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一人ぼっちの大魔王と、浮浪の魔法使い  作者: @sinya
第1章・冒険に目的は必要か?
7/7

3.出会って即、戦闘

魔王城の固く閉ざされた大扉を、助走つきの蹴り込みで跳ね開けた。

私の身長の何倍もある、巨大な金属扉であるはずなのだが、なぜか、鍵はかけられていなかったので、思いのほかすんなりと、入り口は開かれた。

その際、なにかが飛んでいくような感触があったような気がする。たぶん、気のせいだろう。


大きく口を開けた門前で、私は体制を整えた。

城内は、魔物の住まうところらしく、灯りの消えた薄暗いエントランスが広がっている。

みたところ、警備や守衛の魔物などはいないようだ。

「......ずいぶん、閑かな城だな」と思いつつも、念のため警戒はとかないでおこう。


ふと、暗い大広間の真ん中に、なにかの影が動いているのに気がついた。

大きさは、10歳の子供くらいだろうか。こちらに背を向ける形でうずくまっている。

まさか、大魔王に連れ去られた子だろうか? みたところ、それ以外に人影はない。一人寂しくこの城に閉じ込められていたのだろうか。

もしそうなら、私の中の正義が、見過ごしてはならないと声を上げる。助けてあげなければ!

ん?

何か小さいものを拾い上げて、ワナワナを肩をふるわせている。

お腹でも痛いのだろうか?


いや、待て。

こんな人の住めない僻地に、人間の子供が一人でいるだろうか? この地に人間が足を踏み入れたのは、もう半世紀も前のことだ。連れ去られたとしても、もう少し年をとっているはず。

そうなると、もう、考えることは一つ。

というか単純に。

魔王城に住まう存在は、ただ一人。

パンくずの盛られた皿を抱えたまま、倒れたネズミの前でうずくまっているこの影がーー

開かれた扉から、中に光が差し込んだ。


部屋が明るみを増していく中で、“それ”はスッと立ち上がった。

少しずつ、だが確実に、ゆっくりとこちら側へ振り返りつつある。高貴なその姿を見て確信する。

微かな闇のなかで、朱い眼が怪しく光る。

肌は、青みをおびるほどに白い。

耳は悪魔族などに特徴的なものと同じく、尖っている。

貴族のような服に身を包み、手には皿。

そして、頭には。

黒く小さいツノに挟まれ、王冠のようなものをつけている。

なるほど。



「貴様が大魔王か。ずいぶん小さいんだな......」


挑発を交えて口にだしてみた。

見た目に油断するような轍を、ふむ私ではない。

だが、荒野を歩いてきたこの両足は、魔の王を目前し、たしかに震えていた。

気丈に振る舞い。自分を鼓舞するのだ。

怖じ気づくな。

たとえ相手が、人類を脅かすかの強大な存在であっても、私は戦わなければならない。

たったひとりの女冒険者ごとき、簡単にひねり潰されるかもしれない。

かつての先人達のように、二度と帰らぬ者になるかもしれない。

体に恐怖が、少しずつ拡がっていくのを感じてると、大魔王はついにしゃべった。




「ーーろす。オ、オマエは絶対、この場で! ぼくが、ぶっ殺す~~!!」


なぜか涙目になっている大魔王は、ぶんぶん腕を振り回しながらこちらに突撃してきた。

戦闘開始のようだな。

どうして泣いているのだろう?

疑問をもちつつ、私は腰の剣に手を伸ばし、ぐっと力を込めた。


シュッ。

抜いた剣を、振りかざす。

いや、構えるに終わった。


時間にして、約5秒。

振りかざしてきた拳を、ひょいっと避け、体勢を崩した大魔王の頭を、柄頭でドンッと小突く。

「はぎゃっ?!!」

と思いがけない声を上げた後、その場に倒れ込んでしまった。

よく見れば、目を回して気を失っているようだ。

大魔王との初戦闘、終了。


......えっと。

ついうっかり小動物を傷つけてしまった時のように、心が痛い。

なんだろう、戦いに勝利したはずなのに、すっごいモヤモヤする。

あ、そうか。

これは、おそらく大魔王の使用する魔法なのだろう、精神攻撃系のジワジワ苦しめる呪いのようなものなのだろう。

そう言い聞かせることにした。

王都大図書館にいたときに、“強力な力を持った魔の存在は、呪いを扱う”とか聞いたこともあるし。

きっと間違いないだろう、というかそういうことにする。


とりあえず、今は。

風が肌寒いので、扉を閉めておこうとするかーー。




「......ん~」

「気がついたか?」

先の戦闘(と言っておきたい)からしばらく経った後、チビが目を覚ました。

それまで扉前で座り込み、とどめを刺さずに待っていたのは、私が優しい性格の持ち主だからではなく、これが目指していた大魔王との初戦闘であると、認められなかったからだ。

こいつには、聞きたいことがたくさんある。

「しばらく気絶していたぞ、お前。時間を潰している間、ヒマだし空腹だったので、少しいただいたぞ」

同じ階に食料庫があったので、良かった。干し肉を囓りながら待つことができた。

「・・・」

「ん? どうした」

のっそり体を起こした大魔王が、こちらをじっと見ている。


「ネズ太郎の恨みだ! 喰らえ!」

再び拳を繰り出してきた。

反応が遅れてしまい、大魔王の攻撃を食らってしまった。

胸で。


「......えっと。ど、どうだ! 思い知ったか、このニンゲ」

聞き終わるより前に、私は思いっきりビンタを喰らわした。

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