この場所に、みどりのそよ風が吹いている
虹の家に来た謎の人物は、きっと懐かしい記憶を呼び覚ます。
「久々に顔出せたよ。どうだい?元気にしてたか?」
来て早々、虹の家にいた僕たちに挨拶をする。この人は…そうだ、香椎みどりだ。あの集団で一番僕を慕っていた…あの子だ。
「…ったくさぁ、別れる時の最後の言葉、あれは間違いなくサイテーだって!なぁ、ずっと言いたかったんだよ。あおとあいのこと!あいつらここに顔見せんなっつーの!」
少々男勝りというか…思ったことをバシバシ言うみどりだが…それが彼女のいいところでもあり、彼女がここにいるべき理由でもある。彼女の場合は里親と喧嘩して施設に入れられた。それもこの正直な性格となんでも言うこの口が理由だ。それで何回も喧嘩をして、一回だけ山の下…つまり家から出たこともあった。しかし、結局戻ってきた。それほど僕たちは…
「僕たちの居場所は、この世界になかった…と。そう言いたいんでしょ!じゅん!」
「みかん!?…あってるけどさぁ!」
「どうだ、ここでコーヒーでもいかがかな?」
「ともくんも大人になったなぁ!昔の弱虫だった頃が懐かしいよ…昔のようにチビだの弱虫だの言えないね。むしろ私が弱虫みたくなっちゃうね。」
成長して自分を見直すことができたのだろうか、それとも大学とか学び直したのか、とりあえず常識人ぐらいには成長したのだろう。堕落してしまった僕と比べたら何十倍もマシだ。しかし、どうしてここがわかったのだろうか。その疑問はみんな抱くことになった。
「ところで…みどりはなんでここがわかったの?」
「まぁ、勘でしょ…なんて嘘、バレちゃうか。実はね、私の友だちから聞いたんだよ。」
どうやらこかげさんから聞いたらしい。こかげさんの働いてるレストランがこの近くで、最近不思議な店ができたと聞いたそうだ。その時店の名前を聞いたら思い出したらしく、そして今日来たわけだ。
「そうか…ところでここで泊まっていくか?」
「昔みたいに?…荷物持ってくるから、明日からでいい?」
「問題ないけど今どこ住みなの?」
「中央林間。ここからほとんど一本だね。でも働いてるのは渋谷なんだけどね。」
「もしかしていい企業に?」
「いい企業って…月18万で残業が月50時間なのに残業代が1円も出ないところだよ?そんな企業のどこがいいのかな…まぁ、終電で帰れるし休みは週に1日はあるからまだマシだけどね。」
「そうなんだ…でも働いてるっていいと思うよ。」
「働いてるからっていいことばかりじゃない。というか…リーダーも知ってるでしょ…本当は私が働いてたこと。」
…そうだ。僕はあの後働いていたんだ。でも、なんで今まで忘れてたんだろうか。日雇いになった理由は…?
懐かしい記憶の中には、思い出したくない記憶もあるのだ。