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第19話『不穏な予蝶』

【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。

放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が…。

悪魔に騙されたことにキレている。



【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。


シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。


(以降、悪魔たちは順次追加予定)








「孝志っダメだ…!!って、あれ??」



 昨日、いつの間に眠っていたのか、

 朝目覚めた場所はシェフの部屋じゃなくて


 自分の部屋だった。


 口もなんだかスース―する。

 記憶はないけど…


 たぶんいつもの習慣で寝ぼけながらも自分で歯を磨いていたようだ。


 (部屋に戻って来た記憶はないけど…ま、いいか)


 寝て起きて、この世界が夢だったらいいなって考えていたけど…


 そんな甘い現実などなく、僕に『おはようございます!』と朝の挨拶をしたのは、喋るウサギだ。


「はっ、そうだ!孝志は…っ」


 昨日の出来事が夢じゃないなら、孝志は『味覚』を対価にして、シェフと契約をしたことになる。


 この部屋にいないところを見ると、孝志も自分の部屋に戻って…


 いや、もしかして契約者になったから

 シェフの部屋にいる可能性の方が高い…!




『驚く意味がわからんな。契約した時点で契約者の体も体液も、等しく俺のモノだからな』



「うわああっ!孝志が危ない!」


 僕の脳裏に昨日のシェフの言葉が蘇る。


 ベッドから転がり落ちながらも、なんとか背中で着地した。痛い。


「宇佐美!僕に新しい服用意して!」


『承知いたしました誠サマ!どのようなお洋服が』


「ぱ、パーカーでいいよ!あと、したは短パンでいい、とにかく早くして!」


『パーカーですね!了解いたしました』


 待ちきれずに入口の前で足踏みをしてると

 パッと一瞬にして服が新しくなる。


 動きやすい灰色のラインの入ったジャージ素材のパーカーと短パンだ。


「わぁ、すごい!ありがとう宇佐美!」


『いえいえ、これが宇佐美の仕事ですから!』



 宇佐美にお礼を言ってドアノブを回し僕は廊下に出た。









「わ!…『蝶』だ!!


 廊下に出ると、目の前にたくさんの蝶が飛んでいた。


 しかも“ピンク色”だ。


「ピンク色の蝶って、はじめて見た…綺麗」


突然現れた無数の蝶に、驚きよりも先に美しい羽根色に目がいってしまう。


「まもる?」


 空中の蝶をぼーっとしながら見ていると、後ろから声をかけられた。


「!…あ、五十嵐くん」


 声の主は、同じように部屋から出てきたのは五十嵐くんだった。


 少し寝ぼけ眼な五十嵐くんに「お前早起きだなぁ」と言われて、宇佐美に時間を確認するのを忘れていたことに気づく。


 腕の中の宇佐美に時間を聞けば『朝の6時14分です!』と宇佐美は答えた。


「え?朝の6時?この時間ならいつも朝ごはん食べてるよ」


「…お前の家ってほんと、ちゃんとしてんな。俺、この時間普通に寝てるよ」


「えっそうなの?なんで起きたの?」


「トイレ」


 そう言って五十嵐くんは部屋の向かい側にある部屋を指差した。


 そうだ、忘れてた。トイレは廊下にあるんだった。


「それにしてもすげぇ蝶々だな。色もおかしいし、こいつはたぶん悪魔関係だろうな」


「えっ、あ…そうだね」


「ここの朝飯、8時くらいだから。時間早いし、俺はトイレ行ったら寝るわ」


「8時か、了解。それなら僕も、もう少しだけ寝ようかな」


「ん…じゃあ、またな」


「歩くの大丈夫?手伝おうか?」


「ん~、大丈夫だいじょうぶ…トイレくらい一人でしたい」


「そ、そっか、じゃあ、えっと…おやすみ」


「ん、おやすみ」


 (…五十嵐くん、朝が弱いのかな?)


 トイレに入っていく五十嵐くんを見送ると、僕はシェフの部屋に向かった。


 周りの蝶も気になるけど、それよりも孝志だ。


 それに、五十嵐くんの言うように悪魔がいる以上この蝶も、悪魔関連なのは間違いないだろう。


 (なんか、僕…悪魔がいる環境に慣れてきてないか?)


「誠?って、うわ!なんだよこの蝶」


「!?孝志…!」


 孝志も服を変えてもらったのか、昨日とは違う白い薄手のパーカーを着て、自室のドアの隙間からひょっこり顔を出している。


「よかった無事だった!!」


「無事??それにしてもお前、朝から元気だなぁ。俺、まだ眠いんだけど」


「孝志、その…体とか大丈夫?体調は?」


「えっ、とくになんも…つーか、気にするのは俺じゃなくて、この蝶なんじゃねぇの?」


 孝志に言われて、僕は改めて蝶が飛び交う廊下を眺める。


「…確かに、変わった蝶だけど。悪魔のいたずらか、なんかじゃない?」


「そうか?…俺は、なんか…この蝶、気持ち悪いんだよな」


「気持ち悪い?」


「…うん。見てると、不安になる」


「…不安」


 蝶を見る孝志の表情は怒ったような、困ったような複雑な表情をしていた。


 何も言わずに羽ばたく蝶を見ていると――




「これは、またまた楽しくなってきたね!」


「うわっ!?」


 まるで“最初からそこにいた”ように

 僕と孝志の間にあの『清掃の悪魔』が

 同じように上を向いて蝶を眺めていた。


「!?…あ、あんたは、確か…清掃の悪魔?」


「正解~!やぁやぁ、2人ともおはよ~!」


 清掃の悪魔はいつものジャージ姿で右手に箒を持っていた。


 そして、彼のすぐ近くにはあの「吸引力が変わらないで有名な掃除機」とバケツの入った水がふわふわと空中に浮いている。


「食堂の掃除はもう終わってるよ!今は、廊下を掃除しにきたんだ~」


「そ、そうなんですか」


「うん!」


 …近い。


(この人は顔を近づけないと話せないのかな!?)


「あ、じゃあ、僕たちご飯の時間まで二度寝するんで!ほら、孝志も二度寝するよね?」


「えっ、あ…そうだな」


 昨日、今日と続けざまに悪魔とは関わりたくなくて、僕は孝志の背を無理やり部屋に押し込んだ。







「シェフと契約したんだね」



「えっ」



 清掃の悪魔は、僕のすぐ近く背後にいた。


 トンっと肩に手が置かれる。


「悪魔はね、人間と契約したら、誰と契約したか…わかるんだよ?」


「…そ、そうなんですか」


「なんでか、わかる?」


「さ、さぁ…」


「これは俺のモノだから手を出すなって、けん制してんの」


 軽く置かれているはずの手が、やけに重く感じて、痛い。


 緊張で心臓の鼓動が早くなっていくのが分かる。


「僕と契約する?」


「っ!」


 清掃の悪魔の言葉に、僕は勢いよく後ろを振り返った。


「大事にするよ?」


 互いの鼻先がぶつかる距離、人間離れした美しい容姿。


 そして、金色の瞳には怯える僕の表情がハッキリと写っていた。


「シェフから対価の話、聞いたよね?僕も君たちとお話したいなぁ…もしかしたら、僕は君たちの望む能力、持ってるかもしれないよ?」


「それは…っ」


 (なんで、その話を知ってるんだ?)


「あのね、俺の能力はね―」


「!?」


 信じられない…!




 (前振りもなく、能力を言うつもりなのか!?能力を聞いた時点で“契約は絶対条件”なんだぞ…!)




「ちょっと、待っ…」




「俺の能力は、か――――」







 …えっ?






 突然、清掃の悪魔の声が聞こえなくなった。







 そして、微かに香る






 香ばしいパンの香りに




「まったく…」



 後ろを見なくて僕の両耳を塞ぐ存在が、

 誰なのかわかってしまった。



「調理の途中だったんだがな…」


「!シェフ!!」


「誠!!大丈夫か!」


「っ孝志」


 シェフの背後、ひょっこりと顔を出した孝志が僕に声をかける。


 どうやら契約者である孝志がシェフを呼んでくれたようだ。…どうやって呼んだのかはわからないけど、本当に助かった。


「も~シェフ~邪魔しないでよ」


「俺は主人の命に従っただけだ『友達を助けてくれ』とな」


「…はぁ~~…相変わらず、甘ったるい悪魔だよなぁ」


 つまんねぇの、そう言って清掃の悪魔は廊下の暗闇に消えて行った。


「はぁ……おい、誠」


「は、はい!」


 (えっ、はじめて名前呼ばれた!?)


「昼間、お前らには命令権がある。他の悪魔が何かしようとした場合『拒否』の言葉を言え。さっきのも同じだ。


 お前が「喋るな」といえばアイツは黙る」


「そ、そうなんですか?」


「あぁ、五十嵐様の契約に「世話をする悪魔は人間の命に従う」があるからな」


「五十嵐くん…」


「ん?俺たちの命令に従うなら『悪魔の時間』も同じになるんじゃねぇの?」


「悪魔の時間、俺たちは『世話役』ではなく『悪魔』に戻っているから無効だ」


「うわ…また、騙してないけど“嘘ついてない”ってやつだ」


「悪魔って一休さんみたいだよな…」


「そろそろ厨房に戻っていいか?」


「あっ、いきなり呼んでごめん。朝食楽しみにしてるぜ」


「!」


「…」


 孝志の言葉に僕とシェフが反応する。


 だって、孝志は…


「…お前は…味がわからないのに、楽しみにしてるなど…なぜそんなことを言う?」


 シェフが目を見開き「わけがわからない」と言いたげな表情で孝志を見下ろす。


「えっ…あぁ、そっか。そうだったな、俺、味覚なくなったんだっけ?」


 僕とシェフの反応を見て『味覚』を失ったことを思い出した孝志が、少し困った表情をしながら首裏をかいた。


「うーん…俺はさ、五十嵐とか、誠みたいに頭良くないからさ」


「?…なにが言いたい」


「これから頭使うこといっぱいあるだろ?そん時に、シェフの美味い飯が、コイツの活力になると思うんだ。」


「孝志…」


「……」


「だから、とびきり美味い飯コイツのためにも作ってくれよな!」


「………前にも言ったが、俺は料理に手は抜かない」


 シェフはそれだけ言って、孝志の『影の中』に吸い込まれるように消えた。


(あ、シェフってそこから来てたんだ)


「あれ、誠…いつの間にか蝶が消えてるぞ?」


 孝志に言われて僕は上空に目を向けた。


「本当だ…!シェフが消える前に、蝶のこと聞けばよかったなぁ」


「だな」


「そういえば、孝志は清掃の悪魔の能力聞いた?…近くに孝志がいたならワンチャン」


「能力?俺には、髪が伸びるってしか聞こえなかったけど」


「は、はぁ!?」


(か、髪が伸びる?なんだよ、その能力!!)


「~っくそ、弄ばれた!!」


 (だから悪魔は嫌いなんだ!)


 僕は騙された怒りと悔しさをぶつけるように、髪をかきむしった。


「だ、大丈夫か?」


 僕のぐちゃぐちゃになった髪を孝志が呆れた表情をしながら、手櫛で整えてくれた。


「………寝よっか、早いし」


「?…だな。おやすみ、誠」


「おやすみ~」


 孝志が部屋に入るのを見送ると、僕も自分の部屋に戻った。


 宇佐美を枕のすぐ近くに置いて、まだぬくもりの残る布団を被って両手を頭にやって天井を見上げる。




 …清掃の悪魔が言った言葉の中で、少し気になる言葉があった。



 


 『これは、またまた楽しくなってきたね!』



 あれは、確実に蝶を見て言っていた。



 悪魔が言う『楽しい』は、僕たち人間からすれば“絶対に楽しくない”ことに決まっている。



「…僕も、なんだか不安になって来たよ……寝よ」



 僕は現実から、目を背けるように目を瞑ると




 夢の世界へと旅立った…。









最後まで読んで頂きありがとうございました!

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