ぼっちの始まり #3
大魔王は、まだ大広間にいた。
空腹を満たそうと食堂を探していたが、見つけられなかった。
「......いつも食事は、給仕の魔物メイドちゃんに持ってこさせてたからなー。部屋からほとんど出たことないせいで、自分の城なのにどこに何があるかとか全然わかんなかったわ。見たことない部屋もあったし、何に使ってるか分かんない所もあったし」
結局、お腹が空いたままだったが、我慢することにした大魔王。
その代わりに、地下のカジノから、ルーレットマシンを引っ張ってきていた。
「たまたまこんなの見つけるとか、さすが我が輩。一人でやるのもどうかと思うけど、ヒマだからしょうがないよね。
ーーてか、この城にカジノあったとか今知ったもん。誰なの? 勝手に作ったの。ここ魔王城よ? なんで我が輩に教えてくれないんだよ、こーいうのはまず大魔王様に報告しなきゃでしょ」
大魔王は、文句を言いつつも、ルーレットボタンをポチッとしたーー
魔王城の入り口は、巨大な鉄の扉だ。
それが今、グググッと開かれた。
生き残った王都の軍勢が、ついに魔王城へと入っていく。
「ーー待っていろ、大魔王。ここまで来たんだ、絶対に倒してやるぞ」
王都騎士団率いる騎士長の目には、決死の覚悟がみてとれた。
いざ!突入!
ーー魔王城は、ガランとしていた。
なにしろ、魔物はすべて人間達を食い止めるために総出撃していたので、猫の子一匹いない静けさに包まれていた。
扉の先は、大きなエントランスになっている。灯りも消されているのでうっすらと仄暗い。
ただ、騎士達の足音だけが響き渡る。
「......気をつけろ、どこから奇襲されるかもわからない。ここで全滅しては、倒れていった仲間達に顔向けできない。全員、油断するなよーー」
する必要はないのだ。
魔物はほぼ、さきの戦場で瀕死になっている。
ただ、人間達はそんなことを知るよしもないので、この静けさが恐ろしかった。まるで、奥へと進んでくるのを待ち望んでいるかのような、死の予感さえする。
もしくは、これは大魔王の罠なのではないか、という不安もよぎる。無防備に見せかけた「空城の計」ではないか。歴戦の騎士たちであれば、なおさら勘を走らせる。
「だ、団長。この先に大魔王がいるにしては、警備が薄すぎませんか? このまま進むのはあまりにも愚かに思えるのですが」
「団長!先に魔王城周辺を巡回していた兵からの通達です。どこにも魔物の影はなく、入り口をはじめほとんどの扉には鍵などかかっていないとのこと。これは侵入を誘っていると考えるしかないのでは......?」
「王都の魔術師たちによれば、この城の上層に強い魔力が感じられるとのこと。そこに魔物や大魔王が一挙に待機しているとみるのが自然かと思われます。いったん体制を立て直すためにも、王都へ連絡を走らせるなどするのも良いのではないでしょうか」
そんなことだったので、入り口からほんの数階上がれば着いてしまう、大魔王のいる大広間まで、彼らはここから一時間かけるのであった。