第44話『メイドの能力奪っちゃうぞ☆作戦開始!』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
寝室清掃の悪魔
銀髪眼鏡のメイド服を着た少女の悪魔。
主人公誠が偶然にも遭遇した裏方の悪魔。
普段は清掃が終わるとシェフの用意した食事を厨房に設置されている
従業員休憩室で食べている。
かなりのネガティブ思考で一人で突っ走り結論が出るとすぐに手持ちのナイフで自害しようとするので困る。まだまだ謎の多い悪魔である。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
【※本話は悪魔同士の戦闘描写(流血・暴力表現)があります。苦手な方はご注意ください。】
「あら、一人で来ると思ってましたのに。ずいぶんとまぁ、大勢でいらしたんですね」
美しいピンク色の髪を揺らしてメイドが清掃の悪魔に向かってほほ笑む。
そして、その言葉を受けて清掃の悪魔はニッコリと見惚れてしまうような美しい笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた……
「禁欲生活で溜まってると思ってさ~、4P?あ、違うか。5Pする?」
閃いた!とばかりに清掃の悪魔が人差し指を立てた瞬間―――
「いってーっ!?」
背後からシェフが無言で近づき、全力で殴りつける。
薄暗い室内に悪魔の情けない叫び声が響いた――。
◇◇◇
あの後、僕たちはメイドと清掃の悪魔の後を追って地下に向かった。
図書室の室内にある地下へと繋がる扉を開けると階段があった。
一歩一歩進むたびに人感センサー付きの照明が僕たちの足元を照らしてくれる。なんというか、内装は古い洋館みたいなのに、備え付けられているものは最新のものが多い気がする。
「これもシンさんが設置したのかな?」
「そうなんじゃね?設備のほとんどはあの人がやってるって言ってたし」
孝志と雑談しながら朝食の時、すごく眠そうな顔をしながら、ゆっくりとした動きでパンを食べていたシンさんの姿を思い浮かべた。
「めっちゃ眠そうだったよね。シンさん」
「まずおっさんが朝食の時にいるの珍しいよなー」
「それは、たぶん今日の朝食がエッグベネディクトだったからだ」
僕たちの会話に自然とシェフが参加してくる。子供と大人だと歩く速度も、歩幅も違うから
シェフは一番後ろでゆっくり階段を下っていた。
「え?シンさん、エッグベネディクト好きなの?」
「あの人は外国が好きなんだ。だから、食事も和食よりも洋食が好きらしい」
「そうなんだ」
「悪魔ってさ、長く生きてるんだよな?じゃあ、日本語以外も話せんの?」
地下に繋がる階段が意外と長いためか、雑談は続く。
「悪魔によるな。俺はどちらかというと日本が好きだから、喋れて10か国くらいだな」
「いや、10か国って普通に凄いよ」
「そうか?放課後の悪魔はこの地球に存在している国の言葉全て話せるぞ」
「は?全部って……そんなこと可能なの?」
「悪魔だからとしか、言えないな」
「確かに」
ここに来ると「悪魔だから」って言葉が便利で使いやすい言葉だ。それに慣れてしまうと、色々、認識がバグりそうで困る。
「あ、着いた」
――トンと、靴の底が平らな地面を踏む。
目の前には少しオレンジがかった照明に照らされた扉が数か所に設置されていた。透明なガラスで作られた扉が一つあるが、透けたガラスの向こうにはカウンターが見えるから、あの部屋がきっとbarなのだろう。
「あの二人、どこ行ったんだろ?」
来てみて初めて分かる。想像していたより地下室は広くて、部屋数も多い。辺りをきょろきょろと見渡していると、半開きの扉が目に入った。
「……行こう」
他の扉はぴったりと扉が閉じられているから、二人がいるのはあそこだ。僕は少し呼吸を整えると真っすぐ、その扉に向かっていった。僕の後ろに続くように、孝志とシェフもゆっくりと歩き出した。
ドアノブに手をかけて、ゆっくりと引くと見覚えのある後ろ姿が目に入った。
二人は向かい合いように立っていた。
扉のある出口側に立つのは清掃の悪魔。
メイドは壁を背に口元に笑みを浮かべていた。
「あら、一人で来ると思ってましたのに。ずいぶんとまぁ、大勢でいらしたんですね」
「禁欲生活で溜まってると思ってさ~、4P?あ、違うか。5Pする?」
閃いた!とばかりに清掃の悪魔が人差し指を立てた瞬間――
背後からシェフが無言で近づき、全力で殴りつけた。よくやったぞ、シェフ。
「いってーっ!?」
清掃の悪魔に制裁を終えたシェフは何事もなかったかのように静かに孝志の隣にスッと戻った。
「痛いなぁ、も~、お前さぁ結構本気で殴ったでしょ?僕の頭へこんでない?」
「タンコブできちゃったじゃん!」と騒ぐ清掃の悪魔に、僕も思わず冷めた目を向けた。隣の孝志も同じように、無言でため息をついていた。
シェフは清掃の悪魔は自分より強いって言っていたけど、ここ数時間のコイツを見ていると本当に強いのか疑いたくなる。
「なんか、僕、心配になってきた」
「右に同じ」
呆れたように僕が言えば隣の孝志も同じように声に呆れを混じらせて答える。
「悪魔は人を騙すけど嘘はつかない」
―――え?
突然聞こえた聞き覚えのある言葉に僕は隣にいる、シェフを見上げた。
シェフの目線は真っすぐに逸らされることなく清掃の悪魔へと向けられている。
「俺は、アイツに関しては嘘はついてない」
「それは、どういう……」
「さてと!お仕事しますかね」
僕の声を遮るように清掃の悪魔の元気な声が室内に響いた。シェフに殴られて、頭をさすっていた悪魔は、その頭に触れていた手をメイドに伸ばした。
「がっ……っ!?」
伸ばされた手の行く先は、メイドの『首』だ。
その細身からは信じられない腕力で清掃の悪魔は首を掴んだままメイドを持ち上げた。メイドの足が地面から離れる。何が起こったのか、一瞬過ぎて頭が追い付かない。
突然、首を掴まれたメイドは少し驚いたように清掃の悪魔を見下ろすと、その赤い唇に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
まずい!メイドは何かするつもりだ!
シェフがメイドの能力は『言霊』と言っていた。それなら、首を掴んだくらいでは声を出されて終わってしまう。下手をすれば清掃の悪魔が声で支配されてしまう。
「まぁ、これくらいじゃあ驚かないか」
室内にいつもと変わらない空気みたいに軽い清掃の悪魔の声が響いた。
「じゃあ、ちょっとだけ頑張ってみよかなー」
頑張る?頑張るって、何を?
――ズッシャ!
「っ……っ!?ガっ……!??」
――え?
目の前で、何が起こっているのかわからなかった。先に聞こえたのはメイドの押しつぶしたような声。そして、僕の視界が捉えたのは、メイドの後頭部に見える鋭い『刺』のようなものだった。
「ガフッ……ッ」
苦し気な声を上げたメイドの口からは大量の血が吐き出された。
白いエプロンと床が血が染まる。鉄のような匂いが、鼻を刺した。
視界にハッキリととらえているのに、僕の目が目の前の光景を拒絶する。
だけど、僕の脳は正常に状況を把握していた。
――悪魔同士の戦闘が始まったのだと。
「っ孝志……!」
僕は条件反射のように後ろを見た。僕の後ろには、孝志が一人……腕組みをして、冷静な表情で僕を見据えている。その姿を見ただけで、孝志の中身が変わったことはすぐにわかった。
「っありがとう、シェフ」
シェフは約束通り、孝志の影を支配してくれたんだ。不安は取れたのに、体は震えて、指先は恐怖に冷えていた。もう一度、後ろの光景を見ることを体が拒絶していた。
「っ怖がるな。見ろ、見るんだ……!」
「うわっ、汚ね!」
「っ!」
清掃の悪魔の声に反応して後ろを振り返る。顔を歪ませた清掃の悪魔がメイドの血で染まった右手をパッと離した。ドサッと音と同時にメイドの体が地面に落ちる。
「ゲホッッ……ヒュッッ……アッ、ゥッ」
メイドが獣のような声を出しながら清掃の悪魔を睨みつけた。
「!?っぁ……」
地面に降ろされてはじめて、メイドの状態が見えた。
メイドの喉には丸く大きな風穴ができていた。
「っ声を、潰したのか……」
メイドの能力を考えて先に喉を攻撃した。
……普通の人間だったら死んでる。
それなのに、メイドは口元を真っ赤に染めながら喉から血を流しながらも、笑っていた。
「アッ……ァ、ハッ、ハァ゛……!」
唇を釣り上げて開かれた口の中は真っ赤だった。
白い歯には血がこびりついていた。
『私のこと甘く見過ぎじゃない?』
「っうあ!??」」
突然、頭の中にメイドの声が響き渡る。
――違う、頭の中じゃない。
脳内に直接喋られているような、そんな感覚だ。頭が割れるように痛い。
「テレパシーか」
後ろでシェフが静かに分析をする。
「テレパシーって」
なんだっけ?
「声ではなく、脳に直接響く言葉だ」
「っでも、メイドの能力は、言霊じゃないの?」
目線は前に向けたまま、両耳を手で塞ぎながら背後にいるシェフに質問をする。今、シェフの方に顔を向けたら、二度と前を向けない気がしたんだ。
「それはメイド本人の能力だ。まぁ、メイドも、他の悪魔から能力を奪ってるんだろうが……アイツ程ではない」
「っえ?」
「テレパシーと言霊の融合技か。それは面倒くさいね」
清掃の悪魔にもメイドの声が脳内に響いてるはずなのに、悪魔は小指で耳の穴をほじりながらメイドに近づいた。
「っ!?なぜ、私の能力をどこで知った……!?」
メイドの表情にはじめて変化が現れる。彼女は信じられないと言った表情で目を見開き悪魔を見上げていた。
「教えてあげないよ~」
僕からは清掃の悪魔の後ろ姿しか見えない。けれど、きっと、メイドを見下ろす表情はいつもと変わらない軽薄な笑顔を浮かべていることは予測できた。
(――怖い)
僕は、はじめて悪魔が心の底から怖いと思った。アイツ等は言葉や、人間の弱いところを突いてくるけど、それは心理的な怖さを感じるだけで、今みたいな恐怖とは別物だ。
「この能力、最近手に入れたやつなんだけど。やっぱ悪魔相手だと即死までは行かないかー」
メイドに近づきながら悪魔が人差し指をピンっと立てる。
すると、指先が針のように鋭いものに変わった。
これは僕の憶測だけど、あの針みたいなものが体から自由自在に出せるのならば――
(首を掴んだ状態で、手のひらから針を出して、貫いたんだ……)
メイドの喉を。
「歯には歯を、騒音には騒音ってね」
清掃の悪魔は薄笑いを浮かべ、メイドの両耳に手を当てた。
(アイツ、なに、してるんだ……?)
――と、思った瞬間だった。
「ボン!」
『ぎゃああああああああああっっ!!?』
「ぐっ……っ」
メイドの叫び声は真っ直ぐな痛みとなって僕の頭を強烈に揺らした。
『煩いうるさいいいっ!!やめて!耳がっ、壊れるッ!!』
――沈黙。
その直後、楽しげな声が響いた。
「僕のお気に入りの曲だよ~」
「!まさか、アイツ……っ」
言葉からでしか憶測は出来ない。でも、メイドの叫びに交じる言葉を聞く限り何をしたのかは予想できた。
『音下げてッ!!!頭がッ、割れる…ッッ痛い痛い痛い痛い痛いッッ』
今、メイドは『爆音』を強制的に聞かされている。
孝志が僕の影に入った時と同じ現象だと思えば想像に容易くない。
音量が最大になってるのに気づかなくて、動画を再生してしまった、それの――鼓膜を破るほどの爆音バージョン。
メイドの悲鳴が脳内にしばらく続くと、プツっと頭の中の声が途切れて、現実世界のメイドの鼻と両耳からブシュッと、血が噴き出した。
「あああああっっ……っ!!?」
メイドが激しい痛みに叫んだ。
声と同時に飛び散った血が清掃の悪魔の顔を汚す。
「あ、喋れるくらい回復したんだー」
顔についた血を手で拭いながら悪魔は場違いに明るい声を出した。
一体、何が起こっている?
「ふっ…ぉ、え゛……っ」
むせかえるような鉄の匂い。視界に見えるのは、真っ赤な血に、喉に大きな穴が開いても死なない……【化け物】だ。
胃の中から何かがせり上がる。
吐きそうになって、咄嗟に口元を両手で押さえた。
「はぁっ……っ」
これが、悪魔同士の戦い――。
『女だから手を出さないとでも?……甘いな。言っておくが、悪魔にとって性別など関係はない。能力が判明した段階でどんな非道な手を使っても奪う』
シェフの言っていた通りだ。
「もうちょっと遊んでたかったけど、あんま長くやるとシェフがお昼ご飯作る時間なくなっちゃうからねー」
手についたメイドの血を服で拭いながら、清掃の悪魔はサッカーボールを蹴るような軽い動作でメイドの腹を蹴り上げた。「ボキッ」っと何かが折れるような音出した。
「あ゛ッッ……!」
蹴り飛ばされて、背後の壁に強く背中を打ち付けたメイドは抵抗する気が無いのかぐったりと地面に倒れている。
『メイドが屈して、自ら名前を吐き出すまで、尊厳など無視した行為が繰り返される』
「っ強い……」
シェフの話は本当だった。清掃の悪魔はメイドよりも強い。
「あれ?もしかして、それシェフの新しい能力?」
メイドの顔を足で踏みつぶしながら、清掃の悪魔は振り返る。
シェフが孝志の影を支配していること言っているのだろうか?
「まぁ、そんなところだ」
無表情の孝志が腕組みをしながら淡々と答える。清掃の悪魔も特に追及する気がないのか「支配系か、俺も欲しかったな~」と言いながら、メイドの顔面を蹴り飛ばした。
(もう、メイドは抵抗する気なんて無いのにっ……あれは、やりすぎだ)
冬美と比べたら、僕とメイドの関わりなんてほとんど無い。でも、メイドは僕にエッグベネディクトの食べ方を教えてくれたんだ。単純だって思われるかもしれない、メイドは仕事だからやっただけなのかもしれない……それでも――
「っもう、やめろよ。やりすぎだよっ、その人はもう、抵抗する気力なんて残ってないのに」
口元から両手を外して、吐き出さないようにお腹を押さえて、小さな声で言った。
優しくされたら、親切にされたら嬉しいと思うのが普通だ。
「少し優しくされたら許すんだ?だから、虐められるんだよ」
「っ!!」
清掃の悪魔が僕に向けた言葉はとても冷たくて、過去の傷を抉るものだった。
「人間って、単純だよね。僕はさ、悪魔になってからますます、人間が理解できなくなってきたよ」
言いながら清掃の悪魔はメイドの手を踏みつぶした。骨の折れる音と同時にメイドの口からは甲高い悲鳴が吐き出される。
「もっ、やめてぇ……やめて、くださいっ」
ありえない方向に曲がった指先を伸ばしながら、弱弱しい声でメイドが地面を這っている。痛々しくて、見ていられなかった。それでも、僕は歯を食いしばって前を見続けた。
強者と弱者、そこには圧倒的な力の差があった。
「知ってる?包丁一本、心臓刺せばどんな人間だって死ぬんだ。それなのに、同じ弱い生き物なのに集団で格差を作ってさ、馬鹿みたいじゃない?」
淡々と話をしながら、清掃の悪魔は片手で上から強くメイドの顔を地面に押し付けた。
「なに、言って……」
「いじめっこも同じだよ。教室の椅子なり武器にして、それでぶっ叩けばいいじゃん」
「っそんなことしたら、死んじゃうじゃないかっ」
「死ぬよ?だから?死なないと分かんない奴、この世界にはいっぱいいるじゃん」
「っ!」
「やろうと思ったコトあるんじゃないの?」
「そ、れは……」
――ある。
考えたのは一度や二度じゃない。
『この椅子をアイツらに全力でぶつけたらどうなるかな』
『怒りに任せて、机ごとアイツらに投げつけてやりたい』
『僕に、爆弾を作る知識があるなら、アイツ等の家に投げて全員ー』
「っでも、僕は、友達のおかげで踏みとどまれたっ」
「イジメってさ、尊厳を傷つけてる段階で常識から外れてるのに許されている。キミが、人間の常識を守る意味ってあったのかなぁ?」
「えっ……」
「常識にとらわれてる人間ほど損をする世界だよね。その点、悪魔は力あれば『自由』だ」
メイドの顔を押さえつけながら、清掃の悪魔は言葉を続けた。
「僕って奪った能力は100以上あるから、基本的に自分の能力使うことないんだよね~」
「ひゃ、ひゃく!?」
「これでもまだ少ない方だけどねぇ」
清掃の悪魔から告げられた数字に驚いた。しかも、その数字に本人がまったく満足してないのが恐ろしい。
「この作戦を考えたのは誠クンだ。僕に能力を使えって―――『命令』しなよ」
「命令って」
僕はこの悪魔と契約していない。
契約していない人間が『命令』などできるのだろうか。
――いや、違う。
この命令は僕に自覚させるためのものだ。
清掃の悪魔が自分の意思でメイドから能力を奪うのではない。
僕が命令したから、メイドは能力を奪われるんだ。
「っ本当に、性格悪いよね」
「それ、褒め言葉だよ?」
本当に、コイツは悪魔らしい性格をしている。性格が悪い。だって、メイドが可哀そうだと庇うような発言をした僕自身に選ばせるんだ。メイドの行く末を……
「一つ、アドバイスをしてやろうか」
「え?」
背後から聞こえてきた声に振り返る。馴染みの声であるはずなのに、中身が違うとわかっているだけで、こうも言葉の聞こえ方が違うのか。
「アドバイスって……」
「前に、話したことを覚えてるか?」
「前に?」
「悪魔は人間の癖や傾向を見て、相手を信じさせる動きをするという話だ」
「あっ」
『初対面の人間でもソイツがどんな性格で何が好きか、何を望んでいるか、どうすれば騙し堕とせるか、仕草一つ見れば大体わかる……統計学みたいなものだな、心を読んでるわけではない』
「覚えてるよ……」
悪魔の話、特にシェフの話は覚えている。この会話をした後に孝志がシェフと契約したという理由もあるけど……シェフが今、この場所であの時の話をしていることに意味がある。
「悪魔に関していえば、目に見えるものがすべてではない。そこに違和感が存在する」
「違和感?」
「そうだ。今の状況、そして、メイドの能力を考えたうえでよく考えてみろ」
「……考える」
今の状況にある違和感って、なんだ?シェフに言われて僕は考えながら、体を元の位置に戻して目の前に見える光景を、整理した。
「っ助けてください、誠さまっ……」
「……っ」
僕の視界には大粒の涙を流し、折れた指先を伸ばし助けを求めるメイドの姿が見える。
(痛そうだ、血だらけで……泣いてる。可哀想だ……)
「早く命令してくれない?命令しないと、僕、動かないよ~」
清掃の悪魔はメイドの顔に足を乗せたまま、僕の方を見ている。僕が命令しない限り、動く気配もない。
長い沈黙と静寂が辺りを支配している。
(ここに、違和感なんてあるのか?)
「……ん?」
メイドと清掃の悪魔、二人を交互に見て気づいた。メイドは喋れるようになってるのに、どうして『言霊』を使わないんだ?今なら清掃の悪魔の隙をついて言霊を使えば、アイツを操れるはず……
(戦意喪失してるにしても、足元から脱出することくらい考えるんじゃないか?)
「……人間基準に考えたらダメだ。悪魔基準に考えろ」
言いながら僕の脳裏にはある日の悪魔と人間の会話が蘇る……
『悪魔は頭がいいやつ多いからなぁ』
『アンタはそれを楽しんでんだろ?』
『あぁ、楽しいねぇ。強い悪魔が弱い悪魔の俺を必死に騙そうと汗かいてんの見るのは最高の気分だ』
『性格悪い』
『ははっ、ご主人様。それは褒め言葉にしかならねーよ』
これは、五十嵐くんとシンさんの会話だ。つい最近のことだったから記憶に新しく、会話もハッキリ覚えていた。
(……楽しんでる?)
あり得ない話じゃない、メイドは『弱者』のふりをしながら、この状況を楽しんでいる。僕と比べたら、悪魔同士は知り合いに近い関係で、初対面ではない。なら、そこから導き出される答えは――
「あの……」
僕は震える声で、メイドに向かって言葉をかける。
「どうして今、能力を使わないの?」
「え、えっ?それは」
僕の質問にメイドが素の表情を見せる。そこにさっきまでのか弱い女性の姿はなく『どうしてバレた?』と言わんばかりの驚いた表情だった。
メイドの演技は、僕を騙すためのもの。僕の性格を瞬時に理解したからこそ、僕を通じてこの戦いに隙を作るつもりだったのかもしれない、それなら、僕の答えは一つだ。
僕は、メイドの反応を見て拳を強く握った。
「清掃の悪魔に『命令』する。メイドの能力、真名を奪えっ!!!」
僕の覚悟と決意を秘めた言葉が室内に響き渡る。
その言葉を聞いて清掃の悪魔が唇の端だけを静かに持ち上げた。その笑みは、息をのむほどに美しく、不覚にも見惚れてしまった。
『了解、ご主人様』
その声を聞いた瞬間、周りの空気が震えた――。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
本作『悪魔のシェアハウス』は、オーバーラップWEB小説大賞に参加しています。
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