第15話~外れ者~
「来週にはまた次の新入隊員が入ってくるんですよね? 今いる隊員を見ながら新入隊員を一から教育となると大変じゃないですか?」
「おいおい。こういう楽しい席で、あんまり気が重くなるようなことを言わないでくれよ」
お腹がある程度満ちてきて、僕はサイドメニューのチヂミをちびちび齧りながら木月さんに話題を振る。
少年兵のまとめ役を任されている彼は、僕の言葉に冗談か本気か分からない様子で苦笑いを浮かべた。
「まぁ、取りまとめといっても俺一人でやってるわけじゃないからあまり偉そうなことは言えないが、気を遣うのは確かだな。再来月までは今のまま毎月採用だし、正直少し気が重い」
「……来月までは?」
木月さんの言葉に気になる部分があったので問い返す。
「うん。正式発表はまだだが、新年度からは採用ペースを落として四半期採用に変更するそうだ。ある程度隊員の数も充足してきたし、今のままだと管理や教育もそうだが、設備や装備の供給が追い付かなくなるからな」
「へぇ~」
確かに一部の訓練施設は人がいっぱいで中々予約も取れない。正隊員の数はまだ足りていないし、必要な人員を満たしたとは言い難いが、受け入れ側の対応が間に合わなくなっているのは事実だろう。
「新入隊員の取りまとめって、実際どんなところに一番気を遣うんですか? やっぱり暴走して無茶しそうな奴か、それともゲーム感覚で危機感のない奴とか?」
同期でも既にやらかして除隊した奴はいるらしいが、僕はあまり横の繋がりがないので、そうしたヤバい連中とはあまり関りがない。管理者目線だとどんな問題児が多いのだろうと疑問を口にする。
僕の質問に木月さんは少し考えるように虚空を見上げて答えた。
「そうだなぁ……そのどっちのパターンも面倒は面倒だが、あまりに問題があるようなら行動制限をしてしまえばいいだけだからな。そういう連中が増えたからって直ぐに困ることはない。一番気を遣うのは『外れ者』の扱いだろうな」
「外れ者?」
聞き慣れない単語に、僕はハッとして問い返す。
「……まさか協調性のないボッチ──」
「違う違う。そうじゃないから安心しろ」
木月さんは苦笑しながらかぶりを横に振る。うん、それはいいけど『安心しろ』ってどういう意味かな?
「入隊した時に測定した能力評価に『特殊』って項目があっただろう? 外れ者っていうのは魔力と共に特殊能力に目覚めた人間、所謂異能者のことだよ」
「あ~、そういや何かそんな説明を聞いたような聞かなかったような……」
最初に能力測定をした時は同期全員「0」評価で、教官も『基本は「0」評価だから気にしなくていい』って言ってた気がする。
「確か『魔力を使っていく中で稀に身体機能の一部が強化されたり、特殊な感覚を得ることがある』でしたっけ?」
「正確には『今のところそう推測されている』だな」
木月さんは僕の解釈を微修正して説明を続ける。いつの間にか巽や椎野さんたちも雑談を止めて僕らの会話に耳を傾けていた。
「魔力と違ってそういう異能を持っているかどうかを判別する方法がある訳じゃないからな。本人に自覚のないケースも多いし、入隊時点じゃ取り敢えず無しと判定してるんだ」
「へぇ~。じゃあ、知らない間に僕もそういう特殊能力に目覚めてるかもしれないってことですか?」
「ないわけじゃない。──ま、今のところハッキリそうと分かってる人間は組織全体で一〇人足らずだ。可能性としては低いだろうな」
ふむ。既に除隊した人間含めて今のところダンジョン警備隊に入隊した少年兵は二〇〇人ちょっと。その中で一〇人未満ということは、確率としては五%弱ぐらいか? 低いは低いけど、全くないとも言えない微妙なラインだな。
これでも一応僕もオトコノコだ。そういう特殊能力とか、正直選ばれし者って感じで憧れる。気になって更に質問を重ねた。
「その異能だか特殊能力って、具体的にどんなものがあるんですか?」
「一言で言うのは難しいな……折角この場に『外れ者』がいるんだから、本人に直接聞いてみたらどうだ?」
「え? それって──」
言われて、僕と巽が視線を巡らせると、一人の女性が挙手してそれに答えた。
「あたしだね~」
「時東さんが?」
以前のトラブルの際、最初に鵺に襲われて重傷を負った二つ年上の先輩隊員。小柄で猫のような雰囲気を漂わせた、本当にどこにでもいそうな今時の女子高生だ。一体彼女のどこにそんな特殊能力が秘められているのだろう?
「ニャハハ、そんな見つめられると照れちゃうな~」
ついマジマジと時東さんを見てしまい、彼女は少し恥ずかしそうに苦笑する。
「あ、すいません。えと、時東さんの異能って具体的には?」
「私の異能は『味で相手の魔力量が分かる』ってもので、所謂共感覚の一種だね」
「?」
味で、魔力量が分かる?
「それって相手を食べるとか舐める的な──?」
「違う違う。そんなグロでもエロでもなくて相手を見るだけ。相手を見てると口の中にじんわり味が広がってきて、その魔力量が大体分かるんだよ。自分より魔力が小さかったら甘く、大きかったら苦く、って感じだね」
つまり一種の魔力測定器みたいなものか。僕らも何となく魔力を感じることは出来るが、その大小を測ることは難しい。警備隊本部には勿論測定器が存在するけれど、大型でとても持ち運びできるようなものではなかった。
「凄い便利じゃないですか!?」
『…………』
しかし僕の称賛の言葉に、時東さん含めた女性陣から返ってきた反応は『苦笑』だった。僕はその意味が分からず困惑する。
「えっと……?」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、正直この力ってあんまり使い道ないんだよね~」
「へ?」
使い道が、ない?
「だって、隊員の魔力量なんて元々分かってるんだから判別できても仕方ないし、クリーチャーだって階層ごとに大体魔力量や強さが仕分けされてるから、改めてその大小が分かったところで『だから何?』って感じでしょ?」
「それは……確かに」
「一応、稀少能力だってことで能力評価は『7』だけど、むしろデメリットの方が大きいんだよね。ほら、こんな風に誰かとおしゃべりしながら食事してると、味が混ざって楽しめないことがあるし」
苦い肉も甘いお肉も最悪、と苦笑する時東さんに、僕は「はぁ……」と曖昧に頷きを返すことしか出来なかった。
微妙な空気になり、助けを求めるように木月さんに視線を戻すと、彼は何事もなかったかのように話を続ける。
「ま、異能って言っても役に立つとは限らないし、本人にとっては厄介なだけのこともある。時東なんて最初の時は、何か病気じゃないかって怖がって泣いてたもんな?」
「も~、ばらさないで下さいよ!」
なるほど。確かに事前情報なく突然味覚異常を感じれば『リング』の副作用で身体に異常が出たのではと恐怖を感じるだろう。
木月さんが言う「外れ者が厄介」というのは、つまりそうした人たちへのフォローのことか?
「それに、異能についてはまだまだ分かってないことが多いからな。役に立たないとか不便って程度ならまだしも、周囲に有害な能力がないとも限らない──例えば他人を洗脳できてしまう、とかな」
「!」
「まぁ、それは極端な例にせよ、例えば巽が『透視能力』でも手に入れたら女子にとっては大問題だろう?」
「何で俺!?」
突然斜め後ろから狙撃されて巽が悲鳴を上げる。巽自身は何も悪くないのに突然女性陣からゴミを見るような目で見られて涙目だ──いや、流れ弾が怖いのでフォローはしないが。
「なるほど。異能っていっても、いいことばかりじゃないんですね」
「そうだな。将来的には何らかの形で組織に役立ていければいいんだが、残念ながら今のところは問題の方が目立ってしまっているのが実態だ」
シレッと話を本題に戻す僕と木月さんに、巽は自分に向けられた視線を逸らそうと強引に割り込んできた。
「そ、そうは言っても悪いことばかりじゃないでしょう!? ほら、早瀬丸さんとか異能を活かして活躍してるじゃないですか!」
「ああ。そう言えば、巽は早瀬丸に弟子入りしたんだってな」
え、何それ? 初耳なんだけど?
僕は本当なのかと巽に視線を向ける。
「言ってなかったか? この間、偶々訓練所で一緒になってさ。ダメもとで頼んでみたら、OKして貰えて──って、それより異能だよ。あの人の異能『完全自己制御』でしたっけ? あれのお陰で近接戦じゃ敵なしじゃないですか」
完全自己制御? いやなんか凄そうな名前だけど、どんな能力なんだ?
「俺も軽く説明を聞いただけで詳しいことは分かってないんだけど、本人曰く『行動判定で一〇〇%クリティカルを出せる能力』とかで、攻撃も回避も常に最高の結果を出し続けられる、みたいな?」
は? 冗談だろう? そんなエグイ能力実在する筈が──
「まぁ、大体その認識であってる。厳密には『イメージした結果の為に最善の行動をとり続けることが出来る』ってものらしいが、あいつは異能と戦闘スタイルが噛み合った稀有な例だよ」
「…………」
マジなんだ。うわー、完璧チートキャラじゃんか。そんな世界を救う主人公キャラみたいな人が──ああいや、そうじゃないのか。
「……扱いが難しそうな力ですね」
『?』
僕がポツリと漏らした言葉に、巽や椎野さんたちはキョトンとした表情になり、木月さんは「ほう?」と口元を吊り上げた。
「どうしてそう思うんだ?」
「最善の行動をとり続けられるってことは、逆に言えば最善の行動をとっても対処できない状況や敵に出くわしたら一溜りもないってことでしょう? でも対処できる相手には幾らでも無双できちゃうから、どこまで大丈夫なのかの判断が難しい。多分、上の人もどこまでその早瀬丸さんに頼っていいか悩んでるんじゃないですか? 万一のことがあれば組織として大損害でしょうし」
『…………』
僕の言葉に巽たちは考えてもみなかったという表情で黙り込み、木月さんは満足そうに大きく頷いた。
「その通りだ。そういう能力のある奴を早めに見極めて暴走しないようにコントロールするのも、俺の仕事の一つだな」




