第15話『衝撃の真実』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。
放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が──。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢に、誠は“他の悪魔とは違う”ものを感じている。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
【⚠️ この話には強い性的暴力描写があります。読む際はご注意ください。】
空中にふわふわとシャボン玉が飛んでいる。
全身を包むのは、いい香りのする温かいお湯だ。
「かゆいとこございませんか?」
「な、ないです…」
関西弁を話す人から『メイド』と呼ばれた美人な女の人は、大きな浴槽につかる私の後ろに立って、丁寧に髪を洗ってくれている。
(お風呂なんて、はじめて入ったかもしれない…)
自宅にはシャワー室しかなかった。
五十嵐くんによくお風呂を勧められたけど、ご飯を食べさせてもらってるのに、お風呂は欲張り過ぎだ。
だから、入りたい気持ちを押し殺して
いつも笑って、心配させないように断っていた。
ここは1階にある大浴場だ。
小さくなった私はメイドさんに抱きかかえられながらここに連れてこられた。
細い腕なのに、メイドさんは力持ちだ。
「こちらが、冬美サマ専用のお風呂になります」
「!うわ~、キレイ!!」
大きな扉を抜けると、白を基調とした空間に金の装飾がちりばめられたクラシカルなデザインの空間が広が広がっていた。
床は石造り、壁際には観葉植物が飾られている。
天井からは小さなシャンデリアが吊るされていた。
「あのバスタブ可愛い!」
浴室の中央には、まるでお姫様が入るような大きな猫脚バスタブと、浴槽からはブクブクと零れ落ちるほどの泡が見える。
「うふふ、冬美様は今からあの浴槽に入るんですよ?」
「えっ、入っていいの?」
「もちろん。ここにある全てのものは、五十嵐様と、そのご友人の物ですから」
そう言ってメイドさんは浴槽の扉を開ける。
すると、空中に浮かんでいたシャボン玉が空気に乗って私のいる場所まで入ってきた。
消えることの無いシャボン玉が、私の周りにふわふわと浮かんでいる。
…まるで幻想世界のような光景だった。
「綺麗…」
シャボン玉に触って遊んでいると、服やタオルを置く棚の隣、お嬢様が使うようなお洒落で大きな鏡が見えた。
夢のような空間に気分が上がっていたのだろう。
私は「あの鏡、見たい!」と言って、メイドさんの腕から下ろしてもらうと、白い女神様の装飾がキレイな鏡に近づいた。
「…っ」
だけど、自分の姿が鏡に映りそうになって、私はすぐに目を逸らした。
こんな綺麗な鏡に、私なんかが映ってはいけない…そう思ったから。
「冬美サマ。夕飯の時間に遅れてしまいます。早く温かいお湯につかりましょう」
鏡に映らない位置で下を向いていると、メイドさんが優しく私の肩に手を置いた。
「うん…」
脱衣所で服を脱ぐとき手が震えた。
私は自分の体が嫌いだ。
自分の体を見るのは、もっと嫌いだった。
“汚れる前の体”だとわかってても、怖かった。
ここに来る前の悪夢のような光景が、今も頭から離れない。
「冬美サマ。大丈夫…今のアナタの体には傷も、キスマークもありませんよ」
「…!」
震える背中にメイドさんの手が優しく触れると、ふわりといい匂いがした。
お母さんがつけてるような、香水の匂い。
「…ほんとうに?」
「はい」
「怖いの…服を脱いで、体が変わってなかったら…って」
「悪魔は契約者様の言ったことは必ず、必ず守ります。だから、安心して『脱ぎましょう?』…大丈夫、冬美サマは綺麗です」
「…うん」
メイドさんが私の耳元で囁くように言えば
ふっ…と肩の力が自然と抜けていった。
私はゆっくりと震える手で服に手をかける。
上着を脱ぐときに途中、頭がひっかかって、メイドさんがくすくすと上品に笑いながら脱ぐのを手伝ってくれた。
「痒いところはございませんか?」
「だ、だいじょうぶです」
メイドさんが雲みたいな、ふわふわの泡で髪を洗ってくれた。
見た目は小学生でも中身は高校生だから
「恥ずかしいから、一人で出来るよ」っと言ったら。
「これもメイドの仕事ですから」
――と、にっこりと美しい笑みを向けられて、何も言えなかった。
(お母さんの恋人以外に裸見られたの…はじめてかもしれない)
シャワーを使っているのにメイドさんの服はどこも濡れていない。
むしろ服が水を跳ね返していた。
(悪魔ってなんでもできるんだね、羨ましいなぁ)
「次は、トリートメントしますね」
「は、はい」
私の頭に触れるメイドさんの手つきは悪魔なのに優しい。
温かい湯の張ったバスタブに浸かりながら、ゆっくり目をつぶった。
『学校』や『友達』以外で、こんなゆっくりした時間を過ごしているのは初めてかもしれない。
(初めてのことだらけだなぁ…)
水面に浮かぶ泡を両手で吸い取って、ふうっっと息を吹きかける。
泡はシャボン玉に変わって、七色に輝きながら宙に浮かんでいった。
「わぁ…!綺麗…」
「ふふ、お楽しみ頂けましたか?この泡は魔力で作られた泡。
冬美サマが望めば、ただの泡が、動物の形にも変化するんですよ」
「望み…」
メイドさんの言葉に、泡をすくう手が止まる。
「ねぇ…メイドさん…
アナタの能力はなに?」
「…あら、もう聞いてしまうのですか?」
トリートメントを塗る手は止めないまま、メイドさんは答える。
トリートメントからは甘い蜂蜜のような香りがした。彼女がつけてる、香水と同じ匂い…
(あぁ、この匂いを嗅ぐだけ思い出す)
「あの関西弁の人が言ってたことって、本当だったんだね…
あんた、本当に性格悪いね」
「うふふ」
彼女が使ってる香水も、トリートメントの匂いも――
全部、全部…お母さんが愛用している香水の匂いだった。
メイドが私に触れた時から、吐き気が止まらなかった。
(ここにきてまで、お母さんを感じたくない…)
このメイドは“私が嫌いな匂いだとわかってて”やってるんだ。
最低だ、ワザと人の神経を逆なでするところが、悪魔らしい。
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
「吐き気がする…気持ち悪い、今すぐ変えて」
「はぁい…」
メイドが返事をした瞬間、不快な匂いは石鹸の香りへと変わった。
…ようやく、まともに呼吸ができる。
「気づいてたんですね~、アナタもなかなか“演技が出来る女”なんですね」
「…いろんな男の前で、演技してたからね。
綺麗な女の子が泣くと『興奮』するんだって…キモイよね」
「私は好きですよ?人間の多種多様な、趣味嗜好」
「それは…アンタが悪魔だからでしょ?
私にみたいに力の無い
ただ綺麗なだけの女の子だったら
そんなこと言えないと思うよ」
悪役も、ヒーローも同じ。
みんな『自分を守れる力』があるから見返りを求めずに、人助けができる。好きに暴れることができる。
「私ね、よく周りから美人だねとか、綺麗だねって言われるの」
「冬美サマはお美しいですからね」
「私は綺麗も、美しいも。全部、大っ嫌い」
(美しい?綺麗?じゃあ、全部あげる。
こんな顔も、人生も…全部貰ってよ!)
こんな人生送るくらいなら、美人じゃなくていい。
(…普通の顔に産まれたかった。)
「…痛くない。…体がリセットされてるのは、本当なんだね」
私はお湯の中から片手を出すと、手首のあたりをジッと見下ろした。
脳裏に過ぎるのは、ここに来る前の記憶だ…
◇◇◇
『っいやだぁっ!やめてっ!!離してぇっ!!』
卒業式が終わって帰ると、待っていたのは“複数の男たち”
玄関を入ってすぐ、私は逃げる間もなく男たちに囲まれて、制服を破かれて下着姿にされた。
『卒業おめでと~、冬美』
連れてこられた先、男たちを両側に侍らせて煙草を片手に私を笑顔で出迎えたのは…
お母さんだ。
『アンタがマグロだって話をさ、オーナーにしたらさぁ。お客さん喜ばせられないのは困るって、文句言われてたんだよね。だからさぁ』
『うぅっ…ぃ、いやっ』
『練習しよっか。冬美ちゃん』
歪んだ視界に嫌でも映るのは、テーブルの上に沢山置かれた避妊具の箱だ。
私を押さえつける男のうちの一人、ガタイのいい男が私の体を持ち上げる。
行先なんて、決まっている――
私の寝室だ。
激しく暴れたら、頬を殴られた。
『いやだ…嫌っ…っもうやめてよ、おかぁさん…』
バタンと扉が閉まった。
はじまりの『合図』だ…
地獄の遊びがはじまる…
『私より、美人に産まれてきた自分を恨みな』
力強く手足を押さえつけられて、ゴキッと手首から嫌な音が鳴った。
『痛いっっ!!』と激痛に叫んだ。
でも、助けてくれる人なんていない。
カチャカチャとベルトを緩める音。
男たちの荒い息遣い。
終わらない苦痛。終わらない行為…
『助けて…コワイよ、五十嵐くん…ったかし、くん…』
涙が止めどなく溢れる、臭い男の舌がその涙を舐めて、吐き気がする。
揺さぶられている間、私はずっと天井を見つめていた。
殴られても、首を絞められても、大好きな人たちの名前を呼び続けた…
『助けて…
たすけて
助けてよぉ…
たすけて…誠くん』
「ありがと。アンタのおかげで…迷いはなくなった」
あの女の匂いを感じるほどに、私はココから出たくなくなった。
あそこは地獄だった。
罪も犯していないのに『生きながらの地獄』になんて、生きたくない。
「誠くん、ごめん…大好きな家族と引き離して、ごめんなさい」
( でも、冬美にはみんなが必要だから…嫌われたっていい、冬美が今からすることは『許されないこと』だから…)
それでも『家族』には、隣にいて欲しいの…
誠くんには…
“好きな人”に、そばにいて欲しいの…!
「大好きだよ、誠くん…」
この気持ちは、言えないままでいい。
(だって、冬美の体は汚いから。)
今は綺麗でも“体の記憶”は消えない。
死んで、生まれ変わらない限り…
(告白なんて、できないんだよぉッ)
でも、大好きな誠が隣にいてくれたら、
それだけで、冬美は人間でいられる。
…強くなれる。
五十嵐くんから与えられた
チャンスを逃すつもりはない…
「…まずは、アンタの能力を教えて」
「承知いたしました」
メイドは髪から手を離すと媚びを売る女のように背後から顔を寄せると、私の耳にそっと囁いた。
『私の能力はーーー』
「…ッ」
歪んで何重にもなって木霊する人の声とは異なる音に頭が痛くなる。
耳に囁くその血のような赤い唇はきっと、酷く、腹が立つほどに愉快に歪んでいるだろう。
耳に囁かれるメイドの『能力』を聞いて―
(なんだ、使えるじゃん…)
私の唇は歪み、吊り上がる。
「…まぁ、悪魔と言っても、私より弱い悪魔限定ですけどねぇ…対価は」
「対価は、願いを叶えてからでいい」
「は?」
私を翻弄して弄んでいたメイドからはじめて聞いた作ってない“素の声”。
気分が良くなった私は「あははっ」と笑い声をあげる。
そして、私はなにも見えない
真っ白な湯気の向こうを見つめながら――
「私の願いは――」
願いを口にした…
◇◇◇
「ハイ!おじさんに注目~!!」
悪魔がテーブルの近くまで来てパンパンっと手を叩く。
食事を終えてデザートのプリンも食べ終わった時。その爆弾発言は投下された。
「あんな、昼間、悪魔たちは君たちの世話係やけど『夜』は、おじさんたち『悪魔の時間』やから」
「は?」
「ご主人様以外の命令は聞かへんから注意な!」
「いやいやっ、だからちょっと待てって!」
「まー、ご主人様から殺しは禁止されとるから、死ぬようなことはないと思うけどな!」
「!?」
(殺し!?さっきからこの悪魔は何言ってるんだ!?あと人の話聞けよ!)
「命奪わんくても“殺せる方法”おじさんたちは、沢山知ってんねん。油断だけはせんといてな~!てなわけでー、おやすみ~」
「…」
悪魔は一方的に要件だけ言うと、ニコッと腹の立つ笑顔を向けた。
そして、目の前から霧のように消える。
食堂には僕と孝志だけが残される。
「……今の、なんだったんだ?」
「さ、さぁ?……僕たちも、部屋に戻ろうか」
「だな…」
肩を落として孝志がゆっくりと立ちあがる。
「…」
僕は2階へと続くドアノブに手をかけたまま、無人の食堂を振り返った。
「また明日な」
――今からほんの数分前。
五十嵐くんは紅茶を飲み終わると早々に部屋に戻ってしまった。
席を立つとき、孝志が手助けしようと立ち上がる。
それを彼は「大丈夫」と言って手でやんわりと孝志の動きを静止をした。
大丈夫と言う割には、その表情は少し寂しそうだったのを覚えている。
案の定、出口に向かう足取りはぎこちない。
隣の孝志が「全然、大丈夫じゃねぇじゃん」とそんな言葉を悔しそうに、吐き捨てるように言っていた。
「アレルギーがあれば早めに教えてくれ」
誰よりも遅く食事を開始したシェフも僕たちよりも早く食べ終わると、食器を持ちキッチンの奥に消えて行った。
…結局、冬美は最後まで食堂に現れなかった。
先ほどの悪魔の発言を聞いた僕はダラダラしないで、早く部屋に戻ればよかったと少し後悔した。
(周りは悪魔だらけで、油断なんて一つも出来ない場所だったのに…)
シェフの料理は全部美味しかった。
“料理に嘘はつかない”という言葉は本当だと味覚で実感させられた。
放課後の悪魔が『絶品』と太鼓判を押すのも納得だった。
たぶん、腹が満たされたことで油断してたんだ。
まるで僕たちの心を読んだようなタイミングで悪魔は「油断するなよ」と言わんばかりに、現実を“実感”させてきた。
『悪魔の時間』という、新しいルールのお披露目である。
「悪魔の時間って…くそっ、なんでもありじゃねぇか!」
部屋に入った瞬間、孝志の悔しそうな声が室内に響いた。
「…この空間の中で悪魔に制限はかけてないから…
“嘘はついてない”。
…なんか、もう悪魔は人を騙すけど嘘はつかないは、
教科書に乗せてもいいレベルだと思う」
宇佐美を腕に抱きながら、僕はベットに腰掛けて疲れたように言った。
「俺もそう思うぜ…いつ使うかわかんねぇけど…」
「あれ?孝志、猫田は?」
「あー、…部屋に置いてきた」
「…そう」
たぶん、悪魔の法則を聞いて、孝志の中で猫田が警戒対象に入ったんだ。
(…そういえば、孝志は昔から、感覚でその人が『いい人』か『悪い人』か見抜いてたな…)
小学生の頃に、近所の公園にお菓子をくれる優しいお兄さんがいた。
その人は近所でも有名なお金持ちの家の人だった。
お菓子をタダでくれるなんて、最初は怪しいって噂されていた。
だけど、その人の家が有名なお菓子メーカーで、配るお菓子も製造の工程で割れたりして製品にならない商品だった。
子供だけじゃない。付き添いで来ていたお母さん集団も最後の方ではお菓子を貰っていたのを覚えている。
だから皆、感謝こそすれど、誰一人お兄さんを怪しんでる人はいなかった。
でも、孝志だけは違った。
いつも、僕たちをそのお兄さんから遠ざけようとお菓子を突っ返したり、ときには「近づいてくんな」と投げつけていた。
僕は結構お兄さんに懐いてる方だったから「お兄さんのこと嫌いなの?」って孝志に聞いたことがある。
『なんか、よくわかんねぇけど。あの人見てると、背中がゾワゾワして気持ち悪いんだ』
『?…いい人だよ』
『見てれば分かるよ。だから、悪い、これは俺の直感。…でも、あんまり、あの人と話さないで欲しい』
『…うん。わかった』
その会話をした一か月後—
優しいお兄さんは
自室に幼女監禁、強姦の罪で逮捕された。
あの事は今でも記憶に残ってる。
孝志が猫田を警戒したってことは…
「…」
僕はごくりと唾を飲んで、腕の中の悪魔を見下ろした。
(同じ、コーディネータの宇佐美も、危ないってこと…?)
「てか、今気づいたんだけどよ。嘘はついてないから「騙していい」ってことにはなんなくねぇか?確かに、騙される方も悪いけど…普通に騙すのもダメだろ」
「……あっ、確かに」
騙された方が悪いなんて、それは悪魔の言い分でしかない。
騙した方も悪いに決まってる。
僕は、孝志に言われるまでそんな『当たり前』のことにすら気づけなかった。
「はぁ…くそっ、もっと早く気づけば、五十嵐にお前は悪くねぇって言ってやれたのに」
「そうだね…ん?いやいや、ここに閉じ込めてるのは五十嵐くんもアウトだよ!」
「えっ…あ、そうか。わ、わるい」
「…」
「……」
「…ねぇ、宇佐美。夜は悪魔の時間ってルールだけど。悪魔の夜の基準って何時なの?」
2人の間に流れる沈黙に耐え切れなくなって、少し顔を近づけて宇佐美に話を聞いた。
僕の言葉を聞いて、宇佐美は長い耳をピンッと立てた。
『我々悪魔の時間は、基本的に深夜帯になります。
ただいまの時刻は、22時ですので――
あと“2時間後”には悪魔は誠サマの命令を聞きません』
「に、2時間後って、そんなに時間経ってたの!?」
「俺たちがあの白い部屋に飛ばされたのって、何時だったんだ?」
『誠サマたちがこちらに来たのは、午後の18時でございますよ!』
「18時って…」
宇佐美から聞いた予想外の時間に僕たちは驚いた。
もっと早い時間に連れて来られたと思っていたからだ。
(18時って、普通に母さんが起きてる時間だし。
…いや、起きてるどころか夕飯の準備をしている時間だ)
もし、仮に僕の精神だけがこっちに来て、
本体は現実世界で眠り続けているとしたら…?
これが『漫画の世界』ならあり得た話かもしれない。
でも、悪魔が…
アイツが、そんな“生優しいこと”するわけがない。
「ねぇ、宇佐美。一つ聞いてもいい?」
『はい、なんでしょう?』
「今、ここにいる僕たちの体は…
現実世界の体なの?」
見た目は小学生だけど、僕たちには高校生だった記憶が残っている。
悪魔が『なんでもできる』ことは、もうこの目で見てきた。
精神はそのままに、似たような人形を作った可能性だってある。
(本当は、あっちの世界に体があるほうがいい…)
だって、もし――
この空間いるのが『僕自身』だとすれば…
「誠…なに言ってんだ、だって、それがもし本当なら、俺たちは…」
質問の意図がわかったのか、孝志が少し青ざめた表情で僕に顔を向ける。
宇佐美を抱く手に、ジワリと嫌な汗が滲み出た。
『えぇ、その通りですよ』
真っ黒なつぶらな瞳が僕を見上げた。
『誠サマたちのお体は全て、こちらに転送されております。
もしこのまま、こちらで一生を過ごすのであれば、現実世界で誠サマたちは―
行方不明の扱いとなりますねぇ』
「行方不明…!?」
宇佐美の言葉に絶望する。
僕の脳裏には――
『誠とついに、酒が飲めるようになるのかぁ』
『も~気が早いわよお父さん!』
『二十歳なんてあっという間さ。
誠と飲むために少し高いお酒、買っておこうかな~』
場違いなほど明るくて、優しい
あの日の夜に、聞いた酔っ払いたちの会話が…
残酷に響いていた…
最後まで読んで頂きありがとうございました!