ぼっちの始まり #4
大魔王は、大広間のど真ん中で緊張していた。
ルーレットマシンがたいそう気に入ったらしく、さきほどから数字の表示画面を食い入るように見ている
「よーし、あとは63番が出れば大当たりだぞ~。頼む!出てちょうだいよー、大魔王様のお願い!」
ポチッ。
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
「......来い、来い。ドキドキ」
ーーバタンッ!!
扉を蹴破ったような音と共に、騎士団が入り込んできた。
ドタドタと駆け込んでくる騎士団は、大魔王を見るなり全員で突撃した。
それはもう、猪突猛進。
大魔王の玉座に向かって突っ込んだ兵士達は、ルーレットマシンもろとも巻き込んで吹っ飛ばした。
「ぎゃーーーー?! 何してくれてんの、バカーーー!!」
「大魔王ーー!!! やっと姿を捉えたぞ! お前の運命もこれまでだ!」
「うっさいわ、おバカ!! さっき見つけたばっかだったのに! あー、なんかプスプス言ってるよ~、煙とか出てるよこれ。もーう、壊れちゃったじゃん! 素人目に見ても分かるわこんなん。直せないじゃん! どうしてくれんのアンポンタン!」
涙目の大魔王は、吹き飛ばされたマシンにすがりついて、凹んでしまった外装を優しくなでていた。
「......あの、団長。なんか、大魔王泣いてませんか?」
騎士の一人に、「気にするな!」と一括して、騎士団長は大きく告げた。
「聞け、大魔王! われわれ人類は、全勢力を駆けてここに進軍した。お前の野望、支配からの解放のためだ。ここまで来るのに、数多くの命を失った。多くの国が滅ぼされてきた。その恨みつらみ、ここまでかけられた苦労も重ねて、今、お前の命を討ち取ってくれる!」
騎士達は、一斉に剣を構える。
狙いはもちろん、大魔王そのものだ。
まごうことなきラスボス戦に、すべての騎士が武者震いしている。
「いざ! 勝負だ、大魔王!」
「ーーかわいそうなルーレットくん。いま、魔法でバンドエイド貼ってあげるからね。......機械にも効果あるかな?」
「聞けや、ゴラァーー!!!」
強大な存在による支配から、人類を救うために立ち向かう1万人の騎士達。
孤独を癒やしてくれる存在を、出会ったその日に失った悲しみを背負う一人の大魔王。
その勝負の行方は、誰一人として分からない。
なぜならば、その戦いの末に生き残ったのは、周辺の見回りに当たっていた、若年の兵士ただ一人だけだったからだ。
しかも、「また魔物が襲ってくるかも知れません! 外の警備に向かいます!」
とビビって戦線から逃れただけの兵士だった。
彼曰く、剣や魔法の激しい戦闘音が飛び交っていたのに、突如として大広間のある階から、謎の閃光がビカッ!と飛び出し、そこから何の音沙汰もしなくなった。
何があったのかと思い、部屋を覗きに行くと、そこには。
騎士達の鎧だけが散乱しており、人の影はどこにもなかった。
そして、大魔王の姿も、そこにはなかった。