第24話『疑心暗鬼』☆
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が…。
悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。
つい最近新しい契約者を得た。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
「ぽ、ポケットスイッチだ!」
映画館を出て、次に向かった部屋はゲーム部屋だった。
扉を開けて一番最初に目に入ってきた「ソレ」を見て、僕のテンションは爆上がりしていた。まさか、最新のゲーム機『ポケットスイッチ』を触ることができるなんて思ってなかったからだ。
見つけた瞬間、僕は子供のようにゲームの元に駆け寄った。
「すごい!有名なゲームソフトも、あ!コレなんて、つい最近発売されたやつじゃん!」
目に留まったソフトを手に取って、パッケージを見ては興奮した。
高校を卒業したとはいえ、ゲーム好きは変わらないと思っていたけど、最新のゲームを前にしてこの反応、予想通り過ぎて笑ってしまう。
【最新のゲームソフトは全て揃えてありますよ!】
電気屋さんでよく見るような並びで置かれたゲームソフトを宇佐美のふわふわの手が指差した。
「うわっ、本当だ!CMで見たやつ全部ある!!」
最新のソフトが並べられた棚の正面には大きな液晶テレビがあって、そこにはゲームのCMが流れていた。本当に、よく行く電気屋のゲームコーナーみたいだ。
いつもCMが流れるたびに面白そうだと、遊んでみたいなって諦め気味に見ていたゲーム達が――今、僕の手の届くところにある。
「……最新のゲームなんて、丸山の家に行かなきゃ遊べなかったからなぁ」
ゲームは基本的に高い。だから、僕の毎月のお小遣いではとてもじゃないけど買えなかった。
丸山の家も別にお金持ちってわけじゃない。彼のお父さんがゲーム好きなんだ。
だから、丸山の家にはいつも最新のゲーム機から、最新のソフトまでほとんど揃っていた。
(僕はそれが、羨ましかった)
丸山のお父さんのご厚意で遊ばせてもらってるってわかっていたから、コントローラーもなるべく汚さないように気をつけていた。周りから「気にしすぎだよ。後で拭けばいいじゃん」って言われても、その姿勢は断固として変えなかった。
「……」
【誠サマ?ゲームで遊ばないのですか?】
持っていたソフトをそっと、元の場所に戻した僕を宇佐美が不思議そうに見上げる。
「うん。このゲーム機もソフトも全部――元の世界に戻ってから、自分のお金で全部買うからいいんだ」
【……!】
このゲーム機は全て悪魔が用意したものだ。僕のモノじゃない。
(本当は少しだけ……ほんの少しだけ、欲しかった。でも、欲望に負けて、このままゲームで遊んでしまったら――)
戻れなくなる気がしたんだ。
「ゲーム室はこれくらいでいいかな。次はー」
【誠サマ。12時になりました】
音楽室に続く扉に手を伸ばしたところで、宇佐美からタイムリミットを告げられる。
「えっ、もう12時?」
【ハイ!12時でございます!】
(……映画館で時間使いすぎたのかな?)
僕の感覚的には三十分くらいだと思っていた。名残惜しい気持ちもある、少しだけなら遅れてもいいって思うけど……
「……」
『あいつ、僕よりスゲー頭いいよ。悪魔には頭いいやつが沢山いるんだよね。んで、頭いい奴は総じて
『計算高い性格』の奴が多いんだよ?知ってた?』
清掃の悪魔の言う通りだ。シェフは、僕なんかよりも頭がいい。
『あいつなら、意図的に相手に気づかれることなく、孝志クンと契約するまでの流れを作ることが出来るんだよ』
『つーか、俺はあいつは狙ってやってたと思うわ。友達だからわかんだよね~』
僕は、映画館での悪魔の言葉を思い出して、扉から手を離した。
シェフのことは疑いたくない。でも、もし本当にシェフが狙って孝志と契約したなら?
「急いで戻ろう。孝志が心配だ」
(大丈夫だって信じたいのに、頭の中で最悪の想像ばかりしてしまう)
食堂に続くドアノブを握る手は汗をかいて、少しだけ冷えていた――。
◇◇◇
食堂に行くと食卓にはシェアハウスの住人たちが揃っていた。
孝志は自分の席で両手を机に突っ伏している。
「孝志、大丈夫?」
「おー、誠。だいじょうぶ。ちょっと疲れただけ」
僕の声に孝志は汗だくの顔を上げて、ぎこちない笑顔を浮かべた。シェフとの訓練、どんだけ厳しかったんだろ?
「孝志くん、大丈夫?」
「疲れたって、お前なにしてたんだよ」
向かい側の席に座る二人が心配そうに孝志を見る。冬美は表情からして、純粋に孝志を心配しているとわかる。けれど、五十嵐くんは違う、契約の話を聞いたのもあって、少し疑うような、探るような目線を孝志に向けていた。
「僕と孝志で、いろんな場所を探索してたんだよ」
「探索?」
同じような疑いの眼差しが、今度は僕へと向けられる。
「うん。ほら、初日はいろんなことがあって部屋を見て回れなかったから」
「わざわざ別行動したのか?…お前なら孝志と一緒に回ってたろ」
「広いし部屋が沢山あるって宇佐美から聞いてたから。それなら、二手に分かれて探索した方がいいって話になったんだ」
「誠は1階な。じゃあ孝志は?」
「3階だよ。宇佐美からこの空間には3階があるって聞いてたから」
「……契約関係で、疲れてるわけじゃないんだな」
「うん。それは関係ないから安心して。というか、僕だって、驚いてるんだよ?なんで孝志がこんなバテてんのかなって」
「そうか。なぁ、孝志、お前3階で何を見た?なんで、そんな疲れてんだよ」
「へ?えーっと」
「俺も後で見に行くから、教えてくれよ」
「!」
(それはダメだ…!孝志は三階を見に行ってないから嘘だとバレてしまう!)
流石、五十嵐くんというべきか、言い逃れなんてさせないつもりか。
僕たちは一度、契約の時に五十嵐くんを騙している。頭のいい彼は、悪魔だけじゃない、友達に関しても、二度と『嘘を見逃さない』ように警戒しているんだ。
友達としてなら、五十嵐くんほど心強い味方はいない――
「そ、それなら後で一緒に見に行こうよ。僕も3階はまだ見てないから」
「そうだな。でも、俺はネタバレとか平気だし。事前情報があっても楽しめるタイプだから、気にしないで教えてくれよ、孝志。」
「えっ」
まるで悪魔のように、彼の言葉が僕たちの逃げ道を塞いでいく。孝志も疲れているせいか、目が泳いでいて、答えを出せそうにない。
友達だからと甘く見ていた。でも、五十嵐くんはあの悪魔に追加契約を持ちかけた奴だ……僕たちの嘘は、絶対に見逃さないだろう。考えが甘かった。
(この状況をどう、切り抜ける?)
今の孝志に逃げ場はない。
(くそっ、なんで悪魔以外からも詰め寄られなきゃならないんだよ!?)
「ワリィな」
背後から低い声が響いて、思わず肩が跳ねる。
「ソイツには俺の仕事手伝ってもらってたんだわ」
僕たちは声がした方に振り返った。
「だ、だれ?」
そこには黒い作業着、帽子を後ろに被った、ひげ面の大男が工具箱を片手に立っていた。
(はじめて見る人?いや、悪魔か?)
「おっと、自己紹介が先だったか?俺は『整備士』だ。初日は仕事でこっち来られなくてよぉ、今日から合流したんだわ。ヨロシクな!!」
そう言って作業服の男の人は二カッと笑った。
「せ、整備士?」
「おう。部屋の備品の修理とか、あとは新しく作られる空間の整備、点検やってんだわ」
作業着の男は持っていた工具箱を床に置くと、僕の隣に座った。
見た感じ、他の悪魔より年上に見える。おじさんくらいの年齢だろうか?
でも、やっぱり悪魔だからか、僕が日常でよく見るおじさんとは違って無骨なのに整った顔をしている。『カッコいいおじさん』だった。
「その坊主には3階の整備を手伝ってもらってたんだよ。できたばっかで、照明とか設置してなかったからさぁ。マジで助かったわ…!」
「手伝い」
それは、ありえない。だって孝志はシェフと訓練していたから――三階に行くなんて、無理だ。
(この悪魔は、何を言ってるんだ?)
横目で孝志の方を見ると、明らかに孝志は困った表情でおじさんを凝視していた。 でも、五十嵐くんがいるから、必死に平常を保とうしている。話の途中で、孝志がさきほどと同じように机に突っ伏した。
冬美が「大丈夫?」と再度声をかけているのが見える。
(たぶん、隠しきれないと思って机に伏せたんだろうな)
孝志は嘘をつくのが下手だ。すぐに表情に出てしまう。学生の頃もよく五十嵐くんに嘘を見破られては「お前ってホント、嘘つくの下手だよなぁ」って笑われていたことを思い出す。
「あの、3階にはなにがあるんですか?」
少し疑いながらも、五十嵐くんの気を逸らすため、僕は作業着の男に質問を投げかける。僕はまだ孝志から三階の話を聞いていないから不自然な質問ではないだろう。
勿論、警戒心を保ったままだ。
突然、現れた得体の知れない『新しい悪魔』……簡単に信用なんてできない。
まず、僕たちは初対面のはずだ。それなのに……なんで、孝志を助けてくれるんだ?
「3階には『記憶の部屋』がある。その名の通り、過去の記憶が見れる部屋だ」
僕の質問に作業着の男から一瞬、笑顔が消えた。
「記憶の部屋」
宇佐美に教えてもらった存在している部屋は、日常生活を退屈にさせない娯楽施設といった感じだった。 作られた理由も納得できる。でも、『記憶の部屋』はなんだ?……作られた理由が分からない。
「お~『シンちゃん』やん!ようやく来たんか!」
「し、シンちゃん?」
遅れてやって来た放課後の悪魔が、作業着の男に歩み寄ってくる。正直言って僕は、悪魔の中でコイツが一番苦手だ。
僕は少し体を孝志のほうに寄せて悪魔二人から距離を取る。会話を観察することにした。
「おう。遅くなって悪かったな」
「なんも~、シンちゃん来てくれたんならまたおじさんの『ゲーム』が楽しくなるわ!来てくれてありがとな!」
「俺、モノ直すのとか好きだし。全然いいぜ」
「あれ?シンさんじゃん!!来てたんだね、いらっしゃい~」
食卓の上で漫画雑誌を見ていた清掃の悪魔も彼の存在に気づいたようで、作業着の男に向かって子供みたいに大きく手を振っている。
「おう。今は、清掃の悪魔だっけか?今日からよろしくな!」
「よろしく~」
「おい、お前ら席にって……シンさんか?」
「よぉ、シェフ。お前の料理楽しみにしてたぜ」
驚いた、シェフまでシンさん呼びだ。悪魔たちの知り合い?友達なのだろうか?
能力を奪い合う悪魔に友達なんていないと思っていたから、シンさんに対する悪魔たちの反応は意外だった。それに、シンさんって……
(悪魔は名前を知られたらダメなんじゃないの?)
一人一人の悪魔に気さくに笑いかける男に悪い印象は無い。むしろ、好印象に見える。シンさんは近所にたまにいる、面倒見のいいおじさんのようだった。
「あ、あの、シンサマっ」
(は??し、シンさま??)
さっきまで冬美の隣にいたメイドがいつの間にか、シンさんと呼ばれる悪魔の前にいた。
……気のせいかな?メイドの頬が少し赤くなっている気がする。
メイドは、しきりに髪を指先でいじりながら、もじもじした様子でシンさんを上目遣いで見上げていた。
「よぉ、嬢ちゃんも呼ばれてたのか。服、可愛いな。似合ってるぜ!」
「っあ、ありがとうございますっ」
シンさんが大きな手のひらでメイドの頭を優しく撫でると、メイドは顔を赤らめたまま、俯いてしまった。
二人の姿は傍から見れば、お父さんと娘のように見えるけど、あのメイドはきっとシンさんのことが好きなんだ。
好きな人の側にいるだけで嬉しい。好きな人に触られるのが嬉しいって気持ち、僕にはわかる。
「新しい悪魔さんかな?背、おおきいねー」
(今日も冬美は可愛いな。あ、また萌え袖着てる)
冬美が僕の隣で笑ってくれるだけで僕まで楽しい気持ちになれるんだ。
冬美が僕の手を握って自分の作った料理を食べて欲しいと言われたとき、心臓が壊れるんじゃないかってくらい、ドキドキした。
シンさんを見るメイドは――『好きな人』を顔をしていた。
そこに常に滲み出ていた妖艶さや、悪魔らしさはない。幸せそうにはにかんだ表情で席に戻るメイドの横顔は、恋する乙女だった。
(悪魔も、誰かを好きになったりするんだ……)
ぼうっとした表情でメイドを見ていると――
「記憶の部屋。本当なのか、孝志」
五十嵐くんの声が聞こえた。
「えっ、あぁ」
彼はまだ追及を辞めるつもりはないらしい。
「あ、悪い悪い。部屋っつっても、まだ扉しかできてないからソイツに「記憶の部屋を見たのか?」って聞いても、わかんねーと思うぜ?」
そして、再びシンさんが会話に割って入ってくる。
「扉しか、できてない?」
「新しくできたエリアなんだよ。んで、整備士の俺が一日遅れちまったから、中途半端すぎて説明もできねぇ状態だったってわけ!」
(未完成だから部屋として認識できない。この人の言葉は、嘘を必死に考えてる孝志の助け船になる)
咄嗟に考えたとは思えない『上手い嘘』……流石、悪魔としか言えない。
シンさんの言葉の意図に気づいた孝志は少し迷いながらも、五十嵐くんに目を向けた。
「そのおっさんの言う通りだよ。俺は、整備の知識とかねぇし、よくわかんねーまま、手伝わされたっつーか……コキ使われたんだよ」
「悪いな!猫の手も借りたい状態だったんだよ」
「俺も疲れたぜ~」そう言ってシンさんは帽子を脱ぐと椅子に深く腰掛け、少し汗ばんだ前髪を上にかきあげた。
「そっかぁ。だから孝志くんは疲れてたんだね」
「うん」
「俺の使ってる道具ってすげー重たいんだよ」
「うん、すごい重かった。肩凝るかと思ったわ」
話を合わせるのに必死のせいか、孝志の言葉はカタコトだった。聞いてる僕は嘘がバレないか、ひやひやしている。
「……本当なんだな」
「コイツが手伝ってくれたおかげで、部屋はほとんどできてる。心配なら、あとでお友達と一緒に見に行ってくるといいさ」
「アンタに聞いてねぇんだよ。でしゃばってくんな。……孝志に、何もないならいいんだ。疑って悪かった」
シンさんの言葉で彼の中にあった疑いの気持ちが消えたのか、五十嵐くんは孝志に頭を下げた。
「俺も、別に隠すことじゃねぇのに。早く言えばよかったんだ。その、ごめん」
続くように孝志も頭を下げる。二人は互いに頭を下げあっていた。
視界の端で、孝志の肩が少し震えているのが見えた。それを見た僕は、強い罪悪感にそっと目線を落とす。たぶん、友達に嘘をついたことに孝志は苦しんでいるんだ。
五十嵐くんが純粋に心配してるのがわかるから、苦しくなる。
(ごめん、五十嵐くん、孝志)
でも、それでも――シェフの能力も、契約も…ここを出るためには、バレるわけにはいかないんだ。
だから嘘をつくしかない。最低だって思われてもいい。
(本当なら、僕がシェフと契約していれば、孝志にこんな苦労はさせなかったのに……)
僕だけが、嘘をついて最低だって思われればよかった。ごめん、孝志……
「仲直りは終わったか?」
「シェフ…」
沈黙を破ったのはシェフの声だ。気が付けば、食卓の上には大きな皿が置かれていた。
皿の上には、長いバケットにエビやイカ、新鮮なトマトとレタスをぎっしり詰め込んだサンドイッチが並んでいる。
「うわ~!おいしそう!!」
置かれたサンドイッチ見て一番に冬美が嬉しそうな声を上げる。
「マジで旨そうだな!」
僕の隣に座ったシンさんも冬美と負けないくらい大きな声を上げて彼女に賛同する。
「私、こういう高そうなサンドイッチ、一回でいいから食べてみたかったの!」
「中身がエビってのがいいよなぁ!」
「わ、わかります!わたしも、お肉よりエビ好きだから!」
仲良し女子高生みたいに盛り上がる、父と娘くらい歳の離れた二人を見て思わず苦笑いを浮かべる。
「……」
いや、それにしても打ち解けるの早くない?
どうやらシンさんという悪魔は、かなりのコミュ力高いおじさんのようだ。二人がきゃっきゃと騒ぐ中、シェフはテーブルを回って一人一人のコップにオレンジジュースを注いでいた。
そして、人数分注ぎ終えたシェフは、自分の席に向かう途中、孝志の肩を軽くポンっと叩いていく。
「…シェフ」
(落ち込んだ孝志を慰めてくれてるのかな)
穏やかな気持ちになりかけた時、テーブルの奥の方に座る清掃の悪魔の姿が目に入って……映画館での悪魔の言葉を思い出す。
『あいつなら、意図的に、相手に気づかれることなく、孝志クンと契約するまでの流れを作ることが出来るんだよ』
僕は、この先……
『つーか、俺はあいつは狙ってやってたと思うわ。友達だからわかんだよね~』
「食事の時間だ」
シェフを、信じていいのかな……。
最後まで読んで頂きありがとうございました!!




