第41話『ネガティブ美少女悪魔登場!』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
僕は、目の前の朝食に目を奪われた。
「お、おいしそう…!!」
こんがり焼かれたパンの上で、白い卵と淡い黄色のソースが光を反射してキラキラと輝いている。
「な、なんだコレ?うすげぇ旨そうだけど、何かわかんねぇ」
隣では孝志が僕と同じように、パンの上にある半熟の目玉焼きをキラキラした瞳で見ていた。
「エッグベネディクトだ」
僕たちの疑問の声に答えたのはシェフだった。
「朝食はあまり時間はかけずに作るんだが、昨日は迷惑をかけてしまったのでな、少し手の込んだものをと思って作った。黄身が固くならないうちに食べろ」
メイドとシェフ、それぞれの席に料理の配膳が終わると二人も静かにいつもの席へと座る。
シェフは孝志の隣、メイドは冬美の隣だ。
「でも、コレ。どうやって食べるんだ?」
天井の照明の光を浴びてキラキラと光る半熟の目玉焼きを見下ろしながら孝志が言った。見た目からして美味しそうなのはわかる。でも、食べ方がまったく想像できなかった。
「き、黄身って崩していいのかな?」
「わかる。なんか崩すの勿体ないよな」
ナイフとフォークを持ちながら迷っていると「それなら私が教えましょうか?」と凛とした声が向かい側から聞こえてきた。
聞こえた声に顔を上げると、メイドと目が合った。まさかの助け船に僕たちは無意識にシェフの方を見てしまう。シェフは僕たちと目が合うと「メイドに教えてもらえ」と言うように顎でメイドの方を差した。ちなみに一言も喋ってない、無言である。
「よ、よろしくおねがいします」
「お、おねがいします」
僕と孝志、二人で緊張しながら小さく頷くと、メイドは口元に手を当てて「ふふっ、いいですよ」と言って、慣れた手つきでナイフとフォークを手に取った。
「まずは、フォークで卵を切ってください」
説明しながらメイドが半熟卵をナイフで切る。すると半熟卵の黄身がとろけ出し、濃厚なソースと混ざり合ってパンに染み込んでいく。その光景を見るだけで「ゴクリ」と喉が鳴った。
隣で孝志が「うわっ、うまそ!」と声を上げていた。
本当においしそうだ。早く食べたい。
「卵黄をこうして切ることで下にあるオランデーズソースが合わさって、濃厚なソースになるんですよ」
「おらんでそーす?」
「フランス料理の伝統的なソースみたいなものですよ」
「そうなんだ」
「ふふ、子供でも食べられるソースなのでご安心ください」
笑ってメイドはナイフでパンを切った。「ガリッ」という音を聞いて、初めてそのパンが固いパンなのだとわかった。形は輪切りにしたフランスパンに似てるけど、フランスパンより小さい。
「このパンは、イングリッシュマフィンと言って。そうですね、簡単に説明しますと、丸くて平たいパンを半分に割って、こんがり焼いたものです」
「えっ、あ。そうなんだ」
(また顔に出てたのか?)
「ふふ、説明の続きをさせていただきますね。」
メイドは少し首を傾けて上品に笑うと、フォークの上にマフィン、一口サイズに切った半熟卵、ソースを乗せて口に入れた。
「ん。やはりシェフの作る料理はどれも最高ね」
「お褒めにあずかり光栄だ」
誉め言葉などもう慣れているのか、シェフはメイドの言葉に素っ気なく返事を返した。
「エッグベネディクトの食べ方は以上です。わからなくなりましたら、いつでも聞いてください。
「はい。あ、あの、教えてくれてありがとう。メイドさん」
「ふふ、私はメイドとしてのお仕事したまでですから」
メイドはまた先ほどと同じ仕草で上品に笑うと冬美の皿に手を伸ばした。それはもう見慣れた光景で、冬美のエッグベネディクトをメイドが食べやすいサイズに切っていた。
(冬美の後は五十嵐くんのぶんもやってくれるんだよね。……めんどくさいって思わないのかな)
「よし。僕も食べよ!」
教わった通りにナイフを入れると、黄身とソースがとろけてマフィンに染み込んでいく。その瞬間、なんだか自分が『大人の食事』をしているような気がして、気分が高鳴った。
「ん~!美味しいっ…!」
初めて食べるエッグベネディクトは最高に美味しかった。
「えっと、ナイフで切ってパンに黄身を…あっ!」
つい夢中になって食べていたせいか、僕がナイフですくった黄身はパンの位置からズレて、そのまま僕の服に落下してしまった。
「うわっ、最悪だ!」
しかも、白いパーカーだから黄身が余計に目立つ。
「あらら~、誠クン。やっちゃったねぇ」
食べ終わって、食器を下げてる途中の清掃の悪魔が僕の方に寄ってくる。そして、服の汚れを見ると同情の声を上げた。
【誠サマ!大丈夫でございますか!!】
僕の声を聞いて食事途中の宇佐美がゲージの中から飛び出してくる。
【この宇佐美がすぐにでも着替えを】
「わああっ、ちょっ、ちょっと待って!宇佐美!大丈夫!大丈夫だから!」
宇佐美の体がほんのり光を帯びたのを見て、僕はすぐに待ったをかける。
着替えるときは基本的に部屋の中だから気にしたことは無かったけど、宇佐美の魔法は着替えるときに一瞬だけ――全裸になる。
(冬美の前で全裸なんて、無理…!!)
僕は、向かいに座る冬美の方をちらりと盗み見る。彼女はエッグベネディクトに夢中で、僕の服が汚れていることさえ気づいていなかった。よかった、助かった。
「あ~、確かにな。宇佐美、今、着替えさせるのはダメだ」
「ははっ、確かに孝志の言う通りだな。誠の人生が終わる」
着替えをしたことがある二人はすぐに僕が慌てる理由に気づいてくれたのか、食事の手を止めないまま、苦笑いを浮かべていた。
【な、なぜですか!孝志サマ!宇佐美の仕事は誠サマにお洋服を提供すること!】
状況を分かっていないのは、目の前のウサギだけである。
「とっ、とりあえず、ぼく着替えてくるね!」
僕は冬美に気づかれる前に足元の宇佐美を抱きかかえると走って食堂を出て行った――。
◇◇◇
【なんと!冬美サマの前で裸になりたくなかったのですね!】
「いや、だから声が」
【配慮が足りずに申し訳ございませんでした!!】
「だから!声デカいってば!抑さえて!!」
【いえ!誠サマが冬美サマのことを好いて】
「わああ!ダメだコイツ!もう、やっぱり部屋で着替えるっ!」
宇佐美は食堂の外に出ても騒がしい。
僕は諦めて着替えは自室ですることにした。
「……なんか、静かだね」
廊下を数歩歩くと、異様な静けさが気になった。
【お部屋に誰もいないからだと思いますよ】
「あ、そっか。この時間ってみんながご飯食べてる時間だもんね」
【そうです。皆さま、仕事がございますので全員が集まることは滅多にないのですが、今朝は珍しく、シン様も席に座っておられました】
「確かに。シンさんが朝食の時にいるの珍しいよね」
整備士のシンさんは昼食や夕飯の時にはいるけど、朝食の時はいないことが多かった。今日は珍しく席に座って眠そうな表情でパンを頬張っていたのを覚えている。
「忙しいの?」
階段を上がりながら腕の中で毛繕いしている宇佐美に話しかける。
【はい。シン様は今現在、悪魔サマたちの休息の場所となる「bar」の設備を整えております】
「へぇ、それじゃあ忙しいね」
【はい!他にも建設予定の部屋がまだ複数ございますから、このシェアハウス内で一番忙しいお仕事とも言えますね】
「ま、まだ増えるんだ」
今の段階で十分な娯楽施設があると思うけど、きっとこれから建設される部屋も僕たちを飽きさせないためのものだろう。
「シンさんって、整備士っていうより建築士じゃない?」
【いえ、大まかな作りや部屋の間取りは先に放課後の悪魔サマが作りますので】
「あぁ、なるほど」
宇佐美と少し話しているうちにあっという間に部屋の前に到着する。
腕の中の宇佐美を片腕に移動させて、ドアノブに手を伸ばした時だった――
「ガタン!」という、物音が部屋の向こうから聞こえてきて、僕の手はドアノブに触れる手前でピタリと止まる。視界の端で宇佐美の耳がぴこっと動くのが見えた。
「……ね、ねぇ。宇佐美」
【なんでしょうか!誠サマ!!】
「今って、誰もいないんだよね?」
【皆様、朝食会場にいますね!】
「っ…」
宇佐美の答えを聞いて、僕の体に緊張が走る。
じゃあ、この扉の向こうの物音の正体は―――だれ?
「や、やっぱり、ここで着替えようかな?」
声が震えてる。
(だって、みんなが食堂にいるなら。僕の部屋にいるのは……)
【あ!】
「わあああっ!?」
腕の中の宇佐美が突然大きな声を出すから僕も驚いて変な声が出て、変なところに唾が入り込んだ。
「ゲホッゲホッ…!…なっ、んだよ宇佐美!?いきなり大きな声出さないでくれる!?」
【あ、申し訳ございません!一人、いました!ご安心ください、お部屋の中にいるのは幽霊ではございませんよ!】
「へ?」
【誠サマ!お部屋の扉を開けてください!早くしないと朝食が冷めてしまいますよ!】
「は、早くって言われても」
宇佐美は短い手を必死に扉へと向けている。
確かに、シェフのあの美味しい料理は温かいうちに食べたい。
服を着替えるだけなのに無駄な時間も使いたくない。
「ふー……っよし。開けるよ」
【はい!】
僕は深呼吸をして、ドアノブを回すと室内に入った。
扉の向こう、そこにいたのは―――
「へ?お、おお女の子!?」
扉を開けると、ベッドの近くにシーツを手に持ったメイド姿の可愛い女の子が立っていた。
少女のようなあどけなさの残る可愛いらしい声は、容姿にピッタリだと思った。
「あ、はじめまして。ボクは『寝室清掃担当』の悪魔です」
しかも、まさかの『ボクっ子』である。
その女の子は僕に気が付くと美しい容姿に銀色の髪を揺らしながら優しく僕に向かって微笑んだ。
「か、可愛い……」
漫画から出てきたんじゃないかってくらいの理想の眼鏡女子に僕はつい心の中の声が声に出てしまった。僕の言葉を聞いて、銀髪の女の子は頬を赤らめると手をモジモジさせた。そして、とてもか細い声で「あ、ありがとうございますぅ」と言うと、それだけで恥ずかしいのか、そのままシーツに顔を埋めた。
(なんだこの子、ヤバイくらい可愛いな!?)
少し鼻の下が伸びてる自覚はあった。
だって、現実世界で冬美並みに可愛い女の子を見たことが無い。一番は冬美だけど、こんな可愛い子が学校にいたら、周りの男子は放っておかないだろう。
「あ、あの…」
銀髪メイドはシーツから顔を上げると、恐る恐ると言った様子で僕に話しかけてきた。
「な、なんでしょうか」
「ど、どうして、この時間に」
「えっと……」
寝室清掃と言っていたから、この子はいつもこの時間に僕たちのベッドを整えてくれてるのだろう。思い返してみれば、朝食の後、部屋に戻るとベッドは常に新品のように整えられていた。
(魔法か、何かを使ってるものだと思っていたけど。この子が整えてくれてたんだな……)
「いつもキミが綺麗にしててくれたんだね、ありがー」
「まさか、ボクの清掃に何か問題が……!?」
「えっ?」
お礼の言葉は銀髪メイドの震えるような声に遮られた。
「シーツに汚れでも残ってましたか?」
「いや、そんなことは」
「でもっ、いつもはこの時間戻ってくることないじゃないですか?ぼ、ボクに苦情言いに来たんですよね?」
「は、はい?」
(どうしてそういう思考になるんだ!?)
「は、はいって言いましたね!?や、やっぱりそうなんだ!」
「い、いや、今日はちょっと特例というか」
「ボクなんかに気を遣わないでください」
銀髪メイドはもっていたシーツも床に投げ捨てると、どこから取り出したのかサバイバルナイフを片手に持つと、その刃を手首に押し付けた。
「死んで、お詫びします」
「えええ!?ちょっと待って!?僕、本当に苦情とかないから!感謝しかないから本当ヤメテ!!?」
(スプラッターとか、本当無理!!)
相手が誰かとか、悪魔とかそんな考えは吹っ飛んで気づいたら足が勝手に動いてた。僕は情けない叫び声を上げながら銀髪メイドからサバイバルナイフを取り上げて後ろに放り投げた。
「はぁ…はぁっ、話聞いて。いつも、ベッド、綺麗にしてくれて、ありがとうっ!」
ネガティブすぎる銀髪少女に伝わるように、僕は彼女の肩を掴んで目を合わせて言った。
その言葉に彼女の赤い瞳が小さく見開かれる。
「ふふっ、誠サマは噂通り、優しい方なんですね」
「噂通り?」
「はい。ボクは放課後の悪魔様の使い魔ですから、眷属である方たちからお話は聞いています」
「眷属?あぁ、シェフと、たしか……清掃の悪魔だっけ?」
「はい」
あの二人が放課後の悪魔の眷属だという話は悪魔たちと風呂に入った時に聞いた。
「そういえば、キミは寝室清掃って言ってたけど。清掃全般はアイツがやってるんじゃないの?」
アイツとは、清掃の悪魔のことだ。
名前に『清掃』と入っているから、彼がこのシェアハウスの清掃担当であると思っていたけど違うのか?まさか、サボり?働けよ。
「なんで寝室だけ?」
銀髪メイドから少し離れて考えていると「それはですね」と今度はメイドの方が僕に近づいてきた。
「ボクが、寝室という空間が好きだからです」
「寝室が好き?……か、変わってるね」
すぐ近くで声が聞こえて振り返ると、彼女の整った顔がすぐ近くにあった。
冬美以外の可愛い女子に耐性が無い僕は、頬を赤らめてすぐに目線を地面へと向ける。
「だって……寝室とは、人間が欲望を解き放つ場所!!」
――はい?
「裸で抱き合い、獣のように交じり合い、そして白く美しいシーツは互いの愛液で、もがっ」
「わああああっ!?ストップ!待って待って!?」
(いきなり何エロいこと言ってんだこの人!?)
僕は怯えながらも銀髪メイドの口を両手で塞いだ。
赤い瞳は血走ったように爛々と輝いていて、怖かった。
「さっきまでのネガティブどこいった!?」
「もがっ……っいきなり、なにするんですか?」
「そ、それはこっちのセリフだよ!」
「あぁ、童貞でしたもんね」
「直球で言うのやめて」
銀髪美少女の口から童貞発言は辛い、やめてくれ、それは僕に効きすぎる。
「この情報はシェフから聞きました」
「一番いらん情報だよ!」
僕は銀髪メイドの口から手を離すと、その場で深いため息を吐いた。
「あー、朝からなんで、僕こんな疲れてんだろ」
「誠サマ、大丈夫ですか?」
銀髪メイドはさっきまでのやり取りなどなかったかのように、ベッドに新しいシーツをかぶせていた。そして、その上から新品の毛布をふわっと置くと、小さくできた皺を片手でパンと掃っている。その無駄のない動きは、完璧にその道のプロの動きだと思った。
「寝室が好きって、理由はもう聞きたくないけど。清掃の悪魔が許したってこと?」
整えたばかりのベッドに座りながら、ミニテーブルの上の花瓶に新しい花を飾る彼女の後ろ姿を目で追った。
「はい。あの方は別に清掃にそこまでのこだわりを持ってませんから」
「あ、わかる気がする。これ譲ってって言ったら、アイツなら「いいよー」って言いそうだもんね」
「まさしく返答もその通りでしたよ」
「そ、そうなんだ」
(なんか悪魔の性格を嫌でもわかっちゃうのが、本当に嫌だな……)
「……」
少しの間を開けて、僕は唾を一回飲み込むと、せわしなく動く彼女の背中に声をかけた。
「……キミも、悪魔なの?」
僕の言葉に、花に触れていた彼女の指先がピタッと止まる。
そして、彼女は残りの花を腕に抱えたまま僕の方にゆっくり振り向いた――。
「そうですよ。ボクも、悪魔です」
そして、にっこりと恐ろしいほどの美しい笑みを僕に向ける。
「やっぱりそうなんだ……」
悪魔だという確信を得た今、緊張で体が震えた。
このタイミングでの――新しい悪魔。
彼女自身も言っていた『放課後の悪魔の使い魔』という発言。そして、話を聞く限りこの悪魔は、出会っていないだけで、この悪魔はずっとこのシェアハウスの中にいたんだ。
でも、一つだけ疑問が残る。
『なら、この双子座、覚えておけ。これを忘れなければ、嘘を見抜く能力がなくても勘の鋭いお前なら……『鍵の悪魔』にたどり着くことが出来る』
(シンさんの話が本当なら、この子は双子の可能性が高い)
「あの、キミは……兄弟とかいるの?」
少しでも確信を得たい僕は、銀髪メイドに質問を投げかける。
「ふふっ、誠サマは面白いこと言いますね。ボク悪魔ですよ?兄弟なんて、いるわけないじゃないですか」
しかし、銀髪メイドからの返答は、予想外どころか……予想していたものだった。
「!……そ、だよね。ははっ、ごめん、変な事聞いちゃったね」
(そんな都合よく、鍵の悪魔が現れるわけないか)
それに、あの助言をしたのはシンさんだ。
僕が騙されてる可能性もある。
たぶん、目の前にいる銀髪メイドは鍵の悪魔じゃない。使い魔と言っても、放課後の悪魔ほど強いやつなら、他に使い魔がいてもおかしくないだろう。
「寝室のお掃除が終わりましたので、ボクはこれで失礼しますね」
「あ、うん。ありがとう」
ベッドに座る僕の前に銀髪メイドがやってきて、ゆっくりと頭を下げる。
キレイになった寝室を見渡して、最後にもう一度彼女にお礼を言おうとした時だった――
「――俺と、契約するかぁ?」
「へ?」
振り返った先に見えたのは、ゆっくりと持ち上がる唇に赤い瞳だ。その瞬間、不思議なことに僕は目の前にいる銀髪メイドを、少女だと認識するのをやめていた。
少女でもない、悪魔でもない――コイツは、誰だ?
唖然とした表情で銀髪メイドを見上げていると、銀髪メイドは更に笑みを深めて僕の頬をへこむほど強く掴むと、自分の額を「ごんっ」と強く僕の額へとぶつけた。
「痛っ!!」
なんだ?なにが、起こってる……?
「なら、夜に、ボクの部屋においで。エロいこと抜きで話をしてあげるよ」
「へ?は、はい?」
可愛い容姿に不釣り合いな独特なハスキーボイス。
――状況が全く理解できなかった。
不敵な笑みを浮かべてい銀髪メイドは、途端に興味をなくしたかのように、掴んだ頬から手を離すとそのまま部屋を出て行った。
僕は口をぽかんと開けて、銀髪メイドの背中を見送ることしかできなかった。
それにしても、最初は一人称が『ボク』だったのに、さっきは『俺』と言っていた……もしかしてこれって、双子じゃなくて――
「……に、二重人格?」
僕はシンさんのヒントがますますわからなくなった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
少しでもこの話がいいなってこの悪魔好きだなって思ったらコメント頂けると嬉しいです。
この物語はまだ続いていきます。来年も応援して頂けたら嬉しいです!!




