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胃袋ダンジョン黎明期~現代ダンジョンはヤベー神様の腹の中~  作者: 廃くじら


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第13話~ブレード~

「銃器がショボいから、その改良やテコ入れを優先するって方針自体に異論はありませんけど、ブレード関係は何かないんですか?」


ポジション特攻アタッカー──近接武器を手に至近距離でクリーチャーと切り結ぶ役割を担う巽は、射撃武器の性能向上の必要性は認めつつも、自分たちには何かないのかと疑問を口にした。


その問いかけに佐々木室長は腕組みして困った表情をする。


「う~ん……」

「あ、俺も優先順位のことは分かるんで、無理に何か開発してくれってわけじゃ──」

「いやいや、そうじゃないんだ」


無理を言ったかなと自分の言葉を取り下げる巽に、佐々木室長はかぶりを横に振って続けた。


「ブレードで敵と切り結ぶ特攻は警備隊員の中でも一番危険なポジションだからね。君たちの為に何か支援したいという思いは当然僕にもあるんだ。ただ……」

「ただ?」

「実際問題、何をどうしてあげればいいのか分からなくてね」

『?』


佐々木室長が何を言いたいのか分からず、僕と巽は顔を見合わせる。


「逆に聞きたいんだけど、現場目線でブレードをどう改良したらいいと思う? どんな装備を開発して欲しい? 忌憚のない意見を教えて欲しいんだ」

『…………』


問われて、まず巽が口を開く。


「……ブレードの強度や切れ味は今のところ足りてますよね。もっと強い敵が出てくりゃどうか分かりませんけど、一応今のところは通用してる──となると後は間合いを詰めたり補うためのギミックっスかね?」

「その為に銃器を改良して援護能力を向上させようって話じゃないのか?」


僕の言葉に巽はかぶりを横に振る。


「援護もそうだけど、俺ら自身に間合いを補う何かがつけれないかって話だよ。いつでも連携して戦える状況ばっかじゃないだろうし、この間の鵺みたいに空を飛んでブレードが届かない場所から攻撃してくる奴がいたら厄介だろう?」

「確かにな」


僕は巽の意見に頷き、佐々木室長に視線を向ける。彼にとってその意見は予想の範疇だったのか、分かるよと言いたげに頷いて口を開いた。


「うんうん。間合いの短さはブレード──近接武器全般の課題だからね。そこをテコ入れしたいという発想は当然のものだし、実は僕らも以前取り組んだことがある」


ブレードは魔力の少ない大人であってもクリーチャーにダメージを与えられる武器だ。言われてみればこの武器の改良に彼らが取り組んでこなかった筈がない。にも関わらずこの状態ということはつまり──


「駄目だったんですか?」

「うん」


僕の言葉に佐々木室長は頷き、ほろ苦く笑った。


「結局、近接武器の間合いを広げる方法って二つしかないんだよ。何か分かるかな?」

「……伸ばすか飛ばす?」

「正解」


少し考えて答えた巽に、佐々木室長は遠い目をしながら続ける。


「最初は単純に武器を長くしてみた。昔の戦争で使ってた六メートルぐらいの長槍を作って密集陣形を組ませてみたんだ」

「結果は?」

「雑魚には通じたけど、ある程度以上の力を持った敵にはまとめて吹き飛ばされて終わり。長くした分魔力の通りが悪くなって武器の強度も落ちた。肝心の近接武器の強みが失われちゃったんだよね~」


なるほど、そうなるのか。素材の問題もあるだろうし人間相手の戦いとは違うな。


「瞬間的に刀身を伸ばしたりとかは出来ないんスか? 勝手なイメージだけど、一瞬伸ばすだけなら強度の問題も何とかなりそうだし、上手く行きそうな気がするんですけど」

「出来るし、実際に試してみた。巽君の言う通り、一瞬伸ばすだけなら強度の低下はカバーすることが出来た」


佐々木室長は巽の意見を肯定するが、しかしその口ぶり故に僕らは続く言葉に予想がついてしまった。


「何が駄目だったんスか?」

「……攻撃の瞬間にブレードを伸ばすとね、先端部分は速度が増して威力も上がるんだよ」

「いいことじゃ──あ」


巽が室長の言わんとすることに気づいて声を漏らす。


「そう。刀身の強度は維持できていた。だけど維持するだけじゃ、向上した威力には刀身が絶えられなかったんだよ」


なるほど。近接武器にはその威力に耐えられるだけの強度が必要になる。威力が増せば、その分だけ強度も向上させなければならない、ということか。


伸ばす案が駄目だと分かり、巽はもう一つの案を口にする。


「じゃあ、飛ばす方はどうなんです? 昔のアニメみたいに斬撃を飛ばすとかなら刀身の強度は関係ないですよね?」

「それもまぁ、一応形には出来たんだ。魔力で刀身を形成して、それを斬撃にあわせて切り離して飛ばすやり方ね」


へぇ、そんな男心くすぐるロマン武器が出来てたんだ。ただ僕らももうこの後の展開には予想がついている。


「──で、何が駄目だったんです?」

「斬撃を飛ばすってカッコよくはあったんだけど、要はそれって武器がすっぽ抜けて飛んでったみたいなものでしょ? 斬撃に力が乗らなくて全然威力が出なかったんだよ」


ああ、そうなるのか。要は握りの甘い斬撃みたいな感じで、力が伝わらずに弾かれてしまうわけだ。


佐々木室長の説明に、しかし巽は浪漫を諦められず食い下がる。


「じゃ、じゃあ、斬撃に魔力で指向性と推進力を与えれば──」

「それってつまり魔力ってリソースを威力や強度以外に分散させるってことだよね? それだったらもう『銃で良くない?』って話にならない?」

「──なる、ほど……」


構造がシンプルで威力と強度がある程度担保されているのが警備隊の近接武器の強みだ。その利点を捨ててまで間合いを求めるのは本末転倒という他ない。


飛ぶ──あるいは伸びる斬撃を却下され、ショックを受けて項垂れる巽を横目に、僕は思いついたことを口にしてみる。


「……逆に威力に全振りするようなことって出来ないんですか?」

「というと?」

「ほら、今の近接武器って高位のクリーチャーの肉や皮に弾かれない、ってだけで、防御の上からダメージを通せるようなものじゃないでしょう? 瞬間的に魔力を増幅するなりして、敵の防御ごとぶった切るようなことが出来たら面白いかな~って思ったんですけど」

「ふむ……」


僕の言葉に佐々木室長は少しだけ考える素振りを見せ、すぐに結論を出した。


「発想は面白いけど、実現は難しいだろうね」

「一応、理由を伺っても?」

「刀身に魔力を集めたところで、特別威力や切れ味が向上するわけじゃないんだ」


佐々木室長の説明はつまりこういうものだった。


クリーチャーに通常兵器が通じず、魔力を纏った攻撃だけが有効なのは、後者の方が威力が高いからではなく、魔力を纏った存在は魔力を持たない攻撃を無効化してしまう性質があるからなのだという。


つまり武器に纏わせた魔力は、敵が持つ特殊な防御を相殺するためのものであって、武器自体の攻撃力を劇的に高めるものではない。魔力を魔力で相殺すれば、後は基本的に物理法則の話。僕らの刃は鋼より柔らかな皮や肉には通じても、固い爪や鱗には弾かれてしまうのだそうだ。


「まぁ、『リング』で使用者の身体能力も強化されてるから、そこに技術を上乗せすれば斬鉄みたいなことも不可能じゃないけどね。単にブレードを強化して皆それが出来るようにってのは現実的じゃない」

「なるほど」


そう理論立てて説明されると頷くしかない。


結局、間合いも威力も今すぐどうこうするのは難しいようだ。というか、近接武器に頑丈でちゃんと敵を斬れる以上の何かを求めること自体が間違っている気がしてきたぞ。


「一応、間合いに関しては完全に諦めたわけじゃないけど、今すぐどうこうってのは難しいと思ってる。差し当たってどうにかしようと思えば、投擲用の武器で対応してもらうぐらいかな~」


投げ槍とかナイフとかか。運搬の問題はあるけど、数を用意すれば面白いかもしれない。


「それより僕が考えてるのは、武器そのものの強化より周辺装備の開発なんだよね。間合いを詰めるための機動力とか、防御面を補助する装備を別途用意した方が戦い方にあわせて組み合わせを変えたりできて面白いんじゃないかと思ってる」

「なるほど」


更に佐々木室長は、先ほどから項垂れている巽に向けて続けた。


「例えばブーツに魔力の足場を作る機能を持たせて鵺みたいな空中移動を可能にする、とかね? 上手く行けば移動速度の向上や三次元的な機動も実現できるかもしれない」

「!」


空中を自在に飛び回り敵を切り裂く自分の姿を想像したのだろう、巽の瞳に再び光が宿った。


「それいいですね! 最優先で開発しましょう!!」

「はは、落ち着いて。一足飛びにそれを開発するのは難しいよ」


グイグイと迫る巽を宥めながら、佐々木室長は続けた。


「まずはエネルギー効率の改善と、体外魔力操作技術の検証とそれを補助するシステムの開発。銃器の改良と併せてその部分を推し進めて、それからかな」


まだまだ開発は始まったばかりで先は長い──が、話を聞く限り彼の言葉は決してあてのない夢物語ではないようだ。

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