きっと、一滴の雫が落ちる
味方でも止められなかった炎は、罪を背負いながら生きるリーダーへ向かう。
ともくんが最近ラジオを買った。少し暗めの本棚と微かなコーヒーの香りと合わさってより良い雰囲気になった。あの頃はラジオの良さなんてほとんどわからず、ただ流してたまに聞くぐらいのものだと思っていたが、今となればそれなりに楽しいものだ。路地裏だからかお客さんもあまり来ないので店の中もそれなりによかった。
「今日で店やめちゃったの??」
「そうなの!結局居場所が見つかったからね。」
「…良かった。正直久々に会った時…みかんは…」
ここでみかんと智行が会った経緯を話す。数ヶ月前のことだ。みかんは当時、大山という町に住んでいた。彼女は働く時、大山から鶯谷に行ってそのまま夜の店に向かったそうだ。一方智行は用事で池袋にいたそうだ。地下から出たばかりだったのでとりあえず来たそうだ。池袋での用事が終わり、帰ろうとする時、ホームに見覚えがある影を見つけた。それが出会いだったようだ。それから現状とか聞くうちにまた居場所を作りたい…そしてここができたという。
「ここって虹の家?…その名前久々に聞いたな。」
「…なんでしょうか。冷やかしは歓迎ですけど悪口はダメですよ。」
「悪口なんてない。ただ、昔その名前をニュースで見たんだよ。新興宗教だの過激な集団だの…でも、みんなそんなわけないって言ってたのにね。」
「僕たちはただ山を守りたかったんです…でも…燃やされちゃって…」
その客はコーヒーを一杯だけ飲んで帰った。しかし、その報道は知っていた。僕が定職に就けなかった理由でもある。山の放火を止める行為をメディアが悪く報道した。結局数週間で報道は止んだが、誤報であることも報道した事実も隠した。結果リーダーだった僕は悪いイメージと理由もない圧迫面接によって定職どころかまともな職に就けなかった。
「ある時はイベントのバイトで稼いだり、ある時は治験に行ったり、他にも色々なバイトをしたけど…結局日雇い。明日になればまた無職だった。」
今いる仲間だって水商売と地下労働だ。みんなで一緒な素晴らしい生活もみんなで過ごす綺麗な未来もあの山と共に燃やされた。なんで離れてしまったのだろうか…ずっとそれだけは思い出したくなかった。でも、これも話さなければいけない。僕が全部悪いのだから。
「…どうするんだよ!どうして止めなかったんだよ!」
「…リーダーなんてサイテー。もう関わらないで。」
僕は放火を止められなかった。その記憶とその言葉だけが今も忘れられない。放火される理由も、放火されることも、ましてや山が消えるという計画さえも知らなかった。
「…久々に顔を出せたよ。」
顔を出した人物は、懐かしくて…申し訳なくなるぐらい前を向いていた気がする。