優しい日常
朝になって、人が来るのを待つ。ここにある本は読み放題だし、金を払えば借りることも買うこともできる。カフェはコーヒーとココアしかないが、厨房がないわけではない。食べ物の持ち込みだってできる。
「ここで稼ぎたいわけじゃないんだ。ここに居場所が欲しかったんだ。そもそも虹の家って僕たちが小屋を見つけたんだよね。」
そうだ。施設を追い出されてしばらくは街の路地裏で過ごしていた。しかし、街の方では縄張りという意識があり、僕たちはすぐ負けてしまった。気がつけば山の方に向かっていた。ちょうど管理者の方が使ってない小屋があると言っていた。小屋を見つけると、そこを本拠地に山を整備したり近所を掃除したりした。他にも地域の祭りを手伝ったり学童でスタッフになったりしていた。この時も稼ぎたいからではなく、居場所が欲しいから。そしてその仕事が楽しかったからだ。
「そう。小屋を見つけて、捨てられてたゴミで家具を作ってね…楽しかったなぁ…それも全て灰になっちゃうとはね…」
「…でも、私はこれを残してるんですよ。燃え始めた時に持っていけるだけのものを持っていったの。これとか。」
そう言ってみかんが見せたのは写真が入ったおもちゃのペンダントと壁時計だ。他にも彼女は使っていた宝箱を持ってきた。さすがに中身はもう無かったが、箱を見れただけでも嬉しかった。しかし、他の3人は思い出のものを持っていなかった。
「そうだ、店が終わったらドンキ行かない?」
僕は思い出を作るために買い物をした。家電や衣服はあったので買ったのは缶詰やお菓子、おもちゃばっかりだった。しかし、久々だったので楽しかった。思わず買いすぎてしまったので帰りに少しだけ食べた。外での買い食いは初めてだったのだろうか。この思い出はきっと忘れられないものなのだろう。
深夜の浅草はそれなりに静かだ。しかし飲み屋の周りはうるさい。眠らない町東京とはよく聞くが、ここも同じ。結局眠れずに朝を迎えた。今日は臨時休業としたかったが、店の前に人がいたので入れることにした。本を読みながらコーヒーを飲んでいたその客は本を読み終わるとすぐに帰っていった。しかし、そのあともお客さんが止まらなかった。結果的に5人が本を読んで、コーヒーを飲んで、ゆっくりしていった。今日は少しだけ疲れた。
「今日はとってもいい日になったな。まさかここに何人も来るなんて…」
「ここ始まってから初めてこんなに客が来たんだよ。明日もこうならいいんだけど…」
「私、やっぱり転職やめようかな。みんなと一緒にいたい。」
今日から4人…でも…もう一度会いたい。




