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第三話

「他にも何人も、心の一部を盗まれた者がいるんです。俺もそのひとりで……」


「ルース様は……」


「ルースでいいです。敬語も使わなくて結構です。こんな豚野郎に敬語なんてもったいない」


「──では、ルース。あなたは勇気を盗まれたというの?」


「そうです。ある日朝起きたら、今日もやってやるぞというイケイケな気持ちが一切なくなっていたんです。何をやっても上手くいかないとしか思えない。もうとにかく、毎日が怖くて怖くて」


「それは困りましたね……。師団長様がそれでは士気にも関わりますし」


「はい。それで王国の祈祷師が謎の解明のために祈りをささげたのですが、その日祈祷師の夢に天使が現れ、カリナン王国の灰泥姫に会いに行くよう、お告げがあったのです」


「私に、ですか?」


「祈禱師がいうには、この一連の出来事の犯人はひとりの魔法使いで、そいつに勝つための力を灰泥姫が持っていると。その力は身近にあるもの、なくてはならないもの、そして未だ謎が多く解明されていないもの、とのことでした」


「なんのこっちゃ、訳が分かりませんでした。それで取るものもとりあえず、あっしとルース様でカリナンまで来たのです」


カルが割って入る。この子、自分の事あっしって言うのね……。


「アリシア様、何か心当たりはありますでしょうか?」


しゃっちょこばった様子で、ルースが私に訊いてくる。私はひらひらと手を振った。


「私の事も呼び捨てでいいわ。敬語もなくて結構です。どう考えても私よりあなたの方が位が上でしょ?」


「俺は王のいとこですが、臣下についている者。例え小国とはいえあなたは王女です。位ならアリシア様の方がよっぽど上です」


「こんな占いだけで成り立ってるような貧乏王国の王女なんて、ベリルに行ったら良くても下働きくらいしかさせてもらえませんわ。気を遣わなくて結構」


「はぁ……では、アリシアと呼ばせて頂きます。でも敬語は直りません。今は特にこんな状態なので……」


そうか、勇気がどっかに行っちゃてるのね。それにしても不思議だわ。心の一部を取られるなんて。


「その祈禱師の問いかけについては、私もよく分からないわ。けれど、最近このあたりにも妖魔が出現するようになってしまって、民はみんな困っているの。それで何が原因なのか、先ほど占っていたところだったの」


「そうだったのですね! それで何か見えましたか?」


「公務員よ」


「公務員!?」


「ええ。ひとりの公務員の男が見えたわ。その人はベリル王国の公僕の服を着てた。首都ヘリオドールにある税務署の一職員てとこかしら。名はハーテ」


「なんと……すごいですね。そこまで視えるのですか」


「もうひとり……ひとり、と言えるのか分からないけど、小さな影のようなものがハーテの近くにいたわ」


「ほぉ。ではそのハーテとやらには仲間がいるのですね」


「仲間──なのかしら? 人間かどうか判別できなくて……。普通、人なら人の気配がするのよ。でもその小さな影は、人の気配がするようなしないような、半端な感じだったの」


「そうですか……。でもそこまで分かれば十分だ。急ぎベリルに戻ってそいつを捕まえればいいのですから」


「それはだめ。ハーテはもう、ベリル王国にいないの。拘束の危機を察して逃亡したわ」


「そんなっ……。ではベリルではなく、逃亡先を見つけて追いかけなければならないのですね」


「逃亡先は分かってる。ただ、追いかけるのは容易ではないかと」


「遠い異国でもどこでも行きます。国の存亡の危機だ。教えてください!」


「異国ではなく、異世界なの」


ルースはポカンとしている。気持ちはわかる。その宣託を受けた時、私も驚いたから。


「い……異世界? そんな……それはどこなんですか?」


「モッズ。三千世界のひとつに、モッズという星があるらしいわ。ハーテはそこへ逃げたの」


「なんてことだ。一体どうやって……。それでは場所が分かっても行く方法が分からない」


「方法は……なくはないわ。でも危険かもしれない」


「危険なんて今までいくらでも……いや、待って。え……危険なの? 危険な場所? うわ、どうしよう。怖い!」


ルースは急に震えだして、ガタガタする身体を自分で抱きしめた。そうだった、この人勇気がないんだったわ。


「ルース様、勇気がないなら根性で参りましょう。ここへ来るまでだってそれで頑張って来たじゃないですか!」


カルがルースを励ました。ルースは真っ青になって歯をガチガチ鳴らしていたが、グッと食いしばってそれを止めた。自分を抱きしめた腕をなんとか両脇に下ろし、ギュッとつむっていた目を必死で開く。


キッとして前を向いたルースは、なかなかに勇ましく見えた。元々がかなりのイケメンなので、ちょっとドキッとするくらいカッコいい。


その時、ブゥンと音がしてルースのマントに何かがとまった。ビタッとくっついてきたそいつを見た途端、ルースが叫び出す。


「ヒッ! カメムシ! ひゃああっっっ。やめて、俺にとまらないで!」


あーもう、台無しだわ。私はルースのマントをパンッと叩いてカメムシを追い払った。


「いつまでもここでは何だし、私の屋敷に行きましょう。大将様を満足させるおもてなしは出来ないと思うけど、食事と寝床はあるから」


「ルース様! 是非ともお世話になりましょう。もうずっと野宿ばかりで疲れてしまいました。ふかふかのベッドで眠りたいっ」


カルはそう言ったけど、鳥なのにどうやってベッドで寝るのかしら。


「ではアリシア、ご厚意に預からせてもらいます。カメムシ怖いし、マジで」


「分かったわ、ルース。それにカル。では私の家へ参りましょう。帰ろうね、プリン」


プリンは私がずっと手の中で抱いていた。プリンの感触はぽよんとしていて、手にしているととっても気持ちよくて安心する。


私に声をかけられて、ウトウトしていたプリンが少し目を開ける。ちょっとだけ笑ってから、また眠り始めた。


プリンはカルのように自己主張が強くなく、かなり大人しい従者だ。いつもぽよぽよと私の周りを飛んで回ったり、肩に乗ったりするだけ。


必要な時はしゃべるし、私の世話を焼いてくれるけど、うるさくしたことは一度もない。


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