始まりは、いつも優しい雨から
この話はエピローグであり、あのカフェができる少し前のお話である。
ある晴れの日のこと、僕の目の上には青い空が高く広がっている。今日の風が吹いている今、僕はこの街歩いている。きっと誰も知らないと思うが、昔僕らはある集団を組んでいた。
「リーダー、今日は何をするんですか?」
「今日は山の下でゴミ拾いだ。」
「またゴミ拾いですかぁ?」
「しょうがないだろ。僕たちの使命はこの山を守ることなんだから。」
頭の中でまだ集団でいた頃の思い出が流れた。そう、僕たちはこの山を守る、それを使命として時にゆるく、時に優しく、和気藹々とやっていた…しかし、あれは数年前のある日のことだった。
「どうして…」
「なんで止めなかったんだよ!」
僕らの山は目の前で燃やされた。燃え盛る山の前に、僕たちは何もできなかった。僕はみんなに責められ、責任を取ってこのままバラバラになった。あれ以来、僕は抜け殻のようにやりたいことをして生きていた。今は金だけはあるのでホテルやネカフェで泊まっているが、まだ無くなる気配はない。
しかし、今日は暇なので歩く事にした。行きたい場所があるからだ。どうせ昔の仲間は見つからない。それなら、見つかるわけないからやりたいようにやろうと思い街を彷徨う。ここは秋葉原と言って、この裏通りにはコンセプトカフェとメイド喫茶の客引きが多くいる。最近はここの客引きを断ることに精を出しているが、そんなことをずっとしているからか全く声をかけられなくなった。そう言ってもまだ時計は12時を少し過ぎた頃なので、もしかしたら時間が早かったからだったと思うが。
暇なので僕は遠くに行った。どこよりも北へ行った。途中には公園や寺やショッピングモールがあったが、行きたい気分じゃなかった。行ったところで仲間に会えないし、会ったところでどういう顔をすればいいかわからない。昼ご飯も簡単に摂ったところで、それなら…と思ったら、気がつけば歓楽街を歩いていた。
その名を吉原と呼ぶ歓楽街は、その昔遊郭として名を馳せたという。浅草から徒歩10分ぐらい、そんな場所に僕はいた。いつからか曇り空になっていたが、その下でもお客を取ろうとみんな頑張っている。しかし、今日はこの店だと思い、その店の入口を開けた。
僕に指名なんてない。僕が話せれば誰だって良かった。僕は写真で適当な人を選び、金を払い待合室で待っていた。部屋の中は暇なので水を飲んで、そこら辺にあったおしぼりで汗を拭いて待っている。受付の人は良かったな、写真の女の子はどうなんだろうか、そんなことを考えつつ、テレビを見てただただ時を待つ。
受付がドアを開けた。僕の番号を呼び出した。ドアの方を見ると写真の子が待っていた。その子の案内についていくと部屋に入ることになった。世間話からサービスが始まる。ここで書くことは参考にはならないが、あの子のサービスは良かった。普通に気持ちよかったし、何より雰囲気と優しさが僕の心の傷西とても沁みた。
帰りに店を出ると雨が降り始めた。フロントが傘を貸し出すと申し出たが、申し訳なさから断った。帰りにちょうど面白い人に出会ったので雨宿りも兼ねて二軒目にそこに行こうだなんて思ったが、あそこでの気持ちよさを忘れたくないのと今日の遊ぶ分の体力がなくなったので駅まで歩くことにした。雨足が強くなり、駅まで悠長に歩けないので走った。そして雨は駅に着くと止んでしまった。
雨が止んでふと空を見るとまた青い空が見えた。電車に乗ってどこか行こうかとボーッとしていると僕に話しかける人がいた。
「リーダー…リーダーだよね?」
朧げな記憶だが、その声には懐かしさがあった。彼女の住む家に暫く泊めてもらって、仲間を待つことにしよう。それが、たぶん今一番いい選択だと思ったからだ。
リーダーとは何か、彼女は一体誰だったのだろうか。