第12話~銃器~
「……分かりました。そういうことなら俺も協力しますよ。新しい装備ってのには興味ありますし」
「ホント!? いや~、助かるよ~」
一通り事情説明を受け、巽は僕と一緒に開発室に協力することを了承した。
巽の参加は必須ではないが、協力者が一人か二人かで実験の効率や幅はだいぶ変わってくる。スムーズに人手を確保できて佐々木室長はニコニコ顔だった。
その後、佐々木室長から巽に対して報酬など条件面に関する簡単な説明があったが、巽はそれを適当に流す。
「──細かい条件は月見里がチェックしてるだろうし、その辺はいいですよ。それより具体的に新装備の開発ってのは何時からどんな風に取り掛かるんですか? もう何かアイデアがあってそれを試せばいいのか、それともアイデア出しのところから参加しろって話なのか……」
やると決まると早速前のめりに意欲を示す巽。
「やる気があって頼もしいね~。試してもらいたいアイデアはいくらでもあるし、使用者目線のアイデアがあれば是非積極的に言っていって欲しい──だけど、実は今は新装備より先に最優先で取り組まなくちゃならないことがあってね。二人にはまずそっちに協力して欲しいんだ~」
おや、これは初耳。
「具体的には何を?」
「既存装備の改良だよ」
『ああ……』
その回答に僕と巽は異口同音に納得の声を漏らす。
「その反応を見る限り君たちも感じてたんだろうけど、今ウチで使われてる装備──特に武器はとても原始的で性能が低い。君たち若者の豊富な魔力で辛うじて体裁は保っているけど、威力、効率、耐久性、拡張性、どれをとっても高位のクリーチャーとやり合うには足りないところが多すぎる。いや、製作者としては恥ずかしい限りだけどね」
言葉通り恥ずかしそうに頭をかく佐々木室長。ただその言葉には疑問もある。
「一つ、質問なんですけど」
「何だい?」
「今のままじゃ高位のクリーチャーに通じないってのはその通りだと思います。ただそれに関しては今まで僕ら『そんなもん』だと思ってて──それって装備の問題なんですか?」
警備隊で使用している装備が良いとは言わないが、人間が高位のクリーチャーに敵わないのは当たり前のことだ。少なくとも僕や多くの人間はそう認識している。
高位のクリーチャーに通じないからといって、既存装備の性能が低いと断じるのは少し論理が飛躍し過ぎているように思えた。
「僕らもつい最近までそういう認識だった。そもそも人間が弱いんだから通じなくても仕方ない。武器や装備の問題じゃあない、ってね」
「……でも、そうじゃなかった、と?」
「うん。君たち若者っていう使い手を得て、ようやくそのことに気づかされた」
そう語る佐々木室長の表情は、自嘲混じりに歪んでいた。
「大人は魔力が少ない。だから当時は装備の性能を引き出せなくても仕方がないと、そう思われていた。だけど魔力の多い若者が使っても威力や耐久性に大きな差は出なかったんだ。勿論、継戦能力とか総合的な戦闘能力は雲泥の差だったから君たち若者の方が向いているってことは間違いない。だけど当初期待していたほどの差は出なかった。そこでようやく僕らは、自分たちが使ってる装備に大きな問題があると認識させられたのさ──いやホント、情けない限りだよ」
『…………』
なるほど。つい最近までは魔力の少ない大人たちが戦っていたため装備の性能の低さに気づかなかった──問題にならなかった、ということか。
言葉にすれば些か間抜けな話だが、やむを得ないことではあっただろう。そもそも人類が『リング』を得てクリーチャーと戦い始めてから一年とちょっと。この短期間に魔力に対応した装備をゼロから作り上げたというだけでも凄まじい偉業だ。しかもその装備を十全に使いこなせる人材がいなかったとなれば、性能検証や改良に手が及ばなくとも仕方あるまい。
「反省はそれぐらいにしときましょう」
重くなった空気を振り払うように、巽が殊更明るい声を出す。
「どんなゲームだっていきなり最強装備を作れたりはしませんよ。ひのきのぼうから始めた勇者に比べれば、俺らはずっと恵まれてます」
「……ハハッ。僕としては、君たちにバグ技でチート武器を与えてスカッと無双展開を味あわせてあげたいところなんだけどなぁ……」
「ま、それもありです。だけど、コツコツ装備を更新してくのも乙なもんですよ」
巽の言葉で佐々木室長の表情に明るさが戻る。
僕は空気が和んだそのタイミングで話題を本筋に引き戻した
「それで、既存装備の改良って言うと具体的に何から手を付けるつもりなんですか?」
「そうだねぇ……まぁ、武器全般何らかのテコ入れは必要なんだけど、その中でも最優先しなくちゃいけないのは『銃』かなぁ」
『ですよねぇ……』
佐々木室長の言葉に僕と巽は深々と頷く。
「特攻の巽くんには不本意かもしれないけど──」
「いや、俺が特攻になったのはあまりにここの銃が使えないからなんで。援護を受ける立場としても、マジでアレはどうにかして下さい」
「……そっかぁ」
悪意なく自分の開発した銃を貶され、佐々木室長は少しだけ寂しそうな表情をしていた。
また落ち込まれても面倒なので、僕は話を先に進めようと予てからの疑問を口にする。
「そもそも銃器の威力がショボいのって何でなんですか? いや威力以外も射程とか精度とか色々問題はありますけど、一番はやっぱり威力ですよ。同じ魔力を使った武器なのに、近接武器より圧倒的に威力が低いのは何でなんでしょう?」
「? 遠距離武器より近接武器のが威力があるのは普通だろ?」
「そりゃゲームの話だろ。現実に、銃より刀や槍の方が威力が強かったりするか?」
「……言われてみれば」
あまり深く考えたことがなかったのだろう、僕の指摘に目を丸くする巽。
僕は疑問の答えを求めて佐々木室長に視線を向けた。
「そりゃ魔力で銃弾を作ってるからだよ。近接武器が威力の強化に一〇〇%魔力を使えるのに対して、銃は弾丸を作った上で、推進力とかにも魔力を割り振らなきゃいけない。威力が落ちるのは当然だろう?」
そこまではまだ予想が出来ていた。本当の疑問はこの先。
「なら何で実弾を使わないんですか? その理屈だと普通の銃をベースに実弾を魔力で強化すれば、今よりずっと威力は上がる筈ですよね?」
「……おお、確かに!」
僕の言葉に巽が感心した様子で膝を打つ。
「わざわざ魔力で弾を形成しなきゃいけない理由が何かあるんですか? 弾数はどうせ魔力に限りがあるんだから大きな問題じゃないし……弾の調達や法律の問題とか?」
「いや、どちらでもないよ」
僕の言葉に佐々木室長はかぶりを横に振って続けた。
「月見里くんの言い分はもっともだ。何でそんな非効率なことを、って言いたくなる気持ちはよく分かる。というか、元々警備隊じゃ実弾式の銃を使用してたからね」
『!』
僕と巽は顔を見合わせ、互いにそれが初耳であることを確認する。
「なら何で──いや、違うな。実弾式の銃にはどんな問題があったんですか?」
「う~ん……一言で言うと、クリーチャーに通用しなかったんだよね~」
『?』
困惑する僕らに佐々木室長は苦笑した。
「初期の頃はさ、実戦で実弾を使うことに何の疑問も抱いてなかったんだよ。あまりクリーチャーには効いてなかったけど、それは使用者の魔力が低いからだと思われてて……半年ぐらいそのままだったかなぁ?」
結構長いな。
「でも第一層の雑魚相手にもほとんど通じなくて、何かおかしいんじゃないかって話が出て色々調べてみたら──」
「みたら?」
「着弾するまでの間に弾丸から魔力が抜けてることが分かってさ。何ていうか手元を離れた物理的な加速に魔力がついていけてない感じ?」
ああ~、何となくイメージはできる。某逕庭拳がスカるような感じか。
「その後、銃弾の素材を変えたり魔力そのものに推進力を付与したり、色々試してはみたんだけど、コストとか安定性を考えたら魔力弾を飛ばすのが一番マシって結論になってさ。結局今はその方式が採用されてる」
「なるほど」
話を聞いてみると納得するしかない事情だった。
「つまり実弾より魔力弾の方がマシだって結論は既に検証された後だ、と?」」
「だね。今のところそこを再検証するつもりはないかな」
「ふんふん。じゃあそれ以外で、具体的にどういう方向で改良していこうみたいなアイデアはあるんですか?」
「ある──と言っていいのかは悩ましいところだけど、取り組まなくちゃいけない課題はある」
微妙な表現だな。
「それは?」
「エネルギー効率の改善だよ」
『…………』
なるほど。それは確かに改良のアイデアと言っていいかは微妙だが、取り組まなくてはいけない課題ではあるな。
エネルギー効率というと発電所とかでどれだけロスなくエネルギーを生み出せるかという指標に使われるアレだ。確か原子力発電で三〇%強、火力発電は設備の良し悪しで三〇~六〇%と効率に幅があった気がする。
この効率が改善すれば同じ魔力量でも銃の威力や弾数なども向上するわけだから、確かに大事な部分ではあった。
色んなツッコミどころを飲み込んで、僕は疑問を口にする。
「ちなみに、現状のエネルギー効率ってどれくらいなんですか?」
「そうだねぇ~……近接武器で一〇%弱、銃器だと五%いかないくらいじゃないかな?」
『低っ!?』
予想をはるかに下回るエネルギー効率の悪さに僕と巽の声がハモった。
僕らが聞き間違えかと思って顔を見合わせ、言葉を探している間に、佐々木室長は弁解するように言葉を続けた。
「いや、言いたいことは分かるけど、全く原理の分からない未知のエネルギーを引き出すってホントに難しいんだよ? むしろたった一年でここまで持ってきた僕を褒めて欲しい」
「それは……そうかもしれませんけど」
「一〇〇年以上の歴史を持つガソリン車だって精々二〇~三〇%ぐらいなんだ。そう考えたら一年で五~一〇%は凄いと思わない?」
『う~ん……』
「そう思おうよ!」
そうとでも思わなきゃやってられないと言いたげに叫ぶ佐々木室長に、僕と巽は曖昧に頷きを返す。
しかし、そうか……そのレベルから取り組むのか……
「となると、地道というか何というか、中々すぐに成果を出すのは難しい研究になりそうですね?」
「まぁね」
僕の指摘を認めた上で、佐々木室長は続けた。
「ただ全く見込み薄という訳じゃあないよ。これまでは腰を据えて研究に協力してくれる人がいなかったから手付かずの部分は多い」
なるほど。少年兵はまだ採用が始まったばかりで本格的な研究への協力は僕らが最初。それ以前の大人は魔力量が少なく、十分な研究サンプルを得ることは難しかっただろう。
「後は月見里くんだね」
「僕?」
「うん。君の覚えた体外魔力操作が銃器の使用やエネルギー効率にどう影響するのか、あるいは利用することが出来るのか。巽くんとの比較でその辺りを検証していけば、銃器そのものの性能を劇的に向上させることはできなくても、別の形で戦力を向上させることはできるかもしれない」
ふむふむ。全くあてのない研究というわけでもないわけか。




