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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第一部

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20/50

第20話~思惑~

「さて、これから君たちには正隊員への昇格試験を受けてもらうことになるわけだが、事前に通知していた試験内容に新たにルールを付け加える」

『…………』


昇格試験当日。ダンジョン入口で担当教官が突然そんなことを言いだした。


しかしそれは僕らにとって予想の範疇で、動揺する者はいない。教官は頼もしそうに口元を吊り上げて説明を続けた。


「この試験の合格条件は『三時間以内にダンジョン第三層のセーフティーポイントに到達すること』だが、そこに至るまでの間に各層一か所ずつ、計三か所のチェックポイントを通過してもらう。今、各々の端末にチェックポイントの位置データを送ったので確認して欲しい」


言われて貸与された通信端末──ただしダンジョン内は電波が不安定で通信機能はほとんど使えない──を起動し、データを確認する。


表示された位置データはいずれもダンジョン西側に偏っていた。ダンジョン四層までは正規ルートとは別に複数の層移動が可能なゲートが存在しており、これを見る限り西側ルートを通ればほとんどタイムロスなく移動できそうだ。


わざわざルールを付け加えたということは、恐らくチェックポイントで何か課題に取り組むことになるのだろうが──僕がこのルールの意図を考察していると、横にいた巽が何かに気づいた様子で声を漏らした。


「ん?」

「……どうした?」


小声で尋ねると、彼は無言で僕に自分の端末を見せてくる。そこに表示された位置データは僕のそれとは全く別のポイントを示していた。これは──


「気づいたようだな」


僕らの反応を確認して教官は説明を続けた。


「今回試験を受ける三組にはそれぞれ別のチェックポイントを設定している。これはあくまで試験の公平性を担保するための措置だ。ルートによる有利不利はないのでそこは安心してほしい」


なるほど。各組が互いに協力したり援護したりすることを防ぐための措置か。徹底しているな。


「更に各組は一時間ごと時間を空けてスタートしてもらう。最初は真木・椎野組、次に羽佐間・巽組、最後が時東・月見里組。一組目のスタートは今から三〇分後だ」


つまり僕らは今から二時間三〇分待たされるのか? う~ん、一旦レストルームに戻って何か軽く胃にいれておいた方がいいかな。


「最後に、試験中は安全確保の為に監督役が君たちに同行する」


教官がそう告げると、彼の横に立っていた三人の正隊員が軽く手を挙げる。その中にはあの木月さんも含まれていた。


「同行するといっても、監督役には直接試験に影響を及ぼさないよう君たちとは距離をとって追跡してもらう。場合によってははぐれたり救援が間に合わない可能性もあるので、決して油断することなく、警備隊員として相応しい行動を心掛けてほしい──説明は以上だ。それでは一旦この場は解散する。各組、試験開始十五分前までに改めてこの場に集合してくれ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「時東さん、カロリーメイトだけで良かったんですか?」

「うん。あんまり食べると動けなくなっちゃうからね~」


試験が始まるまでの間、売店で軽食を購入し、レストルームで時東さんと二人で時間を潰す。


他の組とは開始時間が違うので別行動、巽と羽佐間さんも少し離れた席で打ち合わせをしていた。


「てゆーか、月見里くんは見た目の割に結構食べるんだね~」

「? そうですかね」


僕はテーブルの上に並べたギガ盛りパスタの蓋をあけながら首を傾げた。


どうせ二時間もあれば胃の中の物は消化されるだろうし、腹具合は気にせずしっかり食べておいたほうがいいと思う。


また確かに僕はヒョロガリで元々かなり小食な方だったが、警備隊での生活は運動量──消費カロリーが違うのでそんなことは言っていられない。とにかく食べられるだけ食べておかなければドンドン体重が落ちてしまうため、自然と食事量は増えた。


ダイエット云々は気にする必要のない環境だし、個人的には女性陣ももっと食べるべきだと思う。僕はデザート代わりに買っていた『ギガあんこホイップドーナッツ』の包みをそっと時東さんの前に差し出し──


「よければどう──」

「要らない。マジで要らない」

「──……」


最後まで言うことも出来ず食い気味に拒否され、僕はそっとドーナッツを手元に戻すと無言でパスタを食べ始めた。


「…………」

「…………」


しばし互いに無言で食事。僕は食べながら『打ち合わせはもう事前に済ませてあるし、二時間もやることないな~』とこの後の時間を二人でどう潰せばいいか困っていた。


出来るだけゆっくり、下品にならないようパスタを食べていると、先にカロリーメイトを食べ終えた時東さんが僕から視線を逸らしたままポツリと呟く。


「……ごめんね」

「え?」


何を言われたのか分からず──いや聞き間違いかと思って聞き返す。


キョトンと目を瞬かせる僕に、時東さんは少し言い辛そうにまごつき、そして──


「だから、あたしの──」

「お、いたいた」


しかし彼女の言葉は、近づいてきた木月さんによって遮られる。


木月さんはその場に流れる微妙な空気に気づいて首を傾げた。


「ん? ひょっとして打ち合わせ中だったか?」

「──いえ、大丈夫です。それより、何かありました?」


切り替えて笑顔を浮かべる時東さんを見て、彼は自分の用件を口にする。


「いや、大したことじゃないんだが、今日の試験、お前らの担当は俺だから。一応よろしく言っとこうと思ってな」

「そうなんですか? こちらこそよろしくお願いします」


頭を下げる僕に木月さんはよせよせと苦笑した。


「俺は隠れてついて行くだけから、基本何をしてやれるわけでもないんだけどな」


そして木月さんは周囲を見回し、わざとらしく声を潜めて付け加えた。


「……実はコバさんたちと賭けをしててな。俺はお前らが受かる方に賭けた」

『────』

「だから手助けはしてやれないけど、応援してるってのは嘘じゃない。頑張ってくれよ」


彼はそう言って僕の肩を叩き、こちらの返事を待つことなくその場を後にした。


『…………』


賭けときたか。何というか、これはまた分かりやすい──


「…………ごめんね」


木月さんの姿を見送って、再び時東さんが先ほどと同じ言葉を申し訳なさそうに繰り返す。


「多分、あたしが巻き込んじゃったんだよねぇ……」

「…………」


流石に僕もここまできて彼女が言わんとすることを理解できないほど鈍くはない。


恐らく今回試験を受ける三組の中で僕たちだけが合格を期待されていない。上から昇格してくれとこの話を持ち掛けられたにも関わらず、その合否が賭けの対象になってしまうなど本来あり得ないことだ。


「ほら、元々四人の中であたしが足引っ張ってたとこあるし、あたしが抜けて巽くんが入ればバランスも良くなるじゃない? 多分、上の人たちも色々気を遣って、あたしを傷つけないようにって月見里くんを巻き込んだんじゃないかなって……」


その言葉通り彼女たちのパーティーで一番実力が劣っているのは時東さんだ。そして同時に彼女は貴重な外れ者──特殊能力者であり、上からすれば下手に戦闘員として使うより、研究面で協力させた方がメリットがあると考えている可能性が高い。


だが単純に命令で彼女をパーティーから引き離せば、他のメンバーから反発があるのは目に見えている。


だから上は僕と巽をそこに巻き込み、昇格試験の合否を利用して時東さんをパーティーから外そうとした──そう、彼女は考えている。


僕もその予想は正しいと思うが、巻き込んでしまったというのはどうだろう?


僕と巽は開発室に協力しているが、巽は僕が引き込んだだけで、戦闘員として優秀な巽にそれをさせるのは客観的に見て無駄が多い。


今回の一件、上が巽と時東さんの立場を入れ替えれば丁度いいと考えた結果だとすれば、僕が巽という駒を浮かせてしまったことで時東さんたちを巻き込んでしまったとも言える。


「タハハ……」


だがそれを目の前で申し訳なさそうに苦笑する時東さんに言ったところで意味はあるまい。


僕個人に関して言えば実力が足りないのは事実。巽が先に行こうが時東さんと入れ替わろうがこれっぽっちも困らないのだが──


「ふむん──」


置いていたプラステックフォークを握りなおす。


──ガツガツ、モグモグ、モシャモシャ──


「え? 月見里くん……?」


突然ものすごい勢いでギガ盛りパスタを口の中に詰め込み始めた僕に、時東さんが目を白黒させた。


僕はそれを無視して──というか口の中がいっぱいで答えられない──リスのように頬を膨らませて咀嚼したパスタの上からギガあんこホイップドーナッツを押し込み、それをエナジードリンクで胃の中に流し込む。


──ゴクゴクゴク……


「…………!」


そのカロリーと血糖値の暴挙を信じられないようなものを見るような目で見つめる時東さん。


「──ふぅ。時東さん、ちょっと追加で準備しましょう」

「え? 準備って……?」

「取り敢えず、その服脱いでください」

「…………は?」


僕は目を丸くする時東さんの手を引いて席を立つ。


「え? ちょ、ちょっと待って!? 試験前に一体何を──!?」


時東さんが顔を真っ赤にして何か言っているが無視。


別に上に舐められたところで困りはしないが、都合よくコントロールできると思われるのも面白くない。


一発ぶちかましてやろう、と僕は決意した。

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