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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第一部

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18/50

第18話~進歩~

「へぇ~、僕は用事があってオリエンテーションは見れなかったんだけど、そんなイキの良い新人が入ってきたんだ?」

「イキが良いなんてもんじゃないわよ。もう凄かったんだから」


ダンジョン第一層。ダンジョン内での活動にも慣れてきた僕は、今日は椎野さんと二人で定例となった駆除任務を請け負っていた。


巽や椎野さんのパーティーメンバーは別件で不在だが、第一層程度なら二人いれば活動には特に支障はない。


勿論、鵺に襲われるというイレギュラーがあったばかりなので決して油断はしておらず、何かあればすぐにダンジョンから撤退できるよう行動範囲を絞り、いつでも救援を呼べるよう万全の備えをした上での活動だ。


「『俺がダンジョンを攻略してこの世界を救ってやる!』──ですって」

「うわ、キツ──って、やる気があるのはいいことだし、そんな風に言うのは良くないか……ちなみに歳は?」

「私たちの一個上」

「来年高校生? やっぱキツゥ」

「アハハ、やっぱりそう思うよね~」


長時間のダンジョン活動、緊張しっぱなしでは良いパフォーマンスは発揮できない。僕らは油断なく周囲に気を配りながら、気を張り過ぎないよう雑談を交わす。


今話題に出していたのは昨日の入隊オリエンテーションでの出来事。僕は式の後片付けなど裏方に回っていてオリエンテーションの様子は見ていないが、そちらの補助に回っていた椎野さんから一風変わった新入隊員についての話を聞いていた。


「まぁ言動はちょっとアレだったけど、才能は有りそうだったわよ? 手加減してたとは言え巽くんとそこそこ打ち合えてたし」

「へぇ~、そりゃ中々──って、待って。何でソイツと巽が打ち合ってるのさ?」

「演武に乱入して巽くんに殴りかかってきたから」

「はぁ? ガチの問題児じゃん」

「そうよね~。しかもその後直ぐに早瀬丸さんに叩きのめされてたし」

「ピエロだ」

「いやいや、圧倒的な実力差を見せつけられた直後にさっきの『世界を救ってやる』発言よ。バカもあそこまで突き抜けてたらちょっと有りかもって皆少し感心してたわ。絶対にお近づきにはなりたくないけど、遠くで見てる分には面白いかもね」

「そういうのって遠くで見てても、ってパターンじゃ──っと、いたよ」


一〇〇メートルほど離れた場所に全身に鱗を纏った魚人のようなクリーチャーを発見し、椎野さんに注意を促す。


初めて見るタイプのクリーチャーで、第一層に出現する敵としては頑丈そうだ。


敵も僕らに気づいたようだが、この距離から普通にライフルで攻撃すれば接近される前に余裕をもって削り切れるだろう。僕は背負ったライフルを構えて敵に照準を合わせ──


「──ね、ちょうど手頃そうな相手だし、試していい?」


椎野さんが武器の柄に手をかけ、ねだるようにそんなことを言う。僕はこちらに突進してくる魚人にチラと視線をやり、頷きを返した。


「……どうぞ。援護は必要?」

「実戦は初めてだから、足止めだけお願いできる?」

「了解」


そうやり取りを交わして椎野さんは魚人に向かって突進していく。


僕は誤射しないよう時計回りに移動して射線を確保。ライフルの切り替え装置を操作し、魚人と椎野さんの距離が一〇メートルほどに近づいたタイミングを見計って引き金を引いた──僕の放った弾丸は魚人の足元に着弾。


──ドォン!!


着弾と同時に爆発。魚人の足元の地面が抉られ、衝撃と熱風がその鱗を焼いた。


『!?』


ダメージは広く浅く、硬い鱗を貫くほどではない──が、衝撃と驚きで魚人の動きが止まる。


「ハァァァァァッ!!!」


──斬ッ!!


そこに椎野さんの振るった薙刀が弧を描き、刃は魚人の胴体を誤ることなく袈裟切りにした。




「う~ん……」

「どうかした?」


一撃で魚人を仕留めたにも関わらず、少し不満そうな様子の椎野さんに近寄って声をかける。


「あ、うん。ちょっとね……」


言葉を濁されるが、僕の援護に不備でもあっただろうか?


そんな僕の反応に気づいて、椎野さんは慌てて手を横に振って否定する。


「別に月見里くんの援護が不満とかじゃないからね? タイミングも狙いもばっちりだったし。ただ──」

「ただ?」

「もし援護がなかったら、今みたいに動く相手に上手く間合いを合わせられたかな~って──対人とは少し勝手が違うから、もう少し練習が必要だなって反省してたのよ」

「……なるほど」


一月足らずで近接武器を実戦で使えるレベルに持ってきたのだから十分な成果だろうに、真面目なことだと感心する


先月の鵺との戦いを経験して力不足を痛感した椎野さんたちは、現在戦力拡充を目指して各々課題に取り組んでいた。椎野さんの課題は近接武器の習熟。今まで射撃メインだったパーティーの攻撃力を補おうという試みだ。


高速で動き回る敵を長柄武器の先端で正確にとらえるのは意外に難しく、人間とは癖の違うクリーチャーの動きに椎野さんは少し戸惑っている様子だ。とは言え、その辺りは実戦経験を積んで慣れていくしかないし、周りがしっかり援護していけばいいだけ。それほど気にする必要はないだろう。


椎野さんは暫くブツブツ言いながらその場で薙刀を振り、自分の動きの課題を整理。そして反省が終わると改めて僕に感謝を伝えてきた。


「──あ、援護ありがとね?」

「どういたしまして」

「やっぱり便利だよね、炸裂弾。攻撃範囲が広いから外れがないし、思ったよりずっと援護向きだわ」


椎野さんが口にした炸裂弾とは先ほど僕が足止めの為に放った弾丸。僕と巽が開発室に出入りするようになって得た二つの成果の内の一つだ。


その効果は名前の通り、着弾した瞬間に破裂して広範囲に爆発を引き起こすというもの。通常弾と比べて攻撃範囲が広く回避が困難という利点がある一方、貫通力がないため直接的な殺傷力に欠け、しかも魔力消費が多いという欠点がある。


またこの炸裂弾を標準装備とするには現時点ではもう一つ課題があり──


「私も使えるように練習した方がいいかしら?」

「どうだろ? 無駄とは言わないけど、もう少し待ってくれれば改良して誰でも使えるようになると思うし、わざわざ今練習する必要はないんじゃないかな」


現状、炸裂弾を安定して使用する為には、体外魔力操作の技術習得が必要となっている。


炸裂弾はその性質上、発射の瞬間に手元で破裂したりしないよう厚めに弾丸がコーティングされているのだが、安全マージンを取ってしっかりコーティングしていると着弾しても爆発せず、威力の低い通常弾のようになってしまうことがままあった。


開発室でもその辺りは調整を試みているが、使用者の魔力量に合わせて上手く火薬部分と推進剤、コーティング部分のバランスをとる必要があり、今のところ中々効果が安定していなかった。


僕の場合は体外魔力操作で直接起爆することでその問題を解消しているが、炸裂弾を広く警備隊全体で使えるようにするにはもう少し時間が必要だろう。


「ま、それもそっか。私の薙刀も中途半端だし、手を広げすぎるのも良くないわよね」

「だね。ま、焦ってもいいことないし、じっくりやってけばいいんじゃない」


ゆっくり実力をつけ、上を目指していけばいいい。その時僕らは、そんな風に考えていたのだ、が──


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「君たち、正隊員への昇格試験を受けてみないか?」

『…………』


ダンジョンからの帰還後、僕らは教官室に呼び出され突然そんなことを告げられた。


その場には僕と椎野さんだけでなく、巽と真木さんたち椎野さんのパーティーメンバーも集められている。


「いや、この言い方は良くないな──昇格試験を受けて欲しい」


言いなおしたのは本部長補佐の小早川さん。入隊試験の際に僕を警備隊に勧誘してきた人物で、後から聞いた話だが組織内では結構なエリートらしい。


この場には木月さんも同席していて、彼はいつも通り感情の読めない表情で僕らを見つめている。


『…………』


僕らは互いに顔を見合わせ、誰が口を開いたものか押し付け合う。


最初に口を開いたのは最年長の真木さんだ。


「……確認ですけど、昇格試験の受験は任意ですよね?」

「うん。今のところはそうだな」

「今のところ?」

「いつまでも上に行く見込みのないものにコストをかけるわけにもいかないだろう? 将来的には──例えば一定の年齢までに昇格できなければ肩を叩くことも検討している」


まぁ、それはそうか。しかしそのことは今回の話とは関係がない。


「昇格試験に受からなければ除隊という話では──」

「勿論ない。これはあくまで提案で、試験に落ちた、あるいは受験しなかったからという理由で不利な扱いを受けることはないよ」

「ではどうして?」

「ふむ。おかしなことを聞くね? 優秀な人材に上を目指して欲しい──そこに理由が必要かい?」

『…………』


爽やかにそんなことをのたまう小早川さんに、僕らは再び顔を見合わせ胡散臭げな表情をした。


「……巽くんはともかくとして、私たちより優秀な訓練生は他にいくらでもいます。優秀かどうかが基準なら当然その人たちにも声をかけてるんですよね?」

「……ふむ。そこを突かれると困ったな」


言葉とは裏腹に全く困った様子のない表情で小早川さんが腕組みする。


その態度に僕らの視線が一層鋭さを増し──


「コバさん。こいつら相手に下手なごまかしは逆効果ですよ」


それまで黙っていた木月さんが穏やかな口調で割って入った。


「やっぱりそうかな?」

「ええ。こいつらは聡いし慎重だ。正直に事情を説明した方が話が早いと思いますよ」

「……木月さん?」


真木さんが説明を求めて木月さんに視線を向ける。彼は小早川さんに視線で許可をとり、説明を引き継いだ。


「今回、コバさんがお前らに昇格試験を受けるよう勧めたのは、実力が水準に達したと判断したからというのもあるが、どちらかと言えば政治的な意味合いが強い」

「政治的?」


その言葉に真木さんだけでなく女性陣の表情が歪む。


「……それはつまり、女でも戦えるってことを誰かに示せって意味ですか?」

「平たく言えばな。内にも外にも女性隊員の採用に懐疑的な人間は多い。正隊員が一人も出ていない現状じゃ余計にな」


木月さんの言いたいことは分かる。スポーツや格闘技の世界を見れば分かるように、基本的に身体能力において女性は男性と比べて劣っている。これは純然たる事実であり、生物としての向き不向きの問題だ。また女性は男性と比べ体調面など気を遣わなくてはならないことが多く、兵士として扱うには色々と難しい点がある。


そうした差異を踏まえた上で、貴重な育成リソースを割いて敢えて女性を採用する理由があるのかと疑問視する人間が出てくるのはごく自然なことだった。


『…………』


真木さんたちの不満や戸惑いを理解した上で、木月さんは言葉を続ける。


「採用しておいて今更言うなよ、って言いたい気持ちは分かる。お前らがしっかり実力をつけてから上を目指そうとしていることも理解してるし、俺たちもそれを無視するつもりはない。当然、正隊員になったからといっていきなりリスクの高い任務を割り振るようなことはしないと約束する」

「……つまり、あくまで正隊員の資格だけ早めにとってくれ、ってことですか?」

「そう理解してもらって構わない」

『…………』


真木さんたち女性陣が顔を見合わせ、『そういうことなら』と渋々ながら納得する様子を見せた、が──


「あの──!」

「ん? 何だ、月見里?」

「今の話は僕らには関係がないですよね? 巽はともかく僕は実力的にもまだまだ未熟ですし──」

「おい」


僕が巽を生贄にこの話から逃れようとしている気配を察して、巽が不満そうな声を出す。僕はそれを無視して話を続けようとしたが、木月さんがサラリと割って入る。


「悪いがお前たちも無関係じゃない。ただし真木たちとは別口──開発室の件でだ」

『?』


開発室? 何故そのことと正隊員昇格が関係するんだ?


「開発室に協力してる件でっていうなら、むしろ正隊員に昇格しない方がフリーに動けていいんじゃ……?」

「それはゼロから正隊員を引き抜いた場合だな。お前らは防衛任務に組み込まれるより先に開発室所属ってことになってるし、そもそも状況が変わったんだ」


状況が変わった? というか順番が何か関係があるのか?


先に開発室に所属していようがいまいが、人手不足だから正隊員になれば防衛任務に組み込まれて今みたいに自由には開発室に協力できなくなるんじゃ……?


「お前らが佐々木さんに協力して一月足らず。この短期間でお前らはしっかりと成果を挙げた。今更、貴重な正隊員を成果が上がるかどうかも分からない開発部門に回せないなんて言う奴はいないよ」


確かに成果が上がっている以上、このまま僕らが開発室の業務に注力しても文句は出ないのかもしれない。だがそれは、正隊員になって支障がない理由であって、ならなくてはいけない理由にはならないのではないか?


僕の内心の疑問に先回りして木月さんの説明は続いた。


「むしろお前たちには正隊員になってもらった方が都合がいいんだ。例えば例の炸裂弾。アレを正隊員が使えるように教導するとしたら、正隊員の肩書があった方が色々とやり易いだろう? 勿論それだけじゃなく、今後のことを考えて素早く成果物を組織全体に広めることができる体制を整えておきたいんだよ。当然このことは佐々木さんも同意済みだ」

「…………」


……まぁ、確かに。訓練生が正隊員にあれこれものを教えるのは正直やりづらいし、教わる側も抵抗があるだろう。


そういうことなら僕らに正隊員の資格を取らせたいという理屈は分からないでもないのだが……う~ん。


これ、絶対まだ何か裏があるよね?

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