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第17話『悪魔とは……』

【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。

放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が…。

悪魔に騙されたことにキレている。



【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。


シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢に、誠は“他の悪魔とは違う”ものを感じている。


(以降、悪魔たちは順次追加予定)




 




 




「…勘違いしてるようだから教えてやるが…

 

 悪魔はそこまで“万能”ではないぞ?」



「えっ?」







◇◇◇





 紅茶の匂いが香る室内。

 

 この匂いだけなら今から『お茶会』でもはじめそうな空気だ。


 でも、今から始めるのはお茶会などではない。



「シェフの…あなたの能力と対価、教えてください」



 悪魔との交渉だ。



 テーブルを挟んで向かい合いように置かれたソファーには、長い足を組んで、帽子の影から赤い瞳を覗かせる悪魔がいる。


 たった一日しか関わっていない悪魔を信用することなんて、普通なら無理だ。

 人間相手だって、信用に値するか試す期間があって、それを経て『友達』になる。


 僕は別に、悪魔と友達になるつもりは無い。


(だけど、僕たちには迷っている時間なんてない…)



 これは『賭け』だ。


 僕は今、はじめて“直感”だけで人を選んでいる。


 (現実世界なら絶対にありえないことだ…)


 膝に置いた両手が、緊張して震えている。

 ほのかに香ってくる紅茶の匂いに、酷く喉が渇いて――


 早くシェフの紅茶が飲みたいと思った。



「…俺の能力は」


「ちょっと待ってくれ!」


「!た、孝志?」


「…」


 シェフが言いかけたところで、孝志が静止をかけた。

 怪訝そうな目をシェフが孝志へと向ける。


 僕も驚いて孝志の方を見た。


「話をぶった切って悪い…アンタに、シェフに少し確認したいことがあるんだ」


「…なんだ」


 黒と赤、二つの異なる目を向けられた孝志は少し迷いながらも、シェフの方を真っすぐ見た。


「の、能力を言った瞬間に対価が発動したりしねぇよな?」


「…」


「い、五十嵐みたいに腕取るとか」


「孝志?なに言ってるんだよ」


「万が一って可能性あるかもしれねぇだろ!?よく漫画とかでも見るじゃん。契約するって言った瞬間に「対価だ」とか言って、問答無用で腕とか心臓奪うやつ!」


「!?」


 孝志の話を聞いて、背筋が震えた。


 (その可能性は考えてなかった!)


「で、でも、そ、それはマンガの話だろ」


「目の前にいるのは本物の悪魔なんだぞ!?今、この瞬間も俺らの心読んだりしてるかもしれねぇじゃん」


「心を、読む…」


 悪魔は未来が見えて、人の思考を読み取る能力がある。

 人を言葉で操ったり、人に化けたりする悪魔もいる…


 放課後の悪魔なんかソレだ。

 アイツは確実に僕の心を読んでいた。


(シェフも悪魔だ。アイツと同じようなことができても―)







「…勘違いしてるようだから教えてやるが

 悪魔はそこまで“万能”ではないぞ?」



「えっ…」


 シェフの言葉に驚いて前を見ると、飽きれたような表情を浮かべるシェフと目が合った。


「漫画やアニメで描かれている悪魔は幻想だと思え。

 まぁ、一部当てはまる悪魔はいるが…俺に人の思考を読む能力はない」


「えっ!?で、でも…」


 (ついさっき…僕の考えを読んだかのような発言したじゃないか!)


「お前は“感情が表情に出るタイプの人間”だな」


「へ?」


 シェフの言葉に、僕は反論の言葉を返すことが出来なかった。

 間抜けな声だけが、出てしまった。


「思考型と言った方がいいか。

 頭はそこまでよくないが、勘は鋭い。


 …ただ、好きなものや信じたい相手には

 理屈よりも先に感情が動く。


 一度心を許すと警戒心が下がる。

 顔も声も、全部に出るタイプだ」


「なっ…!!」


(何個か当たってる!!というか、心当たりしかない!)


 僕の動揺など気にした様子もなく、今度は孝志の方に顔を向ける。


「お前は感情型だな。

 自己犠牲的で「自分は後回し」が当たり前。

 怒りや不満は表情では隠せるが、嘘が破壊的に下手だ。

 顔に出てすぐにバレる。」


「えっ!な、なんで知ってんの…!?…あっ」


「悪魔が何年生きてると思っている?千年以上、いや万か?それ以上が通常だ。

 俺たちは生きてるだけの年数、様々な人間を見て、観察してきた。」


「か、観察…」


「初対面の人間でもソイツがどんな性格で何が好きか、何を望んでいるか…

 どうすれば騙し堕とせるか、仕草一つ見れば大体わかる。


 …統計学みたいなものだな。

 心を読んでるわけではない」


「とうけいがく…」


「…」


(長く生きてるから、できること…)


 そうか。本当の悪魔は、心を読むんじゃない

 “人間の癖や傾向”を見て、相手を信じさせる動きをするのか。


 (下手に能力使われるより、長年の経験で性格を見極められる方が地味に怖いな)


「悪魔の中にも心を読むことに特化したやつもいるが、稀だ。

 長く生きていれば器用にもなる。


 人の心を読んだかのような振る舞いもできるし、騙されたフリもできる。


 ソイツを好きだという思わせぶりの演技もできる。


 悪魔とはそういう生き物だと思え」


 シェフはきっぱり言い切ると、ポットに手を置いて「少し熱かったか?」と温度を確認していた。


 砂時計はもう半分以上落ちている。


「じゃあ、ココにいる悪魔で心を読める悪魔はいないんですね?」


 人の心は読めないと言っていたシェフの人間分析は怖いくらい当たっていた。


(シェフでこれなら、もし、本当に心を読める悪魔がいるとしたら…考えただけで怖い。)


「さぁな、悪魔は基本的“互いの能力は知らない”」


「え!?お、お互いの能力知らないんですか!?」


 更なる衝撃的な事実に僕の声は自然と大きくなる。

 放課後の悪魔の口ぶりからして、悪魔たちはお互いの能力を知ってるものだと思っていたからだ。


 (でも、それってつまり…悪魔は『仲間同士』じゃないってこと?)


「なんで知らないんだよ。…仲悪いのか?」


「悪魔にはソイツだけにしか持てない

 『固有能力』がある。


 もし、能力を知られた場合…

 能力によっては“悪魔に奪われる可能性がある”」


「?悪魔の能力を、悪魔が奪うのか?」


 シェフの話に孝志が首を傾げた。


「そうだ。このゲーム自体も、それが含まれている可能性が高いだろうな。俺の能力は今のところ、誰にも知られていない」


「えっ、僕たちに教えて大丈夫なんですか?」


「…対価はなぜ、あると思う?」


「へ?なんでって…」


 対価がどうしてあるかなんて…


 (漫画やアニメでよくある設定だから考えたこともなかった。…契約に必要だからじゃないのか?)


 でも――



 (なんで必要なんだろう?)



 『なんでもできる悪魔』が人に対価を求める理由ってなんだ?



「…人が、苦しむ姿を見るのが好き?だから、とか?」


 自分で言っておいて、すごい悪魔的な回答だと思った。


 隣で孝志が「お前、マジか?」といった表情で見ているのが、視線だけでわかる。


「…例えば、『目』を対価にしたとしよう。すると、契約者の一部が悪魔の手に渡る。悪魔の手にある以上、契約者は“悪魔と死後も繋がり続ける”」


「死後も!?…つ、繋がったら、どうなるんですか?」


「契約者が地獄での刑罰を終えて転生したとしても、どこにいても居場所がわかる」


「!?」


「つまり、お前が俺に対価を払った瞬間から、俺は常にお前を『監視』することができるということだ。


 お前の“体の一部”は、俺のものだからな。」

 

 シェフの赤く鋭い瞳が僕を真っすぐ見据えた。


 ( 監視…)


「…悪魔って、なんでもできるじゃないですか。そんな、人間を監視する意味ってあるんですか?」


 僕は恐る恐る、シェフに聞いた。

 シェフから対価の理由を聞いても、いまいち納得できなかったからだ。


「…なるほど、やはりお前は少しだけ賢いようだな」


「ど、どうも」


「まぁ、合理的に言えば対価というのは、魂を回収するための『タグ付け』だ」


「タグ付け?」


「人間を堕落させることは一種の悪魔の仕事でもある。魂は有限だ。いいものは何度でも使い回した方が新しく探すより楽なんだ。」


「そんな…モノみたいな言い方しなくても」


「悪魔にとって“興味のない人間の魂は【モノ】でしかない」


「…!」


「悪魔と契約するというのは、魂ごと“支配される”ということだ…




 お前にその覚悟はあるのか?」


「…っ」


 シェフの言葉が終わるのを合図に砂時計の中の砂がサラッと全て落ち切った。


 対価の話を聞いてから

 心臓の音がうるさい。


 周りに聞こえるんじゃないかってくらいドキドキしている。


 (魂の支配…死後も続く?契約ってそんなに重いものだったの?)


 死んだら契約は解除されるものだと思っていた。


 (…生きてる間だけじゃないのか…死んでも、地獄に堕ちても、生まれ変わっても、ずっと悪魔と繋がってるなんて…


 それって…もう、僕の人生に自由が無いってことだ)


 だって、漫画だとアニメだと、もっと簡単で…対価も軽くて…



 『漫画やアニメで描かれている悪魔は幻想だと思え』



「…っ」


 シェフの言ってることは正しいことなんだろう。

 僕は今まで生きてきて、悪魔なんて紙とテレビ画面でしか見たことが無い。


 

 本当の悪魔を知らなかった。




 悪魔と契約することは――







 “人生を対価”にするってことだ…



「…できたな」


 シェフがティーポットの蓋を開ける。

 さっきまでふんわり漂っていた紅茶の匂いが強くなった。


「砂糖は何個だ?ミルクはどれくらい入れる?」


「えっ、あー…じゃあ、3個で…誠は…誠?」


「…えっ、あ…じゃあ、2個で、おねがいします」


「誠…?大丈夫か?顔色悪いぞ?」


「大丈夫…喉が、乾いてるだけだから」


「…具合悪くなったらすぐに言えよ」


「うん…ありがとう」


「時間だ」


「!」


 3つのカップにすべての紅茶を注ぎ終えたシェフが小さな声でそう言った。


 2人の体に緊張が走る。


「じ、時間って、悪魔の時間ですか?」


「そうだ。」


『ただいまの時刻は0時でございます!』


 隣に座る宇佐美が、場違いなほど元気な声で答える。


「…」


「……」


「…はぁ、疑いの眼差しを向けるな。安心しろ、お前らがこの部屋を出るまで、俺は『シェフ』だ」


 不安になって二人してシェフを凝視していたのか、紅茶を一口飲んだシェフは呆れたようにそう言った。


 シェフの言葉を聞いてようやく安心できた僕たちは、2人同時にシェフの淹れてくれた紅茶に口を付ける。


「!おいしい」


「すげぇイイ匂いだな」


「当たり前だ。茶葉も俺が厳選して選んでいるからな」


「す、すごい」


「紅茶もこだわってるのかよ、すげぇな…」


「で?俺はいつ話の続きを言えばいいんだ?

 …紅茶を飲みにきたわけじゃないだろ?」


 やっぱり、シェフは逃がしてくれない。


 シェフの話が本当なら。

 万が一、僕がシェフの能力のことを誰かに話したとしたら


 僕は即座に“殺される”。


 契約者を監視するというのは、そういうことだ。

 支配するために、見張るんだ。


 (僕と同じだ、悪魔も人なんて信用していないんだ。)


「…誠、大丈夫か?」


「っ大丈夫…」


 僕はカップを皿に戻すと、呼吸を一つして気持ちを落ち着かせた。


「…シェフの、能力を教えてください。」


「俺の能力は『影に潜む』ことだ。


 昼夜問わず、生物の影の中に“気づかれることなく”潜むことが出来る。


 …そうだな。お前たちの使用用途を考えるとするなら『情報収集』ができること、影と影の間を気づかれることなく、移動できるということだな」


「影に潜む能力…」


 (影の中に入れる?この能力って使い方によっては、かなりいいんじゃないか?)



 でも、なんだか…


 (強い悪魔が使う能力だとは思えない…)


「対価は『味覚』だ」


「!?み、味覚って…」


 考える時間など与えないように続けられた話に、頭が回らなくなる。


 (味覚って、そんなの…かなりの代償じゃないか。)


「能力を知った以上、契約は免れんぞ。」


「……」


 シェフと契約したら人間が生きていくうえで大切な『味覚』を失うことになる。


 (まだ、他の悪魔の能力も知らない状態で、いきなりそんな代償を払うのか?)




 母さんのご飯の味も、買ってくるパンも、


 あの焼きたてパンの香ばしさも、


 冬美が作ってくれると約束したパンケーキの味も…





 全部、感じることができなくなるのか?




 味覚を失うって…こんなに、怖いことなんだ。



 (体の震えが止まらない…)



 カップを持つ手がカタカタと震えている。

 目の前に座るシェフが静かに再び紅茶へと口を付ける。


 ゆっくり立ち上る湯気の向こうから、赤い瞳がジッと僕を見つめている。


 赤い瞳は僕を逃さない。


 紅茶の匂いが、手に感じる微かな重みと暖かさが…




 逃げ場などないのだと



 現実なんだと…








 思い知らせてくる…
















最後まで読んで頂きありがとうございました!


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