第14話『シェフ』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。
放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が──。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
「あのさ誠…部屋を出る前に五十嵐が…
少し“気になること”言ってたんだけど…お前、わかるか?」
「気になること?」
長い階段を下りた先、見たことのある絵画が飾られた壁の前で孝志が立ち止まり僕を呼び止めた。
「お前さ『悪魔は人を騙すけど嘘はつかない』ってどういう意味かわかる?」
「!?」
孝志の話を聞いて僕の脳裏に蘇るのは、掲示板で見た文章だった。
『悪魔は人を騙すけど嘘”はつかへんよ』
放課後の悪魔の言葉だ。
「それ、掲示板で見たことあるよ!!五十嵐くんが、言ったの?」
「あぁ、俺はあんま頭良くねぇから、アイツの話半分もわかんなかったけど…馬鹿な俺でも一つだけ、わかったことがある…
五十嵐は、悪魔に騙された」
「五十嵐くんが?…でも、悪魔と契約したのは五十嵐くんだよね?」
「…五十嵐はこう言ってたんだー」
◇◇◇
「あのさ…孝志…少し…“デッカイなにか”の半分だけ、降ろしてもいいか?」
部屋のベッドに座りながらうつむいていた五十嵐は、ゆっくりと俺の方に顔を向けた。
「…」
俺はクローゼットの中にいた『猫田』を抱きかかえて五十嵐に歩み寄った。
歩いてる間に、猫田は背中の羽をパタパタ動かし腕から頭上に到着すると満足そうに目を瞑り、体を落ち着かせる。
(猫って可愛いし、誰からも愛されるし、自由でいいよな…)
「…話してくれるのか?」
「この空間を作った理由は、言えない…」
「無理に聞くつもりはねぇよ。お前が話したくなったら話せばいい」
俺は猫を頭に乗せたまま、五十嵐と向かい合わせになるように前へ立った。
「…悪魔との契約は“現実世界と離れた世界で俺たちに安定した衣食住を提供すること”…ただ、それだけだったんだ。」
「…」
「俺は、よくアニメとかゲームで見るような
食べたいときに食事が勝手に用意されてる。
そんな、俺たちだけの空間をイメージしてたのに…
俺は…悪魔に騙されたんだ…」
「悪魔に騙された?」
「あぁ、俺の契約には
『悪魔が俺たちの世話をする』ことも
アイツが誠に言った『ゲーム』も含まれていない。
油断したんだ…。
もっと、ちゃんと契約内容を細かく考えるべきだった…!」
「五十嵐…」
五十嵐の失われてない方の手は、爪が白くなるくらい強く握りしめられていた。
「えっと…安定した衣食住を提供するって契約なのに実はお世話するのは悪魔でしたーって、嘘をつかれたってことか?」
「違う。騙されたんだ」
「…?わ、悪い、五十嵐…俺にはその、二つの違いがよくわかんねぇんだけど…」
話を聞いてやると啖呵切ったのはいいけど
俺は自分があまり頭が良くないことをすっかり忘れていた。
(情けねぇ…コイツの抱えてるもん、軽くしてやりてぇのに…)
小さくなった、頼りのない両手を眺める。
本当の姿ならコイツを背負ったり、飯だって作ることができた。
(なぁ、五十嵐…お前はなんで俺たちを小学生の姿にしたんだよ)
正直言って、俺はこの頃の自分が一番嫌いだ。
何もできない
殴られるだけの
“サンドバッグ”だったから。
「…孝志、これから誠と合流するんだろ?
なら、誠にも伝えてくれ。
アイツらの、悪魔の言葉には“罠がある”。
『悪魔は人を騙すけど嘘はつかない』」
「…」
この言葉、絶対に忘れないでくれ…
そう言って五十嵐はベッドから立ち上がると部屋を出て行った…
「悪魔の言葉には罠があるか…」
「俺はやっぱり『騙す』と『嘘』の違いがわかんねぇんだよな」
「僕も…言われてみれば…二つは同じ意味に聞こえるよね…」
僕と孝志は互いに顎に指をかける。
“考えるポーズ”をというやつだ。
人って見たモノに影響されるものだ。
(意識したことないけど、考えるときって自然と顎に手がいくものなのか…)
―と、くだらないことを考えていると、なんとなく足元にいる宇佐美が目に入った。
「……ねぇ、孝志。悪魔のことは――
“悪魔に聞けば”いいんじゃない?」
「悪魔ぁ?悪魔なんてどこに……あっ」
孝志も僕の言いたいことに気づいたのだろう。
宇佐美とじゃれあう猫田を凝視している。
「…」
「…」
僕たちは考えるポーズを解いた。
そして、ここが廊下と言うことも忘れ、宇佐美たちの身長に合わせるように絨毯に膝をついて彼らに話をかける。
「ねぇ、宇佐美。“悪魔は人を騙すけど嘘はつかない”ってそれ、どういう意味?」
「騙すのと嘘つくのって、ほぼ同じじゃねぇの?」
2人で続けざまに疑問を投げかける。
宇佐美と猫田は僕たちの方に顔を向けた。
『お友達サマ!騙すのと嘘つくは同じ意味ではございませんよ!
我々悪魔は『本当のこと』しか言いませんが―
“人間がどう勘違いするか”は止めません』
「え……!?それってつまりわざと勘違いさせるの?」
『そうです!わかりやすいように『例え』をお出ししますね!
悪魔に『願いは叶う』と言われたとします。
大抵の人間は“いい方向”に叶うと思うのです!』
「そりゃあ、まぁ、そうなんじゃねーの?」
『人間は『別の形で叶う』ことなど考えていないのです』
「別の形って…?」
(願いが叶うの、別の形ってなんだ?)
『死んだ人に会いたいと願うとします。
悪魔はソレを“どんな形でもいい”と解釈するのです。
『ゾンビ』として戻ってきたとしましょう。』
「はぁ!?そんなの契約違反じゃねぇか!」
宇佐美の説明に孝志が納得いかないとばかりに声を荒げる。
しかし、宇佐美はそんな孝志の反応など気にした様子もなく説明を続けた。
『いえ、契約者サマが願ったのは『死んだ人に会いたい』ですから。
ゾンビでも『会えた』でしょう?
ふふっ、どうですかぁ?
我々は“嘘”をついておりますか?」
「…………」
『我々は何も間違ったことは言ってません。
人間が“勝手に”希望を持って、いい意味に受け取っただけなのです』
「!!」
宇佐美に説明されて、僕たちはようやく彼が“騙された”と言っていた意味がわかった。
「…ちょっと待て…じゃあ、五十嵐が騙されたのってー」
孝志が少し迷ったように言葉を濁す。
たぶん、理解は出来てもうまく言葉に出すことができないのだろう。
僕は孝志の言葉を引き取るように話を続けた。
「…五十嵐くんが願ったのは、安定した衣食住を提供する空間だから…
その空間で『悪魔が僕たちの世話をするなと』言っていない。
その空間の中で『ゲームをするなと言っていない』
…ちゃんと衣食住を提供する場所は作っているから、
『嘘はついていない』んだ…」
『その通りです!だから誠サマも『願いごと』をするときはくれぐれもお気をつけくださいね!』
人を騙すことに罪悪感などないのだろう。
平然と説明するこの可愛らしい生き物が少し怖くなった。
(やっぱり、見た目は可愛いウサギでも…宇佐美も、悪魔なんだ)
孝志も僕と同じことを感じたのだろう。
僕の隣で眉間にしわを寄せて複雑な表情で猫田を見ている。
気持ちはわかる。
だって、この動物たちは、この空間と悪魔に慣れない僕たちにとって唯一の『癒し』だったから。
なんだか、契約もしてないのに騙された気分になってしまった。
「はぁ…可愛くても、コイツ等も立派な悪魔なんだな」
「うん。そうだね…」
「五十嵐が言うようにコイツ等の言葉や見た目に騙されねーようにしねぇとな」
「うん。そうだね…」
「誠~、ショックなのはわかるけど、会話しろよ~」
「う~、わかってるよぉ…でも、僕、宇佐美だけは大丈夫だって思ってたんだ…」
「…話は終わったか?」
「!?うわぁっ…!?」
突然、後ろから声が聞こえた。
振り返る間もなく、僕たちの体はグイッと強い力に上へと引っ張られる。
(なんだ!?なにが起こってるんだ!?)
「はぁ……飯が冷める。早く来い…」
「…っ」
首のところでパーカーが引っかかって苦しい。
僕は、なんとか持ち上げてる主を見ようと首を動かした。
一番最初に目に入って来たのは――
褐色の肌に黒い帽子と、そこから覗く赤い瞳…
「あなたは……シェ、シェフ!?」
「…」
僕たち二人を両手で軽々と持ち上げる大男は、放課後の悪魔が一番最初に紹介していた『シェフ』だった。
僕の言葉に反応してシェフの赤い目が一瞬だけコチラを見る。
しかし、すぐに目線は前へと戻される。
「っくそ、どんな馬鹿力だよ…っ全然外れねぇ…!」
僕より少し離れたところで同じようにシェフの片腕に持ち上げられている孝志が必死に暴れているけど、シェフの体は微動だにしてなかった。
僕たちは小学生と言っても6年生だ。
そこまで身長も低くないし体重もある。
孝志なんて少し体格もいいから僕より重いはずだ。
そんな僕たちをこの大男は両手で軽々と持ち上げたまま、乱れのない一定のペースで食堂にまっすぐ歩いてる。
「人間は話が長い。時間を守らないやつが多いから嫌いなんだ」
歩きながらシェフは静かに言った。
「は、はぁ?なに意味わかんねぇこと言ってんだよ」
「何度も言わせるな。料理と言うのは食べる時間も重要だ。今日のメニューには焼きたてのパンを出しているからな、パンは焼きたてが一番うまい」
「…た、たしかに焼きたてのパンは美味しいよね」
「ばっ、誠!悪魔と会話なんてすんな。いつ騙してくるかわかんねぇんだぞ!」
「えっ、あっ…そっか。ごめん」
そうだ、さっき宇佐美から『悪魔の法則』みたいなのを聞いて理解したんだ。
悪魔との会話には十分気をつけなきゃいけないのに“焼きたてのパン”の誘惑で忘れるところだった。
「…俺は、料理に関しては嘘はつかん」
「えっ…」
「俺は人間が嫌いだが…人間が作る料理は好きだ。
だから、料理に関しては絶対に嘘はつかない。
言葉で騙し、味を偽ることなど…もってのほかだ」
「…」
「貴様らがこの空間にいる間は俺が『最高の料理』を作ってやる。
だから、時間だけは守れ。…料理の味が落ちる」
「…っあ、悪魔の言うことなんて信じないぞ!」
「…好きにしろ」
咄嗟に否定の言葉が出てしまったけど、僕はどうしてかシェフの言葉に『嘘』はないのだと思ってしまった。
(悪魔は人を信用させて騙すんだ。惑わされちゃダメだ…)
話してる間にシェフが食堂へと続く扉の前に到着する。
(両手塞がってるけど、どうやって開けるんだろ?)
―と、相手が悪魔なことを忘れて僕はそんなことを考えていた。
そんな心配など無用とばかりに、シェフの歩く速度に合わせるように、目の前の扉のドアは当然のように開いた。
「あははっ!これまためっちゃオモロイ登場の仕方するやないのキミたち」
扉が開いてすぐに聞こえてきたのは、あの関西弁だ。
食堂はとにかく広い。食事のスペースだけでなく、趣味のような空間も作られているようだ。
例の悪魔は、読書スペースで本を片手に長い足を組んで読書をしていた。
焼きたてのパンの甘く香ばしい香りが空間に広がり、さっきまで感じていた不安や緊張を一瞬だけ忘れそうになる。
「キミら来るん遅いからおじさん先に食べてもたよ?」
「…」
「あれれ~?無視するん?おじさん悲しいわぁ~」
悪魔とは喋らない。とくに、コイツは…
五十嵐くんを騙した悪魔なら尚更だ。
(絶対に油断しちゃダメだ。)
「…もしかして、警戒してる?」
「…っ」
まただ。
気づいたら、僕のすぐ近くに悪魔がいた。
悪魔は気配を消すのが上手いのだろう。
僕が奴らの存在に気づくのは、決まってパーソナルスペースを超えた時だった。
悪魔は僕の身長に合わせるように少し背を曲げている。
楽しそうに歪んだ赤い瞳が僕の内面まで覗き込もうとしているようで…
怖い。
「…誠クンって、本当に考えてること顔に出るよね?」
また『標準語』になった…!
心臓の音が早くなっていくのが自分でもわかる。
体中から汗が噴き出して、酷く喉が渇いた。
「誠…!絶対にソイツの声に耳傾けるんじゃねぇぞ!」
「…っわかってるよ!」
僕は目を強く瞑りながら、悪魔の声に惑わされないように
孝志の言葉に大きな声を出して答える。
さっきから視界に映る絨毯の模様が動いていない。
シェフが歩みを止めた証拠だった。
(早く…早く…っなんでシェフは進んでくれないんだ!?)
「あのねーおじさんと契約して
前の契約者を殺せば」
その瞬間だけ、周りの音が消えた。
そして―――
僕の耳に聞こえてきたのは…
「契約は無効になってココから出られるよ?」
悪魔のような囁きだった。
「えっ…」
目を開いたとき、僕は食器の並ぶ白いテーブルに到着していた。
「大丈夫か?誠」
「!…う、うん。あの、さっきアイツが言ってたことって」
「さっき?…なんか言ってたか?」
「えっ…」
(あの言葉は孝志に聞こえてなかったのか…?)
「すぐに料理を持ってくるから、待ってろ。…宇佐美、猫田」
シェフは僕たちを椅子に降ろすと、同じように扉から入って来た宇佐美たちを呼んだ。
そして、長テーブルの向こう側に設置している大きなゲージを指差した。
「なんだろ、あのケージ」
「…熊でも入りそうなくらいでけぇな」
大きなゲージの中には赤ちゃんが使うようなベビーチェアが2台置かれており、
宇佐美たちはその中に入ると、ひょこっと立ち上がり、ベビーチェアーに座った。
「か、可愛い…」
「…わかる」
2匹が座ったタイミングで小さなお子様ランチプレートを2つ持ったシェフが登場した。
シェフは大きな体を丸めてゲージの中へと入っていくと、宇佐美たちに食事を提供する。
「熱いから、ゆっくり食べろよ」
『美味しそうです~!』
『いただきます!!』
(あれ、なんだろうか…?茶色い…匂いからしてビーフシチューかな?)
「今日のメニューは焼きたてパンとビーフシチューだってさ」
「!?い、五十嵐くん…」
僕は、宇佐美たちが食べている料理が何か気になりすぎて、斜め向かいに五十嵐くんが座っていることに気づかなかった。
五十嵐くんは既に食べ終わっているようで、片手で紅茶を飲んでいた。
今、このテーブルに座るのは僕と孝志と五十嵐くんの3人だ。
他の悪魔の姿はない。冬美とメイドの姿もなかった。
(お風呂って言ってたけど…長くないか?
あ、でも、女の子だから時間がかかっているのかもしれない)
それとも、冬美たちも悪魔と同じように
食事を終えて自室で休んでいるとか…?
(無理してないといいけど…)
『……っみられたく、なかったなぁ…』
脳裏に過ぎるのは、冬美の言葉だ。
メイドの胸に顔を埋めていた冬美の肩は可哀想なほどに震えてた。
「…冬美」
ぐうううううううう~~…
「…」
「……」
「………」
食堂に場違いで“間抜けな音”が響く
( あれ?前にも同じようなことがあったような…)
「…ははっ、ここに来てからなんも食べてないもんな。誠が腹減るのも無理ないか」
「うっ…く、食いしん坊みたいに言わないでよ!五十嵐くん」
「悪い悪い。でも、シェフのビーフシチュー本当に美味いよ。パンなんてすげぇ美味いから、俺おかわりしちゃった」
「え!おかわりできるの…!」
「誠…さっきので薄々気づいてたけどよ…お前、どんだけ焼きたてパン好きなんだよ」
孝志が呆れを含んだ目を向ける。
(くっ…だって、仕方ないじゃないか!)
僕は母さんが気まぐれに作ってくれる焼きたてパンが大好きなんだ。
昔パン職人ってのもあって、本当に母さんのパンはホームベーカリーで作ったとは思えないくらい美味しい。
「ははっ、でも誠が好きな気持ちわかるよ。俺、あんま朝ごはんとかにパン食わねぇけど…このパンなら毎日食いてぇかも」
「小麦粉から酵母、焼き時間、すべてこだわって作ってる。美味いパンなのは当たり前だ」
「!!わっ、おいしそう!!」
シェフの声と同時に僕たちの前には熱々のビーフシチューと食べやすいサイズに切られた焼きたてパンが、バスケットに入った状態でテーブルに置かれた。
鼻腔を刺激するスパイスの匂いに口内には涎が溜まっていく。
お肉もとろとろで、スプーンで割れば繊維に沿って崩れた。
崩れたとろとろのお肉はスパイスの香るルーの中に落ちていく。
スプーンで簡単に切れてしまうほど野菜も柔らかかった。
バスケットに入ったパンからは、ほんのり湯気が立ち上がっている。
手に取るとパンはふわふわで、温度も丁度いい熱さだった。
「っいただきます!」
孝志と一緒に手を両手を合わせて、命に感謝をして食事を開始する。
「~おいしい!!このビーフシチュー、ほんっとうに美味しいよ!」
「肉すげぇとろとろ!野菜も、美味い!!」
「パン~っおいしすぎる!!母さんの作ったパンより美味しい!!」
「うわっ、すげぇふかふかだ!こんなパン作れるのかよ!すげぇ~!」
お腹が減ってることもあって、僕たちの食べる手は止まらない。
気づいたら僕のバスケットの中は空っぽになっていた。
「どうしよう孝志!パン、全部食べちゃった!」
「大事に食わねーからだろ」
「パンはあったかいうちに食べるのが我が家のルールーなんだ…というわけで、孝志のパン一枚ちょうだい?」
「どーやって、今の会話で“というわけに”繋がるんだよ!」
「僕は焼きたてパンが好きなんだ」
「知ってるし。パンはあげないからな」
僕たち二人がそんなくだらないやり取りをしながら食事を続けていると、すべての食事の提供を終えたシェフが自分の分の料理を持って、向かい側の席に座る。
そして、流れるように僕のバスケットの中に自分の分のパンを入れてくれた。
その様子を見て、思わず僕の手が止まる。
「えっ、シェフ…?」
「好きなんだろ。パン」
「…い、いいんですか?」
「あぁ」
「あ、ありがとうございます」
シェフが追加してくれたパンを手に取って
頭を下げてお礼を言うと――
「ふ…温かいうちに食え」
シェフの口元が少し、笑ったような気がした。
(やっぱり、この人だけは…ほかの悪魔と、何か違う気がするんだよな)
「お前もだ。食え」
「えっ!……どもっす」
シェフは残りのパンも孝志のバスケットへと追加する。
そして、何事もなかったかのように食事をはじめた。
シェフのバスケットの中には、パンは一枚も残っていなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
もし、シェフを好きって人がいたら、
これからもシェフ登場回は沢山ありますので
楽しみにしててください!!