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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら
第一部

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16/50

第16話~大人と子供~

「ひっ! や、やめ……!」

「…………」


その少年は正義の味方に憧れていた。


そこに特別な理由などはない。平均より少し恵まれた家庭環境と瑕疵のない健康的な肉体をもって生まれ順風満帆だった人生──そしてある日突然ふりかかった同級生たちからの理不尽な嫌がらせ。何故そうなってしまったのかは今でも分からないし、理由を求めることに恐らく意味はない。


珍しくもなんともない、手垢のついた普通の不幸だ。


少年はその境遇に耐えて家族の前で笑みを取り繕いながら、彼は心の奥底ではずっと理不尽を打ち砕く正義の味方が現れることを願っていた。


勿論、願うだけの行為に意味はない。


だが意味があろうとなかろうと、理不尽はある意味とても平等に、誰の下にも訪れる。


『────!?』


その日突然現れた化け物に蹂躙される家族と同級生を見つめながら、少年はあらゆる理不尽を打ち砕く正義の味方になりたい、と願った。


イジメられていたことも、化け物に全てを奪われたことも、この世界ではごくあり触れた出来事でしかない。


そしてそんな彼が理不尽に対抗する力を求めてダンジョン警備隊に入隊したこともまた、あり触れた出来事だった。


今度こそ何者にも屈しないし、奪わせない。少年は希望と熱意をもって訓練に取り組んだ。


彼にとって不幸だったのは、彼には彼自身が期待するほどには戦士としての才能がなかったこと。そして周囲には眩いばかりの才能の原石がゴロゴロと転がっていたことだ。


警備隊の中で思うように結果が出せず、鬱屈した想いを抱えて過ごす日々。


気分転換にと目的もなく街をぶらついていたその日、少年は『悪』に出会った。




「何だよ……何なんだよお前は……っ!?」


男は突然自分たちを襲った理不尽に、無意味と分かっていながら怒りの声を上げた。


男はその日いつものように仲間たちとコンビニの駐車場でたむろして酒を飲んでいた。そしてそろそろ懐が寂しくなってきたので適当なカモがいないかと探していた折、そのガキは向こうから近づいてきた。


社会勉強をさせてやろう。男たちは親切心のつもりでガキを人気のない場所に連れ込んだ。


「何でこんな──俺らがお前に何したって言うんだよ!?」


男は自分たちを襲った突然の暴力を非難した。


仲間たちは男を除き全員が地面に倒れ伏している。殴られて気絶している者もいれば、激痛で意識を失うことも出来ず脂汗を流して呻いている者もいた。


何て理不尽で酷い行為だろう。自分たちはまだ何もしていないのに。なのにこんな──


「何とか言えよっ!? 俺らにこんなことしてただで済むと思ってんのか! 俺は東部連合のアキくんの知り合いなん──ガハッ!!?」


鳩尾を殴られ、男の口からアルコール混じりの胃液がこぼれた。自分たちより遥かに小柄なガキから放たれたとは思えない強烈なパンチ。しかし暴力はそれだけに留まらず、男は地面に突っ伏したところを何度も何度も執拗に踏みつけられた。


「や、やめて……やめ、て、くだ──ゲフッ!?」


脅しても懇願しても一方的な暴力は止まない。


何故自分がこんな理不尽な目に遭わなくてはならないのか?──そんな想いが表情に出ていたのだろう。その少年は冷たく押し殺すような声でこう告げた。


「……お前らが、普段やってることだろうが」

「え──」


何か言おうとした男の顔面に靴の底が叩きつけられ、タバコの火を消すように執拗に踏みにじられる。


暴力は男たちの意識が完全に断たれた後も続けられた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あ~あ、また派手にやりやがって」

「っ!?」


背後から突然聞こえてきた声に、少年はゴロツキたちを蹴りつける足を止めてハッと振り向いた。


「そいつら生きてるよな? 死んでたら後始末がめんどい所の騒ぎじゃねぇんだけど……」


ダンジョン警備隊の制服を着た若い職員たちが四人。先頭のリーダー格と思しき男は地面に転がるゴロツキたちの死屍累々たる有様に面倒くさそうに頭を掻く。


──マズい!!


少年は咄嗟にその場から逃げ出そうと足に力を籠め──


「動くな、神戸かんべ大河たいが

「!」


その職員たちに少年──神戸大河は自分の素性がバレていることを理解して身体を硬直させた。


「逃げても無駄だぞ。お前が夜ごと街に繰り出してゴロツキ狩りをしてたことは分かってる。今更誤魔化せると思うな」

「…………」


ジリジリと距離を取ろうとする神戸に、職員は冷たく告げる。


「入隊した時に『リング』の位置情報はこっちで常に把握してるって説明したろ。証拠は全部揃ってる」


聞いてはいた。だがそれはあくまで紛失や逃亡した際の措置だと自分に都合よく解釈していた。


「隊長──」


部下からゴロツキたちが全員命に別状はないとの報告を受け、リーダー格の職員はホッと胸を撫で下ろして神戸に向き直る。


「死人が出なかったのは不幸中の幸いだが、『リング』を使っての暴行は街中で銃を乱射するのと同レベルの重大犯罪だ。未成年だからで許されると思うな」

「────」


神戸が一歩後退る。


「動くな」

「!」

「警告は二度までだ。抵抗すれば罪はもっと重くなるぞ」


神戸に対し職員は、凶行に及んだ事情を聞くことも甘い言葉をかけることもなく、淡々と宣言する。


そして動きを止めた神戸に部下職員たちが拘束のため近づき──


「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」

『!?』


突然神戸がその場で叫んで腕を振り回し、部下職員たちは咄嗟に距離を取る。


しかし神戸は職員たちを攻撃することも逃げることもせず、ただ癇癪を起こしてリーダー格の職員を睨みつけた。


「お、俺は悪いことなんかしてない……! こいつらは何の罪もない人を食い物にするクズ野郎だ! 俺が手を下したのはそういうクズだけで──」

「──で?」

「!?」


冷たく、ただの一音で遮られ、神戸は言葉に詰まる。


「で? テメェが殴った連中がクズだから何だ? そのこととテメェが『リング』を無断使用したことと何の関係がある? まさかとは思うが、だから見逃してくれなんてズレたことほざくんじゃねぇだろうな?」

「…………」

「──ハッ、図星かよ」


リーダー格の職員は詰まらなそうに吐き捨てて続けた。


「正義の味方ごっこがやりたけりゃテメェの力でやれよ。ガタガタ言い訳してっけど、どうせ何時まで経っても正隊員になれない苛立ちを自分より弱い奴にぶつけてただけだろ」

「違う!!!」


神戸は自分でも驚くほどの大声で叫んでいた。彼の言葉は止まらない。


「俺は本気で正しいことをしようと思ったんだ!! この力は化け物たちと戦うだけじゃなく、もっと色んな──正義のために使うべきだ! 現にクズどもがいなくなって救われた人はたくさんいる! 俺がしたことで、喜んでくれた人たちがいたんだ!!」


神戸の脳裏に、街のあちこちにたむろして治安を悪くしていたゴロツキが少なくなり、嬉しそうに笑っていた街の人たちの姿が浮かぶ。


「僕は正義だ!!」

「そーだな」


神戸の叫びを、その職員は否定することなくアッサリと肯定した。


「お前は正しい、正義だよ」

「…………え?」

「何で驚いてんだよ?」


そのどこか突き放すような言葉に呆気にとられる神戸。職員は苦笑して、どうでも良さそうに続けた。


「知ってるか? 『正』って漢字は、元々征服するって意味の象形文字だったんだと。それが転じて勝った奴が正しいって言われるようになった。要するに正義ってのは勝者を正当化するための理屈だ」

「…………」

「だから神戸。お前に負けたその連中は『悪』で、勝ったお前が『正義』だ──お前は正しいよ」


言葉遊びに興味はない。お前が縋るものなど所詮その程度のものだ、と職員は言外に切り捨てる。


「ち、違っ! 俺は、そういうんじゃ……!」

「…………」


後退る神戸に、その職員はそれ以上何も言わず近づいていく。


「っ! く、来るな──」


追い詰められた神戸の顔が引きつり、そして──


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」


混乱がピークに達した神戸は職員に襲い掛かった。


正隊員にこそ成れていないが、自分は三か月間訓練を積んできた戦士だ。クリーチャー相手に何度も実戦を経験してきたし、子供に戦場を任せるしかない情けない大人が偉そうなことを言うな──そう、心の中で言い訳をして。


「────?」


しかし次の瞬間、神戸の身体は宙を舞って天地が逆転する。そして──


──ズドン!!


「っ!!?」

「──だから今ここじゃあ俺が正義だ。残念ながら、な」


神戸の胸部を強烈な衝撃が貫き、何が起きたのか分からぬまま彼の意識は闇に落ちた。




「本部に連絡して移送車を手配しろ。ついでに記憶処置の手配も忘れるな」


一般に魔力豊富で大人より優秀だと言われている警備隊の少年兵をアッサリと無力化し、そのことに何の感慨も抱くことなく職員は部下たちに指示を出す。そして部下たちも、それを当然のこととして受け入れていた。


少年兵たちの多くが誤解していることだが、魔力の少ない大人たちは対クリーチャー戦に不向きなだけで、対人戦においては少年兵より高い実力を持つ者も多くいる。彼らは継戦能力を度外視すれば、あるいは対クリーチャー戦においても少年兵に勝るかもしれない。


にも拘らず少年兵が『大人は弱い』と誤解しているのは、少年兵たちに自信を持たせ気持ちよく戦場に送り出すためだ。


だがそのことが結果的に緩みを生み、こうした子供たちの暴走を招いたのだから──


「隊長? どこかお怪我でも?」


苦い顔で空を見上げる上司に、部下の一人が先ほどの攻防でどこか痛めたのかと声をかける。


「いや、大丈夫だ」

「……そうですか?」


不審そうにこちらを見る部下に、男はほろ苦く笑って続けた。


「ホントに何でもねぇよ。ただ、ガキンチョに力を与えりゃこういう奴が出てくるのは最初から分かってた。それを分かった上でこいつらを利用しておきながら、俺はいったいどの面下げて説教してんだと思ってな」

「…………」

「記憶処置後の移送先はお前も気にかけておいてくれ。せめてこいつが、これ以上利用されないように、な」

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