが手を横に振って否定する。


「時東さん、僕が『結論は一つしかない』って言ったら『そうね』って同意してくれたじゃないですか!?」

「……それは木月さんを呼ぶしかないよねって意味で言ったの。ホントにクリーチャーなら助けを呼ぶべきだし、そうでなくても不安を抱えたまま試験なんて続けてられないわ。監視役に頼ったってことで試験を失格になるリスクはあったけど、そこは安全には代えられないって意味の『結論は一つしかない』でしょう」

「…………」


半眼で冷静にツッコまれ、僕は言葉を無くした。


彼女の言い分はもっとも。あのやり取りで攻撃は流石に端折り過ぎだったか。すっかり以心伝心のつもりでいた分、凄く恥ずかしいぞ。


「時東はこう言ってるが?」

「えと、僕が攻撃したのにも一応理由があってですね……?」

「聞こうか」


木月さんの問いかけに、僕は一つ大きく息を吸って弁明した。


「……一つには、この敵を絶対に逃がすわけにはいかないと思ったんです。もし僕の懸念が正しかったとすれば、第三層なんて浅い階層に正規の隊員を害し得る脅威が潜んでいることになります。演技をしてるってことはこちらの事情にもある程度通じてて知恵が働くってことですから、木月さんを呼んだらその時点で逃亡する可能性がありました」

「ふむ……だがそれは、勘違いの可能性が絶対にないと言い切れない状況で、味方を撃つリスクを負ってまですべきことだったのか?」

「威力は抑えてましたよ。仮にクリーチャーじゃなくても、すげー痛いくらいで済んでた筈です」


正直、一割ぐらいは勘違いの可能性もあると思っていた。


もし勘違いなら大問題だったろうが、それでも攻撃を選択したのは──


「その……木月さんを呼ばなかったのは、木月さんがついてきてるって確証が持てなかったからでして……」


上目遣いでおずおずと言う。木月さんは僕の言わんとすることを察して苦笑する。


「──ああ。最悪、俺に化けたクリーチャーが現れて挟み撃ちにされる可能性もあったわけか」

「決して木月さんの腕前を疑ってたわけじゃないんですけど──!」

「別に怒ってるわけじゃない。異常事態に遭遇した以上、最悪を想定して動くのは当然のことだからな」


その言葉通り、木月さんは全く気を悪くした様子もなく僕らの話をまとめた。


「つまり、時東は試験に落ちるリスクをとってでも俺を呼んで安全を確保しようとした。一方、月見里は敵の逃亡や俺が敵にしてやられているリスクと、誤射や自分が後々処罰されるリスクとを天秤にかけた上で先制攻撃を仕掛けた訳だ。この判断はそれぞれ()()をどう捉えるかの問題で、一概にどちらが正しいとも間違っているとも言えない」

『…………』


諭すような木月さんの言葉を、僕らは黙って聞く。


「ただ一つ言えることは、コンビで行動している以上、意思統一はしっかりしておくべきだったな。状況的にコミュニケーションが取りづらかったから仕方ない部分はあるが、伝わっている筈、という思い込みで行動したのはやはり問題だ」

「……はい」


返す言葉もない。木月さんは項垂れる僕の方を優しく叩いて続けた。


「ま、結果的には間違ってなかった。立場上、結果良ければ全て良しとは口が裂けても言えないが、最悪の結果は避けられたんだ。反省は次に活かせばいい」

「……うす」

「で、月見里。噛まれた腕の方は大丈夫か?」


重くなった空気を切り替えるべくムジナに噛まれた僕の左腕に視線を向ける木月さん。袖をまくって見せると、噛み跡はあるが軽い打ち身と内出血程度の軽微な負傷だ。


「この通り、全然大丈夫です」

「ほう……ということは、やはりその隊服は新装備か」

「へへ、まだ開発途中ですけど」


ちなみに炸裂弾含め、装備については特に持ち込み制限はないことを事前に確認している。


「元々巽の奴が『空中にシールドみたいなものを展開できないか?』って言いだして、それを『媒体も支点もない空中にシールドを浮かべても大した強度は得られない』って却下されたとこから着想を得たんです。隊服を媒体に、防御の瞬間その部分だけ強度を高められないかな、って思って室長に試作してもらって。衝撃を殺せないって欠点があったり、強度もまだまだなんですけど、とりあえず浅い階層の敵相手なら十分役に立つかと──」


無理な行軍を行うことへの保険として持ち込んだ新型隊服の説明を興味深そうに聞く木月さん。


「課題は不意打ちへの対応で──」

「…………」


僕はついその説明に夢中になってしまい、彼がジッと僕を観察していることに気づけなかった。

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