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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第一部

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19/50

第19話~課題~

今すぐ正隊員になりたいと思っていたわけでも、なる必要性を感じていたわけでもないが、上から昇格試験を受けろと言われて断るのは中々難しい。しかも事前にしっかりと外堀を埋められていたなら猶更だ。


巽に視線を向けると彼も特に異存はないという風に頷きを返してきた。


「……分かりました。試験を受けさせてもらいます」

「お、そうか。無理を言ってすまんね」


全く悪いと思っていない様子の小早川本部長補佐に僕は質問を続けた。


「いえ。それより昇格試験の日程や内容はどうなるんでしょう?」


僕の言葉に椎野さんたち女性陣も「確かに」と頷く。


僕らは正隊員に昇格するための試験がどんなものか何も知らなかった。


いや何も知らないと言うと試験内容が秘匿されているようで少し語弊があるか。正確には過去の試験内容は人伝に聞いて把握しているが、その内容は人それぞれ全くバラバラで統一性がないのだ。


これは受験生に合わせて試験内容をカスタマイズしているというより、まだ統一した基準を設けることが出来ていないというのが正確なところらしい。能力テストの延長のような形での試験もあれば、ダンジョン内で時間内に規定数のクリーチャーを討伐するタイムトライアル方式の試験もあったり、最初期の頃は教官の一存で正隊員資格を与えられたケースさえあったのだとか。今はまだどんな形がいいかを色々と試している時期なのだろう。


どうせ受けるならしっかり合格したいし、試験対策をする時間ぐらいは欲しいところだが……


「試験については三日後の土曜日。試験内容は三時間以内にダンジョン第三層のセーフティーポイントに到達することだ」

『…………』


小早川さんの言葉に、僕らは思わず拍子抜けした表情になる。


第三層のセーフティーポイントとは第四層に下りるゲートポイント近くにあるクリーチャーの出現率が低い安全地帯。要はダンジョン第三層までを踏破しろ、という試験だ。


勿論、今まで僕らが練習がてら潜っていた第一層と比比べれば、第二、第三層のクリーチャーはかなり強い。だがそれでも本格的な強敵が現れるのは第五層からで、第三層まではパーティー単位で行動すれば然程怖い場所ではないと聞いている。


また第五層までのルートは既に開拓しつくされ警備隊のデータベースでも公開されており、三時間という時間制限が特に問題になるとも思えない。


つまり今回は本当に合格させるための試験ということか──そう僕らが気を緩めたタイミングを見計ったかのように、小早川さんはニヤリと笑って付け加えた。


「ただし、今回の試験はパーティー単位ではなく二人一組で受験してもらう」

『え?』

「組み合わせは既にこちらで決めてある。一組目、真木隊員と椎野隊員。二組目、羽佐間隊員と巽隊員。三組目、時東隊員と月見里隊員。その他の細かなスケジュールや注意事項などは後からメールで連絡させてもらう。以上、合格目指して励んでほしい」


え……この組み合わせって……?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「どう思った?」


試験日程と内容を伝えられ解散とした後、試験を受けるコンビ同士で打ち合わせぐらいはしておこうかと、一同は二人ずつ三組に分かれて行動する。


巽と羽佐間の二人は本部内のレストスペースに移動。ドリンクを買って席に付き、第一声羽佐間の口から飛び出したのが先の言葉だった。


羽佐間は椎野のパーティーメンバーの中では一番口数が少なく社交性も低い。巽はあまり彼女のことを理解しているわけではなかったが、それでも問いかけの意味は明白だった。


「多分、三組それぞれ別の課題を与えられたってことじゃないっスか」

「…………」


羽佐間は巽の答えに無言でジッと彼の顔を見つめる。


これは不同意ということではなく、互いの認識に差異がないことを確認する為、考えていることを全て吐き出せという意味だろう──そう解釈した巽は、淡々と自分の推論を口にする。


「単に試験の難度を調整することが目的なら、俺らとそっちのパーティーを交ぜる必要はないです。組み合わせのバランスの悪さを考えても、上は何らかの意図をもってコンビを組ませたと見るべきでしょ」

「……うん。そこまでは私も同意見」


特に二人が引っかかっているのは組み分けのバランスの悪さだ。個別に見れば悪い組み合わせとも言い切れないが、全体を俯瞰すると悪意めいた意図を感じざるを得ない。


「じゃあ、仮にその意図が私たちへの課題だとしたら、それは何だと思う?」


俺にばっか喋らせんなよ──巽はそう思いはしたが、羽佐間の方が歳上ということもあり、文句は言わず素直に自分の意見を口にする。


「俺らに関しては特にないんじゃないですか? 強いて言うなら普段あんまり組んでない人間同士でもちゃんと連携が取れるかの確認ぐらいで、上も特に落とすつもりはないんでしょう」

「…………(コクリ)」


二人は気負うことなく自分たちに課題はない──普通にやれば受かる試験だとの考えで一致する。


それは過信でも何でもなく自分たちの実力と役割を踏まえた純然たる事実だった。


まず巽は元々の身体能力とセンスもあり、既に訓練生という枠組みの中では頭一つ抜けた戦闘力を有している。実は今回の話を聞く前から彼には個別に昇格試験を受けないかという誘いが何度もあり、周囲からは試験を受けさえすれば絶対に昇格できると太鼓判を押されていた。


一方の羽佐間は戦闘能力こそ凡庸だが、警備隊内でも稀少な斥候役。堅実で落ち着いた仕事ぶりは上からの評価も高く、早く昇格して本格的な探索活動に参加して欲しいと期待されていた。


訓練生としては随一の戦闘能力と斥候能力の組み合わせは鉄板で、これで落ちる方が難しいというのが二人の認識。


だが逆に、自分たちの組み合わせが恵まれ過ぎているからこそ、他二組に対しては疑問と不安がある。


「椎野さんと真木さんの課題は……決定力不足かな? このままガールズパーティーを組んでやってくつもりなら、下層でもやってけるだけの力を示せってとこでしょ」


巽の言葉に、羽佐間は少し苦い顔をしながらも小さく頷き同意する。


元々椎野たちのパーティーはメインウェポンは銃器で、その戦闘スタイルは距離を維持しながらの射撃戦。しかし現状、警備隊の銃器は下層の強力なクリーチャー相手には威力不足で、そのことは先日の鵺との遭遇戦で彼女たちも痛感する結果となっていた。


椎野と真木の二人はその決定力不足を補うため、あれ以来近接武器の技術習得を目指して訓練を積んでいた。恐らく上は今回の試験でそれが実戦で使えるレベルに達したかどうかを確認したいのだろう。


「二人とも頑張ってた。そこはきっと大丈夫だと思う」

「……そっスね」


羽佐間の希望的観測に、巽は特に否定することなく同意を返す。


彼は『頑張った』とか『一生懸命』とか具体性のない努力を嫌っていたが、椎野と真木の技量については概ね把握している。まだぎこちない部分はあり、実戦となると多少の不安はあるが、まぁ多分大丈夫だろうと思っていた。


問題は最後の一組だ。


「問題は月見里と時東さんのとこでしょ。あの二人の課題は何ていうか……」


月見里はともかく、先輩にあたる時東についてそのようなことを言っていいものか、巽は言葉に詰まる。


彼の逡巡を察して、羽佐間は端的に二人の課題──いや問題を口にした。


「──地力不足」

「……ま、そっスね」


巽たちの見る限り、月見里と時東の二人の技量は今回昇格試験を受ける六人の中でも低く、その地力は正隊員となるべき水準に達していなかった。


とは言え、これは二人が特別劣っているとか怠けているとかそんな話ではない。


月見里の場合はまだ入隊して一か月ちょっと。彼は元々体力不足気味で、スタート時点で他の同期たちに後れを取っていた。本人の努力もあり大分追いついてきたとはいえ、一か月で正隊員に上がれる者は隊員の中でもごく一部。彼はまだそこまでの水準には達していない。


一方、時東に関しては椎野たちと同期で巽や月見里より一か月先輩。正隊員昇格試験を受けてもおかしくない時期ではあったが、彼女の場合は『リング』の影響で『外れ者』となり、特殊な共感覚を発現してしまったことが足を引っ張っていた。彼女は共感覚の発現当初は制御のための訓練や検査に時間を費やさざるを得ず、思うように通常の訓練に時間を割くことができなかった。その為、地力においてはどうしても椎野や真木と比べて一段劣ってしまっている。


そんな地力の劣った二人を敢えて組ませ、試験を受けさせる意図。それは──


「……上は、二人を落とすつもりなのかな?」


羽佐間の言葉を巽は肯定も否定もしなかった。


もし先ほど、月見里と時東以外の四人だけ昇格試験を受けるよう上から言われていたら、恐らく巽も羽佐間たちも断っていただろう。上に行くなら相棒と、あるいはこのパーティーで、との想いは彼らにも当然にあった。


穿った見方をするならば、上は巽たちに昇格試験を受けさせるため、敢えて水準に達していない二人にも試験を受けさせ、そして落とすつもりだということになる。


今更この組み合わせはおかしいと抗議しようにも、それは月見里と時東を貶すことになりかねないため難しい。


考えれば考えるほど月見里と時東が試験に落ちることが既定路線に思えてくる、が──


「ま、そんな心配しなくても大丈夫でしょう。多分、あのコンビは受かりますよ」

「……何でそう思うの?」


適当なことを言っていると思ったのだろう。羽佐間が眉を顰めて不審そうに尋ねる。


だが巽は適当を言ったつもりはなかった。悠然と肩を竦めてそれに答える。


「俺の知ってる月見里って男はやる時はやる男なんで。あいつが本気になれば、この程度の用意された試験を突破できない筈がありませんて」

「…………」


──ま、問題は本気になってくれるか、ってとこなんだけど……


巽は敢えて目の前の少女を不安にさせることもあるまいと、内心の懸念を押し隠して自信満々に微笑んだ。

【登場人物⑤】

時東ときとう つぐみ

女、16歳(高校1年生)、11月23日生まれ

145cm、●●kg


<能力評価>

魔力  6

筋力  3

耐久  3

技量  5

機動  4

知覚  5

射程  4

特殊  7

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